司令官さま、絶賛失恋中の私を口説くのはやめてください!

茂栖 もす

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プロローグ

失恋の定義を教えてください②

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 …………さて、大前提を覆す発言をされ、私はどうリアクションしたら良いのだろう。

 突然だけれど、私とマーカスの出会いは、学校の先輩と後輩という大変ありきたりな関係だった。

 そして全てにおいて平均値でしかない私に、マーカスから声を掛けてくれたのが始まりだった。

 ちなみに、この街の学校は、12歳から15歳までが全員、通学を義務付けられている。だから、彼と過ごした学生生活は1年しかなかったけれど、すごく嬉しかったし、毎日が楽しかった。

 それから会えない日々が続いたけれど、1年前の今頃、偶然再会することができたのだ。

 まさに運命!恋の女神様ありがとう!!

 そしてマーカスは私だけに夢の話をしてくれた。ま、具体的なことは何一つ聞かされてないけれど。もっと言うと、『好きだ、付き合おう』という言葉もなかった。

 でも、でも、でもっっ彼は、『俺には、シンシアしかいない』という言葉は何度もくれた。そして、荒れた私の手を見て、何度も頑張ってと励ましてくれた。そして俺も頑張るとも。

 ねぇ、それってどんな意味で言ったの!?

 ま、まさか私のお給料だけが目当てだったってこと!?………おい、ちょっと待て。それ、カラダ目当てより酷いんじゃね?

 と、そんなふうに長々と回想して一つの結論に達してしまえば、ぱんぱんに腫れ上がった感情は今にも爆発寸前になる。思わず私は、手にしている給料袋をぎゅっと握りしめた。

 そして、落ち着け、落ち着けと何度も深呼吸をする。もう、精神が崩壊寸前だ。ちなみに現在進行形で私の目の前にいるマーカスは、私をじっと見つめている。

 もっと詳細にいうならば、私の手元の給料袋をじっと見つめているのだ。

 いや、待て待て待て待て待て待て。お前、この期に及んで、コレ欲しいのかよ!?

 思わず心の中で叫ぶ。でも、あまりのショックのせいか、喉はカラカラで声を出すことができない。とりあえず渡さない意志を伝えるために、更に給料袋を強く握り2,3歩後退する。と、同時にマーカスが口を開いた。

「なんかさぁ、ごめんね?」
「…………え?」
「俺、自覚なしにシンシアに彼女っぽい期待をさせちゃって。でも、俺一回もそんなふうに思ったことないから」
「…………!?」

 衝撃、再び。

「シンシアのことは妹のように可愛いって思ってるよ。それに、俺の一番の理解者だってこともね」
「…………」

 なら、お前の立ち位置は、妹にたかる兄ということ!?それで良いのか!?

 というツッコミは、今もなお喉がカラカラ状態続行中なので、心の中で叫んでみる。

 もちろん、テレパシーなどというファンタジー的な特技は持っていないので、どんなに叫んでも、マーカスに伝わることはない。

 そして彼は残念ながら、他人の表情も、醸し出す空気も読めない人だった。

 今一番浮かべてはいいけないであろう、超が付くほどの爽やかな笑みを浮かべてこう言ったのだ。

「だから、ちょっと今回は、行き違いがあったけど、これからもずっとこういう関係でいようね───…………じゃあ!また、来月っ」
  
 そう彼が言い捨てて走り去った数秒後、私が手にしていた給料袋はいつの間にか消えていた。






 ────カァー、カァー、カァァー

 私を小馬鹿にするように、カラスが鳴きながら去って行く。言っておくが泣きたいのはこっちのほうだ。なにせ、失恋したんだし。号泣レベルだよ?これ。

 
 あーでも、考えようによっては、ただ彼に気持ちが届かなかっただけ。

 別に嫌われたわけではない。彼が遠くへ行ってしまったわけでもない。そして関係が壊れてしまったわけでもないのだ。
 
 だから、これから、もっともっと頑張れば、もしかして私のことを、女性として意識してくれるかもしれない。

 そう。そうに違いない。そして、きっとその頃には、この薄っぺらい胸だって、まだまだ育つと思うし。うん、きっと育つ。

 だから、これからもっと頑張ろう。そして乳製品を食べよう。まだまだやれるさ、頑張れ、私。

 そう思って、私は気持ちを新たに足を踏み出した。…………でも、3歩が限界だった。

 これまで1年間休みなく働いてきた疲れと、精神的ダメージで、私はその場で、ばったりと倒れてしまったのであった。

 ただ、地面に叩けられる瞬間、誰かに抱き止められたような気がした。


 

 けれど、私は今回のこの一件が失恋というカテゴリに含まれるのか否か。そのことが頭を占めていて、ぶっちゃけ受け止めてくれたのが誰かだなんて、気に留めることもなかったのである。
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