オカンの店

柳乃奈緒

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ラブラブカップルの日♡

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◇◇◇◇◇

今日も、いつもと変わらず私は
『黒猫』へ寄って、モーニングしてから
店で仕込みをしてた。そうしたら、少し早めに
こうちゃんが、配達に来て面白い話を聞かせてくれた。

「宗ちゃんから、聞いた話なんやけど。こないだの2人、宗ちゃんと真斗と同じ会社の徹と悠里ちゃん。結婚を、前提に付き合い始めたらしいわ!」
「ほんまかいな~。それは、良かったわ。ここで、纏まったら縁起がええからな!」

幼なじみ3人の女子会が、何時の間にか
勝手に合コンに変更されて、どうなることかと
心配してたら、その男性メンバーの中に
宗ちゃんと真斗さんと、同じ会社で働いている
徹さんがおって、悠里ちゃんをえらい気に入ってて
あれからどうなったか心配やったけど、
あの後、ちゃんと良い感じに纏まったらしい。

「こうちゃんは、麻由美ちゃんとどうなんや?  育児で、ケンカとか無いんか?」
「おっと、 急にこっちに振る?  俺らは、ケンカはするけどちゃんと話しして解決してるで。深い溝が出来てしもたら修復出来んやろ!」

さすが、母子家庭で母親が苦労して
自分を育ててくれたことを、ようわかってる
こうちゃんは、しっかりやってるわ。

「俺らはええんやけど、どうも拓海のとこがなぁ~」
「拓海ちゃんと桜絵ちゃん? どうかしたんか?」

私が心配になって聞いたら、こうちゃんは
少し考えてから、声を落として話し出した。

「桜絵ちゃんがな、マンションから出て行ったままで、
1週間も帰って来てないみたいやねん…」
「何でまた1週間も? 拓海ちゃん、浮気でもしたんか?」

少し冗談交じりに私が聞いたら、こうちゃんが
ギョッとした顔して、手をバタバタして否定していた。

「浮気は無いわ! 拓海は、あれで。俺なんかよりも
ずっと真面目やし、桜絵ちゃんの事好きで好きでたまらん
って奴やから! だから多分、桜絵ちゃんの仕事の事やと
思うで。 まだ、ちょくちょく店に出てるらしいからなぁー!」
「それは、私も知ってる! 桜絵ちゃんから聞いてたんよ。
どうしても頼み込まれて、断れんかったって!」

こうちゃんの話では、拓海ちゃんは
桜絵ちゃんを心配して、あっちこっち探してるらしい。

それを見兼ねて、こうちゃんも探すのを
3日前から手伝ってるらしいけど
まだ見つかってないらしいわ。

こうちゃんが帰った後、残りの仕込みを
黙々としてると、LINEの通知音が鳴って
携帯を確認したら、比奈からで
駅前で、桜絵ちゃんに泣き付かれて
『黒猫』で話を聞いているから、少し店に
来るのが、遅れるという内容やった。

良かったわ。

比奈に相談してるんなら、何とか大丈夫や…。

私が少しホッとしていると、店の戸が開いて
入って来たのは、悠里ちゃんやった。

「あれ? どないしたん? 今日は休みか? こんな時間に珍しいなぁ~」

少し俯き加減で入って来た悠里ちゃんに
私は、何時もと変わらず声をかけていた。

「今日は、溜まってる有給を消化しろって言われて休みなんです。
仕込みで忙しいやろから、悪いかなぁって思ったんやけどね。
どうしても、オカンに聞いてもらいたいことがあるんです…」
「どないしたん? 会社で何かあったんか?  それとも…
あれか? 彼氏か?」

カウンターへ悠里ちゃんを座らせて、
仕込みも一段落したので、私は冷たい麦茶を
2人で飲みながら、話を聞くことにした。

「会社は上手くなんとかですけどやってます。彼、徹さんとも喧嘩とかじゃないんです。ただ、ちょっと…。私が男の人に免疫が無さ過ぎて、どうしたらええんか悩んでしまってるんです」

顔を真っ赤にして、悠里ちゃんはもじもじしてる。
どうやら、男性経験が浅いせいで
悠里ちゃんは、思い悩んでるみたいやった。

「何も悩む必要ないと思うで。結婚前提で、付き合ってるんやろ? 徹さんも割りと真面目そうな好青年やし、悠里ちゃんが好きなら何も問題無いやん!」
「そうなんかなぁ~? こんなんで大丈夫なんやろか? 手を握られただけで、心臓が飛び出しそうで。徹さんに変に思われてないやろか?」

悠里ちゃんは、急に立ち上がって
顔を真っ赤にして、何やらその時のことを
思い返してるようやった。


「あんまり恥ずかしくて。嫌とかじゃ無いんやけどね? 
突き飛ばしてしまったんです。徹さんが、キ…キスしようと
顔を近づけて来たから…」
「アハハハ! そうやったんかいな! ハハハハハハ!!」

私は、ついついその時の情景を想像してしもて爆笑してしまった。

「そ、そんなに笑わんでも…。オカン! 酷いです! 真剣に悩んでるのにィ~!」
「悩むこと無い! 大丈夫やって! 向こうも悩んでるかも知れへんけどな! でも、きっと反省してると思うで! 早急すぎたかな? ってね。フフフ」
「そうかなぁ~? 傷つけてしまったんちゃうかな? 大丈夫かな?」
「大丈夫や! 心配やったら今夜ここで一緒に飲んでスッキリしたら?」

悠里ちゃんは、にっこり笑って頷いてから
徹さんにLINEを送信していた。そして、
用事が済んだら、夜にまた来ると言って
笑顔で悠里ちゃんは、家に帰って行った。

年頃の男女の交際って結構難しいんやね。

なんぼ結婚前提って言うても、心の準備とか色々とあるしなぁ。

私が店を開ける準備を始めようとした頃に、
ゆっくりと、店の戸が開いて
比奈が桜絵ちゃんを連れて帰って来た。

「ただいま~! やっぱりオカンにも話聞いてもらおう言うて、桜絵ちゃん連れて来たんよ! 仕込み終わった? 掃除は?」
「大丈夫や! もう店はいつでも開けれるようにはしてるけど…桜絵ちゃん大丈夫なんか? 1週間も家に帰ってないってこうちゃんから聞いたけど?」

桜絵ちゃんは、少し青白い顔をして頷いてから
座敷へ座って、がんもを抱っこしてた。

「拓ちゃんが、私とお客さんが一緒の所を見て誤解してしまってん。浮気してるって、拓ちゃんは一方的に私を疑って私の話を聞こうともせんから、一緒におってもしんどいだけやなぁ~って思って、一度頭冷やしてもらう為に家を出たんやけど…」
「ほんま! 拓海は、思い込みが激しいんよ。桜絵ちゃんが、好きで好きでたまらんのはわかるけども、全部逆手に出てしもて桜絵ちゃんがしんどなったんや!」

比奈が、凄い剣幕で拓海ちゃんの事を怒ると
桜絵ちゃんは、少し苦笑いして拓海ちゃんのことを庇っていた。

「比奈ちゃん! そんなに拓ちゃんを怒らんといたって。うちが、もうちょっと気を付けて仕事もさっさと辞めてたら、良かったことやし」
「こうちゃんがな! 拓海ちゃんが、心配して青い顔して探してるって言うてたから、きっと拓海ちゃんも反省してるわ!」

私が桜絵ちゃんに家に帰るように言うと、
比奈がテーブルを叩いて、急に怒り始めた。

「今が肝心やねんで! ここで甘い顔して帰ったら、また同じようなことを繰り返すねん! そやから少しは、お灸を据えたらんとアカンねん!」

何時もにも増し、比奈が1人で熱くなっていた。
どうしても、このままじゃ許されへんらしい。

「うっ……ちょっと、ごめんね……」

急に桜絵ちゃんは口を手で押さえると、
慌ててトイレに駆け込んでいた。

「ちょっと!? もしかして…? 桜絵ちゃん、赤ちゃんか!?  ちょっと!!」

私は慌ててトイレに駆け込んだ桜絵ちゃんを
追いかけて行って、背中を擦ってやった。


吐き気がやっとこさ治まった桜絵ちゃんに、
私は座敷で横になってもらって、引き続き話を続けた。

「病院は? 行ったんか?」
「うん、昨日行って来たら2ヶ月って言われてん」

私は物置から、肌布団を取って来て
桜絵ちゃんにかけてやった。

「初産の妊娠2ヶ月って、マジで一番大事な時なんやで!」
「心配してくれてありがとう…すぐに家に帰りたかってんけど、ほんまに俺の子か? とか、拓ちゃんに言われたらどうしようって思ったら、怖くて帰られへんかってん」

桜絵ちゃんは、薄っすらと
目に涙を浮かべて、私の手をギュッと握っていた。

開店時間になって、すぐにこうちゃんが
裏口から入って来て、桜絵ちゃんの無事を確認して
ホッとしていた。
拓海ちゃんは、仕事が終わったらすぐに来るらしい。

こうちゃんが来てすぐにまた、店の戸が開いて帰って来たんは真斗さんと亜紀ちゃんと徹さんやった。

「ただいま~! 悠里ちゃんは? まだ? オカン、座敷空いてる? あれ? 桜絵ちゃん? どうしたん? 具合悪いん?」

亜紀ちゃんが座敷の桜絵ちゃんに気が付いて駆け寄っていた。

「亜紀ちゃんありがとう…。ちょっとな、つわりがキツくて横にならしてもらってるねん」

つわりと聞いて、亜紀ちゃんは驚いたみたいで桜絵ちゃんの横に座って桜絵ちゃんの背中を優しく擦っていた。

「赤ちゃん出来たん? おめでとう! あ、でも、つわり…大変なんやね。無理したらアカンで!」

真斗さんも、桜絵ちゃんに優しく声をかけてくれていた。

またまた、その後に続けて勢い良く店の戸を開けて帰って来たんは拓海ちゃんやった。

「オカン! 桜絵ちゃん、桜絵ちゃん!! おったーーー! 良かったーーー!」
「おるに決まってるやろ!? ほんま拓海はアホやねんから!!」

バタバタ入って来て慌ててる拓海ちゃんに比奈が冷たい言葉を投げつけていた。


「比奈ちゃんキッツいわ~! たまらんなぁ~! 桜絵ちゃん? どうしたん? 具合悪いんか? 大丈夫か? 病院行くか?」
「大丈夫やで~。あんなぁ拓ちゃん。うち…赤ちゃんが出来たって、病院で言われてん。うちらの赤ちゃん。拓ちゃん…喜んでくれる?」

 座敷で横になってる桜絵ちゃんを見て、慌てふためいてる拓海ちゃんに桜絵ちゃんが妊娠したことを告げると拓海ちゃんは一瞬固まってから満面の笑顔で頷いていた。

「当たり前やん! 嬉しいに決まってるやん! 家族が増えるんやで? 俺…。父ちゃんになるんや! う、嬉しいわ……ううっ」

拓海ちゃんは起き上がった桜絵ちゃんを抱きしめて男泣きしていた。

そこへゆっくりと店の戸が開いて、帰って来たのは悠里ちゃんやった。

「ただいま~! どうしたん? なんかあったんですか?」
「人生色々やねん! 徹さん待ってるで! 右の座敷におるやろ? 早く行ったり!」

悠里ちゃんはキョトンとした顔をしたまま、座敷の徹さんと亜紀ちゃんと真斗さんの所へ座った。

「赤ちゃんが出来たんやって! なんか色々あったみたいやけど。雨降って地固まるってやつみたいやで! ええなぁ~赤ちゃん♪ 私も欲しいなぁ~」

亜紀ちゃんが悠里ちゃんに桜絵ちゃんと拓海ちゃんの事を説明してから、自分も早く赤ちゃん欲しいなんて言うもんやから、真斗さんが真っ赤な顔をしていた。

「ほっほっほんまに、赤ちゃん欲しかったら…。早く! けっ結婚せんとアカンやん!? 順序っちゅうもんがあるからな! なっ!? 徹もそう思うやろ?」
「そやけど。今は先に出来てもそんなに珍しくは無いけどなぁ~! クククク」

亜紀ちゃんの思いに必死で真斗さんが必死に答えて徹さんに同意を求めると、徹さんは意地の悪いことを言って笑っている。それを聞いていた悠里ちゃんは、真っ赤な顔をして怒鳴っていた。

「そんなん! 結婚してからに決まってる! 早く欲しいなら早く結婚したら良いやん! 亜紀ちゃんも真斗さんも好き同士やねんし!」
「悠里ちゃんは固いなぁ~! 私は正直な気持ちを言うただけやで? やっぱ赤ちゃんは若い内に欲しいもん! 悠里ちゃんは欲しくないん?」

亜紀ちゃんに難儀な質問をされて、悠里ちゃんは真剣に困っているようやった。



「え~やん! 欲しくない訳ないけど、個人個人で考え方があるんやし、出来る時は出来るしな! 俺も悠里ちゃんさえ良ければ、出来るだけ早く結婚したいなぁって思ってるんやで?」

徹さんが亜紀ちゃんと悠里ちゃんに割って入って、早く結婚したいっていきなり悠里ちゃんに告白していた。

「ほ、ほんまに? そんなこと思ってたん? ええの? 私みたいなんでも?」

悠里ちゃんが驚いて徹さんに聞くと、徹さんはウンウンと頷いて悠里ちゃんの頭をポンポンってしてからギュッと抱きしめていた。

「もう! 今日は何なの? 皆でラブラブやん。何かめっちゃ店の中が熱いわ~。ほんっと羨ましいわね~♪ 若いって良いわよね~!」

カウンターに座っていた亞夜子ママが、一緒にいた高田さんの腕に抱きついて口を尖らせていた。

「私たちだって、まだまだ貴方たちになんか負けないんだからね!」

そう叫んだかと思ったら、立ち上がって思いっきり高田さんにママが熱い接吻キスをしていた。

それを見た亜紀ちゃんまで、真斗さんに抱きついて熱い接吻を見せつけていた。

「ちょっと! そういうのは家に帰ってからナンボでもしてええから! 店では禁止! 禁止やで!」

比奈がそう叫んで、双方のカップルにイエローカードを差し出していた。何時の間にあんなもん作ったんやろ?

そして、つわりがだいぶ落ち着いた
桜絵ちゃんは、拓海ちゃんに抱えられながら
皆にお礼を言って、2人で仲良く家に帰って行った。

悠里ちゃんと徹さんは
亜紀ちゃんや真斗さんに冷やかされて
困惑していたけど、来年中に結婚することに
2人の意見は、一致したみたいやった。

「悠里ちゃんのことは、俺…ちゃんとわかってるつもりやから、無理せんでええから気長に楽しくやって行こうな!」

徹さんに肩を抱かれて真っ赤になって
悠里ちゃんは、嬉しそうに頷いていた。
そして、悠里ちゃんと徹さんは仲良く手を繋いで
2人一緒に家に帰って行った。

「ほんま今日は、ラブラブカップルの日やったな! ハハハハ!」
「ええんちゃう? ここでケンカ別れとかされるよりもずっとええやん!」

私と比奈が笑ってると、足元に
ミケとがんもが来て「うにゃ~ん♪」と鳴いていた。

きっと、店の天井裏の縁結びの神さんも
嬉しそうに、満面の笑みを浮かべているに違いないと…
私は、心の中で確信していた。
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