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英華女学院の七不思議 18
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その思考へ至ったとき、すぐにでも立ち入り禁止の別館へと向かいたかったのだが、残念ながら私の勤務時間はもうすぐ終わろうとしていた。外はまだ明るいが、これから生徒は夕食、入浴、その後は寮内で自習時間。残念ながら、これからどこかへ行く時間はなかった。不安だろうが、我慢してもらうしかない。
立ち入り禁止の別館へ行くのは、次の日、学生にとっては一週間の最後、金曜日。海外では不吉な曜日。
そんな日の放課後、私と雛ノ森さんは二人で校内なのに林道を歩いていた。
真夏とは言わないが、8月も中旬。木陰はまだ涼しいと感じる季節。ただ、林の中はいいことだけではない。
「虫が……」
小さな虫が至る所で群れをなして飛んでいる。
さらに、気を抜けば体の露出部分に蚊が止まっている。女性でなくても嫌な場所だが、雛ノ森さんは平然としている。
「だから言ったじゃないですか。虫除けスプレーはした方がいいですよって」
「ここまで酷いとは思わなかったんですよ。それに、虫除けスプレーは子供の頃から臭いが苦手で……」
「苦手っていう理由で怠っていたら後で後悔しますよ。先生はお肌が白いんですから、虫刺されは目立ちますよ」
「好きで肌が白いわけではないんですけどね……」
立ち入り禁止の別館は木に囲まれているので、行くには必ず林の中を通らなければならない。それを私は所詮は学校内と甘くみていた。虫は多いし、林道は長いし、想定外だ。そんな私とは正反対に、雛ノ森さんはちゃんと対策していた。おそらく、行くかどうかは別として先輩と話し合っていたのだろう。
「こういうことも想定して、虫除けスプレーを持ってきておけばよかったですね」
「そこまで生徒に気を使われる教師というのもどうかと思いますけど」
そんな愚痴を言っていいながら歩いていくと、腕を何かに刺される前に噂の別館へとたどり着いた。
「ちょっと不気味ですね……」
木造の建物は老朽化が進み、表面の塗装が剥がれていたり何の植物か分からない蔦が建物を支えるように生えていた。
「なんでこんな建物がまだあるんでしょうか……やっぱり、ここに住み着く少女と何か関係が……」
「怖がらせるのはやめてください。今から入るんですから」
なぜこの建物があるのかは想像できる。
用途がないのは事実だろう。だが、建物を壊すのはタダではない。経費削減という奴だろう。いくらお嬢様学校と言っても、学校自体がお金持ちと言うわけではない。全寮制に食費や生活必需品など、すべてを賄うために無駄な経費は使えないのだろう。
「先生は怖くないんですか?」
「私はあまり……」
お化け屋敷ではびっくりするが、日常生活で幽霊に恐怖する経験はしたことがない。私が大人になったからかどうかは分からないが、幽霊という存在を信じていない。むしろ、幽霊がいるなら会ってみたいと思うほどだ。
「頼もしいです……先生に相談して正解でした」
「そう言ってくれると、相談に乗った甲斐があります」
チョロい先生というイメージが少しでも変わってくれたのなら幸いだ。
「それでは行ってきますね」
「本当にお一人で大丈夫ですか? 私も一緒に……」
「駄目です。と言うか、私を心配しているんじゃなくて雛ノ森さんも入りたいだけじゃないですか」
「バレてしまいましたか」
全く、抜け目のない女子高生だ。
「私に何かあっても絶対に入ってこないこと。いいですね?」
「……分かりました」
その言葉を信じて、私は使われなくなって老朽化しても役目を果たしている扉を開いた。
立ち入り禁止の別館へ行くのは、次の日、学生にとっては一週間の最後、金曜日。海外では不吉な曜日。
そんな日の放課後、私と雛ノ森さんは二人で校内なのに林道を歩いていた。
真夏とは言わないが、8月も中旬。木陰はまだ涼しいと感じる季節。ただ、林の中はいいことだけではない。
「虫が……」
小さな虫が至る所で群れをなして飛んでいる。
さらに、気を抜けば体の露出部分に蚊が止まっている。女性でなくても嫌な場所だが、雛ノ森さんは平然としている。
「だから言ったじゃないですか。虫除けスプレーはした方がいいですよって」
「ここまで酷いとは思わなかったんですよ。それに、虫除けスプレーは子供の頃から臭いが苦手で……」
「苦手っていう理由で怠っていたら後で後悔しますよ。先生はお肌が白いんですから、虫刺されは目立ちますよ」
「好きで肌が白いわけではないんですけどね……」
立ち入り禁止の別館は木に囲まれているので、行くには必ず林の中を通らなければならない。それを私は所詮は学校内と甘くみていた。虫は多いし、林道は長いし、想定外だ。そんな私とは正反対に、雛ノ森さんはちゃんと対策していた。おそらく、行くかどうかは別として先輩と話し合っていたのだろう。
「こういうことも想定して、虫除けスプレーを持ってきておけばよかったですね」
「そこまで生徒に気を使われる教師というのもどうかと思いますけど」
そんな愚痴を言っていいながら歩いていくと、腕を何かに刺される前に噂の別館へとたどり着いた。
「ちょっと不気味ですね……」
木造の建物は老朽化が進み、表面の塗装が剥がれていたり何の植物か分からない蔦が建物を支えるように生えていた。
「なんでこんな建物がまだあるんでしょうか……やっぱり、ここに住み着く少女と何か関係が……」
「怖がらせるのはやめてください。今から入るんですから」
なぜこの建物があるのかは想像できる。
用途がないのは事実だろう。だが、建物を壊すのはタダではない。経費削減という奴だろう。いくらお嬢様学校と言っても、学校自体がお金持ちと言うわけではない。全寮制に食費や生活必需品など、すべてを賄うために無駄な経費は使えないのだろう。
「先生は怖くないんですか?」
「私はあまり……」
お化け屋敷ではびっくりするが、日常生活で幽霊に恐怖する経験はしたことがない。私が大人になったからかどうかは分からないが、幽霊という存在を信じていない。むしろ、幽霊がいるなら会ってみたいと思うほどだ。
「頼もしいです……先生に相談して正解でした」
「そう言ってくれると、相談に乗った甲斐があります」
チョロい先生というイメージが少しでも変わってくれたのなら幸いだ。
「それでは行ってきますね」
「本当にお一人で大丈夫ですか? 私も一緒に……」
「駄目です。と言うか、私を心配しているんじゃなくて雛ノ森さんも入りたいだけじゃないですか」
「バレてしまいましたか」
全く、抜け目のない女子高生だ。
「私に何かあっても絶対に入ってこないこと。いいですね?」
「……分かりました」
その言葉を信じて、私は使われなくなって老朽化しても役目を果たしている扉を開いた。
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