英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 5

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 ゴミ袋の中身は不要になったプリントの切り屑などでそれほど重くない。だからといって、ゴミ袋を運ぶのは楽だと言うわけではない。二階の職員室から一階に降り、そこから外へ出て、それなりに歩かなければならないといけない。想像以上に大変だ。だから、先生方も私に頼っている。
 そんなことを進んで手伝ってくれる雛ノ森さんは優しい生徒だ。でも、それは雛ノ森さんだけに限ったことではない。この学校、英華女学院高等学校の生徒はみんな心遣いのできる生徒たちだ。日頃から生徒の見本となるように心がけている教師の方々の成果、だけではない。生徒たちの優しさは心のゆとり、それも金銭的なゆとりから来るものが大きい。この学校の生徒たちはみんな、と言うには自信がないが、そのほとんどが裕福な家庭の育ちなのだ。つまり、この学校はただの女子校ではない。所謂、お嬢様学校と言う奴だ。
 この学校では、入学の時点で卒業までの学費全てを支払われる。例え、親の会社が倒産したとしても、高校だけは卒業できるという仕組みだ。もちろん、三年間の学費と言っても、公立高校ではあり得ないような金額を支払っている。私の給料がいい理由はそこに起因していると言うわけだ。おかげで、私の財布は温かい、心も温かい。お金の心配をしなくていいというのは、その分、余裕ができると私自身も実感しているところだ。
「手伝って貰って悪いね。きつかったら言ってください。無理はしなくていいからね」
「大丈夫です。私は一つしか持っていませんし、それに、それほど重くもないですから」
 私に心配をかけまいとゴミ袋を持ち上げて見せてくれる。本当に優しい子だ。だからこそ、笑顔に隠れた陰りが色濃く映し出されていた。
「その……相談のことなんですけど……歩きながら聞いてもらってもいいですか?」
「え、えぇ、君がそれでいいなら……」
 歩きながらでも話せるほどの相談なのかと思ったが、すぐに考えを改めた。
 彼女は清掃時間が終わってすぐに職員室に来たのだ。それは、早く誰かに聞いて欲しかったから。そんなことも分からずに、私は先にゴミを捨てに行ってもいいかなんて聞いてしまった。そんなことを言われては、気を使って自分の相談を後回しにしてしまうに決まっている。私は、教師としてまだまだだと実感せずにはいられない。
「ありがとうございます、橋本先生」
 こんな私だというのに頼って来てくれたのだから、出来うる限り力にはなってあげたい。
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