20 / 53
英華女学院の七不思議 20
しおりを挟む
意識は失っていない。記憶も失っていない。ただ、足場を失っただけ。私は落ちたのだ。穴の中に……。
「痛い……」
これだけ落ちたのに痛いだけで済んだのはよかった。打ち所がよかったのだろう。頭も痛くないし、激痛もしない。骨折のような大けがはなく、打撲程度で済んだのだろう。
「先生! 先生どうしたんですか! 返事をしてください! 今の音は……今の大きな音は、なんですか! 先生!」
雛ノ森さんの声。私を心配しているのだろうが、酷く混乱しているようだ。早く安心させなければ、この穴に飛び込んで来るかもしれない。
「私は大丈夫です。穴に落ちただけで……」
「穴に落ちた!? ど、どういうことですか!? い、今いきますね」
しまった。安心させるつもりが逆に心配を加速させてしまった。
「大丈夫です。大丈夫ですから、絶対に来てはいけませんよ」
「ですが……」
とりあえず、突発的な行動は思い止めてくれたようだ。だが、油断はできない。またすぐにでも、思い直して私の安否を確認しに来るかもしれない。その前に、どうにかして雛ノ森さんを遠ざけなければ。ただ、離れろといって素直にそうするような生徒ではない。
「そうだ……」
いい言葉を思いついてしまった。実に合理的で納得のいく言葉を。
「雛ノ森さん、誰でもいいので先生を呼んできてくれませんか? できれば、梯子かロープといった上れそうな何かを持ってきてほしいんです。自力で上がれそうにないので」
「分かりました! すぐに呼んで来ますんで!」
雛ノ森さんの気配が遠くへいくような気がする。どうにか、雛ノ森さんへの危険は遠ざかってくれたようだ。
「とりあえず、一難去ってくれたか……」
雛ノ森さんが先生を呼んできてくれるまで、おとなしく座っておく気はない。とりあえず、体の状態を確かめるために立ち上がってみると、難なく立ち上がれた。捻挫もしていないようだ。本当に打ち所がよかったのだろう。痛いのは右肘ぐらい。でも、それも転んで打ち付けた程度だ。
「不幸中の幸いってところかな」
さながら、ここが地獄の底といったところか。上れそうな場所はないし、上を見ると、自分の2倍ほどの高さがある。それほど高くはないが、打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。
そう考えると寒気がしてきた。こんな薄暗くて寂しい場所で自分の死について考えるなんて御法度だったか。
「それにしても、ここは何だろう。なんか臭いし」
人が通れないほどの小さな隙間もあるし、もしかしたら下水道なのかもしれない。この下水道も使われなくなり、老朽化で天井が崩れてしまったのかもしれない。そのせいで、廊下の板張りが腐った可能性もある。
可能性ばかり考えていても仕方ない。それほど広くはないが、周りを見回してみよう。
暗くて狭い場所では人は不安になるとよく聞くが、懐中電灯があるだけで安心する。
懐中電灯で照らしながら壁を見るが、やはり上れそうな場所はない。地面は煉瓦だろうか。少し土を被っていてよく分からない。あたりには植物も生えていないが、骸骨だけは転がっている。
「はっ……」
思わず、腰が抜けて尻餅をついてしまった。
今、骸骨が見えた気がする。だが、人は恐怖に支配されると脳が幻覚を見せる。それに違いないと、再び、床を照らしてみると、やはり、骸骨が、人の頭蓋骨が転がっていた。
「痛い……」
これだけ落ちたのに痛いだけで済んだのはよかった。打ち所がよかったのだろう。頭も痛くないし、激痛もしない。骨折のような大けがはなく、打撲程度で済んだのだろう。
「先生! 先生どうしたんですか! 返事をしてください! 今の音は……今の大きな音は、なんですか! 先生!」
雛ノ森さんの声。私を心配しているのだろうが、酷く混乱しているようだ。早く安心させなければ、この穴に飛び込んで来るかもしれない。
「私は大丈夫です。穴に落ちただけで……」
「穴に落ちた!? ど、どういうことですか!? い、今いきますね」
しまった。安心させるつもりが逆に心配を加速させてしまった。
「大丈夫です。大丈夫ですから、絶対に来てはいけませんよ」
「ですが……」
とりあえず、突発的な行動は思い止めてくれたようだ。だが、油断はできない。またすぐにでも、思い直して私の安否を確認しに来るかもしれない。その前に、どうにかして雛ノ森さんを遠ざけなければ。ただ、離れろといって素直にそうするような生徒ではない。
「そうだ……」
いい言葉を思いついてしまった。実に合理的で納得のいく言葉を。
「雛ノ森さん、誰でもいいので先生を呼んできてくれませんか? できれば、梯子かロープといった上れそうな何かを持ってきてほしいんです。自力で上がれそうにないので」
「分かりました! すぐに呼んで来ますんで!」
雛ノ森さんの気配が遠くへいくような気がする。どうにか、雛ノ森さんへの危険は遠ざかってくれたようだ。
「とりあえず、一難去ってくれたか……」
雛ノ森さんが先生を呼んできてくれるまで、おとなしく座っておく気はない。とりあえず、体の状態を確かめるために立ち上がってみると、難なく立ち上がれた。捻挫もしていないようだ。本当に打ち所がよかったのだろう。痛いのは右肘ぐらい。でも、それも転んで打ち付けた程度だ。
「不幸中の幸いってところかな」
さながら、ここが地獄の底といったところか。上れそうな場所はないし、上を見ると、自分の2倍ほどの高さがある。それほど高くはないが、打ち所が悪ければ死んでいたかもしれない。
そう考えると寒気がしてきた。こんな薄暗くて寂しい場所で自分の死について考えるなんて御法度だったか。
「それにしても、ここは何だろう。なんか臭いし」
人が通れないほどの小さな隙間もあるし、もしかしたら下水道なのかもしれない。この下水道も使われなくなり、老朽化で天井が崩れてしまったのかもしれない。そのせいで、廊下の板張りが腐った可能性もある。
可能性ばかり考えていても仕方ない。それほど広くはないが、周りを見回してみよう。
暗くて狭い場所では人は不安になるとよく聞くが、懐中電灯があるだけで安心する。
懐中電灯で照らしながら壁を見るが、やはり上れそうな場所はない。地面は煉瓦だろうか。少し土を被っていてよく分からない。あたりには植物も生えていないが、骸骨だけは転がっている。
「はっ……」
思わず、腰が抜けて尻餅をついてしまった。
今、骸骨が見えた気がする。だが、人は恐怖に支配されると脳が幻覚を見せる。それに違いないと、再び、床を照らしてみると、やはり、骸骨が、人の頭蓋骨が転がっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる