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第0章 Overture
第一話 トライアル
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◆
ぽたり。青年の額から落ちた汗が下に落ちる。
「……、暑いな」
彼は額の汗を拭うが、それでもなお噴き出るそれは、地面へと落ち、じゅうと音を立てた。
それもそのはず、青年の眼下には溶岩がくつくつと煮えたぎっている。
大きな足場の上に立っているとはいえ、万が一にも踏み外してしまえばいっかんの終わり。そうでなくとも召喚したジャックフロストがいなければ、暑さでやられてここまで辿りつけなかっただろう。
「ありがとう」
肩に乗った小さな雪だるまにそう語りかけ、青年はジャックフロストを送還した。
こつり
ジャックフロストは青年の頭を、その小さな拳で小突くと、まるで「頑張れ」とでもいうように、腕を大きく振ってその姿を消した。
ふぅうううぅ。
大きく息を吸い空を見上げる。
火口に丸く切り取られた暗い夜。そこには赤く輝く満月があった。
はああぁぁあ
息を吐き視線を前に向ける。
そこ――、火口の中央に身を構えるのは一匹の朱いドラゴン。
ドラゴンは、煮えたぎる溶岩よりも熱く、空に輝く月よりも赤いその身体をくゆらせる。
戦闘の準備だろうか、青年の回りには札が、そしてこぶし大の輝石が宙に浮き、おもむろに旋転し始める。
それを確認したドラゴンはにやり、口角を上げ――、
「ゴァアアアアアアアアッ」
咆哮した。
「ぐっ」
その衝撃だけで、用意されていた障壁符が3枚がはじけ飛んだ。残るは7枚。
ただの咆哮一つでこの威力か!
独り言つ彼だったが、焦る気持ちとは裏腹に、その口と手は召喚のため動き続ける。
「――はるか南、常夏の島の万年雪に宿る女神よ。炎の神をも退けしその力、われに貸し給え」
〈――召喚:ポリアフ〉
その言葉とともに、浅黒く日焼けをした肌に白いマントを羽織った女性が現れた。
重なるようにして現れたウィンドウを見ると、真夏の島の雪の女神らしい。
なるほどこの戦いにはうってつけだろう。
ポリアフは左手を青年の肩に添え、右手を掲げた。
すると幾つもの氷の刃が頭上に生まる。そして、振り下ろされた右手に従い、その刃はドラゴンに向かい飛翔する。
「ゴォアアァ」
よけられないと思ったか、ドラゴンは翼を広げ、氷の刃を突っ切るようにして、その身を宙に浮かす。
むろんその身を、翼を氷の刃が切り裂くが、ドラゴンは気にせず口を大きく開いた。
「ゴゥァアッ」
――その口から放たれたのは火球。
それが、ごおと音を立て、青年へと迫り来る。
〈――即時召喚:スヴェル〉
青年は、氷で出来た盾を召喚し火球を受け止めた。
ぱき……。火球の消滅とともに、氷の盾も音を立てて崩れる。
と同時に、即時召喚の触媒となった白青の輝石も砕け散り、その細片がきらりと宙へ舞った。
〈――即時召喚:ジャックズ・ビーンストーク〉
青年の周りに浮く輝石から一つ、青丹のものが飛び出し地面に刺さる。
――ぞくん。そこから巨大な蔓が伸び上がり、ドラゴンへと巻き付いた。
「グゥガ――」
ドラゴンはもだえるが、太く巻き付いた蔓は身じろぎもしない。
「――今だ」
青年の鋭い声に、ポリアフは再び右手を掲げ、スペルを放つ。
〈――ウェキウ・バグズ〉
現れたのは、透き通った白藍色の虫、虫、虫。
それらはするりと、ドラゴンに巻き付いた蔓を上ると、朱い鱗に向けその鋭い牙を突き立てた。
「――グァアア」
苦悶の声を上げるドラゴン。
だが、バグズは牙を突き立てるのをやめない。
ここでたたみかけられるか?
青年がそう思った瞬間だった。
……ぽとり。バグズが一匹、ドラゴンの身体から落ち、溶けるように消えていく。
見ると、ドラゴンの身体が赤熱していた。
朱く染まった身体にあぶられ、バグズは次々と地面に落ちていく。その身に巻き付いた蔓も所々が炭化し始めていた。
まずい。そう思う暇もあらばこそ、ドラゴンはその身を大きく回転させる。
ぶちり。音を立てて引きちぎられ細片となり散るジャックズ・ビーンストーク。
そしてドラゴンはその勢いのままに、大きくしなる尻尾をたたきつけてきた。
〈――即時――〉
「つっ」
詠唱の途中、間に合わないと判断したのか、青年はそれを破棄し大きく後ろに飛ぶ。
そのおかげか、尻尾を回避することはできた。
だが、体勢の崩れた青年を、叩きつけられた尻尾の衝撃とともに、撒き散らかされた飛礫が襲う。
「ぐっ」
かわすことができず障壁符が数枚はじけ飛んだ。
――が、ドラゴンの攻撃はそこで止まった。
組んだ腕の隙間から、青年がドラゴンを見上げる。
そこには、強者の余裕だろうか、眼光炯々とこちらを見るドラゴンの姿があった。
「なるほど、仕切り直しをお望みってことか。余裕だな……」
青年がドラゴンを指さす。
「だけどな、その鼻っ柱たたき折ってやるから、覚悟しとけ」
「ゴォゥアァア」
ドラゴンも青年に呼応するかのように雄叫びを上げ――
――そして、戦いは再開された。
ドラゴンの突進をゴーレムの腕でいなし、その翼による風の刃はエアリアルを召喚し相殺する。
そしてこちらも再度ジャックズ・ビーンストークを即時召喚し、ドラゴンの体を束縛しようとするも、ドラゴンのその爪と牙により束縛を断ち切られる。
そんな戦いが幾合も続いただろうか、すでにこちらのMPは残り少なく、即時召喚のための各種輝石も心もとなくなってきている。
とはいえドラゴンも、その身をポリアフに切り刻まれ、当初の輝きはすでにない。周囲の溶岩も冷えて固まり足場も広くなっている
このまま押しきれる。そう思ったその時だった――。
「――ゴゥァアッ」
ドラゴンが火球を放った。
だがそれが向かう先は青年ではない。天井だ。
火球は壁に当たり砕け散り、炎と瓦礫をまき散らす。
〈――即時召喚:ストンゴーレム〉
青年は即座にゴーレムを呼び出した。
即時召喚されたゴーレムは、落ちてくる瓦礫から青年とポリアフをかばい消滅し、褐色の細片を散らす。
ドラゴンの攻撃をなんとか耐えしのいだ二人だったが、そのの周りはもうもうとした土煙に覆われ、視界が遮られてしまった。
「……くるか?」
不意の強襲に備え身構えるが、しかして何も起こらず……、そうして土煙が晴れてきた。
晴れゆく視界。そこにあったのは、どっしりと構え、喉を大きく膨らませるドラゴンの姿だった。
ドラゴンはゆっくりとその顎を開く。そのアギトの前、そして周りにいくつもの魔方陣が展開する。
やばいっ、そう思う暇もあらばこそドラゴンはブレスを放ってきた。
今までのような火の玉ではない、輝く熱線だ。
「ガアアァァァアアァァ」
〈――即時召喚:スヴェル〉
とっさに青年が召喚したのは氷の盾。それは熱線と青年の間に差し込まれ――、
――バンッ。数瞬も持たず砕け散った。と同時に障壁符も次々とはじけ飛んでいく。
〈――即時召喚:ストンゴーレム〉
ゴーレムの巨体が青年を覆うも、それも一瞬で消え去る。それと同時に最後の障壁符もはじけ飛んだ。
「くっ」
もはやこれまでと身を固くする青年を、白い影がふわりと覆った。
〈――アイウォヒクプア〉
青年の耳元で小さく紡がれるスペル。それとともに彼の視界は白く染まる――。
……そして視界が晴れたとき目に飛び込んできたのは、二つの光景。
一つはドラゴンから直線上に伸びるえぐれた地面。その亀裂は、青年の前だけ不自然に切り取られている。
そしてもう一つ。それは青年の傍らで薄く消えゆくポリアフの姿だった。
「まさかおまえ、かばって……」
そうつぶやく青年に、ポリアフは首を横に振って答え、静かに指をさす。
そこには準備が整ったとばかりに点滅するアイコンが一つ。
「なっ――」
なおも言いつのろうとする青年の口を、ポリアフは指で小さく制した。
そして再度ゆっくりと首を横に振り、満足げな微笑みを浮かべ、その身体を純白の細片に変えた。
と同時に、彼の目の前のウィンドウに写るのは、点滅するスキルの使用条件と効果。
「そういうことかよ」
彼は独りごつ。
このスキルの使用条件にポリアフの消滅があったであろう事はわかった。
だからってあんな顔で消えていくことはないだろう。
俺はかばってほしくて、消えてほしくて召還したわけじゃないのに。
そんな彼の感傷をよそに、いや、その思いがあるからこそ、彼の口は詠唱を紡ぎ始める。
「この地は戦場、生と死が交錯する戦いの庭。
我を守護せし戦乙女よ。汝に捧げしは、この場で散りし数多の精霊」
先ほどのブレスを再度放とうとしているのだろうか。ドラゴンの周りにいくつもの魔方陣が展開し始めた。
だがかまわない。よける必要もない。
なぜなら、この召喚には彼女たちの力が詰まっているのだから。
――だから負けない! 負けるものかよ。
その想いを込め、彼は最後の言葉を紡ぐ。
「顕現せよ! そして我が前の敵を穿て!」
〈――召喚:ワルキューレ〉
――同時だった。
ドラゴンのブレスと、青銀の鎧兜を身にまとった戦乙女がその地に降り立ったのは――。
「ガアアァァァアアァァアアァァ」
熱線は、一度目のそれを越えた勢いで迫り来る。
――だが戦乙女は、それを歯牙にもかけず飛翔んだ。左の盾でブレスを切り裂きながら。
――戦乙女は貫く。右の手に携えし青銀の槍を掲げて。
その槍とドラゴンが交錯したとき、世界は光に包まれた。
そして、大きく『ヴァルホルサーガVR ~夜明けの開拓者たち~ with VSOnline (c)アルヒシステム』という文字が浮かび上がった。
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「……、暑いな」
彼は額の汗を拭うが、それでもなお噴き出るそれは、地面へと落ち、じゅうと音を立てた。
それもそのはず、青年の眼下には溶岩がくつくつと煮えたぎっている。
大きな足場の上に立っているとはいえ、万が一にも踏み外してしまえばいっかんの終わり。そうでなくとも召喚したジャックフロストがいなければ、暑さでやられてここまで辿りつけなかっただろう。
「ありがとう」
肩に乗った小さな雪だるまにそう語りかけ、青年はジャックフロストを送還した。
こつり
ジャックフロストは青年の頭を、その小さな拳で小突くと、まるで「頑張れ」とでもいうように、腕を大きく振ってその姿を消した。
ふぅうううぅ。
大きく息を吸い空を見上げる。
火口に丸く切り取られた暗い夜。そこには赤く輝く満月があった。
はああぁぁあ
息を吐き視線を前に向ける。
そこ――、火口の中央に身を構えるのは一匹の朱いドラゴン。
ドラゴンは、煮えたぎる溶岩よりも熱く、空に輝く月よりも赤いその身体をくゆらせる。
戦闘の準備だろうか、青年の回りには札が、そしてこぶし大の輝石が宙に浮き、おもむろに旋転し始める。
それを確認したドラゴンはにやり、口角を上げ――、
「ゴァアアアアアアアアッ」
咆哮した。
「ぐっ」
その衝撃だけで、用意されていた障壁符が3枚がはじけ飛んだ。残るは7枚。
ただの咆哮一つでこの威力か!
独り言つ彼だったが、焦る気持ちとは裏腹に、その口と手は召喚のため動き続ける。
「――はるか南、常夏の島の万年雪に宿る女神よ。炎の神をも退けしその力、われに貸し給え」
〈――召喚:ポリアフ〉
その言葉とともに、浅黒く日焼けをした肌に白いマントを羽織った女性が現れた。
重なるようにして現れたウィンドウを見ると、真夏の島の雪の女神らしい。
なるほどこの戦いにはうってつけだろう。
ポリアフは左手を青年の肩に添え、右手を掲げた。
すると幾つもの氷の刃が頭上に生まる。そして、振り下ろされた右手に従い、その刃はドラゴンに向かい飛翔する。
「ゴォアアァ」
よけられないと思ったか、ドラゴンは翼を広げ、氷の刃を突っ切るようにして、その身を宙に浮かす。
むろんその身を、翼を氷の刃が切り裂くが、ドラゴンは気にせず口を大きく開いた。
「ゴゥァアッ」
――その口から放たれたのは火球。
それが、ごおと音を立て、青年へと迫り来る。
〈――即時召喚:スヴェル〉
青年は、氷で出来た盾を召喚し火球を受け止めた。
ぱき……。火球の消滅とともに、氷の盾も音を立てて崩れる。
と同時に、即時召喚の触媒となった白青の輝石も砕け散り、その細片がきらりと宙へ舞った。
〈――即時召喚:ジャックズ・ビーンストーク〉
青年の周りに浮く輝石から一つ、青丹のものが飛び出し地面に刺さる。
――ぞくん。そこから巨大な蔓が伸び上がり、ドラゴンへと巻き付いた。
「グゥガ――」
ドラゴンはもだえるが、太く巻き付いた蔓は身じろぎもしない。
「――今だ」
青年の鋭い声に、ポリアフは再び右手を掲げ、スペルを放つ。
〈――ウェキウ・バグズ〉
現れたのは、透き通った白藍色の虫、虫、虫。
それらはするりと、ドラゴンに巻き付いた蔓を上ると、朱い鱗に向けその鋭い牙を突き立てた。
「――グァアア」
苦悶の声を上げるドラゴン。
だが、バグズは牙を突き立てるのをやめない。
ここでたたみかけられるか?
青年がそう思った瞬間だった。
……ぽとり。バグズが一匹、ドラゴンの身体から落ち、溶けるように消えていく。
見ると、ドラゴンの身体が赤熱していた。
朱く染まった身体にあぶられ、バグズは次々と地面に落ちていく。その身に巻き付いた蔓も所々が炭化し始めていた。
まずい。そう思う暇もあらばこそ、ドラゴンはその身を大きく回転させる。
ぶちり。音を立てて引きちぎられ細片となり散るジャックズ・ビーンストーク。
そしてドラゴンはその勢いのままに、大きくしなる尻尾をたたきつけてきた。
〈――即時――〉
「つっ」
詠唱の途中、間に合わないと判断したのか、青年はそれを破棄し大きく後ろに飛ぶ。
そのおかげか、尻尾を回避することはできた。
だが、体勢の崩れた青年を、叩きつけられた尻尾の衝撃とともに、撒き散らかされた飛礫が襲う。
「ぐっ」
かわすことができず障壁符が数枚はじけ飛んだ。
――が、ドラゴンの攻撃はそこで止まった。
組んだ腕の隙間から、青年がドラゴンを見上げる。
そこには、強者の余裕だろうか、眼光炯々とこちらを見るドラゴンの姿があった。
「なるほど、仕切り直しをお望みってことか。余裕だな……」
青年がドラゴンを指さす。
「だけどな、その鼻っ柱たたき折ってやるから、覚悟しとけ」
「ゴォゥアァア」
ドラゴンも青年に呼応するかのように雄叫びを上げ――
――そして、戦いは再開された。
ドラゴンの突進をゴーレムの腕でいなし、その翼による風の刃はエアリアルを召喚し相殺する。
そしてこちらも再度ジャックズ・ビーンストークを即時召喚し、ドラゴンの体を束縛しようとするも、ドラゴンのその爪と牙により束縛を断ち切られる。
そんな戦いが幾合も続いただろうか、すでにこちらのMPは残り少なく、即時召喚のための各種輝石も心もとなくなってきている。
とはいえドラゴンも、その身をポリアフに切り刻まれ、当初の輝きはすでにない。周囲の溶岩も冷えて固まり足場も広くなっている
このまま押しきれる。そう思ったその時だった――。
「――ゴゥァアッ」
ドラゴンが火球を放った。
だがそれが向かう先は青年ではない。天井だ。
火球は壁に当たり砕け散り、炎と瓦礫をまき散らす。
〈――即時召喚:ストンゴーレム〉
青年は即座にゴーレムを呼び出した。
即時召喚されたゴーレムは、落ちてくる瓦礫から青年とポリアフをかばい消滅し、褐色の細片を散らす。
ドラゴンの攻撃をなんとか耐えしのいだ二人だったが、そのの周りはもうもうとした土煙に覆われ、視界が遮られてしまった。
「……くるか?」
不意の強襲に備え身構えるが、しかして何も起こらず……、そうして土煙が晴れてきた。
晴れゆく視界。そこにあったのは、どっしりと構え、喉を大きく膨らませるドラゴンの姿だった。
ドラゴンはゆっくりとその顎を開く。そのアギトの前、そして周りにいくつもの魔方陣が展開する。
やばいっ、そう思う暇もあらばこそドラゴンはブレスを放ってきた。
今までのような火の玉ではない、輝く熱線だ。
「ガアアァァァアアァァ」
〈――即時召喚:スヴェル〉
とっさに青年が召喚したのは氷の盾。それは熱線と青年の間に差し込まれ――、
――バンッ。数瞬も持たず砕け散った。と同時に障壁符も次々とはじけ飛んでいく。
〈――即時召喚:ストンゴーレム〉
ゴーレムの巨体が青年を覆うも、それも一瞬で消え去る。それと同時に最後の障壁符もはじけ飛んだ。
「くっ」
もはやこれまでと身を固くする青年を、白い影がふわりと覆った。
〈――アイウォヒクプア〉
青年の耳元で小さく紡がれるスペル。それとともに彼の視界は白く染まる――。
……そして視界が晴れたとき目に飛び込んできたのは、二つの光景。
一つはドラゴンから直線上に伸びるえぐれた地面。その亀裂は、青年の前だけ不自然に切り取られている。
そしてもう一つ。それは青年の傍らで薄く消えゆくポリアフの姿だった。
「まさかおまえ、かばって……」
そうつぶやく青年に、ポリアフは首を横に振って答え、静かに指をさす。
そこには準備が整ったとばかりに点滅するアイコンが一つ。
「なっ――」
なおも言いつのろうとする青年の口を、ポリアフは指で小さく制した。
そして再度ゆっくりと首を横に振り、満足げな微笑みを浮かべ、その身体を純白の細片に変えた。
と同時に、彼の目の前のウィンドウに写るのは、点滅するスキルの使用条件と効果。
「そういうことかよ」
彼は独りごつ。
このスキルの使用条件にポリアフの消滅があったであろう事はわかった。
だからってあんな顔で消えていくことはないだろう。
俺はかばってほしくて、消えてほしくて召還したわけじゃないのに。
そんな彼の感傷をよそに、いや、その思いがあるからこそ、彼の口は詠唱を紡ぎ始める。
「この地は戦場、生と死が交錯する戦いの庭。
我を守護せし戦乙女よ。汝に捧げしは、この場で散りし数多の精霊」
先ほどのブレスを再度放とうとしているのだろうか。ドラゴンの周りにいくつもの魔方陣が展開し始めた。
だがかまわない。よける必要もない。
なぜなら、この召喚には彼女たちの力が詰まっているのだから。
――だから負けない! 負けるものかよ。
その想いを込め、彼は最後の言葉を紡ぐ。
「顕現せよ! そして我が前の敵を穿て!」
〈――召喚:ワルキューレ〉
――同時だった。
ドラゴンのブレスと、青銀の鎧兜を身にまとった戦乙女がその地に降り立ったのは――。
「ガアアァァァアアァァアアァァ」
熱線は、一度目のそれを越えた勢いで迫り来る。
――だが戦乙女は、それを歯牙にもかけず飛翔んだ。左の盾でブレスを切り裂きながら。
――戦乙女は貫く。右の手に携えし青銀の槍を掲げて。
その槍とドラゴンが交錯したとき、世界は光に包まれた。
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