記憶喪失の少年と謎の少女の物語

月見団子

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総集編

記憶喪失の少年と謎の少女の物語《前編》

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「…お前のせいだ。」
「お前のせいであいつは死んだんだ。」
「そんなお前がなぜノコノコの生きてるんだ。」
「生きてる意味なんて無いんだよ。」
「殺してやる…ころしてやる…コロシテヤル……。」
…………………。
………………。
……………。
…………。
………。
「ッ!」
夢か……。
なんで…なんでこんな夢を見るんだよ……。
俺は…何もしてない…何もしてないのに……。
助けてよ……誰か…たすけ…て……。
_お前に助けを求める権利なんて無いんだよ_
誰なんだよ…お前は誰なんだよ。
意識がはっきりしないまま時計を見る。
【2:45】と示した俺の部屋のデジタル時計は俺が起きた時間がまだ深夜だと言うことを示していた。
汗がすごいな…夜遅いがシャワーでも浴びるか。
ものすごく痛い頭を抑えながら俺はシャワー室へと向かう。
お湯にするのも面倒くさく感じたので水のまんま頭からかぶる。
冷たい。けど、今の俺にとってはこの冷たさが心地よく感じた。
数分間かぶっていたのだが流石に風邪を引きそうなので脱衣所に向かう。
体を拭いて服を着て…。
また寝室に行って寝ようかとも考えたがあの夢を1日に何回も見るのは簡便なのでコーヒーメーカーに水を入れてからリビングに向かった。
コーヒーが出来るのが10分位なのだが、特に何をする気も起きなかったので両耳にイヤホンをつけて音楽を聞く。
音楽は良い。聞いてる間は嫌な事を忘れられるから。
まだ夜明け前…と言うより深夜。
電気もつけずに外からの微かな光だけが部屋を照らしている。
その中で音楽を聞く男が一人。
記憶がなくなる前の俺はきっと音楽が好きだったのだろう。
音楽を聞いて安心したのか少し目を瞑る。
そこに映し出されるのはどこかの公園。
少女が一人踊っている。
微かに草の香りが鼻を撫でてる気がした。
聞いているのはとてもゆっくりなリズムの音楽。
正式な歌詞はなく、誰が、いつ作ったのかもわからない曲。題名すらも無い。
知る人ぞ知る名曲と言う奴なのだろう。
その音に合わせるように踊る少女。
とても平和な日常のひとコマ。
それでいて少し悲しげな映像。
名も知らぬ少女は俺に対して微笑みながら踊り続ける。 
夢を見ているのか…ただの妄想なのか。それは分からない。ただ、俺に分かるのはその子は俺のことを知っていると言う事。そして、俺にとってそれはとても居心地の良い場所である事。そしてもう一つ……。
俺は目を開ける。
日が上り始めてる。寝てしまったのだろうか。
俺は目から流れていた涙を拭くと、コーヒーを淹れてることを思い出し、コーヒーの溜まっているデカルタからコップに入れる。
案の定冷めてしまっていたが、不味くはなかった。
       《次の日》
俺は朝、目が覚めた瞬間、驚いた。
なぜなら。
「俺は……誰だ……?」
俺は自分の事が、この場所が、生まれてからの記憶が無かった。
否、ベットで寝てたって事はここは俺の家か。
って事は
「自分自身の事を知る為の…手がかりがあるかもしれないな」
そう呟いた俺はベットから起き上がろうとする。
すると、傍らに置いてあるスマホに気がついた。
「これ……俺のか…?」
いや、俺のか。
電源を入れ、少しの眩しさに目を細めながら時計を確認する。
【4:30】
記憶がなくなる前の俺は早起きだったのかな。
電話帳、メール、ブログ。等々、色々なアプリが入ってる中、俺が最初に確認したのはギャラリーだった。
アイコンをタップし、中を見る。
そこには、思い出の写真らしきものがぎっしり入ってた。
その数、脅威の500枚超え。
合計枚数だとしてもこれは驚きだった。
しかもその殆どは【カメラ】の類だった。 
俺はそこまで写真を撮るのが好きだったのか?
そう考えながらもそこに手掛かりがあると踏んだ俺はそれをタップする。
すると、
「この子は…いったい……」
思い出そうとすると何故か胸が締め付けられる。
日付を見ると、殆ど毎日この少女と写真を撮っていた。
年下なのかな……?
随分と幼く見えるその子は身長が低く、可愛いなと思ってしまった。
勿論昨日の日付の写真もあった。
「俺は…学生なのか。」
制服姿の写真があった。
ただ、学校に行くにしても場所が分からないし、自分に関しての情報が無いため、年齢がわからない。その為、中学生なのか、高校生なのか、はたまた大学生なのかが分からない。
何より、この時間から行く学校は無いだろう。
現在【4:45】。
まだ時間がある。1時間はあると見て良いだろうか。
「探すか。」
そう呟いた俺は今度こそ立ち上がり、家の中を探索し始めた。
「まじか……。」
リビングらしきところに来た俺は驚いた。
だって、こんなに沢山の賞状があれば誰だって驚くだろう。
剣道に、ナイフ術、護身術、空手、合気道、重量挙げ、と言う格闘技系以外にも、
茶道や、書道等の心身系の賞状もあり、殆どの賞状には、【優勝】の文字が書かれていた。
記憶がなくなる前の俺はここまで運動神経が良かったのだろうか。
俺は驚きつつ、リビングを出て、次はどこに行こうかなと思っていると一つの扉を見つけた。
その扉だけがなぜか気になった。
沢山扉があり、どれも同じ様な模様なのにね。
「入ってみるか。」
俺は扉を開ける。
すると、
そこは和室だった。
畳が敷き詰められており、この家の殆どの部屋がフローリングだったので少しの驚いた。
けど、更に驚いたのはそこに置いてあるものだった。
刀と見られる物、竹刀、木刀、剣道着らしき物。
その他に空手着とあった。
また、それとは別に、袴があり、茶道等に使う物だと直ぐに分かるものだった。
「お、おじゃまします」
と小声で言い、中に入る。
早速気になったのは刀である。
まぁ、勿論模造刀だったのだが。それでもカッコイイなと思った。
次に気になったのは竹刀や木刀だ。
そのうちの一つを持ってみると、
「うわっ…おっも!」
凄く重かった。
こんな物を俺は振り回していたのだろうか。
木刀は…と言うと、竹刀よりも重く、数秒持ってるだけでも肩が攣りそうだった。
俺は和室を心ゆくまで探索し、部屋を出た。
その後、色々なところに行き、頭の中に家の中の地図を描きながら最初にいた寝室に来ていた。
時刻は【5:30】を指しており、長い間家の中を歩き回ってた事を示していた。
それもそうだ。
この家は2階建ての一軒家。
部屋の数が多かった。
台所に洗面所、バスルーム、トイレ等の部屋以外に、リビングがあり、和室が1部屋。12畳くらいだろうか。
フローリングの部屋が1階と2階を合わせて10部屋位ある大きな家だった。
それにしても…。
写真の女の子に沢山の賞状。俺の情報。
色々と分からないことが多いな。
そんなことを考えていると
“ピーンポーン”と家のチャイムがなった。
「誰だろう。」
こんな朝早くに。
そういえば俺の家には親らしき人は居なかった。
だから、
「親…かな?」
と思った。
そうして僕は玄関前に立ち、
「あの~どちら様ですか?」
行った僕は扉の覗き穴から外を見る。
すると、写真に写ってた女の子と似た子が立っていた。
「えっとさ、取り敢えず開けてくんない?
ボク、寒いよ。」
今の時期は冬。この時間であれば高くても1桁の気温だろう。
そう考えた俺は玄関の鍵を開けて、扉を開けた。
「やあ、日向君。」
「…?」
「どうしたんだい?」
「あ、えっと、その」
「あぁ。いつものか。」
その子は俺の状態を知ってるかの様に答える。
「い、いつもの?」
「うん。いつもの。」
そうして彼女は驚くべき事を口にする。
「君はね、原因不明の記憶喪失に悩まされてるんだよ。しかも、毎日ね。」
「え?毎日?」
「うん。毎朝君は記憶が無くなる。」
「病気か何かなのか?」
「ううん、ちがう。
病気でも怪我でもない。全くの原因不明。」
「そうだったのか……。」
「まぁ、ここでの立ち話もなんだしさ、君の部屋に行こうよ。」
「リビングじゃ駄目か?」
「駄目。君が一番リラックスできる場所で話したほうが良いの。」
「そうなのか?」
「あのねぇ。君には記憶がないかもしれないけどボクには記憶があるんだ。
君に説明するのは君の部屋が一番良かったよ。
もちろんリビングも、その他の部屋も試したけどね。」
「そうか。じゃあ案内するよ。」
「うん。」
そして、俺等は部屋に入った。
「まぁ、好きな所に座ってよ。」
「じゃあボクはベットに座らせてもらうね~」
「じゃあ俺は机の椅子に……」
「いや、隣に座って?」
「お、おう。じゃあお言葉に甘えて…。」
「さて、君の知りたい情報は何かな?」
「う~ん、、、色々ありすぎるんだよなぁ。」
「まぁ、いつもの事だね。」
「ごめんな。いつも、迷惑をかけてるみたいで。」
「いやぁ、もう慣れたもんだよ。」
「慣れて良いものなのかなぁ…」
「さぁ、時間がなくなるよ。」
「あ、あぁ、そうだな。
じゃあまず、俺に関しての情報…かな。」
「君の情報ね。
名前は明星日向あけぼしひゅうが
年齢は16歳の高校1年生。
記憶喪失は2年前から始まった。」
「2年前から……そんなに前からだったのか。
因みに俺の親は?」
「君の親は………」
「どうしたんだ?」
「いや、……。」
嫌な予感がした。
「教えてくれ…俺の親は?」
「君が小学校1年生の頃に…交通事故で両親ともに……死んだ。」
「しん…だ?」
「うん。
それともう一つ。君には妹が居たんだ。」
「妹?」
「うん。
名前は明星桄あけぼしみちる
君とは1歳違いだったんだ。」
「因みに妹は?」
本当は聞きたくなかった。
だって、親が死んでいて、妹がこの家に居ないって事は…つまり
「君の妹は…自殺した。」
「は?じさ…つ?」
死んでる事は予想がついた。
だが、自殺? 
「なんで…自殺なんか…したんだ?」
「君の両親は死んだって言ったよね?」
「あぁ。それと何か関係があるのか?」
「うん。思いっ切りあるよ。
これは、聞いた話だけど……。
その事故はね、車とトレーラーの正面衝突事故だったんだ。
トレーラー側が逆走をしてて、ブレーキも壊れていて、速度は速くなってく一方だった。」
そこからは容易に想像ができた。
「その車には君の両親、日向君。そして、君の妹が乗っていたんだ。
その日、君達は旅行に行く予定だったみたいだったね。
その前日に君は楽しそうにボクに話してくれたんだ。
そして、目的地に向かう途中に事故にあった。」
トレーラーとの正面衝突。
それはつまり、死んでもおかしくない事故だ。
逆に言えば、助かるほうがおかしい事故。
「君の両親は即死だった。
トレーラーに潰されたんだ。」
じゃあなんで俺は…
「君は妹を庇った。
そのおかげで妹は軽症で済んだ。
少なくとも腕が1本折れただけで済んだ。」
けど、
「けど、君はそうはいかなかった。
妹を庇うために君はトレーラーと妹の間に割り込み、クッションになった。」
そこからは思ったとおりだ。
「全身の複雑骨折。
手術でなんとかなったけど、君は長い間昏睡状態に陥った。
真綾ちゃんは君の事を兄として、そして親として見ていた。 
親の仕事上君が妹の面倒を見ることが多かったからね。」
真綾は軽症。つまり、昏睡状態にはならない。
そして、俺は昏睡状態に陥った。それも長い間。
年齢的にも、そして、家庭状況的にも、その後真綾がどのような状態に陥ったのかはすぐにわかった。
「そんな君が昏睡状態になった。
妹はその時保育園生の年長組だったから、すぐに目を覚ますと考えてたんだろう。
またあの時みたいに大好きな兄と暮らせると。
けど、1年立っても、2年立っても君は目を覚まさなかった。
君だったらどう考える?」
2年も目を覚まさない。
普通は死んだと思うだろう。
あれ?俺は今なんて考えた?
“死んだと思うだろう”
嗚呼、そういう事か。
「そう。君の妹は…君が死んだと思った。
今まで面倒を見てくれてた兄が、大好きだった兄が、死んでしまった。
その後の妹は、もはや狂気だったよ。」
そして、真綾は自殺した。
「君は、妹が死んで、その1年後に目を覚した。」
そこで俺は当たり前の質問をした。
親が死に、妹も死ぬ。
つまり、身内が誰一人としていなかった俺は。
それに3年もの間、昏睡状態だったんだ。
誰もが死んだと思っていたはずだ。
だが、俺は今生きている。
つまり、誰かに育てられたということ。
「あれ?って事は俺は誰に育てられたんだ?」
俺がそう聞くと、声のトーンを少し変え、
「妹が死んだ君は大変だったよ。」
と、目の前の子は笑いながら言う。
だが、その笑いは無理をしてる様に見えた。
「君はボクの所に来た。
ボクの親に育てられたんだよ。」
「君の…親に?」
「うん。
君の意向で、名字は変えなかったから養子には入れなかったけどね。」
「なんで、君の親に?」
「幼馴染だったからだよ。
友達の少なかった君はボクの所しか頼れる所が無かったからね。
病院側では児童保護施設か、精神科に入れると言ってたけど、ボクの親が無理言って引き取ったんだ。」
「そうだったのか………。」
「あぁ~因みに僕の名前は
ボクの名前は、
四月一日 桜わたぬきさくら
だよ。」
「さくら……。いい名前だな」
「えへへ。ありがとっ
まぁ、それは置いといて。
中学に上がると同時にボクの親は君には妹が死んだ事を伝えたんだ。
中学生だから、精神的にも安定してるだろうって。
例え崩れたとしても、桜達が支えれば良いって言ってね。」
確かにその可能性は高かっただろう。
「でも、伝えたあとの君は想像を遥かに超える程に精神面を崩した。
それはもう鬱と言う言葉が小さく見えるほどにね。
何度も自殺しようとした。
自傷行為もした。」
「じゃあ…それを止めたのって……
俺の精神を安定させてくれたのって。」
「うん。ボクだよ。
もぉ~大変だったんだからね?」
と少し困った笑顔を見せながら桜は言った。
「ボクも何度も危ない目にあったしね。
でも、諦めなかった。
毎晩、君は魘されてたよ。
現実でも、夢の中でも、君は自分を責め続けた。
そのたんびにボクは君に伝えたんだよ。」
_君は悪くないよってね。_
「そのおかげか、君は少し精神面が落ち着いてき
て、普通に生活する事も出来るようになった。
その後君は独り暮らしを始めた。
まぁ、心配だったから毎朝君の家に来る事が日課になったんだ。」
けどね。と桜は続けて。 
「ちょうど2年前。君の記憶喪失が始まった。
ボクがいつもみたいに朝、迎えに来ると、君はボクの事や、自分の事を忘れるようになってしまった。 
その日直ぐにボクたちは病院に行った。けど、原因は分からなかった。
その日から、君は毎朝記憶が無くなることになった。
そして、今日に至る。
長くなっちゃったね!」
と桜は無理やり元気を出そうと声を上げた。
「毎朝ありがとうな。そんな思い出したくない事を教えてくれて。」
「しょうがないさ。」
時刻は【6:00】を指していた。
「あ!そうだ!
昨日の君が君に伝えたい事があるって言ってたんだ!」
「伝えたい事?」
「うん。
君には毎日、別れるときに明日の君に伝えとくことを紙に書いておいて貰ってるんだ。」
「そうだったんだな」
「はい。これ。」
と言った桜が渡してきたのは手紙。
「もしだったらボクは部屋の外に居るけど…どうする?」
「う~ん、、、いつもの俺はどうしてた?」
「外に居てくれって言ってたかな~」
「そうか。じゃあ悪いが…」
と言って気づいた。
「あれ?桜?」
「ボクならもう外にいるよ~」
と部屋の外から声が聞こえた。
「ありがとうな。桜」
「どういたしまして」
その返事を聞いて俺は手紙を開く。
……………。
「明日の俺へ」
そう書かれた文字はきれいだった。
「この手紙を読んでいる俺はきっと今の俺の記憶が無いんだろう。
不思議な気持ちになると思うが、我慢してくれ。
桜からは家族の事を聞いたか?
あれはショックだったよな。
俺も聞いたときはよっぽど自殺してやろうかと思ったりもした。
けどな、きっと桄はそれを望んではいない。
それと、これは桜には内緒だけどな。
今のお前は分からないがこれを書いている俺は桜が好きだ。
この気持ちがどういう気持ちなのかはご想像におまかせするが、この気持ちは伝えてはいけない。
だって、桜には毎日悲しい思いをさせるから。
一緒に居る人が毎日記憶喪失になるって、きっと凄く負担になってるんだ。
あいつはああやって微笑んで、元気にやってるが、あいつはきっと弱い。
あいつと出会った頃を覚えてるわけじゃない。
けど、分かる。
今日が始まって、1日過ごせば分かるよ。
皆の人生は年単位だ。
けど、俺達の人生は1日だけ。
大切にしろよな。
それと、今日わかった事は、俺の記憶喪失の原因は、自分自身の中に答えがある。
以上だ。
じゃあね明日の俺。
今日の俺より。」
……………。
そう…だったのか。
そう。俺の人生は1日だけ。
今日が終われば今の俺の記憶は無くなる。
「自分の中に答えが………」
そう呟いた瞬間、“コンコン”
とドアをノックする音が聞こえた。
「なんだ?」
「朝ごはんの準備できたよ~
……入っても良い?」
「良いよ。」
「じゃ、入るね~」
「いつものお前が作ってくれるのか?」
「うん。そうだよ~
[…でも、君のご飯もまた食べたいな。]」
「ん?なんか言ったか?」
「うう~ん、何でもない。
それよりも早くご飯食べよっ!」
「そうだな。」
今日のご飯はご飯に焼き魚。それと味噌汁だった。
ザ・和食だったが、
「う…うまい…」
「そう?良かった~
君の為に頑張ったんだからね~?」
「そ、そうか。ありがとうな。」
「しっかりと感謝してよね~」
「めっちゃ感謝してます」
「よろしい♪」
内心凄くドキッとした。
食べ終わる頃。
時計は
【6:30】
を示していた。
「さてと、そろそろ準備を始めよっか。」
「そうだな。」
時刻は【6:30】
を示しており、支度を始めなければならない事を教えてくれた。
「因みに何時頃に家を出るんだ?」
「う~ん、、、大体いつも7:00頃かな~」
「そうか。」
そうして俺は着替える為に部屋に来たのだが……。
「何で桜が一緒にいるんだ?」
桜が同じ部屋にいる為、着替えたくても着替えれないのだ。
「え?別に良いじゃん。
ボクの制服もこの部屋にあるし。」
「なんであるんだ!?」
今日最大の驚きである。
「だって、料理をしてる時に制服に匂いが移るかもしれないし。
それに別に困らないでしょ?」
「いや、困るけど……。
一応男女だぞ?」
「あ~。もしかして変な事考えてる?」
「考えるかっ」
「あはっは~日向君、顔真っ赤だよ~」
「うるせーやい」
そうしてなんやこんやあったが俺らは無事に着替え終わり、支度を終わらせていた。
時刻は【6:45】
を示していた。
「う~ん、、、時間がまだ15分位あるね~」
「そうだな。」
「あっ!そうだ!」
「どうした?」
「君にまだ竹刀とかの説明してなかったね。」
「あぁ。確かに」
「じゃあ付いてきて!」
そう言った桜に対して返事をしようとしたが、返事よりも早く俺の手を引いて畳の部屋へと引っ張っていった。
「とりあえず、一通りは調べたみたいだね。」
「あぁ。竹刀も1回持ってみたんだけど、重すぎてとても振り回せねぇよ。」
「じゃあ、物は試しに試合をしてみようよ。」
「防具はないが?」
「寸止めで。」
「…は?」
「聞こえなかった?
寸止めでするんだよ。」
「あのなぁ、あの竹刀を振り回して、寸止めは出来ないぞ?」
「……良いからするよ。」
「るか…な?」
気迫が違った。
さっきまで笑顔だった桜の表情は真剣な表情に変わっていた。
少なくとも俺の何かが変わる位には。
「本気なんだな。」
「もちろん。」
そうして俺は竹刀を1本手にするのだが、
「違う違う。二本だよ。」
「はい?」
そう言った桜は竹刀二本を投げてきた。
「あっとっと…投げるなよ。」
ってか重っ!
「その竹刀ボクに渡してよ。」
「…わかった。」
「ありがと。」
一度礼をして、俺は構えた。
その瞬間、気合が入った気がした。
頭では忘れてるのだが、体が覚えているようで、すぐに構えられた。
「行くよ。」
桜が言った瞬間、背筋が凍るような感覚がした。 
更に気合が入る。
「ぁ…………。」
だが、もう遅い。
避けようとしたが、間に合わない為、短い方の竹刀ですかさず防御する。
〘※剣道の二刀流では、普通のサイズの竹刀と、短い竹刀の2つを使って試合をします。〙
「面!」
桜が声を上げながら竹刀を振り下ろす。
おもっ!
桜の攻撃が重すぎる!
確かに竹刀の重さもある。だが、それ以上に桜の技が重たすぎる。
「これでおしまいなの!?」
「んなわきゃねぇだろ?」
相手の竹刀を打ち返し、すかさず
「胴!」
腹部を狙う。
「まにあわっ!」
僅か数センチ。その距離で俺は竹刀を止めた。
「日向君の勝ちだね。」
「あ、あぁ。なんとか勝てたな。」
そうして俺らは一度礼をして会話を再開した。
「何を言うのさ。
ボクは記憶喪失になった君にすら一度も勝てないんだよ?」
「え?そうなの?」
「君は世界大会で優勝してるんだよ?
それに君は8段を取ってるんだよ?」
「世界大会の優勝ってのは分かるけど、8段って凄いのか? 」
「凄いよ!
今、8段の所有してるのは600人だけなんだよ?
今剣道人口は約100万人だから、約0.06%しかいない。
君はその内の一人なんだよ。」
「それを聞くと凄いな……。
因みに君は?」
「ボクも8段を持ってるよ。」
「君も十分すごいじゃん。」
「それでも世界大会では2位までしか取れてないんだよ。
君には一度も勝ててないんだ。」
「そうなのか。」
自分に関心するという不思議な感覚を感じながら時間を確認する。 
時刻は【7:00】
を示していた。
「そろそろ時間だね~」
「そうだな。 
けど、案内してくれないと俺は学校に行けないぞ?」
「もちろん!案内するよ~!」
「あぁ、よろしく。」
「持ち物はさっきまとめたからそれを持ってけばいいよ。」
「分かった。
何から何までありがとな」
「この親切な桜に感謝してよね♪」
こいつには何かを奢ってやらなきゃな。
「じゃあそろそろ行こうか。」
そう言って玄関を出ようとすると
「日向君!これ忘れてるよ!」
「え?」
たしか全部持ったはずだが……。
「はい、これ。」
そう言った桜に渡されたのは竹刀と木刀、その他には大きな鞄だった。
「部活か何かか?」
「勿論!」
「そうか。ありがとうな。
ただ、この鞄に何が入ってるんだ?」
「えっとね、防具と剣道着が入ってる。」
「そうなんだ。ありがとな」
「どういたしまして。
それじゃあ今度こそ行こうか。」
「そうだな」
そして、学校についたのだが、
【無事に】という言葉を使えるのかは怪しかった。
だって、
「この坂きつくね?」
「まぁ、慣れたもんだけど、最大勾配37%らしいよ。」
「37%……。」
心臓破りの坂って奴だな……。
「あ!それと、君が記憶喪失なのは内緒になってるから。」
「内緒って……先生も知らないのか?」
「先生は知ってる。
生徒はボク以外誰も知らないよ。」
「そ、そうなのか…隠しとおせるかなぁ。」
「大丈夫。その為にボクが同じクラスになってるんだから。」
「え?そうなの?」
「そうさ。
君を助けてあげれるのは、秘密を知ってるボクと先生だけだもん。」
「さらに迷惑をかけてるのな……。
一日中迷惑かけてるじゃねえか。」
「……別に好きでやってる事だしね。」
「まぁ、それでも迷惑かけてる事には変わりないしな。」
「な~に今更遠慮してるのさ。
ボクらは家族みたいな関係じゃん。
小さい頃から一緒に育ってきてるんだからさ。」
「それもそう……なのか?」
「さあ、着いたよ~ぼくらの教室に!」
「ここがそうか。」
懐かしいような…気もする。
覚えてないのにね。
まぁ、そんなこんなで授業を5コマ受けて、今は放課後である。
「相変わらず勉強は出来るみたいだね。」
帰りの会が終わり、机に伏せていた所に桜が声を掛けてきた。
「あぁ。勉強はなんだか、すんなりと頭に入ったな。」
「さすがだね!
学年1位の日向君!」
「え?俺学年1位なの?」
「うん。そーだよ。」
今日は驚きばかりである。
まぁ、覚えてないからなのだが。
毎日こんな調子なのだろう。
「まぁ、あと5分位ゆっくりしたら部活行こうか。」
「そんなにゆっくりしても良いのか?」
「まぁ、成績が良くて、試合の結果も良いボクらだったら少しくらい遅れても文句は言われないさ。」
「そういうもんなのか…?」
「そういうもんだよ」
「そっか。」
その会話を最後に俺は睡魔に襲われ、目を閉じた。
「…ん!……うが君!…日向君!」
「ん……」
「やっと起きた……。
5分経ったよ!」
「ん、了解」
どうやら1日が終わると、記憶が無くなるらしく、眠った所で記憶が無くなるわけではないらしい。
「目が覚めた?」
「覚めた。」
「そう。じゃあ行こうか。」
「おう。」
そうして、俺らは数分廊下を歩く。
途中、階段を降りたり外に出たりもした。
そして、
「ここが、剣道部の部室だよ~」
俺達は制服から剣道着に着替えて一つの扉の前に立っていた。
「ここが……。」
「まぁ、そこまで緊張しなくても大丈夫だよ。
君は、思った通りに動けば良いから。」 
「とはいえ記憶はないんだぞ?」
「頭は覚えてなくても体は覚えてるでしょ?
今日の朝の軽い試合、覚えてる?」
「あぁ。覚えてるよ。」
「あんな感じに動けば良いんだよ。」
「わ、分かった。」
「それと、この扉を開けて、一歩入ったら、
「お願いします」って大きな声で言ってね。
まぁ、ただ大きな声じゃ駄目だよ。
しっかりと芯の通った声でね。」
「わ、分かった。」
「じゃ、開けるね~」
そして、引き戸が、開く。
「「お願いし…」」
その声を上げた瞬間、練習をしてた全員がこちらを向いて、
「「「「「お願いしますッッッッッ!」」」」」
声で引っ繰り返りそうになりそうだった。
誰もが練習を止めて、竹刀を腰に添えて、頭を下げる。
あれ?俺らって一年生だよな?
って事はこの中には先輩もいる訳で……。
「あ、あの桜?」
「なに?」
俺は小声で桜に、声をかける。
「何で俺らはこんな対応なんだ?」
「それは、この部活を引っ張ってるからだよ。」
「それだけで?」
「まぁ、練習が始まれば分かるよ。
でも、この剣道部も実力者で一杯だよ。
殆どが全国大会は経験してる。」
「でも、先輩も居るんでしょ?」
「居るよ。
でも、皆ボク達に付いてきてくれる。」
「そうなんだ。」
「誇りを持ちなよ。
もっと堂々と。ね?」
「り、了解。」
「それでこそ日向君だよ。」
そして、皆が整列をして、礼をする。
剣道の礼儀作法らしい。
そして、練習を再開する。
「練習の相手をしてください!」
「あ、えっと、」
「日向君。」
「良いですよ。」
「ありがとうございます。」
1礼をし、竹刀を構える。
違いってこの事か?
瑠奏よりと動きが遅いな。
「面!」
相手の動きをよく見て、
「小手!」
「あ~、また1本取られちゃいました。」
「でも、十分良い動きだよ。」
「ありがとうございます!」
一礼をし、1歩下がりながら、竹刀を収める。
「ねぇねぇ、日向君。」
「なんだ?桜。」
「ちょっとボクと試合をしてみない?
朝と違って防具も付けてるし。」
「良いけど。」
「……皆集まって!」
皆が集まってくる。
「1度ボク達の試合を見てくれない?
そこから、学んでほしいんだ。
どう仕掛けて、どう打つのか。
竹刀で、どう防御するのか。
足の動きはどうなのか。」
「「「「わかりました!」」」」
「良し。
そこの君!」
「はい!」
「審判をしてくれない?」
「はい!喜んで!」
やった!と小さくガッツポーズをしながら俺達の中心から横にずれた所に立つ。
周りのみんなは羨ましそうにしているが、しっかりと俺達を見ている。
「「お願いします。」」
朝と同じような緊張感が体を支配する。
一礼。構える。
審判を頼まれた人、名字は紺野と書いてあった。
紺野が、
「初めッ!」
といった瞬間、体が勝手に動く。
頭で考えるよりも早く。そして、速く。
朝の様に当てては行けないという縛りがないからだろうか。
桜が面を打ってくる。
面を打ち返し、胴を狙う。
が、打ち返される。
面、打ち返し、小手。
それが打ち返され、面。
それを打ち返し胴。
打ち返され小手。
打ち返し面。
打ち返され胴。
それの繰り返し。
まるで、桜の技に操られているかの様な、そんな感覚に陥る。
けど、面で見えないが、桜の顔は笑顔だった。
俺も、きっと笑顔なのだろう。
二人ともこの空間を楽しんでいた。
いつの間にか周りは何も見えなくなり、目の前の桜しか視界には入っていなかった。
そんな攻防が続いて、5分程経った頃。
_ピピーーーー_
桜が静かに教えてくれる。
「試合は5分間だけ。
その後は無制限の延長線。」
そして俺らは1本も取られず取れずの状態で1度距離を取り、構え直す。
周りからは、おぉ~と、声が聞こえる。
中には目が点になってる人もいた。
「みんなー!」
桜が、声を上げる。
「日向君が世界一だって事は知ってるよね?」
「「「「「はい!」」」」」
まさか……。
「日向君♪」
「あの~さっきも本気だったんだけど……。」
「いや、君の本気はあんなのじゃないよ。」
「バレてましたか?」
「勿論。
皆にもバレてると思うよ?」
「え?」
「ねぇ。さっきの試合で何か違和感なかった?」
「「「「はい。ありました!」」」」
「まじか。」
「因みにどんな所?」
「日向さんが手を抜いているように見えました。」
「だってさ♪」
「……まじかよ。
そこまで分かるのか……。」
相手が女子だからって手を抜いていたのをバレていたらしい。
それも、全員に。
「さぁ!本気の試合再開だよ!」
「了解!」
「試合時間無制限で試合再開です!
それでは…初め!」
ここまで長い試合の審判をしてくれている紺野に心でお礼を言い、再開。
構えて、目を閉じる。
……ふぅ。
5秒間。
目を開ける。
瑠奏は親切に待っていてくれたらしい。
先に俺が一歩を踏み出す。
一瞬遅れて瑠奏も踏み出す。
先程の試合で体が温まっていたのか先ほどとは比べ物にならない反応速度で練習試合の火蓋を切る。
面を打ち返し、胴を狙う。
が、打ち返される。
面、打ち返し、小手。
それが打ち返され、面。
それを打ち返し胴。
打ち返され小手。
打ち返し面。
打ち返され胴。
先ほどと同じ。
だが、速度が桁違いだ。
相変わらず笑顔の試合で、緊張感はない、筈なのに背中に冷や汗がダラダラと流れる。
軽く5分が経つ。
だが、両者1本も入らない。
う~ん、、、審判の人見えてるのかなぁと考えてしまう。
ふと、鍔迫り合いになる。
「日向君。楽しい?
ボクは楽しいよ。」
「俺も楽しい。」
「でも、君の記憶が戻ったらもっと楽しいんだろうね。」
「あぁ。そうなるように頑張るよ。」
「うん。ボクも応援してるよ。」
そして、両者竹刀を跳ね返し、距離を取る。
構え直し、また攻防を繰り返す。
まじか。
ここまでやってもまだ入らないのか。
時計を確認すると10分を過ぎていた。
先程から最初の速度のまま、いや、更に早い速度で竹刀を振り下ろしている桜も凄いが、それを受け止めている俺もきっと異次元なのだろう。
15分……20分……25分……。
30分経ったとき、桜の表情が笑顔から真剣な顔に変わる。
恐らくこの一発で決めるつもりだろう。
なら、俺もそのつもりで攻めなきゃな。
再度距離を取る。
10秒ほど、構えたまま気持ちを落ち着かせる。
どちらかが1歩を踏み出せば勝負が決まる。
そんな緊張感がこの空間を支配する。
深呼吸をする。
……1歩を踏み出したのは同時だった。
「面!」
「胴!」
狙う場所は別々。
つまり、打つ速度が早いほうがこの勝負の勝ち。
“パシーンッ!”
先に音がなったのは………。
………。
「はは…負けちゃったね」
負けたのは………。
………………桜だった。
両方当たったが、僅かに俺の方が速かったのだ。
その差わずか0.1秒。
「まじ…か。」
言うまでもないが周りの反応は【空いた口が塞がらない】状態だ。
審判の紺野はと言うと…固まっていた。
審判!?
「「…ありがとうございました」」
一礼をし、竹刀を収める。
1秒後
「「「「「「おぉーーーーー!!!!!」」」」」」
歓声と、拍手が部室を満たした。
「あれ?」
何か、今思い出しそうな気がしたんだけど……。
くっ……頭が……痛い………。
だが、もう少し……あと少し耐えれば…。
その後、何人かと打ち合いをし、部活が終わった。
部員の殆どが帰った時、桜が、声をかけてきた。
「日向君…大丈夫?」
「いきなりどうしたんだ?」
「いや、いつもと様子が違ったから。」
「いや、大丈夫だよ。」
「そう?
なら良いけど……体調が悪くなったら言ってね?」
「あぁ。分かったよ。」
「じゃあ、帰ろっか。」
「おう。」
帰り道。
トレーラーが俺らの横を通る。
考えれば普通にあり得ることだ。
だが、何故だ?
何かを思い出しそうで………。
物凄く頭が痛い…。
「ぁ……」
「大丈夫!?」
…………………………。
……………。
……。
「ここは…一体……。」
「ここは現実と夢の狭間。
俗に言う“記憶”と言う、場所だね。」
いきなり目の前の少女が話しかけてきた。
「君は?」
「私は…ここに住みつく者…とでも言っておこうか。」
「ここは真っ暗な空間だけど……。」
「そりゃ、君の記憶がなくなってるからね。」
なるほどね。
「俺は一体、なぜ、記憶を失ってるんだ?」
「それは、私には答えられないな。
けど、助言ならしてあげれる。」
「助言…?」
「そう。
聞いてみる?」
「まぁ、教えてくれるなら。」
「君は、今から選ばなければならない。」
「選ぶ…?
何をだ?」
「一つは、記憶がないまま幸せな時間を暮らす。
   一つは、苦しい思いをしながらも記憶を取り戻す。」
「…………。」
正直難しいか。 
「選ぶのは君だから自由にして良いよ。
ただ、選べるのは今回の一つだけ。
どれを選んだとしても、私は応援するよ。」
正直に言えば、幸せに暮らしたい。
記憶がないままでも良いから。
瑠奏の話を聞いてる限り、俺の過去は壮絶だったみたいだから。
きっと、思い出したくない記憶だってある。
だから、記憶がないままでも良いやって思う。
でも、記憶がないままで本当に幸せになれるのかっていう疑問はある。
いくら思い出したくない過去があったとしても、逃げて良いものなのかなって。
俺には記憶が無いからその苦しみがどれほどの物なのかなんて分からない。
話を聞いてるだけでも胸が締め付けられる感覚になるのに、思い出したらどうなってしまうのか。
……。
……………俺は何を考えているのだろうか。
もう、答えなんて出てるじゃないか。
「答えは決まってるよ。」
「それじゃあ、君の答えを聞かせてもらおうか。」
「俺は…俺の答えは……。」
数秒を空け、俺は答える。
「答えは決まってるよ。」
「それじゃあ、君の答えを聞かせてもらおうか。」
「俺は…俺の答えは……。」
「君の答えは?」
「記憶を…取り戻すよ。
そりゃ苦しい思いをするのは嫌だよ。
それでも、その記憶を取り戻した先に幸せがあると思うから。」
「そうか。
分かった。
私は君が記憶を取り戻すのを手伝おう。
苦しい度になると思うが、覚悟はできてるね?」
「あぁ。勿論。」
「じゃあそこにある扉を開いて、中に入って。」
後ろを振り向くと先程まではなかった扉がある。
真っ暗な中でも見えるその扉はかなり大きいんだろう。
「この扉は…?」
「その扉は外に繋がってるんだよ。
君たちが言う、現実っていう場所だね。」
「そっか。
じゃあな。
色々とありがとう。
また…会えるよな?」
「うん。
君が記憶を取り戻せばまた会えるよ。」
「そうか。
なら、頑張らないとな」
「応援してるよ。
さあ、行った行った。
お友達が待ってるよ。」
「分かった。
じゃあな」
そうして俺はその扉を開く。
大きさとは関係なく扉は軽々と開いた。
そして、中に入った瞬間、俺の体は柔らかい白色の光に包まれた。
…………………………。
……………。
……。
「…が君。」
声が聞こえる。
あぁ、さっきまで真っ暗な部屋で少女と話ししてたんだっけ。
「日向君!」
「…ん…」
「あ、やっと目を開けた…!」
「桜…?」
「もう、いきなり倒れるんだもん!
心配したよ!」
「ここ…は?」
「君の家だよ。」
あれ?俺が倒れたのって確か…外だったよなぁ…。
「俺って確か外で倒れて…」
「そうだよ?
だから、ボクがおぶってきたんだよ。」
「あ、ありがとう。
けど、…重くなかったのか?」
「重くはなかったかな~
腕は鍛えてるからね~。
そこら辺の女子よりは力があるよ。
それよりも、頭痛は大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「そっか、じゃあ、これを書いてもらえる?」
そう言った桜が渡してきたのは1枚の紙。
「えっと…」
「明日の君への手紙だよ。」
「あぁ、そうか。
ちょっと待っててな。」
「分かった。」
15分後、書き終えた俺は手紙を桜に渡した。
「はい、確かに貰ったよ。」
「じゃあ、よろしくな。」
「うん。じゃあ、ボクは帰るね。
また明日来るよ。」
「おう。
今日はありがとな。」
「………。」
「桜?」
「ん…いや、何でもないよ。」
「そうか。
気をつけて帰れよ?」
「もちろん。」
そうして、桜が帰った部屋で俺は思考を巡らせていた。
苦しい思いをして、記憶を取り戻す…か。
その苦しみは現実での苦しみなのか、夢とかの苦しみなのか…分からないが…まぁ、それに関しては明日の俺に任せよう。
時刻は【21:50】
を示していた。
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