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オカンとがんもとプロポーズ
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◇◇◇◇◇
「ミャー……ミャーミャー……ミャー」
いつものように私が開店準備をしていると、
か細い子猫の鳴き声が
店の裏のほうから聞こえて来た。
「こんな寒い時期に子猫捨てるか?
酷いことするもんやで…ほんまに。」
店の裏口に置いてあるゴミ箱の側に、
小さなダンボール箱に入れられて
三毛? マダラ?
なんとも言えん柄の子猫が捨てられていた。
私は、客用に置いてあるひざ掛けを一つ
子猫の入ってるダンボールの中へ入れてやって、
カバンの中からカイロを出して
箱の底へ二つ入れてやった。
子猫は生まれてすぐ捨てられたみたいで…
まだ目も開いてないし、へその緒までついていた。
私は居た堪れなくなって、
結局…子猫の入ったダンボール箱を
店の中へ持って入っていた。
子猫を眺めて、これからどうしようかと
私が考えている所へ…
店の戸を勢い良く開けて
こうちゃんが、仕入れの野菜を持って入って来た。
こうちゃんは、もともとはうちの常連客で…
色々と話してるうちに、店の近所の八百屋の
跡取り息子やということがわかって、
うちの店に野菜を卸してもらうことになったんよね。
それまでは、毎日市場へ
仕入れに行ってたからほんま助かってます。
「おはようさん。今日はええ野菜が入ったんやで~♪」
こうちゃんは店の中に入って来て、
野菜の入ったダンボールを置くと、
すぐに子猫に気付いて
子猫の頭を人差し指で優しく
撫でながら、私に聞いていた。
「ちっこいな~♪ へその緒ついてるやん。
どないしたん? もしかして捨てられとったん?」
「そやねん。さっき、裏のゴミ箱の横に
捨てられてるんを見つけてな。ちっこいから、
放っておいたら死んでしまいそうやん。
そやから、知らん顔出来んかったんやわ…」
私が答えると、
こうちゃんはうんうんと頷いて同意していた。
「俺、ミルクとか買ってきたるわ。
うちの店の側にペットショップあるやん?
あれ、俺の同級生の店やから
開けてもろて色々買ってくるわ!」
こうちゃんはそう言うと、
私がお金を渡す間も無く
すぐに店を出て行ってしまった。
「ほんま…こうちゃんは、人がええねんから」
私が手にした財布を見つめながら
少し呆れて呟くと、子猫も「ミャ~♪」と
足元の箱の中で鳴いていた。
足元はやっぱり寒そうやから、
座敷に子猫のダンボールを置いて
私は店の仕込みを続けていた。
なんか…子猫がおるってだけで、
何時もよりも気持ちがウキウキしていた。
そうしてる内にこうちゃんが、
ミルクと哺乳瓶を買って戻ってきて
せっせと子猫の世話をしてくれていた。
手馴れているのは、
こうちゃんの家にも猫が三匹おるからやった。
「オカン、この猫どうするん?」
こうちゃんに聞かれて…
私は、少し答えに困っていた。
「そやなぁ~…どうしようかな~?
店の看板猫にでもなってくれたらええねんけど…
あとは、ちゃんと育ってくれるんかが心配やしな~」
私が苦笑しながら答えると、
こうちゃんは本気にした様子で…
座敷に置いた箱の中へ子猫を戻しながら
前向きな意見をくれた。
「それええな♪ 看板猫! 猫のおる飲み屋♪
有りかもしれへんで? 育ってくれるかどうかは
こいつの生命力かもしれんけど…きっと大丈夫やと思う。
俺も協力するしな♪ そしたら、名前決めたらなな。
ええ名前を考えたらなアカンよな~」
そう言って腕組みしながら
真剣にこうちゃんは、子猫の名前を考え始めた。
しばらく考えながら、
私が仕込みをしているおでんをジィーっと
眺めてから、こうちゃんは
ひらめいたみたいで口を開いた。
「がんも! がんもってどない?
なんかこいつマダラな柄やし。がんもでええんちゃう?」
子猫の所へ行って
子猫の頭を優しく撫でながら
こうちゃんは、私じゃなくて
子猫に同意を求めていた。
「そやな♪ オスかメスかも良うわからんから…
がんもって、ええ名前かもな~!」
私は、笑って子猫の代わりに
こうちゃんに同意して
名前はがんもにすることにした。
こうちゃんにミルクをたっぷり
飲ませてもらったがんもは、箱の中で
丸くなって気持ち良さそうに眠ってしまっていた。
その後こうちゃんは、一度帰って
明日の段取りをしてから
また来るわと言って店を出た。
日が暮れて…
店を開けようと戸を開けると、
仕事を終えて
真っ直ぐ店に帰って来た美花ちゃんと
宗ちゃんと拓海ちゃんが
店に入ろうとしているところやった。
店の中に入った三人は、
吸い寄せられるようにすぐに座敷におる
がんもを見つけて、声を上げて騒ぎ出した。
幸いこの子達も猫は好きらしくて、
がんものおる座敷に座り込んでしまった。
「私…明日休みやから、
店終わるまでこの子の世話してあげるわ~!」
美花ちゃんが張り切って手をあげて
がんもの世話役を名乗り出ると、
拓海ちゃんが心配そうに美花ちゃんに聞いていた。
「おいおい、美花に子猫の世話なんか出来るんか?」
「ちょっと、拓ちゃん酷いわ~。
これでも私…子猫の世話した経験ありますから~」
美花ちゃんは、すぐに拓海ちゃんに
言い返してから子供みたいにあかんべーをしていた。
子猫が一匹おるってだけで、
店の中はいつもより賑やかで明るい感じがした。
次々と常連のお客さんが入って来たけど…
誰もがんもを嫌がる客はおらんかったし、
逆におることを皆で楽しんでくれていた。
そうこうしてるうちに
こうちゃんも戻って来て、
美花ちゃんたちが座ってる座敷に
一緒に座り込んでいた。
がんもが「ミャ~」と鳴く度に…
皆で箱の中を覗き込んでは
「ちっちゃいなぁー」とか「可愛いなぁー」とか言って、
がんもの頭を撫でていた。
私は、がんものお陰で
うちに来てくれるお客さんが
優しい良い人たちばかりで
私は幸せなんやな~って改めて
気付かせてもらったことに感謝していた。
「がんもは、運の強い子やね~♪
オカンのお店のゴミ箱の側に捨てられてたから、
こんなに温かい寝床でミルクをたっぷり飲ませてもらって
安心して気持ち良さそうに眠ってられるんやからね~」
亞夜子ママが、クスクスと笑いながら
がんもの運の強さを感心していると…
高田さんも頷いて箱の中のがんもを覗き込んでいた。
「確かにね。今日は特に冷え込んでるから、
その辺の道端へ捨てられてたら
凍えて死んでしまってたかもな~。運のええ子や」
そう言うと、高田さんは
カバンからカメラを出して
がんもの寝顔を撮り始めた。
しばらくして、店の戸を勢い良く開けて
帰って来たのは、こうちゃんの
彼女の麻由美ちゃんやった。
「オカン! ただいま~♪」
私が、麻由美ちゃんのコートを預かって
熱いおしぼりを出してる間に
麻由美ちゃんもさっさと座敷に座り込んでいた。
「なんや可愛い~♪ めちゃくちゃちっちゃい子猫やん!」
箱の中のがんもを見つけて
嬉しそうに麻由美ちゃんは、声を上げていた。
「この子おしっことかさせてやった?
このくらい小さいと自分で出来ひんから
ポンポンってしてさせてやらんと!
こうちゃんの家の猫の茶々丸も、最初は
これ位ちっちゃかったよなぁ♪
二人で世話したん思い出すわ~」
「そやから俺が全部さっきやったわ!
オカンにも教えたからもう大丈夫やと思うで!」
麻由美ちゃんも猫のことには詳しいみたいで、
こうちゃんに色々と確認しながら
がんもの頭を人差し指で
ちょんちょんっとつついて笑っていた。
「そう言えば…こうちゃんと麻由美ちゃんって
幼馴染みみたいやけど? そんなに付き合い長いん?」
「長いいうもんちゃうで! 生まれた時から
ずっと家が隣同士やからな。何でも知ってるよ♪」
麻由美ちゃんは、こうちゃんの顔を覗き込んで
クスクスと笑いながら宗ちゃんの質問に答えていた。
「腐れ縁って奴や! 昔っから
コイツは、俺の嫁さんでもないのに
勝手に世話焼いて、家の中に上がり込んで
居座ってたからな! うちの親も麻由美の親も、
麻由美が俺の家に上がり込んでても
当たり前みたいに思ってるわ」
こうちゃんは、少し照れ臭そうに答えると…
麻由美ちゃんに軽くデコピンしてから
立ち上がっておでんをカウンターの中まで取りに来た。
「今日はがんもと大根と牛すじにしよ~♪」
こうちゃんが自分でおでんを器に入れている横で、
私は子猫にあれこれこうちゃんが
買ってきてくれたことを思い出して
今日のお勘定は受け取らんことにすることにした。
「こうちゃん。今日は、勘定ええで…
子猫にミルクとかあれこれ買うてきてくれたしな♪」
こうちゃんの耳元で私が小声で伝えると…
こうちゃんは、ニコニコ嬉しそうに
ありがとうって笑って頷いていた。
「ミャ~! ミャ~!」
お腹が空いたのか?
がんもが鳴き出したら今度は
麻由美ちゃんがせっせとミルクを作って
がんもの世話をしていた。
「やっぱり子猫て可愛いなぁ~♪」
ミルクをやりながら、麻由美ちゃんも
美花ちゃんも母性本能をくすぐられているようやった。
「ほな、そろそろあんたらも赤ちゃん作ったらええやん!」
かなり酔いのまわった亞夜子ママが、
こうちゃんと麻由美ちゃんに向かって
どぎつい冗談を投げつけてきた。
「な、何をそんな直球で? ちょっと…返事に困るやん!」
麻由美ちゃんは、亞夜子ママの冗談に驚いて
耳まで真っ赤になってしまった。
「俺は硬派やからな。デキ婚はせんって決めてるねん。
先にせめて入籍はせんと…なっ! そやろ? 麻由美?」
こうちゃんが何故か真面目な事を言ったから、
その場におった客は、
皆で顔を見合わせてどっと笑っていた。
こうちゃんと麻由美ちゃんは、
今時ほんまに珍しい
誰もが微笑ましいと感じるカップルやった。
「ほな、早う入籍して可愛い赤ちゃん見せてほしいわ~♪」
亞夜子ママはこうちゃんに
容赦なくとどめを刺していた。
それだけでは収まらずに…
もうすぐ三十路やし、確かに結婚してええ歳というか…
遅い位やで~とか、
何時の間にか皆に二人が酒の肴にされていた。
「わかった。結婚する。結婚するねん!
今年はする。絶対にする。ほんまや。嘘やないで?」
いきなり立ち上がったこうちゃんは、
顔を真っ赤にして麻由美ちゃんに向かって
大きな声で叫んでいた。
「今年中には、ええ日決めて結婚しようて思ってたんや!」
ちょっと照れくさそうにこうちゃんが言ったら、
麻由美ちゃんは驚いたのと嬉しいのとで
ちょっと上ずった声で答えていた。
「そっ、そんなんこんなトコで…
皆がおるとこで…ほんま…恥ずかしい。こうちゃんの阿呆~!」
茹でたタコみたいに真っ赤になった顔を、
麻由美ちゃんは慌てて恥ずかしそうに両手で隠していた。
「良かったなぁ~♪ いつ決心するんやろな~って
ほんま心配しとったんやで~。
こうちゃん。麻由美ちゃん。おめでとう♪」
私は二人にお祝いの言葉を伝えてから、
とっておきのワインとグラスを渡した。
「今日は、特別にこうちゃんが麻由美ちゃんに
プロポーズした日という事で、皆でお祝いしよう♪」
宗ちゃんも立ち上がって
こうちゃんと麻由美ちゃんを二人並べて
みんなで乾杯をして突然のこの出来事を祝っていた。
「がんものお陰かもな~。決めてた言うても…
なかなか照れ臭くて口に出せんかったからな~」
こうちゃんは、鼻の頭を真っ赤にして
少しまだ照れ臭そうにしていた。
麻由美ちゃんは、
現実を噛み締めて嬉し涙を流していた。
その後は、
朝方までみんなで、飲めや歌えやで盛り上がって
騒ぐだけ騒いだら、ええ顔して
こうちゃんと麻由美ちゃんは一緒に帰って行った。
美花ちゃんと宗ちゃんに
片付けを手伝ってもらって、帰ろうと思って
私が箱の中のがんもをふと見ると…
グッスリと気持ち良さそうに丸まって
がんもはスヤスヤと寝てしまっていた。
ほんま…がんもは運の強い子なんかもしれへんね。
きっとええ看板猫になってくれるんやろな。ふふふ♪
「ミャー……ミャーミャー……ミャー」
いつものように私が開店準備をしていると、
か細い子猫の鳴き声が
店の裏のほうから聞こえて来た。
「こんな寒い時期に子猫捨てるか?
酷いことするもんやで…ほんまに。」
店の裏口に置いてあるゴミ箱の側に、
小さなダンボール箱に入れられて
三毛? マダラ?
なんとも言えん柄の子猫が捨てられていた。
私は、客用に置いてあるひざ掛けを一つ
子猫の入ってるダンボールの中へ入れてやって、
カバンの中からカイロを出して
箱の底へ二つ入れてやった。
子猫は生まれてすぐ捨てられたみたいで…
まだ目も開いてないし、へその緒までついていた。
私は居た堪れなくなって、
結局…子猫の入ったダンボール箱を
店の中へ持って入っていた。
子猫を眺めて、これからどうしようかと
私が考えている所へ…
店の戸を勢い良く開けて
こうちゃんが、仕入れの野菜を持って入って来た。
こうちゃんは、もともとはうちの常連客で…
色々と話してるうちに、店の近所の八百屋の
跡取り息子やということがわかって、
うちの店に野菜を卸してもらうことになったんよね。
それまでは、毎日市場へ
仕入れに行ってたからほんま助かってます。
「おはようさん。今日はええ野菜が入ったんやで~♪」
こうちゃんは店の中に入って来て、
野菜の入ったダンボールを置くと、
すぐに子猫に気付いて
子猫の頭を人差し指で優しく
撫でながら、私に聞いていた。
「ちっこいな~♪ へその緒ついてるやん。
どないしたん? もしかして捨てられとったん?」
「そやねん。さっき、裏のゴミ箱の横に
捨てられてるんを見つけてな。ちっこいから、
放っておいたら死んでしまいそうやん。
そやから、知らん顔出来んかったんやわ…」
私が答えると、
こうちゃんはうんうんと頷いて同意していた。
「俺、ミルクとか買ってきたるわ。
うちの店の側にペットショップあるやん?
あれ、俺の同級生の店やから
開けてもろて色々買ってくるわ!」
こうちゃんはそう言うと、
私がお金を渡す間も無く
すぐに店を出て行ってしまった。
「ほんま…こうちゃんは、人がええねんから」
私が手にした財布を見つめながら
少し呆れて呟くと、子猫も「ミャ~♪」と
足元の箱の中で鳴いていた。
足元はやっぱり寒そうやから、
座敷に子猫のダンボールを置いて
私は店の仕込みを続けていた。
なんか…子猫がおるってだけで、
何時もよりも気持ちがウキウキしていた。
そうしてる内にこうちゃんが、
ミルクと哺乳瓶を買って戻ってきて
せっせと子猫の世話をしてくれていた。
手馴れているのは、
こうちゃんの家にも猫が三匹おるからやった。
「オカン、この猫どうするん?」
こうちゃんに聞かれて…
私は、少し答えに困っていた。
「そやなぁ~…どうしようかな~?
店の看板猫にでもなってくれたらええねんけど…
あとは、ちゃんと育ってくれるんかが心配やしな~」
私が苦笑しながら答えると、
こうちゃんは本気にした様子で…
座敷に置いた箱の中へ子猫を戻しながら
前向きな意見をくれた。
「それええな♪ 看板猫! 猫のおる飲み屋♪
有りかもしれへんで? 育ってくれるかどうかは
こいつの生命力かもしれんけど…きっと大丈夫やと思う。
俺も協力するしな♪ そしたら、名前決めたらなな。
ええ名前を考えたらなアカンよな~」
そう言って腕組みしながら
真剣にこうちゃんは、子猫の名前を考え始めた。
しばらく考えながら、
私が仕込みをしているおでんをジィーっと
眺めてから、こうちゃんは
ひらめいたみたいで口を開いた。
「がんも! がんもってどない?
なんかこいつマダラな柄やし。がんもでええんちゃう?」
子猫の所へ行って
子猫の頭を優しく撫でながら
こうちゃんは、私じゃなくて
子猫に同意を求めていた。
「そやな♪ オスかメスかも良うわからんから…
がんもって、ええ名前かもな~!」
私は、笑って子猫の代わりに
こうちゃんに同意して
名前はがんもにすることにした。
こうちゃんにミルクをたっぷり
飲ませてもらったがんもは、箱の中で
丸くなって気持ち良さそうに眠ってしまっていた。
その後こうちゃんは、一度帰って
明日の段取りをしてから
また来るわと言って店を出た。
日が暮れて…
店を開けようと戸を開けると、
仕事を終えて
真っ直ぐ店に帰って来た美花ちゃんと
宗ちゃんと拓海ちゃんが
店に入ろうとしているところやった。
店の中に入った三人は、
吸い寄せられるようにすぐに座敷におる
がんもを見つけて、声を上げて騒ぎ出した。
幸いこの子達も猫は好きらしくて、
がんものおる座敷に座り込んでしまった。
「私…明日休みやから、
店終わるまでこの子の世話してあげるわ~!」
美花ちゃんが張り切って手をあげて
がんもの世話役を名乗り出ると、
拓海ちゃんが心配そうに美花ちゃんに聞いていた。
「おいおい、美花に子猫の世話なんか出来るんか?」
「ちょっと、拓ちゃん酷いわ~。
これでも私…子猫の世話した経験ありますから~」
美花ちゃんは、すぐに拓海ちゃんに
言い返してから子供みたいにあかんべーをしていた。
子猫が一匹おるってだけで、
店の中はいつもより賑やかで明るい感じがした。
次々と常連のお客さんが入って来たけど…
誰もがんもを嫌がる客はおらんかったし、
逆におることを皆で楽しんでくれていた。
そうこうしてるうちに
こうちゃんも戻って来て、
美花ちゃんたちが座ってる座敷に
一緒に座り込んでいた。
がんもが「ミャ~」と鳴く度に…
皆で箱の中を覗き込んでは
「ちっちゃいなぁー」とか「可愛いなぁー」とか言って、
がんもの頭を撫でていた。
私は、がんものお陰で
うちに来てくれるお客さんが
優しい良い人たちばかりで
私は幸せなんやな~って改めて
気付かせてもらったことに感謝していた。
「がんもは、運の強い子やね~♪
オカンのお店のゴミ箱の側に捨てられてたから、
こんなに温かい寝床でミルクをたっぷり飲ませてもらって
安心して気持ち良さそうに眠ってられるんやからね~」
亞夜子ママが、クスクスと笑いながら
がんもの運の強さを感心していると…
高田さんも頷いて箱の中のがんもを覗き込んでいた。
「確かにね。今日は特に冷え込んでるから、
その辺の道端へ捨てられてたら
凍えて死んでしまってたかもな~。運のええ子や」
そう言うと、高田さんは
カバンからカメラを出して
がんもの寝顔を撮り始めた。
しばらくして、店の戸を勢い良く開けて
帰って来たのは、こうちゃんの
彼女の麻由美ちゃんやった。
「オカン! ただいま~♪」
私が、麻由美ちゃんのコートを預かって
熱いおしぼりを出してる間に
麻由美ちゃんもさっさと座敷に座り込んでいた。
「なんや可愛い~♪ めちゃくちゃちっちゃい子猫やん!」
箱の中のがんもを見つけて
嬉しそうに麻由美ちゃんは、声を上げていた。
「この子おしっことかさせてやった?
このくらい小さいと自分で出来ひんから
ポンポンってしてさせてやらんと!
こうちゃんの家の猫の茶々丸も、最初は
これ位ちっちゃかったよなぁ♪
二人で世話したん思い出すわ~」
「そやから俺が全部さっきやったわ!
オカンにも教えたからもう大丈夫やと思うで!」
麻由美ちゃんも猫のことには詳しいみたいで、
こうちゃんに色々と確認しながら
がんもの頭を人差し指で
ちょんちょんっとつついて笑っていた。
「そう言えば…こうちゃんと麻由美ちゃんって
幼馴染みみたいやけど? そんなに付き合い長いん?」
「長いいうもんちゃうで! 生まれた時から
ずっと家が隣同士やからな。何でも知ってるよ♪」
麻由美ちゃんは、こうちゃんの顔を覗き込んで
クスクスと笑いながら宗ちゃんの質問に答えていた。
「腐れ縁って奴や! 昔っから
コイツは、俺の嫁さんでもないのに
勝手に世話焼いて、家の中に上がり込んで
居座ってたからな! うちの親も麻由美の親も、
麻由美が俺の家に上がり込んでても
当たり前みたいに思ってるわ」
こうちゃんは、少し照れ臭そうに答えると…
麻由美ちゃんに軽くデコピンしてから
立ち上がっておでんをカウンターの中まで取りに来た。
「今日はがんもと大根と牛すじにしよ~♪」
こうちゃんが自分でおでんを器に入れている横で、
私は子猫にあれこれこうちゃんが
買ってきてくれたことを思い出して
今日のお勘定は受け取らんことにすることにした。
「こうちゃん。今日は、勘定ええで…
子猫にミルクとかあれこれ買うてきてくれたしな♪」
こうちゃんの耳元で私が小声で伝えると…
こうちゃんは、ニコニコ嬉しそうに
ありがとうって笑って頷いていた。
「ミャ~! ミャ~!」
お腹が空いたのか?
がんもが鳴き出したら今度は
麻由美ちゃんがせっせとミルクを作って
がんもの世話をしていた。
「やっぱり子猫て可愛いなぁ~♪」
ミルクをやりながら、麻由美ちゃんも
美花ちゃんも母性本能をくすぐられているようやった。
「ほな、そろそろあんたらも赤ちゃん作ったらええやん!」
かなり酔いのまわった亞夜子ママが、
こうちゃんと麻由美ちゃんに向かって
どぎつい冗談を投げつけてきた。
「な、何をそんな直球で? ちょっと…返事に困るやん!」
麻由美ちゃんは、亞夜子ママの冗談に驚いて
耳まで真っ赤になってしまった。
「俺は硬派やからな。デキ婚はせんって決めてるねん。
先にせめて入籍はせんと…なっ! そやろ? 麻由美?」
こうちゃんが何故か真面目な事を言ったから、
その場におった客は、
皆で顔を見合わせてどっと笑っていた。
こうちゃんと麻由美ちゃんは、
今時ほんまに珍しい
誰もが微笑ましいと感じるカップルやった。
「ほな、早う入籍して可愛い赤ちゃん見せてほしいわ~♪」
亞夜子ママはこうちゃんに
容赦なくとどめを刺していた。
それだけでは収まらずに…
もうすぐ三十路やし、確かに結婚してええ歳というか…
遅い位やで~とか、
何時の間にか皆に二人が酒の肴にされていた。
「わかった。結婚する。結婚するねん!
今年はする。絶対にする。ほんまや。嘘やないで?」
いきなり立ち上がったこうちゃんは、
顔を真っ赤にして麻由美ちゃんに向かって
大きな声で叫んでいた。
「今年中には、ええ日決めて結婚しようて思ってたんや!」
ちょっと照れくさそうにこうちゃんが言ったら、
麻由美ちゃんは驚いたのと嬉しいのとで
ちょっと上ずった声で答えていた。
「そっ、そんなんこんなトコで…
皆がおるとこで…ほんま…恥ずかしい。こうちゃんの阿呆~!」
茹でたタコみたいに真っ赤になった顔を、
麻由美ちゃんは慌てて恥ずかしそうに両手で隠していた。
「良かったなぁ~♪ いつ決心するんやろな~って
ほんま心配しとったんやで~。
こうちゃん。麻由美ちゃん。おめでとう♪」
私は二人にお祝いの言葉を伝えてから、
とっておきのワインとグラスを渡した。
「今日は、特別にこうちゃんが麻由美ちゃんに
プロポーズした日という事で、皆でお祝いしよう♪」
宗ちゃんも立ち上がって
こうちゃんと麻由美ちゃんを二人並べて
みんなで乾杯をして突然のこの出来事を祝っていた。
「がんものお陰かもな~。決めてた言うても…
なかなか照れ臭くて口に出せんかったからな~」
こうちゃんは、鼻の頭を真っ赤にして
少しまだ照れ臭そうにしていた。
麻由美ちゃんは、
現実を噛み締めて嬉し涙を流していた。
その後は、
朝方までみんなで、飲めや歌えやで盛り上がって
騒ぐだけ騒いだら、ええ顔して
こうちゃんと麻由美ちゃんは一緒に帰って行った。
美花ちゃんと宗ちゃんに
片付けを手伝ってもらって、帰ろうと思って
私が箱の中のがんもをふと見ると…
グッスリと気持ち良さそうに丸まって
がんもはスヤスヤと寝てしまっていた。
ほんま…がんもは運の強い子なんかもしれへんね。
きっとええ看板猫になってくれるんやろな。ふふふ♪
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