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3 私の恩人を求めて

町一番の支援魔法の使い手は 17

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 助けてくれたお礼を言うという目的は果たした。でも、私の目的はそれだけじゃない。
「あの……それで……私のパーティーが誤解して受け取った魔石のことなんですけど……直接、換金しに行ってないんで正確な金額は分からないんですけど、少しでも返そうと思って……」
 私はあらかじめ持ってきておいたなけなしのお金を巾着袋ごと机に置いた。
「あら、律儀じゃない。そのまま何も言わずに貰っておけばいいのに」
「いえ、そう言うわけにはいきません。何もしていない私がこれを貰う資格はないんです」
 これは彼が去り際に叫んだ言葉だ。一人の冒険者として、あんなことを言われておいて受け取るなんてことはできない。
「いらねぇよそんな端金! それは俺がドブに捨てたもんだ。それを誰が拾おうが知ったことかぁ!」
「そんな……」
 これを受け取ってくれなければ、私は卑怯な冒険者のままだ。
「そう言う頑固なところが誤解を生むんだぞ。受け取ってやりなさい。この子も困っているだろ」
「知ったことか! こいつ一人が損して、他の奴らが丸儲けなんて、そんなの俺が許さねぇ! てめぇは黙って得してろ!」
 もしかして、私が4人で分配したお金を1人で出そうとしているのに感づいて、これでは私の負担が大きすぎると受け取るのを拒否しているのだろうか。
 ダンジョンの中以外でも相手を威嚇するように叫んでいる彼だが、意外と冷静で、そして優しい側面もあるのだろう。
 でも、それはそれ、これはこれだ。彼から奪った魔石のお金もそうだが、他にも返さなければならないものがある。
「分かりました。お金は諦めます。でも、あのとき、モンスターから助けてくれた恩があります。それだけは返させてください」
「返すだぁ? お前が何できるのか知らねぇ!」
「何でもします!」
 彼は私の命の恩人だ。何だってする覚悟は……。
「な、何でもって、倫理的に考えてダメなことはダメだからな! そう言うことだよね?」
「それはもちろん……」
 倫理的にダメなこと。そこには、当然、人殺しなんかの犯罪も加わっているのだろう。だが、彼女のこの慌て方から別のこと……。
「そ、そそそれはダメです! わ、私、まだそういう経験はなくて!」
 別のこととは、エッチなこと。アダルトなこと。
 当然、私にそんな経験はない。だから嫌というわけではなく、むしろ、彼は私の恩人だし、それに体つきも細マッチョでいい感じだし、顔も結構イケメンだし、それでいてあの耳と尻尾のギャップは萌えるし、ちょっと強引にリードされた方が私としてはいいというか……。
 違う! そうじゃない。出会ってすぐで、そして助けられたらコロッと恋に落ちちゃうなんてチョロすぎる! 私はそんな尻軽女じゃない! しっかりするのよ、私!
「よし、決めた。何でもという言葉に嘘偽りはないな?」
「いや、その、それは……」
「ないな!」
「はい!」
「よし、俺からの要求は一つだ」
 私はどうなるのだろうか。初めてを捧げてしまうのだろうか。できれば愛のある初めてを経験したかった。
「こいつと一緒にダンジョンに潜れ! いいな!」
「は、はい!」
 はい? 変な要求をされるとは覚悟していたが、ダンジョンに行く、それも彼とではなく副団長の彼女と?
「どういつもりだ?」
「副団長さんよ。俺と賭けしようぜ。これからダンジョンに潜ってどちらが多く稼ぐか。俺が勝ったらその副団長の称号をよこせ。俺は1人、あんたはこいつと2人だ。どう見てもそっちの方が有利な賭けだ、乗らない訳ないだろ? なぁ!」
「私が勝ったら?」
「俺が稼いだ分の金は全部くれてやる!」
「いいだろう。その喧嘩、乗ってやろう」
 一番大事なことを聞く前に、なにやら私はダンジョンに行くことが決まってしまったようだ。
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