一輪の花

月見団子

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第五話〜太陽と過去の話〜

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「へぇ~じゃあ、そのお姉さんにご飯を作ってもらって食べたんだ!」「まぁ、そんな所だな」「美味しかった?」「ま、まぁな」なぜかジト目で見てくるので、少し戸惑いながら答えた。「でも、その人本当に優しいんだね」「まぁ…な」「あれ?でも待って?」「どうした?」「その人の特徴ってさ、もしかして…」「あぁ、そうだよ」
――そうして夕飯を食べ終わった頃だ。「ねぇ、君さ」「どうしました?」「洗い物…手伝ってもらえる~?」「全然良いですよ」まぁ、僕も食べたし。そうし て、お姉さんが皿を洗いながらとあることを口にし始めた。「思い出もさ…」「?」「穢れた思い出もこうやって綺麗にして洗い流せたら良いのにね…」「…そう、ですね」正直穢れきった思い出なんか大量にある。なんなら、こうやっている間も恨んでいるはずの学校の奴らや両親に対して元気かな?とか、今どうしてるんだろう?とかいう感情を持っている。そんな感情…流れ去ってしまえば楽なのに…そう思ってしまう。「貴方も…」「?」「貴方も、そんな事思うんですね」「思うよ、そりゃね。そして、この思いも誰かに引き継がれて、この世界にこびり付く。いじめや戦争のように、ね」駄目だと思っても、悪いことだと思っても無くならない。それはもはや、呪の類だ。誰かが幸せになる為の、誰かが被る…誰かに擦り付けられる不幸。そんな、気持ちが暗くなるようなことを考えていると、お姉さんはわざとらしく声を少し大きくして「まぁ、でも、そんなことしたら、過去の自分が意味無くなるからね~、その気持ちも大切にしなきゃね!」「あ…はい、そうですね」そんなぎこちない返事をした後、僕はずっと気になっていた疑問を口にした。「そういえば、気になっていた事が2つあるんですが…」「ん?何かな~?」「貴方の名前って何ですか?」「あ、教えてなかったっけ~?」「はい、聞かなかった僕も悪いんですが…」「いや~大丈夫だよ~私の名前はね藤花ふじか小町 藤花こまち ふじかだよ~」「ふじか、さん」「敬語はやめてくれると嬉しいな~」「あ、はい…じゃなくて…分かった。」「よろしいっ…所で2つめの質問は?」「あ。そうでした…なんで僕を助けたのかな、と」「あ、それね…特に理由は無いんだよね…なんか体が勝手に動いてたというか…」これはもしかして…「なるほど、誘拐ですね、理解しました。」「いやまって?なんでそうなるのかな?」「うぅん、だって、知らない人を拾うのって余程のお人好しか誘拐かのどっちかですよね?」「うん、前者の可能性は捨てたんだね…」「まぁ、小説とかのお話でしか聞いたことも見たこともありませんからね」「ま、まぁ、兎に角、私は誘拐なんかしてないよ!」「あ、そうなんですね、じゃあ、本格的になんで…」そんなことを話していると、家の鍵が開く音がした。その頃には洗い物も終わっていたので藤花さんに手を引かれながら玄関に向かう事にした。そうして、玄関が開くと同時に「おかえりなさい~」「うん、ただいま」「たっだいまぁ!」と、優しそうな雰囲気を醸し出す男の人と二人に比べて少し若く見える…僕よりも少し下に見える女の人が家の中に入ってきた。「あ、えっと…こんばんは…」「お、メールで言ってたのはこの子のことかい?」「うん、そうだよ~ごめんね、急に」「全然、問題ないよ」「まぁ、玄関じゃ寒いだろうし、リビングで話しようか~」「そうだな」「うん!雨降ってたから寒いよ…」そうして、僕らはリビングに移動して、3:1の面接のような席の形で僕らは座ってた。
「さて、本当はね、君を優しくこの家に受け入れたいんだけど…」「分かっています。この家の方たちからしたら僕は他人…いえ、不安要素と言い替えたほうが正しいでしょうか。」「まぁ、そこまでは言わないけど、似たようなもんだな」「う~ん、じゃあまずは、私がこの子を拾った経緯を説明しようかな~」「拾った?…まぁいいや、分かった。頼むよ」「仕事帰りに駅前を通るじゃん?」「あぁ、あそこか」「うん、あの駅の前に倒れててさ…雨の中で倒れていたし、何より意識もなかったからさ、家の中に入れて、保護したってわけ」「うん、簡単で分かりやすい説明をありがとう。」「じゃあ、まずはそこからだな」「僕が倒れていた理由、ですね?」「あぁ」「僕は…ここから8個ほど離れた街に住んでいました。」「8個!?まって、私の住んでいた街と同じじゃ…」と、今まで口を利いていなかった女の人が声を出した。そう、ここから8個離れているとなると下りは4個ほどしか駅はない為、上りで8個離れた場所だとほぼ確定される。つまり、この人もその街地住んでいたことになる。「まぁ、恐らく貴方が想像している街で合っていますよ…まぁ、話を戻しましょう。実は、僕はそこでいじめを受けていました。」「いじめ?」「そうです。」そうして僕は今まで受けたいじめを少しずつ掻い摘みながら話した。その頃にはリビングの空気は少し寒く、ピリピリしたような、哀しみを漂わせるような、そんな複雑なものになっていた。「…まぁ、そんな訳で、僕はあの場所にたどり着きました。その後は、体の疲れと人生に対しての諦めが相まって、倒れてしまった。」「そこで、藤花に救われた、と。」「はい。」「そうか…なるほど…分かった。少し三人で話をさせてくれ。」「じゃあ、君はあの部屋に行っててくれる?」「あ、うん、分かった。」そうして、僕はその部屋に向かうのだった。
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