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奏と休日と その2

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  人で賑わう商店街。
  ついつい帰りに寄り道してしまう駄菓子屋さん。たまに二人で朝マックするマクドナルド。いつも行列ができていて、いったい何がそんなに人気なんだろうかと思いながら、未だに調べていないお肉屋さん。
  ここは何屋さんだ?
  そう言いたくなるほど、右肩上がりで「いらっしゃいませ~~~」と元気な声が飛び交う新整骨院。
  お客さんを取られてしまい、気難しそうな表情でガッシリと腕を組んで、店頭で道行く人を一日中観察する旧整骨院の店主。
  きっとあの人は「この人の背骨は曲がってるな。あの人の骨盤は良くないな」って想像して時間を潰しているに違いない。と人間観察が好きな奏は、表情には出さないがクスクスと笑いだす。
  さらに、目指すスーパーへ行く途中には、必ず立ち寄る八百屋さんがある。
  なんてったって安いのなんの。旬のお野菜から果物までとにかく安くて品質も最高。奏も僕も、ここだけは絶対に外さない。
  だが数ヶ月前、店頭のレジ係に彗星のごとく現れた推定20代前半のお兄ちゃん。
  奏の脳裏に、自然とドラクエ5の戦闘BGMが流れ出す。


  若そうなお兄ちゃんが あらわれた!

  たたかう
  さくせん
  にげる

  奏は にげだした!


  相手はレジ係だ。逃げるのに失敗して、回り込まれるなんて心配はねぇずら。
  大月奏。静岡県出身。苦手な物、若いお兄ちゃん。
  話しかけられるのはもちろん、話しかけたりなんて絶対にしない。金銭のやり取りなど手が触れ合うかもしれないのに恐ろしすぎる。
  ちっ、今日は休んどけよ兄ちゃん。
  奥で袋詰め作業をしてる店主のおじさん。彼を横目で見ながら、心の中でそう舌打ちをする。
  そんな八百屋さんを無傷のまま通り抜け、着いたスーパーで夕飯の材料を調達する。
  入り口付近で玉ねぎ、人参、じゃがいも。奥まで進んで「お買い得」と貼られた豚バラのこま切れ。オッと行き過ぎてしまった。今夜はカレー。甘口カレー。奏特製の野菜ゴロゴロカレー。
  鼻歌交じりに、百円を切った甘口ルーを手に取りカゴに入れる。
  我が家のカレーは、僕が作らない限り甘口一択。
  僕が作る時は、極力辛味を抑えるためにバターなんかの旨味で辛味をごまかす。美味しいと言って食べてくれるが、奏は辛いものが嫌いで基本的に好んで口にしない。
  実家に帰ると、そんな娘のことなど知ったことかと、お母さんが無条件で辛口カレーを出してくる。
  大好きなカレーを好き放題やらせてくれる我が家は、極楽浄土。
  牛乳を2パック放り込んだら、締めのデザートを選ばなくては!
  今夜は何にしようかな・・・
  やっぱりチョコレートですよね!
  奏は甘いものが大好きだ。中でもチョコレートとプリンは大好物。
  バカウケと静岡茶で渋く?
  大好きな焼きプリンと主夫がいれてくれるホットコーヒー?
  色々悩んで、我が家ではもう定番となりました、赤いパッケージのしっとりチョコ。決まりだ。
  甘いしょっぱいもいいけれど、甘い苦いの無限ループも捨てがたい。今夜も黙ってたってホットコーヒーが目の前に出されるであろうと確信している。
  帰りに、もう一度八百屋さんの前をそそくさとノーダメージで回避して、最後は百均に立ち寄るのが最近の流行り。
  いつも何かを買うわけではないけれど、大好きな陶器の食器類を眺めるのを楽しみにしている。
  思わず手に取ってしまうような湯呑がないか眺めながら、変わり映えしないなぁと少し残念な表情を浮かべるのも幸せな時間。
  よいしょ!
  一旦、買い物袋を置きに帰ろっと。
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