誰よりもVIVIDに

小森 輝

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誰よりもVIVIDに 6

 スキップのように弾む足取りで、一色君のところへ駆け寄った。
 端から見れば、気持ち悪い駆け寄り方だったかもしれない。けれど、今は周りに注意を割いている余裕はない。緊張の最高潮だ。
「あの……えっと……」
 あの一色君と話せる千載一遇のチャンスだと言うのに、言葉が出てこない。これでは、教室にいるときと同じ。結局、私は話せない運命にあるのだろうか。
「約束だったからね」
 絵から目を離すことなく口を動かし出した。
「えっと……約束……?」
「僕の絵を見せるって」
「あぁ……」
 教室で聞いた言葉は聞き間違いや空耳ではなかった。勘違いしそうになっていたけれど、現実での出来事でよかった。
「僕の絵っていっても、今見せれるのは描いているこの絵だけなんだけどね」
 一色君は申し訳なさそうに笑っている。
 でも、私はそれが見たかった。
「い、いいの?」
「描きながらで悪いけどね」
 また申し訳なさそうに笑っている。私としては、むしろ、描いている様子の方が貴重だ。
 一色君は迷わぬ手捌きで筆、ではなく鉛筆を動かしている。彼の絵に筆は必要ない。絵の具なんて必要ない。白と黒だけで描く世界に色は必要ない。
「この絵って……」
 色がなくても分かる。
 この絵は学校の、筑島城高校の絵だ。
 それだけじゃない。背景を埋め尽くすように広がる山は、木々に茂る葉まで鮮明に描かれている。そして、山の端から見える空は、なにが雲かよく分かる。
「……すごい」
 ノートに描いた落書きと言った絵もそうだったが、この絵は白と黒だけのはずなのに、とても鮮やかだ。
 校舎の色だけじゃない。
 年期の入った汚れ。太陽が作った影。山の深緑。雲の白と空の白。
 言葉では表せないほどの白と黒がこの絵には存在した。
「……もうすぐ終わる」
「終わるって……」
 それはとても不思議なことだ。この絵がもうすぐで完成するなんて思えない。
「よし、こんなものか」
「これで……」
 完成だというのはおかしい。
 もちろん、この絵が下書きではないことは分かる。この上に色を重ねるなんて無粋だ。
 だからといって、この絵が完成だなんておかしい。
「えっと……今月はデッサンじゃなかったと思うんだけど……」
 今月はデッサンではなく、絵の具を使ったカラフルな絵が課題だったはずだ。それなのに、部の方針を破ってデッサンを描くなんて怒られてしまわないか不安だ。
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