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★君と私のお友達【対面編】②
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厳しい選定の目を受けながら数々のトラップをこなしていく中、太陽も西に傾き始めカロリーナの「そろそろ帰ろっか」の一言で、やっと解放されることとなった。しかし、ここで気を許してはいけない。
がしかし、最後に衝撃的なものを目にすることとなった。
馬車に戻る途中、人混みが途切れた瞬間、カロリーナとカイはキスをしたのだ。
一番最初に浮かんだのは【何故、わざわざ、ここで】だ。
人混みは途切れたとはいえ、ここは公衆の面前で、後方には私達と侍女が控えているというのに、だ。しかも信じられないことに、礼節を重んじていたはずの、カイまで頬を赤らめて照れくさそうにしている。
……ああ、なるほど。これが恋の病というものか。
所構わずこのような行為をしなければならないほど、カイ達は生き急いでいるようには見えないし、婚約者同士ならどのような状況でもこのような行為をして良いという法律はこの国にはない。
けれど、この絵に描いたような前方のバカップルは二人とも満ち足りた表情をしている。
馬鹿に付ける薬はないというけれど、馬鹿になりきってしまえばある意味幸せなのかもしれない。最後の最後で、大切なことを学ばせて貰った……のかもしれない。
すっと視線を横にずらせば、ほんのりと頬を赤く染めたフリーディアがいる。
今までそんな彼女を見たことがなかった自分に軽い衝撃を受けるとともに、彼女が前方のバカップルのような触れ合いを求めていることに瞬時に気が付く。
そうか、私は救いようのない愚か者だった。
婚約者の友人の選定ばかりに気を取られていたが、これは彼女との外出……いや、デートでもあったのだ。
前回は我が家でのお茶会であって、外出ではない。
ああ、なんていうことだ、女性は【初めて】と【記念日】に異常に執着を持つというのに。慎ましいフリーディアは口には出さずとも、きっと今日という日を記念日にしたかったはずだ。
名誉挽回の為に残された時間はあと僅かしかない。ほとんど記憶がないままカイとカロリーナを見送り、私たちも馬車へと向かう。
やはり、限られた時間では限られたことしかできない。悔やむ時間が惜しいほど、馬車はすぐそこだった。並んで停めてある私とフリーディアの馬車まで歩みを進めると、彼女の方から口を開いた。
「ルディローク様、今日はありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」
「ああ。私も今日は色々といい勉強になった」
相変わらず慎ましく謙虚なフリーディアは、結局一度も不平不満を口にすることはなかった。我が家の女性陣のように、呼吸をするように我儘を撒き散らされては、私の寿命が縮まるところだが、少しぐらいはと求めてしまう自分もいる。
けれど、やはりこういうことは男性である自分がリードするのがマナーだろう。
「私たちも婚約者同士、もう少し触れ合いが必要なのかもしれない」
「?」
唐突すぎて目を丸くする彼女の表情を可愛らしいと思いつつ、手を取り軽く引き寄せる。次いで指先に口付けをしようとしたが……気が変わった。ほとんど無意識に指を伸ばして彼女の顎に手をかけ、そのまま唇を重ねたのだ。
唇と唇を重ねる行為=キス
ただの皮膚と皮膚の接触行為だというのに、これほどまでに胸が高鳴るものなのだろうか。彼女も先ほどより頬を赤らめている。間違いなく、私と同じ気持ちのようだ。
「慎ましい君は、自分の口から言えなかったな。私がもっと早く気付くべきだった。すまない」
もう少し私に気持ちの余裕と、男女の交際についての知識があれば、もっと早く彼女との関係を深くできたというのに。自分の未熟さが不甲斐なく思える。
そんな私は彼女の手を取り、口を開いた。
「風も冷たくなってきた、そろそろ帰ろう」
そっと彼女の背を押し馬車へと乗り込む。無論、帰りも私の馬車で二人っきりだ。
馬車はぬかるみに嵌まることも、不具合もなく順調に進み続けている。そう、私達の交際のように。
頬が赤いのが恥ずかしいのかフリーディアは終始俯いたままだ。けれどそれを咎めるつもりはない。会話などなくても穏やかで満ち足りた空気が二人を包んでいるのだから。
そんなことを考えていたら不意にフリーディアが顔を上げた。そして自然と目が合った。
「婚約期間とは、かくも素晴らしいものだ」
無意識に零れた言葉を反芻して深く頷く。
よくよく考えれば、あのバカップルの行いを自分もしたということは、すでに私も恋の病にかかっているのかもしれない。
でも、それはそれで良いのかもしれない。なぜなら婚約期間というのは、一生に一度のことなのだから。
遠くで雷の轟く音が聞こえ車窓に視線を移す。今にも雨が降り出しそうなほど、空は厚い雲に覆われてきた。
今頃になって天候が崩れても、もう遅い。この後、雷雨になろうが嵐になろうが一向に構わない。
─────ただし、雨が降るのは彼女が屋敷に入ってからにして欲しい。
がしかし、最後に衝撃的なものを目にすることとなった。
馬車に戻る途中、人混みが途切れた瞬間、カロリーナとカイはキスをしたのだ。
一番最初に浮かんだのは【何故、わざわざ、ここで】だ。
人混みは途切れたとはいえ、ここは公衆の面前で、後方には私達と侍女が控えているというのに、だ。しかも信じられないことに、礼節を重んじていたはずの、カイまで頬を赤らめて照れくさそうにしている。
……ああ、なるほど。これが恋の病というものか。
所構わずこのような行為をしなければならないほど、カイ達は生き急いでいるようには見えないし、婚約者同士ならどのような状況でもこのような行為をして良いという法律はこの国にはない。
けれど、この絵に描いたような前方のバカップルは二人とも満ち足りた表情をしている。
馬鹿に付ける薬はないというけれど、馬鹿になりきってしまえばある意味幸せなのかもしれない。最後の最後で、大切なことを学ばせて貰った……のかもしれない。
すっと視線を横にずらせば、ほんのりと頬を赤く染めたフリーディアがいる。
今までそんな彼女を見たことがなかった自分に軽い衝撃を受けるとともに、彼女が前方のバカップルのような触れ合いを求めていることに瞬時に気が付く。
そうか、私は救いようのない愚か者だった。
婚約者の友人の選定ばかりに気を取られていたが、これは彼女との外出……いや、デートでもあったのだ。
前回は我が家でのお茶会であって、外出ではない。
ああ、なんていうことだ、女性は【初めて】と【記念日】に異常に執着を持つというのに。慎ましいフリーディアは口には出さずとも、きっと今日という日を記念日にしたかったはずだ。
名誉挽回の為に残された時間はあと僅かしかない。ほとんど記憶がないままカイとカロリーナを見送り、私たちも馬車へと向かう。
やはり、限られた時間では限られたことしかできない。悔やむ時間が惜しいほど、馬車はすぐそこだった。並んで停めてある私とフリーディアの馬車まで歩みを進めると、彼女の方から口を開いた。
「ルディローク様、今日はありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい」
「ああ。私も今日は色々といい勉強になった」
相変わらず慎ましく謙虚なフリーディアは、結局一度も不平不満を口にすることはなかった。我が家の女性陣のように、呼吸をするように我儘を撒き散らされては、私の寿命が縮まるところだが、少しぐらいはと求めてしまう自分もいる。
けれど、やはりこういうことは男性である自分がリードするのがマナーだろう。
「私たちも婚約者同士、もう少し触れ合いが必要なのかもしれない」
「?」
唐突すぎて目を丸くする彼女の表情を可愛らしいと思いつつ、手を取り軽く引き寄せる。次いで指先に口付けをしようとしたが……気が変わった。ほとんど無意識に指を伸ばして彼女の顎に手をかけ、そのまま唇を重ねたのだ。
唇と唇を重ねる行為=キス
ただの皮膚と皮膚の接触行為だというのに、これほどまでに胸が高鳴るものなのだろうか。彼女も先ほどより頬を赤らめている。間違いなく、私と同じ気持ちのようだ。
「慎ましい君は、自分の口から言えなかったな。私がもっと早く気付くべきだった。すまない」
もう少し私に気持ちの余裕と、男女の交際についての知識があれば、もっと早く彼女との関係を深くできたというのに。自分の未熟さが不甲斐なく思える。
そんな私は彼女の手を取り、口を開いた。
「風も冷たくなってきた、そろそろ帰ろう」
そっと彼女の背を押し馬車へと乗り込む。無論、帰りも私の馬車で二人っきりだ。
馬車はぬかるみに嵌まることも、不具合もなく順調に進み続けている。そう、私達の交際のように。
頬が赤いのが恥ずかしいのかフリーディアは終始俯いたままだ。けれどそれを咎めるつもりはない。会話などなくても穏やかで満ち足りた空気が二人を包んでいるのだから。
そんなことを考えていたら不意にフリーディアが顔を上げた。そして自然と目が合った。
「婚約期間とは、かくも素晴らしいものだ」
無意識に零れた言葉を反芻して深く頷く。
よくよく考えれば、あのバカップルの行いを自分もしたということは、すでに私も恋の病にかかっているのかもしれない。
でも、それはそれで良いのかもしれない。なぜなら婚約期間というのは、一生に一度のことなのだから。
遠くで雷の轟く音が聞こえ車窓に視線を移す。今にも雨が降り出しそうなほど、空は厚い雲に覆われてきた。
今頃になって天候が崩れても、もう遅い。この後、雷雨になろうが嵐になろうが一向に構わない。
─────ただし、雨が降るのは彼女が屋敷に入ってからにして欲しい。
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