オカンの店

柳乃奈緒

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親の心子知らず、子の心親知らず

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◇◇◇◇◇

その日は、珍しく暇な夜やった。

店のカウンターには、亞夜子ママと
高田さんと健ちゃんがおるだけやったし。

座敷には、こうちゃんと麻由美ちゃんと
美花ちゃんと宗ちゃんが、がんもと猫じゃらしで
遊びながら、絵美里の子守りをしてくれてたから

私も比奈も、少しカウンターで
座らせてもらって、健ちゃんに
ビールを、ご馳走になっていた。

夜の10時過ぎごろやったかな? 

店の戸をそろっと開けて
帰って来たのは、たまに寄ってくれる
近所で、理髪店を夫婦で営んでいる
市川さんの旦那さんの方で。

私らは、圭ちゃんって呼んでるねん。

「おかえり~♪ 今日は1人か? しおりちゃんは?
 紀美きみちゃんと家で留守番なんか?」
「ただいま~! ええっと。今、ちょっと、紀美が進学する
学校の件で、2人でなんかゴタゴタしてそうやったから、
俺だけそうっと抜け出してきたんや。(苦笑)」

圭ちゃんは、顔を引きつらせながら
健ちゃんの横に座って、生ビールをくれと笑っていた。

「学校ってあれやな。 紀美ちゃん。受験生やろ? 何処の
学校へ行くかを、決めてたんちゃうの?」
「それやそれ! 私学に行くつもりは、無い言うてな。お金が
もったいないから、受けへんて紀美が言い出して、困らせてる
みたいや。栞にしてみたら、私学の試験は予行演習や思って
受けて欲しいらしいんやけどなぁ…」

こんな時の男親は、大体が逃げ腰で
全部、女親が面倒を抱えるもんや。

うちも比奈の受験の時。

オトンは、知らん顔やったから
うちが比奈と学校の先生と、
全部決めたことを思い出していた。

「圭ちゃんも、一緒に話聞いたらなアカンやろ? こんな時
やからこそ、男親が間に入ってな。うまいこと考えたらな。
栞ちゃんも紀美ちゃんも、受験前に参ってしまうで!」
「わかってるんやけど。俺、そういうの苦手やし。俺が口出したら、よけいに紀美が意固地になるんや。こっちが、紀美のことを思って言うててもや。すぐにウザい! とか言うて、自分の部屋にこもりよるしな!」

圭ちゃんが、大きな溜め息を吐くと
横におった健ちゃんが、うんうんと頷いて
圭ちゃんの肩を叩いていた。

「娘にウザい。って言われるんて。あれ、ほんまにキツイよなぁー。あのウザいって言葉なぁー。あれ、あの言葉自体アカンやろ? ウザいは使用禁止用語にしてもらいたいなぁー!」
「そうやねん。あれなぁー。すれ違いざまにウザっとか言われたら、もう立ち直られへんわ」

同じ娘を持つ父親として
共感するもんがあったらしくて、
意気投合した健ちゃんと圭ちゃんは
その後も、仲良く呑んでいた。

しばらくして

店の戸を開けて入って来たのは
疲れ切った顔をした、栞ちゃんやった。

「おかえり~♪ ちょっと栞ちゃん大丈夫か? すごい疲れた
顔してるで? こっちへ早く座り!」
「ただいま~。もう紀美と話が噛み合わんからあきらめて
呑みにきてん。ほんまつかれるわー」

栞ちゃんは、チラッと
健ちゃんと呑んでる圭ちゃんを見てから、
隣には座らずに、

亞夜子ママの横に座って、うなだれていた。

「子供の高校受験に。こんなに悩まされるなんて思ってもみんかったわ。自分の時は、学校の先生と親との三者面談ですんなり受けるとこ決めて、言われるまま受験したから。うちの子もそうなんやーって、ずっと思ってたし。まさか、私立は受けへんとか、普通の学校は嫌や。とか、もう…学校の先生も、ご両親と紀美さんで決めてください言うて丸投げしてくるし。泣きそうやわ!」
「ほらほら! ちょっと呑んで! 一息ついて。紀美ちゃんが、どうしたい言うてるんか話してみたら? 一緒に考えたるから。元気出して。なっ?」

うなだれて憔悴仕切っている
栞ちゃんの肩を、ポンポンと叩いて慰めると。
亞夜子ママが、水割りを作って
栞ちゃんに手渡しながら、紀美ちゃんの
様子を聞き出してくれていた。

「ありがとう~。いただきます~。紀美は、普通科じゃなくて商業科のある単位制の、自由な校風の学校へ行きたいらしくて。それはそれで、もう別に良いと思うんですけど。初めての受験やし、念の為に私立も受けとこうって言うてるんやけど。行くつもりの無い学校の試験なんか受けへんって一点張りですわ」
「ええんちゃうの? 紀美ちゃんが、それで頑張るんやったらそうさしてやって、見守ってやれば? えらいんとちゃうかな? 私は、紀美ちゃんがちゃんと自分の思ったこと言えて、しっかりした考えでいてるように思えるけどね♡」

栞ちゃんの話を聞いて、
亞夜子ママは、紀美ちゃんの
しっかりした筋の通った物の考え方をほめていた。

確かに。

小さい頃から、両親が一生懸命働く姿を
見てきている紀美ちゃんやからこそ、
無駄なお金を使わせたくないという
親を思う、子供心なんやろう。

「圭ちゃん。どないする? 紀美の思うようにさせてええんかなぁー?」
「あいつは小さい頃から、頑固やからなぁー。好きにさせてやろか? 俺はそれでかまへんで」

圭ちゃんは、栞ちゃんの横へ来て
隣に座りなおすと、栞ちゃんの背中を
ポンポンっと軽く叩きながら、頷いていた。

そこへ、ちょうどいいタイミングで
店の戸をゆっくりと開けて、入って来たのは
紀美ちゃんと、栞ちゃんの妹の智子ちゃんやった。

「あらあら! お帰り~♪」
「ただいまー! お姉ちゃん。ほら~。やっぱり来てたー!」

智子ちゃんは、カウンターに座ってる
栞ちゃんと圭ちゃんをすぐに見つけて、
紀美ちゃんの手を引きながら、店の中に入って来た。

「ほらほら、座敷のほうに座り。その方がゆっくり話せるやろ?」
「ありがとう~。そうしよか? なっ? 」

紀美ちゃんの顔をのぞき込むと、
智子ちゃんは、ニィっと笑って
座敷に座って、コーラとウーロン茶を
比奈に注文していた。

栞ちゃんも圭ちゃんも、すぐに
座敷へ移動して、さっき2人で決心したことを
紀美ちゃんに話していた。

「あのな。お母ちゃんもお父ちゃんも、紀美の好きにさせることに決めたからな。そやから、紀美は思うように頑張り。お母ちゃんもお父ちゃんも出来ることは、応援したるからな! ええか?」
「ほんまにええの? ほんまに? ともちゃんが、親孝行や思って私立も受けたりって言うから、その方が、ほんまにええんならそうしようと思ってここへ来てんけど。でも、やっぱり高校へ入ってからも色々と物入りやし。そやから、もったいないし」

目に涙をいっぱいに溜めて
必死に自分の気持ちを話す紀美ちゃんを、
栞ちゃんは、黙って抱きしめていた。

「まだまだ、子供や子供やって思ってたのに。いつの間にか色んなことを紀美も考えてくれてたんやなぁー。ありがとうなぁー。大丈夫やで! お母ちゃんも、お父ちゃんも、紀美がおるから頑張れるんやから。少しくらい甘えてくれてええんやで!」
「そうや! お父ちゃんも、紀美のために頑張るで。もっと、甘えてくれたらええ!」

圭ちゃんも、紀美ちゃんの頭を撫でながら、
涙と鼻水で、顔がグシャグシャやった。

「親の心子知らずって、言うけど。子の心親知らずっちゅうこともあるんよなぁー(笑)」
「そやでなぁー。いつの間にか色んなことを見て、自分で考えるようになってるんやもんなぁー!」

お互いの思いが、やっと通じ合ったことで
ホッとしたのか? その後は、圭ちゃんが少し
呑み過ぎて、こうちゃんと宗ちゃんが
家まで送って行ってくれた。

翌朝。

二日酔いで苦しんでる
圭ちゃんに向かって、紀美ちゃんが
恥ずかしいから、もう呑み過ぎんといてと
本気で怒っていたらしいわ。(笑)

そやけど、ちゃんとお互いの思いが通じて良かったわ。
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