ヴァルホルサーガVR~夜明けの開拓者たち~《改稿版》~地雷スタートでもヒーローになれますか?~

夏冬春日

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第1章 宵闇の冒険者

第三話 ふぁいといっとあうと

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 さて、開拓使庁舎のある町――母体となった遺跡にちなみオールドーという――の西側は入り江に接している。最初に演説が行われた港の方角だ。
 ではその他の方角はというと、平原に接している。それぞれ東にアナトリ平野、北にヴォラス草原、南にノトス平原と言った名前だ。
 そして、今俺がたっているのは南のノトス平原。町を出てすぐ、城壁のそばだ。門番さんに一番弱いモンスターの場所を聞いたらここを紹介されたのだ。
 周りを見ても人はまばら。町のすぐそばは敵も少ないし、皆遠くに行っているのだろう。まぁ、普通に畑とかもあるしな。仕方ない。
 それに、本格的な開拓場所はさらに一つ向こうのマップになるらしいしね。

 実は町の外以外にも戦闘経験を積む場所はある。オールドーの町の地下に広がる遺跡だ。ただそこは入場に貢献度が必要らしく、今の俺には入れない。
 まぁ、もし入れたところで敵に刈られるか罠にかかるのがオチだろう。

 さて、外に出てきた俺の装備はというと、初期の野暮ったい服にオリゴナイフという出で立ちだ。
 アビリティの関係上、防具は服しか装備できないし、武器も初期装備のオリゴナイフしか装備できない。
 外に出る前に軽く商店を冷やかしてきたんだけれども、武器はどれも装備不可だった。
 まぁ、そんなにお金があるわけじゃなし、大事に使わないといけないから、買えないなら買えないでもかまわないんだが……。
 それに一応、このオリゴナイフがあるしな。ただこれはなぁ……。
 俺は改めてオリゴナイフの能力を表示した。


 ―――――――――――――――――――――
 オリゴナイフ

 狩猟の神ラマルカウスが狩りに使用したナイフのレプリカ。
 ただしただのレプリカではない。戦乙女シグルドリーヴァの手で作られている
 故にその形状、付与された能力は一部の違いも無く同質。いわばすべてのオリゴナイフが同一のものといえよう。
 すべてのエインヘリヤルに下賜され、またエインヘイリアルであれば誰でも装備できる。
 なお、戦乙女に返納することも可能。その際GPを取得できる。

 攻撃力:1
 装備条件:無し
 能力:不壊
 ―――――――――――――――――――――

 期待をふくらませるフレーバーテキスト。そしてその能力は不壊。
 だがその間に燦然と輝く、攻撃力1の文字。

 思わずはぁとため息が出る。

 いや理屈はわかるんだよ。初期からすごいものを持たされるわけもないし、壊れない能力というのはそれはそれで有能だと言うことも。
 おそらくそもそもの用途は、戦闘ではないんじゃないだろうか。例えば解体用とかさ。
 それで、より有用なものを手に入れたら返納してGPを取得、がおそらく想定されている流れだろう。
 だがまあ、俺にはその道をとることはできない。頼みの綱はこのオリゴナイフだけなのだ。

 俺はオリゴナイフを構えた。相手は目の前のマーモット――20センチくらいのネズミ――だ。オールドー周辺では最弱クラスの魔物だが、薬草等を食い荒らすため害獣扱いされている。ちなみに一般人でも難なく倒せる程度の魔物である。

 穴を掘り草の根をかじるマーモット。俺には気づいていない、もしくは気にしていないのだろうか。少なくともアクティブモンスターではないのだろう。こちらを気にする様子はない。

 その後ろにそろりと近づき――。

「やあっ」

 オリゴナイフを突き出した。
 狙い違わず命中し、マーモットの上に数字がポップする。

【1】

 たった一点というなかれ。これは他のエインヘリヤルにとっては小さな一点だが、俺にとっては大きな飛躍なのだ。
 その証拠に見てみろ、あのマーモットのHPバーを。一割近く減っているじゃないか。
 同じ事を後10回やれば倒せるんだから簡単なものだ。

 気づくと、マーモットが振り返り、にらむようにこちらを見上げている。
 なにしよるんじゃわれぇ、とでも言いそうだ。

 いやまぁ、食事中に尻の穴にナイフさされたんだ。そりゃ怒るわな。
 と、そんなことを思っていると、マーモットは強く地面を踏みしめ――。

「Dii」

 ――俺に向かって飛びかかってきた。

「なっ」

 倒れ込むようにしてその攻撃をよける。
 あっぶねぇ、油断してた。だけどこれはチャンスだ。攻撃をよけられたマーモットはこちらに背を向けている。
 急いで振り向き、崩れた体勢のままにオリゴナイフを振るう。

「せいっ」

 今度もなんとか命中。もう一度マーモットの尻を切り裂いてやった。
 …………って、おいまて。そりゃないだろう。
 マーモットの頭上には『0』という文字がポップしている。HPゲージの方も変わりない。

 そしてマーモットはゆっくりと振り向き――、

「hepu」

 鼻で笑いおった。なんて腹立たしい奴。
 加えて、再度飛びかかろうというのだろうか、後ろ足を強く踏みしめている。

 だが、これはチャンスだ。
 さっきは体勢が崩れたまま攻撃したからダメージがなかったのだろう。
 今度は丁寧によけて、丁寧に攻撃する。

「Dii」

 マーモットが飛びかかってくる。だがその軌道はさっきと同じ。
 俺はその攻撃を身体を回転させるようにして避け、振り向きざまにナイフを一閃する。

「せやっ」

 よし、今度はきれいにマーモットの尻を縦に切り裂いた。なのに――

【0】

 無情にもダメージが与えられなかった。

「おいおい、それはないだろう」

 半ばやけになりナイフを振るう。その攻撃は幸運にも、振り返ろうとしていたマーモットに当たった。

【1】

 え!? どういうことだ?
 丁寧に攻撃したら0、雑な攻撃が1とか……。
 いや、考察は後だ。今はマーモットに集中しないと。

 マーモットはまたして後ろ足に力を込め、飛びかかろうとしている。
 よし、この攻撃なら大丈夫。もう一度避けて攻撃を――。

 ――いやまて、違う!

 マーモットは跳ねた。さっきまでと一緒だ。
 だがスピードが段違いだ。さっきまでだったら余裕で避けられたのにっ!

 ぐぬぅっ。

 無理矢理に身体を倒し避ける。が、完全にはかなわず、マーモットの攻撃が脇をかすめた。
 
「――ぐぁっ」

 いってぇ。
 すぐにHPを確認。げっ、半分近く減ってるじゃないか。ちょっとかすっただけなのに。
 やばい。早く回復薬を使わないと。追撃されたら死に戻りするかもしれん。いやでもどうやって使うんだ? とりあえず取り出して……。

 そう思うのだが、焦りのせいか思考が空回りし、うまく回復薬を取り出すことができない。

 ええい、こうなったらいったん仕切り直しだ。
 俺は這々の体でマーモットから距離をとった。

 そんな俺を見てマーモットは興味を失ったのか、「hepu」と鼻で笑って草を食みに戻っていった。
 ……地味にへこむ。そして悔しすぎる。

 しかもあのマーモット、俺がある程度離れた段階でHPが全快しやがった。
 ちくしょう。逃げ撃ちをさせないという運営の確固たる意思を感じるな。

 いやまあ、とりあえずそれはいい。ひとまずは何であんなダメージを受けたか、それをはっきりさせないとな。
 腰を落とし、とりあえずログを確認する。

 ……ああ、なるほど。

 原因はすぐにわかった。
 ダメージログのすぐ上にある【critical】の文字。criticalだからダメージも高くて、しかもあんなに早く避けづらかったのか。納得だ。
 とはいえあのクリティカル攻撃、かすっただけでHPを半分近く持って行った。ダメージのブレを考えると、二回かすっただけでやばい。
 直撃なんて言わずもがなだ。
 となると、できるだけ効率的にマーモットにダメージを与えなきゃならないんだが……。
 こちらの攻撃も0だったり1だったりとぶれている。いくら攻撃力が低いとはいえ、一般人でも勝てる敵に半殺しにされるとか、何か原因があるはずだ。

 改めて己のステータスを見てみるか。



〔エルルーンの冥助〕の効果は、良くも悪くも戦闘に直接関係しない。
 となると〔戦乙女の祝福〕の方が何か悪さをしていると思うんだが……。
 詳細を開き、読んでみる。

「ああ、やっぱりそうか……」

 思わず声に出し頷いてしまった。

 ―――――――――――――――――――――
 戦乙女の祝福

 すべてのエインヘリヤルが持つアビリティ。
 魔物と戦うための能力を得る代わりに、日常生活は送りづらくなる。
 これに加えてエインヘリヤルは、自分を守護する戦乙女から個別の加護を得る。


 効果

 死亡からの復活
 老化抑制
 クラス、アビリティ、スキル等のの取得による個体成長率の上昇
 非戦闘時の回復力上昇。
 対応したクラスやアビリティ、スキル等がないと行動にペナルティがかかる。
 
 ―――――――――――――――――――――

 この、『対応したクラスやスキル、アビリティ等がないと行動にペナルティがかかる』ってところが悪さをしているんだろう。
 オリゴナイフには、その特性上誰でも装備ができる。ただ俺は、ナイフ装備系のアビリティを持ってないし、クラスも戦闘職じゃない。
 そのペナルティがあるからこその、あのしょっぱいダメージだったんだろう。
 戦闘にならないわけだ。カネティスが怒るのも頷けるね。とはいえこれでなんとかしなきゃならない。
 っと、そうこうしているうちにHPが回復したな。これが『非戦闘時の回復力上昇』効果か。
 レベルが低いからだとしてもそこそこな量が回復している。これはありがたい。
 もらった回復薬は五つしかない。無駄遣いをするわけにはいかないからな。
 後は使用法だが……。飲むかかけるかするんだな。よし理解した。
 とっさの行動でパニクるときがあるから、しっかり準備をしておかないと……。

 さて、残るはどうやってマーモットに勝つかなんだが……。
 近距離が危ないんなら、次は遠距離からの攻撃だよな。

 俺はそばの小石を拾い壁に向かって投げてみた。

 カン。

 よしっ。ちゃんと当たった。
 もしかして投げられなかったりしたらとヒヤヒヤしたが、大丈夫なようだ。
 後は、ちゃんと命中させられるか。そして、うまいこと引き打ちできるか、だが……。
 学生時代水切り大会で優勝し、印字打ちの響と恐れられた俺だ。そこら辺はうまくできるだろう。きっとな。
 そんなわけで第一投!

「せい」

 よっし。狙い違わず命中。
 後は適度に退きながら投げ続けないと。離れすぎるとマーモットのHPが全快するだろうからな。そこらへんのさじ加減が……。

 と、そこまで考えたところで、はたと気づいた。
 マーモットがこちらに向かってこない。
 どころか、何かしたの? と言わんばかりの表情でこちらを見てる。
 そういえばダメージのポップもなかったように感じる。

 ……まさかな。

 不安を押し殺し、再度の投石。
 そう、さっきの命中は見間違い、外れてたんだ。だからしっかりと命中させれば……。

 ・・・
 ・・
 ・

 ――――投げること数十球。俺はがくりと膝をついた。
 投石はダメだ。当ててもダメージのポップが一切出なかった。マーモットもこっちを小馬鹿にして笑うし……。

 石を持って投げられる=装備できているわけじゃないんだろうか。攻撃力が低いだけだったら『0』がポップするだろうし。
 もしくは白河印字みたいなクラスとか〔装備:石〕みたいなアビリティとかがあったりするんだろうか。

 まぁ、どちらにしてもこの挑戦はダメだった。
 なら次はどうしようか。このままではいかんともしがたいわけだが。
 そう思いを巡らせながら天を仰ぎ見る。空が赤く染まっていた。もう夕方か……。おなかすいたな。

 …………まずい! 一つのことに思い当たり慌てて周りを見渡す。

 そこでは冒険帰りであろう人たちがこちらを見ていた。
 夕刻の、しかも町の門のそばなんだ。そりゃ人が増えるだろう。
 中にはこちらを見て笑ってる人もいる。
 も、もしかしなくても俺とマーモットの激闘を見られてたのか……。ぐぬぬ、穴があったら入りたい。

 思わず顔を覆い、町に向かって走り出した。
 見ず知らずの人はともかく、もしフジノキ達にもしみられたらと思うと恥ずかしすぎる。

「hepu」

 後ろからマーモットの笑い声が追いかけてきた。
 うるせぇ。勝負は明日にお預けだ。首を洗って待っていろ!

「hepupu」

 マーモットのやろう、また鼻で笑いやがった。
 ちくしょう、覚えてやがれ!
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