空の話をしよう

源燕め

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第十五章

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「ああ、もう、女って本当に怖いな…」
「女が怖いって、どういう意味?」
 部屋の扉を閉めて独り言を言ったつもりが、返事が返ってきて驚いた。
 声のしたほうに目をやると、あけ放った窓の縁にアーネスティが腰を掛けていた。白い羽が西陽に染まって朱く美しい。
「いや、ちょっとリーヤがいろいろ詮索してきてさ」
「詮索?」
「いや、おれたちの婚約のこととか?」
「あなた、何ぺらぺら話してるのよ?」
「話してないって、つい話の流れで」
「話したのね…?」
「はい」
「まあ、いいわ。本当のことだもの。婚約していたのも、婚約を解消したのも」
「……。で、今日来たのは、エセルバート様からの?」
「そう。羽人の長としての話を伝えにきたわ」
「エセルバート様のお考えは?」
「何も…。何もできることはないとおっしゃっていたわ。オージュルヌが崩落してわれわれが滅びるのであれば、それも運命なのだろうと」
「そんな、本当にエセルバート様がそんなことをおっしゃったのか!?」
 カーライルとアーネスティを育ててくれたエセルバートは、長として尊敬に値する思慮深い羽人だ。羽人を率いる身として何もせずに滅びることを選ぶとは思えなかった。
「カーライル、驚かないでね。エセルバート様は知っておられたの。この大地が空に浮いていることも、この大地がいずれは欠けて崩れ落ちることも…」
「な!?」
「かつて、この大地には羽人だけが住んでいたって伝説はカーライルも知っているわよね?」
「ああ」
「わたしたちの祖先は、空にある別の大地から移住してきたのよ。だから、みなの背に羽があったって。そして、もう移り住むことを辞めた者の背から羽が消えていった。この地に根を下ろし、繁栄するために。わたしたちの背には、まだ羽があるけども、すでに山脈を乗り越えるほどの力はないわ。羽人であるわたしたちもまた、移り住むだけの力を持たぬ者なのよ」
「そんな…」
「明日、新しい飛空艇で飛ぶと聞いたの。ねえ。もう、無理をするのはやめましょう」
「…いや。やめない」
「どうして…? 今更、崩落の状況を知ったところで、どうするの?」
「おれは飛ぶよ」
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