オカンの店

柳乃奈緒

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ある日の夜のオカンの店【美花編】

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◇◇◇◇◇

あれから

季節は、駆け抜けるように春を過ぎて
長めの梅雨が、もう少しで
過ぎ去ろうとしていた。 
 

6月に宗ちゃんとの結婚式を
無事に終えて、やっと落ち着いた
7月の最初の金曜日。

私と宗ちゃんは、2人で
仕事帰りにオカンの店に寄って、
オカンと比奈ちゃんと話し込んでいた。


「結局2人とも、宗ちゃんのマンションで
暮らすことにしたんやろ? 偉いなぁ~♪」
 
オカンは、目を細めて笑いながら
そう言うと、夜定食を2人分用意して
私と宗ちゃんに出してくれていた。

「引っ越す理由が無いやろ? 宗ちゃんのマンションって
2LDKで広いし、管理人さんも常駐してるし、
家賃も良心的やし、オカンの店も近いしなぁ♪(笑)」

私が、オカンと比奈ちゃんに
機嫌良く話してると、横に座ってる
宗ちゃんは、嬉しそうに頷いていた。

しばらくして、

店の戸が勢い良く開いて
入って来たのは、こうちゃんと
娘の桃香ちゃんを抱っこした麻由美ちゃんやった。

「桃香ちゃんお帰り~!」

すぐにカウンターから
オカンは飛び出して、桃香ちゃんを
嬉しそうに抱っこしていた。

「宗ちゃんと美花も座敷に座ろうや。どうせ
もう少ししたら、拓海らも来るやろし!」

こうちゃんは、そう言って
麻由美ちゃんと座敷に腰を下ろして
寝ているがんもの鼻の頭を
人差し指で、ツンツンしていた。

「比奈ちゃん?  絵美里ちゃんは?  置いて来たん?
 もしかして、オトンが帰ってるんか?」

こうちゃんは、店の中を
見渡して、比奈ちゃんに聞いていた。

「ちゃうちゃう! 旦那やねん。休みやから、
家で絵美里と留守番してるねん。 珍しいやろ?」

比奈ちゃんは、ちょっと
顔を引きつらせながら答えていた。

「マジで? 雅章さんが、絵美里ちゃんの
面倒見てるん? そうなんや! 良かったやん!」

こうちゃんは、知らず知らずのうちに
踏んだらアカン地雷を踏んでしまっていた。

「良くないわ! 半年以上、LINEだけで済ませてたくせに。
こないだビデオ通話で、絵美里に知らんおじちゃんやて
泣かれたもんやから、慌てて休み取って来たんやで!!」

比奈ちゃんは、頭の天辺から
湯気が出そうな勢いで
その時の様子を、赤裸々に話していた。

「怒る事ちゃうやろ? 必死で休み取って来ただけでも
まだ、父親としての自覚はあるって事やん。それに
仕事して、しっかり稼いでくれてるんや。ええ旦那さんやん。
そんな事で、怒ったらアカンで比奈!」

カウンターで、久しぶりに
1人で呑みに来ていた
比奈ちゃんの幼馴染みのユタカさんが、
比奈ちゃんを叱っていた。

「人の話には、絶対に口挟まんユタちゃんでも、
やっぱり比奈の事では、黙ってられへんねんなぁ♪(笑)」

オカンが比奈ちゃんの顔を
覗き込んで笑ったら、比奈ちゃんが
真っ赤になって怒っていた。

「もう~! ちょっと、オカン! 娘をからかうの
辞めてや! 恥ずかしいやん!」

比奈ちゃんは、オカンに向かって
手に持っていた台拭きを投げつけて
そのままエプロンを取って、座敷に座り込んだ。

どうやら比奈ちゃんは、
ユタカさんの事を、学生の時に
好きやったみたいで、ユタカさんに
叱られると、何も言い返されへんみたいやった。

その時やった。

店の戸がゆっくりと開いた瞬間、
もの凄い泣き声が聞こえて来て
何事かと思ったら、さっきから
噂していた比奈ちゃんの旦那さんの
雅章さんが、わ~わ~声を上げて泣いてる
絵美里ちゃんを抱っこして、入って来ていた。

「あらあら、こんなに泣いて! 絵美里~♪ バァちゃんやで♡
 ほらほら、もう~泣かんでええから、雅章さんも
カウンターに座って、ちょっとゆっくりしてや(笑)」

オカンは、すぐに泣いてる
絵美里ちゃんを抱っこして
背中をトントンして、あやしていた。

「すんません。暫くは機嫌良く遊んでたんですけど、
比奈とお義母さんが恋しくなってしまったらしくて…
泣き出したら、泣き止まなくなってしまって…(汗)」

雅章さんは、そう言って
申し訳無さそうにオカンに
頭を下げて、苦笑いしていた。

「かまへんかまへん! こうやって、父親に
なるもんやから。気にしたらアカン!」

ユタカさんが、落ち込んでる雅章さんを慰めていた。

「いきなり休み取って来て、絵美里の事を1人で
見るんは、無謀やったんちゃうかなぁ?」

比奈ちゃんが、オカンから泣き止んだ
絵美里ちゃんを受け取りながら
雅章さんに向かって冷たい口調で言った。

一瞬、何とも言えん空気が
その場に流れ出したんやけど、そのまま
続けて比奈ちゃんは、苦笑しながらも
雅章さんの横に絵美里ちゃんを
抱っこしたまま、座って話を続けた。

「そやけどや! 努力は認めるわ。これに懲りずに
出来るだけ休みが取れたら、絵美里と過ごしてやって♪(笑)」

ユタカさんに言われた事が効いたのか?
比奈ちゃんは、珍しく雅章さんに
優しい言葉をかけていた。

泣き疲れて寝てしまった
絵美里ちゃんを、お昼寝布団に
寝かせてから、比奈ちゃんは
雅章さんの横に座って
絵美里ちゃんの話を楽しそうに始めた。

「なんやかんや言うても、比奈ちゃんとこも仲の良い
夫婦なんよね。フフフ♪」

亞夜子ママが、高田さんと
2人の事を温かい目で見て笑っていた。

それからは、桃香ちゃんを皆で
抱っこし合ったりして、騒いでいたら
店の戸が静かに開いて、拓海ちゃんが
もの凄く肩を落として帰って来た。

「俺…。もうアカン、やってもうた。桜絵ちゃんに
愛想つかされてまう…どないしよう」

拓海ちゃんは、そう言いながら
座敷に倒れ込んでしまった。

「どないしたん? 何があったんや? 拓海っ! おい! 
起きて事情位は、話してくれんと。俺ら、何もしてやれんやん!」

こうちゃんが、項垂れている
拓海ちゃんを叩き起こして
無理やり座らせていた。

無理やり起こされて
座らされた拓海ちゃんは、少し間を
置いてから、ゆっくりと事の次第を話し出した。

「実は、詐欺に引っかかってしもてん。マンション買う
頭金の内の100万円を持ち逃げされてしまってん。
桜絵ちゃんには、黙ってマンション探して契約して
驚かそうって思ってたから、俺が1人でやり取りしてたんや。
まさか詐欺やったなんて…俺、阿呆やねん!」

拓海ちゃんは、そう言って
また、その場に倒れ込んでしまった。

「あーーーー! あれやろ? マンション売買の詐欺って
昼間テレビでやってたで! どうやってか知らんけど、新築の
マンションに入り込んで、不動産屋のフリして客に近付いて、
契約交わして、頭金とか手付金を持ってドロンって奴や! 
20件位…被害が出てるって、報道してたで!」

オカンは、昼間のワイドショー番組を
思い出して、大声で叫んで驚いていた。

「犯人は? 捕まってないの? 顔とか憶えてる? 
拓海ちゃん! しっかりしいや!」

倒れ込んでる拓海ちゃんのお尻を
バシバシ叩いて、私が起こすと
拓海ちゃんは、青い顔をしたまま起き上がった。

「まだ捕まってないらしい。警察へは行って、一応
憶えてることは全部話して来たけど、もうアカンわ! 
桜絵ちゃんが、許してくれるはず無いやん。こんな
阿呆な男…。俺、絶対捨てられるわ」

拓海ちゃんが、悲壮感を漂わせてると
オカンが拓海ちゃんの背中を
バシバシ叩いて、喝を入れてやっていた。

「阿呆な事を言いな! そんな事位で、桜絵ちゃんが
拓海ちゃんを捨てる訳が無いやろ! それよりも、早く
正直に言うて桜絵ちゃんに謝り! そのほうがええ!」

オカンに喝を入れられて
拓海ちゃんは、立ち上がって
桜絵ちゃんにLINEで、オカンの店に
居ることを連絡して、桜絵ちゃんを呼んでいた。


30分位してから、店の戸が
ゆっくり開いて、何も知らん桜絵ちゃんが
ニコニコしながら帰って来た。

正直言うと、どうなるんやろ? って
ドキドキしてるのは、私だけやなかった。

皆は、桜絵ちゃんが
拓海ちゃんに、どういう態度を
取るかが、気になって仕方が無い様やった。

「どないしたん? なんか皆、めっちゃ私の事見てない? 
なんで~? 何かあったん?」

相変わらず、緩い感じの桜絵ちゃんが、
皆の様子がおかしい事に気付いて
キョロキョロしてると、拓海ちゃんが
いきなり桜絵ちゃんに向かって
座敷から降りて来て、その場で土下座していた。

「桜絵ちゃん! ごめん! ほんまごめん! 俺、
とんでも無い事してしもた。ほんま、ごめん!」

いきなり理由も話さずに
拓海ちゃんは、桜絵ちゃんに凄い勢いで謝っていた。

「おいおい! 事情も話さんうちに、土下座なんかしても
桜絵ちゃんが、びっくりするだけやないか!」

こうちゃんが苦笑しながら、
拓海ちゃんの頭を一発どついて
座敷に上がらせて座らせていた。

「なんなん? とんでも無い事って? もしかして?  
浮気? 隠し子? それとも…人殺し?」

ド天然の桜絵ちゃんが冗談なのか? 
本気なのか? ボケた返事をしてくれたので、
拓海ちゃん以外は、皆和んでどっと笑っていた。

「もう~! 俺が話すわ。桜絵ちゃんも座敷に座り。
落ち着いて聞いてな!」

こうちゃんは、桜絵ちゃんが
座敷に座って落ち着くのを待ってから
事の次第をわかりやすく話し出した。

「拓海の阿呆がな、詐欺に引っかかったらしいわ。
桜絵ちゃん。知ってる? 不動産詐欺やねんけど。
新築マンションに入り込んで、業者のフリして客に
近付いて仮契約までこじつけて、頭金とか手付金を
騙し取ってドロンしてる奴や。あれやねん!」

こうちゃんに言われて、桜絵ちゃんは
うんうんと頷いていたので、
詐欺のことは、知っていたみたいやった。

「なんや~! お金騙し取られたん? 阿呆やな~!
 拓ちゃん人がええから、すぐ騙されてしもたんやろ? 
お金で済んで良かったわ~。マンション買うつもりやったん?」

桜絵ちゃんが、拓海ちゃんの頭を
優しく撫でながら、笑ってるのを見て
男たちは、溜め息を吐いて感心していた。

「桜絵ちゃんって、ほんま女神様みたいやな♪
絶対ブチ切れて、拓海の事怒ると思っとったから、
皆、桜絵ちゃんの寛大さに惚れてしまいそうやわ!」

健ちゃんが、笑いながら
桜絵ちゃんに言うと、桜絵ちゃんが
恥ずかしそうに笑って、赤くなっていた。

こんなやり取りを、皆でしている間に
オカンは、コソコソとスマホをイジって
何かしているようやった。

「桜絵ちゃん! ほんま、ごめんなさい! 俺が、
馬鹿でした。阿呆でした。間抜けでした!」

拓海ちゃんが、桜絵ちゃんに
抱きついて謝ってると、オカンが
大声でカウンターから、叫んでいた。

「見つかったで! 誰かわかったって!  龍ちゃんとこの
若い子らが、詐欺師を確保してくれたらしいで!」

オカンの話によると、この辺りを仕切る
ヤクザ屋さん達が、自分達のシマで無断で
詐欺なんかをやらかして、自分達に
何の挨拶もせずに、ドロンした
とんでもない詐欺師らを、メンツを潰されたと
血眼になって探し回っていたらしい。怖い、怖い。

「オカンが連絡取ってたんは、龍さんやったん?
 さっきから、コソコソなんかやってると思ったら、
そういうことやったんや」

比奈ちゃんが、少し呆れた顔で言うと
オカンは、舌をペロッと出して笑っていた。

「頼れるもんには、頼るんがオカンのええ所やね! 
私は、警察のお偉いさんに連絡してるのかと思ったわよ!」

亞夜子ママは、そう言って
高田さんと顔を見合わせて笑っていた。


それから2時間位してから、
龍さんの組のお使いの人が、詐欺師を
連れて拓海ちゃんのお金を返しに来てくれて

その後は、オカンの知り合いの
刑事さんに連絡して、犯人たちを引き渡していた。

「戻って来る事の無いお金やと、思ってたんやから、
このお金は、気前良く使おう♪(笑)」

戻って来たお金を握りしめて
桜絵ちゃんが、そんなことを言い出して
その夜の皆の呑み代は、
全部♪ 拓海ちゃんの奢りになりました。

拓海ちゃん! ご馳走さんでした。(笑)

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