英華女学院の七不思議

小森 輝

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英華女学院の七不思議 43

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「お姉さんと寮が一緒の部屋だったみたいですけど、何か失踪する前に気になることとか話していませんでしたか?」
「別に。普段と変わらない感じでしたけど」
「……そうですか」
 いまいち、手応えがない。本当に私の質問が的を射てないのか、それとも、本当に失踪する前におかしなことはなかったのか。おそらく、前者だろう。あんな立ち入り禁止の旧学生寮に理由もなく立ち入るなんてことはありえない。そこには何らかの理由があったはずなんだ。
「その、見つかったのは旧学生寮で、当時も立ち入りを禁止されていたようです。そんな場所になぜ行ったのか、冬美さんは知りませんか?」
「さあ。部活で用事でもあったんじゃないですか?」
「部活に入っていたんですか?」
 平川先生が嘘をつくとも思えないし、当時の担任なら生徒の部活動を把握していないなんてことはなかったはずだ。
 だとすると、冬美さんが言う部活というものは、おそらく……。
「部活といっても、勝手に作った非公式のものです。探偵部といって、怪談とかオカルトなことを中心に調べたりしてたみたいですよ」
 オカルトなことを調べている探偵部。それはまさに、雛ノ森さんがいなくなった先輩と一緒に活動していた探偵部と名前も内容も一致している。これを偶然という一言で片づけるには、共通点が多すぎる。まさか、探偵部という何気ない名前が雛ノ森さんと2年前に失踪した佐々木涼子さんとを繋ぎ合わせるなんて思わなかった。
 あまりの衝撃に私はもちろん、雛ノ森さんも口を閉ざして考え込んでいた。
「あの、他に聞くことがないなら、私、もう戻ってもいいですか?」
「えっ……あぁ……聞きたいことはまだあるんですが……今はいいです。また今度、話を聞きにきてもいいですか?」
「……はぁ……いいですけど、今度はちゃんと話すことをまとめて来てくださいよ」
 呆れたような、残念なような、期待はずれなような。そんなため息を吐き捨てながら立ち上がり、出口へと向かったのだが、扉の前で立ち止まった。
「そういえば、先生たちは知らないようですから教えてあげますよ」
「なにをですか?」
「私の姉が吉田先生と恋仲だったってこと」
 まさか、佐々木涼子さんの失踪にそんな裏の事情があったなんて想像もしなかった。2年前の出来事なので、私と雛ノ森さんが知らないのも仕方がないことなのだが、せめて平川先生には教えてほしかった。だが、こんなお嬢様学校で結婚を控えている生徒がいる中、交際をする、しかも、それが教師とならば、大問題になっていただろう。おそらく、生徒だけでなく教師の方々の記憶からも消したいものだったに違いない。
「今は当時を知る3年生でも覚えている人は少ないでしょうけど、失踪した当時は駆け落ちじゃないかって噂だったんですよ。もしかしたら、その旧学生寮で姉と先生が密会していたのかもしれませんね」
 そういう冬美さんの表情は酷く寂しそうだった。
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