とりのこ されたしま

ちゃっぺ

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1章

若い記者

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アルフォンソはそこへ、自分達の護衛と監視を兼ねた依頼を出し町の外へと連れて行って貰おうとしていた。
確か町の近くの平野にて、夜空を眺めてみたいと言っていた。

彼は元々天文学者を目指していた。
都会の汚れた空気と違い、また余計な街灯のないこの島では天体観測は格好の機会と言うわけだ。

家庭の事情もあって結局夢を諦めた甥は、現在新聞記者の見習いをしながら高等教育機関に通っている。将来はそのまま勤めるつもりでいるらしい。

家族を支えながらも、好きなことに対する情熱が消えたということはないのだ。

「季節毎に少しだけ枠を貰って記事を書いてるんです」

船に揺られながらの彼との会話で、職場のことも学校のことも少しだけ聞いていた。もっと早くに知っていれば、経済的支援を多少出来たかもしれないが後の祭りだ。

新聞社事態が地域に根付く地方紙の会社。大手であれば記事にならない行事や出来事も、丁寧に取材して新聞に載せる最近では珍しい所だ。
一日一回、朝刊しか出さないため契約は月毎に取らなければならないが、大抵の家庭で購読されていると聞く。

甥はそこの社長兼編集長にかなり気に入られているらしい。

「親父の知り合いらしくて、時々家では知らない一面をこっそり教えてくれたりも」

と。

名前を聞けば、ああ、となるような特徴のあるご仁。
自分も昔、学校の卒業式やらで見かけた事がある。元々は一記者だったが、たしか前社長の娘と結婚しそのまま社長になった人だ。
奥方は未だに女性記者として西に東にと飛び回っている。

同僚とも今のところ上手くやれているようで少し安心した。
臨時契約社員アルバイトとはいえ、先輩にも可愛がられている様子を、穏やかな表情で教えてくれた。

「きっと今回のこの旅も、新聞記者としても一人の人間としても素晴らしい経験になると思います」

無理を聞いて貰えて本当に良かった。

そう漏らしながら、彼は少し寂しさを残した眼差しを空へと向ける。

母を失ってからそれほど経っていない。
いつ命の灯火が消えてもおかしくない彼女だったが、いざ居なくなれば心に開いた穴を埋めるのに時間が必要だ。

このアルケイディアでの日々が彼と、自分を少しでも癒してくれたらと願うばかりだった。
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