都の霧は名もない作家を惑わせる

小森 輝

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都の霧は名もない作家を惑わせる 8

 ようやく、馬車が止まり、地に足を付けることができた。
 もう屋敷から馬車で揺られて何時間経ったのかも分からない。元々、時間感覚が狂っていたのに、乗り物酔いで完全におかしくなってしまった。
「経った数分なのに、情けないですね……。使用人として恥ずかしいです」
 何時間も苦しんでいた気がするのだが、実際は数分だったようだ。その事実を知れば、ソフィーが言った通り、私も情けないと思う。
「歩けますか?」
 まだ、世界が回って見える。ガリレオやコペルニクスが提唱した地動説をこの身で体感している気分だ。
 動くことのない石畳だというのに、今は嵐が来た海のようにうねっている。ソフィーが支えてくれなければ立っていられない。
「ここから路地に入るので徒歩になります。そこの角を曲がってすぐの所なんですが……ここで少し休みますか」
 休みたいのだが、ここには都合よくベンチなど座れる場所はない。座れる場所といったら馬車の中なのだが、あの中で休める気はしない。
「いいえ。休憩は必要ありません。歩いているうちに気分も良くなるでしょう。さあ、歩きますよ」
「あ、あぁ……」
 まだ動かずに休んでおきたいのだが、ソフィーは私を甘やかしてはくれないようだ。
 女性だというのに、私に肩を貸してくれながら、強引に歩かせようとしている。
 まだ気分は悪いが、急速に回復している。もう地面が揺れたりはしていない。
 一人で歩くことはできないが、体重の大半を支えてもらっているので、どうにか歩いていけそうだ。
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