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特別編 記念話はIF、特別話は主人公たちの知りえない話です
渚編 特別短編 水無瀬女子高等学校都市伝説部 前
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明かりの消えた教室の中、外から差し込む赤い光が彼女の髪を照らしている。
ショートカットの黒い髪がまるで血に濡れたようで、見る者によってはぞっとするのだろう。
しかし、櫻子にはそれがとても美しく見えていた。
「櫻子、わざわざ私に会いに来てくれたの?」
記憶に残るままの涼しい声。
夏の暑さを忘れさせてくれる風鈴のような心地良さ。
櫻子はこの声にまた名前を呼んで欲しくて、随分と無茶をした。
「うん、けっこう大変だったんだよ?」
櫻子の髪を縛っていたリボンは解け、どこかにいってしまっている。
こんな事ならひとりで来たら良かった。
保険のために仲間を募ったが、襲われないとわかっていたならそんな事はしなかった。
すみれはそんな事を考える櫻子の顔を見てにっこりと微笑むと、ポケットからすみれ色のリボンを取り出した。
無くしてしまったはずのそのリボンが、また髪に結ばれる。
忘れないように、ずっと一緒に居られるように。
そんなおまじないを掛けられたリボンがまた、櫻子の心と体を縛っていく。
「ほら、形、整えてあげるから後ろ向いて」
「うん」
櫻子のうなじにすみれの息がかかる。
リボンを整えるなんてただの口実だ。
櫻子のリボンを結ぶのはすみれにとって日課であり、たとえ目を閉じていたって綺麗に結べる。
すみれは結ばれた髪の束を前へと逃がすと、そっと櫻子の体を抱きしめた。
涼しげな声に似合う涼しげな体。
半袖のシャツから伸びる腕に肌が直接触れると、まるで電気のような刺激が櫻子に走った。
会えなかった日々が、これまでの思い出が駆け巡る。
小さく肩を揺らす櫻子の頭を、すみれの手がそっと撫でた。
「なんで泣いてるの? 嬉しい? 悲しい?」
「両方」
体へと回した腕を、ぎゅっと握る櫻子の手が熱い。
それはまるで、会えなかった期間を責めているような、罪人を罰する焼きごてのような。
冷えた体の表面を焦がすその手が、すみれは愛おしくて仕方ない。
もし苦痛に顔を歪めれば、優しい櫻子は手を離してしまうだろう。
気付かれないように平気な顔をして、すみれは櫻子の髪へと顔を埋めた。
「シャンプー変えた?」
「変えないよ。 花の匂いがして好きだ、ってすみれが言ったから」
覚えてる匂いとは少し違う甘い匂い。
会えない間に何を経験したのだろう。
変わってしまったその匂いに、すみれは少し嫉妬を感じてしまった。
会えない期間が伸びれば伸びるほど、櫻子はどんどん知らない匂いになっていくのだろう。
せめて今の匂いを忘れないように、胸いっぱいに今の櫻子を吸い込んだ。
「なんか変態っぽい」
「これくらい許してよ。 ……ほんとはもっと色々したいんだからさ」
すみれの手が櫻子のお腹を撫でる。
まるで妊婦にするようなその手つきに、櫻子は思わず笑ってしまう。
「今、妊娠何ヵ月だっけ、お父さん?」
「からかわないでよ、慣れてないんだから」
ガラス細工に触れるように、拙い手が櫻子の体をなぞる。
その感触を、形を忘れないように。
再びぎゅっと抱きしめるようにして回されたその手を、櫻子は自らの胸へと誘った。
すみれの手が緊張で固まり、微動だにしなくなる。
「あの……櫻子?」
「全部確かめて。 私がちゃんと私かどうか」
あの櫻子にリードされるなんて。
こんなに積極的な姿は見た事が無いし、こんなにかっこいいと思った事は無い。
おままごとでもお父さん役はいつもすみれで、櫻子はいつもお母さん役だった。
促されるまま、櫻子の胸の輪郭をなぞる。
細いながらも感触はちゃんとあり、自分の物よりもはるかに柔らかい。
その柔らかさはまるで初めて女の子の体に触れたようで、世の中にここまで触り心地の良い物があったかのかとすみれを驚かせた。
「小さいよね」
「うん、でも柔らかくて、女の子って感じ」
「なにそれ。 すみれの方が女の子って感じなのに」
自身の胸を見て、すみれは黙り込む。
大きさこそ櫻子以上だが少し硬めで、櫻子のようにはいかない。
この柔らかさを知ってしまったら、女の子の定義からは外れてしまうだろう。
「私はほら、部活で忙しかったからさ」
「弓道で硬くなっちゃった?」
「だろうね、これじゃほとんど男かも」
背中に当たる確かな柔らかさを感じながら、櫻子はそうかも、と返した。
すみれを独占したいがための小さな嘘。
ほとんど男になったすみれが、このまま心まで男になってくれたら良いのに。
もし男ならきっと、この体に思い出を刻み込んでくれるはずだ。
「私はすみれが男でも女でもどっちでも良いよ」
「ついてるかどうかくらいだもんね。 なんなら後からつけてもいいし」
「もう、ムード最悪」
櫻子は、すみれの手を強く自身の体へと押し付ける。
そして重ねた手をリズミカルに、胸を揉みしだくように動かした。
すみれは予感していたものの、まさか本当にこうなるとは思っていなかった。
櫻子との関係は、呆れられながらも、もし抱かれるならどんな体位が良いか、などが話せる心の許せる友達だと思っていた。
話の対象は当然男で、彼氏が出来たら海に行くとも言っていたのに。
「初めて抱かれるときは、抱き合ったまま顔を見ながら、だったよね」
櫻子がくるりと、すみれの方に体を向ける。
その目はすみれの知らない愁いを帯びており、冷え切った心に熱を宿らせた。
幽世村。
日本有数の心霊スポットで、最近じゃテレビでも話題になっている。
そこはこことは違う別の世界で、怖い目には会うが入った人の願いを叶えてくれるらしい。
そんな噂が広がるにつれ、そこを求める人たちは爆発的に増えていった。
そんなグループのひとつに、櫻子は所属している。
水無瀬女子高等学校都市伝説部。
民俗学の観点から都市伝説を研究し、水無瀬独自の風土や風習を学ぶ、という名目で作られたこの部は、実質ただのゴシップ新聞部だ。
ただ、同人誌として発行される研究報告本は一定の層に人気があり、知る人ぞ知る、といった評価を受けている。
「じゃあ今年は幽世村で決まりね。 移動は電車で各自駅まで、駅からは乗り合わせてタクシーで移動、って事で」
部長の純がそう話を纏めると、他の部員たちはそろってはーいと返事をする。
純はいわゆる王子様で、その中性的で整ったルックスとさっぱりとした性格から人気が高く、この都市伝説部もほとんど純のファンクラブだ。
特にこの夏の時期は、ウェーブがかったセミロングの髪を結んでポニーテールにしているのもあって、見たことも無い幽霊部員までもが集まってきている。
元気にはーい、と返事をしておきながら、現地へと来るのは何人だろう。
二人か、三人か。
もっと少ないかもしれない。
丁寧に髪を巻き、透明なネイルで着飾った華美な者など誰も来ないだろう。
わざわざ電車とタクシーを使ってまでそんな場所にいくもの好きなんて、櫻子かふうりくらいだ。
「ねぇ、さくちゃんは行くよね?」
純の一団から離れた場所に座っていた櫻子を、くりくりとした大きな目が捉えた。
ボリュームのあるふわふわの明るい茶髪と同じ色のその目はとても優しげで、感情の起伏の少ない櫻子の心にすら温かいものを伝えてくる。
ふうりはこの部随一の変わり者で、明るく元気で怖がりながら都市伝説が大好きというムードメーカーだ。
そんなふうりが櫻子にくっついて離れないのはどういう訳だろう。
櫻子も、始めこそ憐れみかと素っ気ない態度を取っていたが、今ではもう居ることが普通になっている。
「うん、幽世村は前から興味あったし、夏休みはどうせ暇だからね」
配られたばかりの夏休みの宿題をやりながら櫻子は答えた。
冊子に向かったままの櫻子の頬に、ふうりの両手が添えられる。
そのままぐいっと持ち上げると、ふうりは真っ直ぐ見つめたままにこっと笑った。
櫻子は照れくさくて、すぐにまた視線を落としてしまう。
話をする時は人の目を見て。
ふうりには散々そう言われているがやはり慣れない。
気まずさを紛らわせるためにも、櫻子はまた問題を解き始めた。
夏らしい、暑苦しい風が櫻子の髪を撫でる。
すみれ色のリボンに結われた髪の束が風に揺れると、ふうりはその行方を目で追った。
「で、蓋を開けてみたら三人しか来なかった訳だ」
駅近くのタクシー乗り場、そこに集まるのは夏制服の四人組。
純と、櫻子と、ふうりと、姫花だ。
「私の本気度が伝わった?」
勝ち気な目で純を見つめる姫花は、いつにも増して気合いが入っているように見える。
長い黒髪は綺麗に巻かれ、風に乗せて花にも似た香水の良い香りを運んでいた。
純にその香りを褒められて以来、姫花は純一筋だ。
純が一歩、姫花へと近付くと、甘い果物のような香りが姫花の鼻に届いた。
爽やかだけど華やかで、どこか男らしくもある、純のためにあるかのような香り。
この二つの香りはとても相性が良く、姫花の香りには清涼感を、純の香りには女性らしさを与えている。
ふたりはしばらく無言のまま見つめ合うと、ふっと小さく笑った。
「ずっと前から伝わってるよ。 じゃなきゃこんな所まで追ってこないだろう?」
冗談ぽく言いながら、純はタクシーを呼び止める。
純と姫花。
二人ともまるで漫画の主人公のようで、この二人が揃った場には独特の空気が流れだす。
素晴らしい芸術を目の前にした時のような、圧倒される緊張感。
この空気が、櫻子は苦手だった。
「私、車に酔いやすいから、綺麗なタクシーだと嬉しいな」
そんな櫻子を気づかって、ふうりはわざと大きな声を出した。
小さく、もこもことした生き物が目の前に居るのだから抱きしめたくもなる。
櫻子は無防備なふうりを後ろから抱きしめると、頭をわしわしと撫でた。
「また捕まってる」
「うー……ただでさえ暑いのにぃ……」
そんな様子を楽しそうに見ている純と、迷惑そうに嫌がるふうり、無表情の櫻子と姫花。
都市伝説部設立入部以来、幾度となく繰り返された光景だ。
櫻子は無表情ながら、ふうりの髪から漂うお日様の香りを胸いっぱいに吸い込んでいた。
気が付くと、櫻子は一人だった。
全員でタクシーに乗り込み、幽世村まで、と目的地を告げ、村長さんへのインタビューのリハーサルをして。
そして、石鳥居をくぐった所で意識が途絶えた。
辺りは赤い闇に覆われている。
目の前にはなぜか自分たちの通う女子校の正門があり、櫻子はただ呆然と立ち尽くしていた。
タクシーは、みんなはどうなったのか。
どうやってここに来たのか。
ここはどこなのか、なぜ学校があるのか。
様々な疑問が渦巻いていたが、それよりも重要な事がある。
ここが本当に幽世村ならば、ひとつ確かめないといけない。
櫻子はゆっくりと歩を進め、学校内へと入って行った。
「おーい、誰か居る?」
純の声が学校内へと響く。
ここは三階の渡り廊下。
部室へと繋がるその廊下だ。
窓からの赤い光が校舎内を照らし、不気味な場所へと変えている。
周囲に他のメンバーの姿は無く、なぜこんな場所に居るのかは純にもわからない。
それでも部室へと向かうのは、そこに行けば誰か居るだろうという根拠のない考えからだ。
カツ、カツという自分の足音だけが廊下に響く。
夜の校舎に女生徒一人。
ホラー映画じゃお約束の展開だ。
不安げに校舎を進む女生徒は映る影や突然の物音に驚きながらも歩き続けて、その場に潜む何者かの最初の目撃者になる。
犠牲になるかどうかは作品次第だが、少なくとも今回はしっとりとしたホラーでは無いらしい。
部室の扉を開いた純を待っていたのは、青白い顔をした取り巻きたちだった。
見るからに血色が悪い、死人のような顔をした彼女たちは、都市伝説部の幽霊部員たちと同じ顔をしている。
少し違うのは、いつものような羨望の眼差しではなく、獲物を狙う獣のようなギラついた目をしている点だ。
純は持ち前の運動神経をもって、伸びてきた無数の手から逃れていた。
部室から距離をとり、来た道を急いで戻る。
下へ降りる階段を探し、廊下を駆け抜けた。
開かれたシャツの胸元から入った風が体を撫で、短いスカートから外へと出ていく。
それはまるで人の息のような生暖かさで、純は思わず身震いしてしまう。
そんな空気に体を弄ばれながら、純は止まること無く走り続ける。
その廊下は実際の学校のものよりはるかに長く、どれだけ進んでも階段が見えてこない。
ふと上を見上げると、そこには都市伝説部、という木札が掛かっていた。
「なにこれ、詰んでるじゃん」
その仕組みに気づいた純は、ふっと全てを諦めて涼しい顔をした。
この廊下はループしている。
部室の前を通り過ぎるとまた部室の前で、どれだけ進もうとぐるぐるぐるぐる、同じ場所を繰り返している。
純が立ち止まると同時に、部室から無数の腕が伸びてくる。
純はその腕に体を委ねると、ゆっくりと目を閉じた。
純は諦めが良いほうだ。
やりたい事はその日の内に済ませ、いつ人生が終わっても良いように準備する主義だ。
今日だってここに来る前にアイスを二個食べたし、お気に入りの下着を着けてきた。
お気に入りの雑誌も全部読んだし、メイクだってばっちりだ。
最後がこんな訳のわからないシチュエーションになるのは予想外だったが、総合的に見れば良い人生だろう。
せめて最期が痛くないと良いな、などと考えていた純の体に、予想外の刺激が襲った。
「んぅ……霊なのにエッチな事するんだ……」
純を取り囲む霊たちは器用に服を脱がせ、下着を脱がせていた。
お気に入りのオレンジと黒の下着が机へと置かれると、純は一糸纏わぬ姿を晒す。
背が高く、スレンダーな体はまるでモデルのようで、まだ誰にも穢された事の無いその体は神秘的な美しさを放っている。
形の良い胸を撫でる霊の手の動きに合わせて悩まし気な吐息を漏らすその姿は、見るもの全てを魅了するだろう。
両方の胸や秘部を無数の手によって覆われ、地面に倒れたその姿は、まるでひとつのオブジェのようになっている。
「痛く無いならそれで良いけど……初めては好きな人が良かったなぁ……」
誰に言うでもない純の囁きが霊の群れの中へと消える。
部室の中で制服姿に囲まれ、裸になっているその状況が、純の感覚を麻痺させていた。
霊の手は氷のように冷たく、ぞくぞくとした震えを生じさせる。
ただ、思っていたような物では無かった。
霊の手が、純の乳房を揉み上げる。
感じさせ、喘がせる事を目的としたその手は決して痛みを与えること無く、優しい手付きで純の体を弄ぶ。
霊の指の動きに合わせて形を変える白い乳房は、赤い光の中にあってなお美しく輝いていた。
その先端へと指が伸び、こちらも傷つけぬよう優しく責められる。
二本の指を擦り付けるようにして刺激されると、純は小さく息を漏らした。
「ん……でもイマイチかも」
本で読んだようなもどかしい感じも、蕩けるような気持ち良さも、頭が真っ白になるような激しい快感も何も無い。
ただ少しくすぐったくて、恥ずかしいだけだ。
霊の手の冷たさにも慣れてしまうと、もうどれだけ胸を責められようと息が漏れる事すら無くなった。
純は、性的な興味が殆どない。
気づいた時から自分自身が男なのか女なのかもわからず、人を好きになるという事がどういう事なのかわからなかった。
少女漫画や恋愛映画で恋という物がどういう物かは知っているが、共感できる所はひとつも無かった。
年頃になり、いわゆる性行為に関する知識やエッチな事に対する欲求がある事も学んだが、純にとっては別の生き物の話のように聞こえていた。
自慰行為という物を知り試しもしたが、何も感じる事は無かった。
その頃から本人の自覚として、恐らく自分は普通の人とは別の生き物なんだろうと感じ始めた。
人から向けられる好意もその目的がわからず、別け隔てなく受け取った。
誰とでも仲良くしたし、誰の悪口も言わなかった。
全員が好きではなく、全員が嫌いでもない。
純にとって他の人間はみな普通で、自分の親や漫画の中のキャラクターですら好きとも嫌いとも思えなかった。
もし病院に行って本当の事を話したら、何かしらの病名がつくだろう。
それが普通では無い事をわかっていた純は、誰にも悟られる事無く本当の自分を隠してきた。
「飽きてきたなぁ……」
いい加減、胸を弄る手が鬱陶しい。
触り方を変えたりつねったりもしてきたが、何をされようとも純は感じなかった。
周囲を囲む霊たちのギラついた視線に対し、純は冷めきった氷のような視線を返している。
生きた人間の生気に群がった霊たちも、ここまで希薄な生気ではいつまで経っても満たされない。
生きる事への情熱が微塵も感じられない純に、霊たちはいよいよ動きを止めてしまった。
「終わり? なら帰っても良いかな?」
体を起こそうとした純の腕を、無数の手が押さえつける。
やれやれと呆れた顔をした純の秘部に、冷たい指先があてがわれた。
霊たちは最終手段に出るようだ。
本来、幽世村の霊たちには生きた人間を発情させる淫らな気が備わっている。
生気を効率よく吸収するための物だが、興味も経験も無い純に対しては全く効果が無かった。
そこで霊たちは、秘部の奥、子宮に直接刺激を与え、生物の雌としての役割を思い出させようとしていたのだ。
そのおぞましい感覚に純は体を震わせる。
自分でもろくに触れた事の無い場所を他人に触られる気持ち悪さ。
感情の起伏の少ない純も、さすがにこれには嫌悪感を覚える。
しかし、抵抗できないのも事実だ。
できれば早く終わって欲しいと願いつつ、純は天井の模様を目でなぞった。
「こんっのやろうっ!」
ガシャンと、ガラスの割れる大きな音がした。
同時に聞こえてきたのは姫花の叫び声。
普段のプライドに満ちた余裕のある姿からは想像も出来ない大きな声で、純は思わず笑ってしまった。
「とりゃあ!」
続けて、ジャリジャリとした砂のような物が体の上に落ちてきた。
真っ白なそれは塩のようで、口の中が少ししょっぱくなってしまった。
純の周りを囲んでいた霊たちが消え、床の上には裸の純だけが残される。
頭の上に視線を移すと、そこには息を切らした姫花の姿があった。
「姫花、君もここに?」
「それより大丈夫なの!? 私、間に合った!?」
姫花は素早く純のもとへと駆け寄ると、純の体を起こしてぎゅっと強く抱きしめた。
霊のものとは違う温かく柔らかな感触が心地良い。
「ぎりぎりセーフ、おかげで処女のままだよ」
「良かったぁ……ここの幽霊みんな変で、エッチな事ばかりしてくるの!」
準備の良い姫花の事だから、心霊スポットに行くとわかった時点で色々用意していたのだろう。
部屋の入り口に貼られた見慣れないお札や、姫花の手首に巻かれた数珠からも準備の良さが伺える。
腕の中で必死にここまでの苦労を訴える姫花の頭を、純は静かに撫で続けた。
「ところで、なんで私が処女だと助かるの?」
「好きだから。 初めてが私じゃないなんて嫌」
姫花はいつだって正直だ。
まさか姫花の好きがそういう物だとは知らなかったが、好きという物はみんなそうなのかも知れない。
男女間だろうと男同士だろうと女同士だろうと、やっぱり初めては大切な物なんだ。
恋に関して新たな知識を得た純は、心が少し温かくなるのを感じた。
「ちょっと人間になれたかも」
「何言ってるの?」
不思議そうな顔で見つめてくる姫花の顔が可笑しくて、純は思わず笑ってしまう。
その心からの笑顔が眩しくて、姫花は思わず顔を背けてしまった。
直後、純の唇が姫花の唇へと触れた。
ただ唇を重ねただけの簡単なキスだったが、その衝撃に姫花の頭は真っ白になる。
目と鼻の先まで迫った純の顔は、なに、とでも言いたそうな疑問を浮かべた顔だった。
「ちょっと、何して……」
「ファーストキス。 初めては大事だから、幽霊に奪われるくらいなら私の事を好きで居てくれる姫花に貰って欲しくって」
にっこりと笑いながら純はそう言うと、そのままもう一度唇を重ねた。
「……二回目の理由は?」
「したくなったから。 ダメ?」
純粋な目でこんな事を言われたら、もう我慢できるはずがない。
姫花は純を押し倒すと、貪るように唇を重ねた。
ぴちゃぴちゃという水音と、二人の荒い呼吸音だけが部室内に響き渡る。
唇を重ねながら手を重ね、お互いの体温を交換する。
姫花がゆっくりと唇を離すと、純は潤んだ瞳で熱のこもった吐息を漏らしていた。
「さっきは全然気持ち良くなかったんだけど……姫花が上手なのかな?」
「こういうのは好きな人とじゃないと気持ち良くないの。 純は特に好きな人が居ないんだから、霊たちとシたって気持ち良いわけないでしょ」
「そうなんだ。 じゃあ私、姫花の事が好きなんだね」
純の手が姫花の頭へと回されると、そのまま抱き寄せられまた唇が重なる。
ただ唇を重ねるだけのキスでも、二人にとっては十分刺戟的だった。
純にはまだ好きという気持ちがわからない。
ただ、姫花と一秒でも長くこうしていたいという、知らない欲望が渦巻いていた。
「次はどうしたら良い?」
「知らない。 エッチなシーンはほとんどカットされちゃうから」
「こんな事なら兄貴の隠してたエッチなDVD見とくんだったな」
「うえっ、気持ち悪……」
他愛もない会話を交わしながら、二人は何度もキスを交わす。
感触を確かめるように、これが恋かを確かめるように、答えが出ないまま二人は幾度となくキスを交わす。
純の体からすっかり力が抜けた頃、姫花は純の体にまたがったまま服を脱ぎ始めた。
「姫花、それはエッチ過ぎない? 私まで恥ずかしくなってきちゃった」
「裸で寝てる女がなに言ってんの? 純だけ裸じゃ恥ずかしいかと思って気を使ってあげたんだけど?」
「私に服着せたら良かったのに」
「それは、ほら……まだするから……」
気まずそうにする姫花の体を抱き寄せて、純はピンクと黒の可愛らしい下着を脱がせていく。
姫花は頬を染めたまま素直に裸にされると、純の目の前にその女の子らしい裸を晒した。
適度に丸みを帯びていて程よく脂肪の乗った、まさしく女の子といった体つき。
純のイメージする女の子そのままなその姿は、純の興味を大いに惹きつけた。
「うわっ……女の子ってこんな感じなんだ……」
「あんたも女でしょ。 あんまり見られると恥ずかしいんだけど」
純のプロポーションは女子の憧れそのもので、それを前にしているせいで余計に恥ずかしく感じてしまう。
体を隠す姫花の手に純はそっと手を重ねると、そのままモミモミと何かを揉みしだくように手を動かした。
「なにそのエロい手つき」
「霊たちがしてた。 姫花は揉まれたら気持ち良い?」
「わかんない、揉まれた事無いし」
「じゃあ代わりに揉んでみて。 はい」
純は自らの胸へと手を誘うと、姫花の手の上からモミモミと動かし始めた。
ぎこちない指が柔らかな乳房へと食い込み、程よい弾力を返してくる。
いつまでも揉んでいたくなるような、そんな感触。
しばらく夢中で揉みしだいていると、突然純の手がその動きを遮った。
「ん……待って……なんか、変……」
見ると、純ははぁはぁと息を荒らげながら潤んだ瞳で見つめてきていた。
体は小刻みに震えており、ピンク色の先端がつんと天井を指している。
純は感じている。
そう理解した途端、姫花は体の抑えが効かなくなった。
「んっ……やっ、だ……ちょっと、待ってぇ……」
純の切なげな甘い声が脳に響く。
責める手はどんどん激しくなっていき、もうどうする事も出来ない。
純にまたがる姫花の目は、霊たちと同じようにギラついていた。
乳房を揉みしだかれながら、硬くなった乳首を指先でカリカリと弾かれる。
その刺激は完全に未知の物で、純には耐えることも逃がすことも出来ない。
「だめっ……なんかくるっ……お腹がきゅんきゅんしてっ……んぅぅぅ!」
純の体はびくっと大きく跳ねたかと思うと、そのまま動かなくなってしまった。
お腹が呼吸のたびに大きく上下し、突き出された胸と浮かんだ肋骨が艶めかしい。
姫花は少し見惚れた後、純の体を急いで抱き起こした。
「ごめん! 夢中になってて……」
「たぶん、これが絶頂だよね……本当に頭が真っ白で……もう力入んないや……」
腕の中で小さく笑う純がとても愛おしく感じられ、姫花は強く抱きしめる。
絶頂により何かが抜けてしまった体に姫花の体温が染み渡るようで、純はまた小さく絶頂を迎えていた。
「あっ……これダメかも……姫花の匂いを嗅いでるとそれだけでイっちゃう……」
姫花の香水の香りは、高まった体温と共に溢れた姫花自身の匂いに混ざり、媚薬のように純の脳へと染み渡った。
ただ匂いを嗅いでいるだけで中から責められているようで、体の疼きと甘い痺れが止まらない。
昆虫などの生き物はフェロモンという匂いの一種に惹かれ、パートナーを選んだり繁殖行動を行ったりするらしい。
純はまさに今、姫花のフェロモンによって堕とされていた。
「大丈夫? 辛かったら言ってね?」
対する姫花は冷静さを取り戻し、ぐったりとしてしまった純を気づかっている。
長い付き合いになるが、純がここまで乱れるのは見た事が無い。
普段の涼しい顔からは想像もつかないその姿に、興奮よりも心配が勝ってしまっていた。
姫花の腕の中で、小さな絶頂が波のように押し寄せては引き、押し寄せては引きを繰り返し、純はもう何度目かもわからない絶頂を迎えていた。
霊たちの淫らな気は効果こそ薄かったが、純の中で爆発の時を待って蓄積されていた。
それが姫花の手によって呼び起こされ、慣れない純を快感の渦へと沈めたのだ。
姫花の腕の中で、純はその温かさと心地良さの虜になっている。
辛うじて動くようになった体で懇願するような潤んだ瞳を向け、姫花の顔をじっと見つめると、純はまた唇を重ねて姫花の体を抱き寄せた。
ショートカットの黒い髪がまるで血に濡れたようで、見る者によってはぞっとするのだろう。
しかし、櫻子にはそれがとても美しく見えていた。
「櫻子、わざわざ私に会いに来てくれたの?」
記憶に残るままの涼しい声。
夏の暑さを忘れさせてくれる風鈴のような心地良さ。
櫻子はこの声にまた名前を呼んで欲しくて、随分と無茶をした。
「うん、けっこう大変だったんだよ?」
櫻子の髪を縛っていたリボンは解け、どこかにいってしまっている。
こんな事ならひとりで来たら良かった。
保険のために仲間を募ったが、襲われないとわかっていたならそんな事はしなかった。
すみれはそんな事を考える櫻子の顔を見てにっこりと微笑むと、ポケットからすみれ色のリボンを取り出した。
無くしてしまったはずのそのリボンが、また髪に結ばれる。
忘れないように、ずっと一緒に居られるように。
そんなおまじないを掛けられたリボンがまた、櫻子の心と体を縛っていく。
「ほら、形、整えてあげるから後ろ向いて」
「うん」
櫻子のうなじにすみれの息がかかる。
リボンを整えるなんてただの口実だ。
櫻子のリボンを結ぶのはすみれにとって日課であり、たとえ目を閉じていたって綺麗に結べる。
すみれは結ばれた髪の束を前へと逃がすと、そっと櫻子の体を抱きしめた。
涼しげな声に似合う涼しげな体。
半袖のシャツから伸びる腕に肌が直接触れると、まるで電気のような刺激が櫻子に走った。
会えなかった日々が、これまでの思い出が駆け巡る。
小さく肩を揺らす櫻子の頭を、すみれの手がそっと撫でた。
「なんで泣いてるの? 嬉しい? 悲しい?」
「両方」
体へと回した腕を、ぎゅっと握る櫻子の手が熱い。
それはまるで、会えなかった期間を責めているような、罪人を罰する焼きごてのような。
冷えた体の表面を焦がすその手が、すみれは愛おしくて仕方ない。
もし苦痛に顔を歪めれば、優しい櫻子は手を離してしまうだろう。
気付かれないように平気な顔をして、すみれは櫻子の髪へと顔を埋めた。
「シャンプー変えた?」
「変えないよ。 花の匂いがして好きだ、ってすみれが言ったから」
覚えてる匂いとは少し違う甘い匂い。
会えない間に何を経験したのだろう。
変わってしまったその匂いに、すみれは少し嫉妬を感じてしまった。
会えない期間が伸びれば伸びるほど、櫻子はどんどん知らない匂いになっていくのだろう。
せめて今の匂いを忘れないように、胸いっぱいに今の櫻子を吸い込んだ。
「なんか変態っぽい」
「これくらい許してよ。 ……ほんとはもっと色々したいんだからさ」
すみれの手が櫻子のお腹を撫でる。
まるで妊婦にするようなその手つきに、櫻子は思わず笑ってしまう。
「今、妊娠何ヵ月だっけ、お父さん?」
「からかわないでよ、慣れてないんだから」
ガラス細工に触れるように、拙い手が櫻子の体をなぞる。
その感触を、形を忘れないように。
再びぎゅっと抱きしめるようにして回されたその手を、櫻子は自らの胸へと誘った。
すみれの手が緊張で固まり、微動だにしなくなる。
「あの……櫻子?」
「全部確かめて。 私がちゃんと私かどうか」
あの櫻子にリードされるなんて。
こんなに積極的な姿は見た事が無いし、こんなにかっこいいと思った事は無い。
おままごとでもお父さん役はいつもすみれで、櫻子はいつもお母さん役だった。
促されるまま、櫻子の胸の輪郭をなぞる。
細いながらも感触はちゃんとあり、自分の物よりもはるかに柔らかい。
その柔らかさはまるで初めて女の子の体に触れたようで、世の中にここまで触り心地の良い物があったかのかとすみれを驚かせた。
「小さいよね」
「うん、でも柔らかくて、女の子って感じ」
「なにそれ。 すみれの方が女の子って感じなのに」
自身の胸を見て、すみれは黙り込む。
大きさこそ櫻子以上だが少し硬めで、櫻子のようにはいかない。
この柔らかさを知ってしまったら、女の子の定義からは外れてしまうだろう。
「私はほら、部活で忙しかったからさ」
「弓道で硬くなっちゃった?」
「だろうね、これじゃほとんど男かも」
背中に当たる確かな柔らかさを感じながら、櫻子はそうかも、と返した。
すみれを独占したいがための小さな嘘。
ほとんど男になったすみれが、このまま心まで男になってくれたら良いのに。
もし男ならきっと、この体に思い出を刻み込んでくれるはずだ。
「私はすみれが男でも女でもどっちでも良いよ」
「ついてるかどうかくらいだもんね。 なんなら後からつけてもいいし」
「もう、ムード最悪」
櫻子は、すみれの手を強く自身の体へと押し付ける。
そして重ねた手をリズミカルに、胸を揉みしだくように動かした。
すみれは予感していたものの、まさか本当にこうなるとは思っていなかった。
櫻子との関係は、呆れられながらも、もし抱かれるならどんな体位が良いか、などが話せる心の許せる友達だと思っていた。
話の対象は当然男で、彼氏が出来たら海に行くとも言っていたのに。
「初めて抱かれるときは、抱き合ったまま顔を見ながら、だったよね」
櫻子がくるりと、すみれの方に体を向ける。
その目はすみれの知らない愁いを帯びており、冷え切った心に熱を宿らせた。
幽世村。
日本有数の心霊スポットで、最近じゃテレビでも話題になっている。
そこはこことは違う別の世界で、怖い目には会うが入った人の願いを叶えてくれるらしい。
そんな噂が広がるにつれ、そこを求める人たちは爆発的に増えていった。
そんなグループのひとつに、櫻子は所属している。
水無瀬女子高等学校都市伝説部。
民俗学の観点から都市伝説を研究し、水無瀬独自の風土や風習を学ぶ、という名目で作られたこの部は、実質ただのゴシップ新聞部だ。
ただ、同人誌として発行される研究報告本は一定の層に人気があり、知る人ぞ知る、といった評価を受けている。
「じゃあ今年は幽世村で決まりね。 移動は電車で各自駅まで、駅からは乗り合わせてタクシーで移動、って事で」
部長の純がそう話を纏めると、他の部員たちはそろってはーいと返事をする。
純はいわゆる王子様で、その中性的で整ったルックスとさっぱりとした性格から人気が高く、この都市伝説部もほとんど純のファンクラブだ。
特にこの夏の時期は、ウェーブがかったセミロングの髪を結んでポニーテールにしているのもあって、見たことも無い幽霊部員までもが集まってきている。
元気にはーい、と返事をしておきながら、現地へと来るのは何人だろう。
二人か、三人か。
もっと少ないかもしれない。
丁寧に髪を巻き、透明なネイルで着飾った華美な者など誰も来ないだろう。
わざわざ電車とタクシーを使ってまでそんな場所にいくもの好きなんて、櫻子かふうりくらいだ。
「ねぇ、さくちゃんは行くよね?」
純の一団から離れた場所に座っていた櫻子を、くりくりとした大きな目が捉えた。
ボリュームのあるふわふわの明るい茶髪と同じ色のその目はとても優しげで、感情の起伏の少ない櫻子の心にすら温かいものを伝えてくる。
ふうりはこの部随一の変わり者で、明るく元気で怖がりながら都市伝説が大好きというムードメーカーだ。
そんなふうりが櫻子にくっついて離れないのはどういう訳だろう。
櫻子も、始めこそ憐れみかと素っ気ない態度を取っていたが、今ではもう居ることが普通になっている。
「うん、幽世村は前から興味あったし、夏休みはどうせ暇だからね」
配られたばかりの夏休みの宿題をやりながら櫻子は答えた。
冊子に向かったままの櫻子の頬に、ふうりの両手が添えられる。
そのままぐいっと持ち上げると、ふうりは真っ直ぐ見つめたままにこっと笑った。
櫻子は照れくさくて、すぐにまた視線を落としてしまう。
話をする時は人の目を見て。
ふうりには散々そう言われているがやはり慣れない。
気まずさを紛らわせるためにも、櫻子はまた問題を解き始めた。
夏らしい、暑苦しい風が櫻子の髪を撫でる。
すみれ色のリボンに結われた髪の束が風に揺れると、ふうりはその行方を目で追った。
「で、蓋を開けてみたら三人しか来なかった訳だ」
駅近くのタクシー乗り場、そこに集まるのは夏制服の四人組。
純と、櫻子と、ふうりと、姫花だ。
「私の本気度が伝わった?」
勝ち気な目で純を見つめる姫花は、いつにも増して気合いが入っているように見える。
長い黒髪は綺麗に巻かれ、風に乗せて花にも似た香水の良い香りを運んでいた。
純にその香りを褒められて以来、姫花は純一筋だ。
純が一歩、姫花へと近付くと、甘い果物のような香りが姫花の鼻に届いた。
爽やかだけど華やかで、どこか男らしくもある、純のためにあるかのような香り。
この二つの香りはとても相性が良く、姫花の香りには清涼感を、純の香りには女性らしさを与えている。
ふたりはしばらく無言のまま見つめ合うと、ふっと小さく笑った。
「ずっと前から伝わってるよ。 じゃなきゃこんな所まで追ってこないだろう?」
冗談ぽく言いながら、純はタクシーを呼び止める。
純と姫花。
二人ともまるで漫画の主人公のようで、この二人が揃った場には独特の空気が流れだす。
素晴らしい芸術を目の前にした時のような、圧倒される緊張感。
この空気が、櫻子は苦手だった。
「私、車に酔いやすいから、綺麗なタクシーだと嬉しいな」
そんな櫻子を気づかって、ふうりはわざと大きな声を出した。
小さく、もこもことした生き物が目の前に居るのだから抱きしめたくもなる。
櫻子は無防備なふうりを後ろから抱きしめると、頭をわしわしと撫でた。
「また捕まってる」
「うー……ただでさえ暑いのにぃ……」
そんな様子を楽しそうに見ている純と、迷惑そうに嫌がるふうり、無表情の櫻子と姫花。
都市伝説部設立入部以来、幾度となく繰り返された光景だ。
櫻子は無表情ながら、ふうりの髪から漂うお日様の香りを胸いっぱいに吸い込んでいた。
気が付くと、櫻子は一人だった。
全員でタクシーに乗り込み、幽世村まで、と目的地を告げ、村長さんへのインタビューのリハーサルをして。
そして、石鳥居をくぐった所で意識が途絶えた。
辺りは赤い闇に覆われている。
目の前にはなぜか自分たちの通う女子校の正門があり、櫻子はただ呆然と立ち尽くしていた。
タクシーは、みんなはどうなったのか。
どうやってここに来たのか。
ここはどこなのか、なぜ学校があるのか。
様々な疑問が渦巻いていたが、それよりも重要な事がある。
ここが本当に幽世村ならば、ひとつ確かめないといけない。
櫻子はゆっくりと歩を進め、学校内へと入って行った。
「おーい、誰か居る?」
純の声が学校内へと響く。
ここは三階の渡り廊下。
部室へと繋がるその廊下だ。
窓からの赤い光が校舎内を照らし、不気味な場所へと変えている。
周囲に他のメンバーの姿は無く、なぜこんな場所に居るのかは純にもわからない。
それでも部室へと向かうのは、そこに行けば誰か居るだろうという根拠のない考えからだ。
カツ、カツという自分の足音だけが廊下に響く。
夜の校舎に女生徒一人。
ホラー映画じゃお約束の展開だ。
不安げに校舎を進む女生徒は映る影や突然の物音に驚きながらも歩き続けて、その場に潜む何者かの最初の目撃者になる。
犠牲になるかどうかは作品次第だが、少なくとも今回はしっとりとしたホラーでは無いらしい。
部室の扉を開いた純を待っていたのは、青白い顔をした取り巻きたちだった。
見るからに血色が悪い、死人のような顔をした彼女たちは、都市伝説部の幽霊部員たちと同じ顔をしている。
少し違うのは、いつものような羨望の眼差しではなく、獲物を狙う獣のようなギラついた目をしている点だ。
純は持ち前の運動神経をもって、伸びてきた無数の手から逃れていた。
部室から距離をとり、来た道を急いで戻る。
下へ降りる階段を探し、廊下を駆け抜けた。
開かれたシャツの胸元から入った風が体を撫で、短いスカートから外へと出ていく。
それはまるで人の息のような生暖かさで、純は思わず身震いしてしまう。
そんな空気に体を弄ばれながら、純は止まること無く走り続ける。
その廊下は実際の学校のものよりはるかに長く、どれだけ進んでも階段が見えてこない。
ふと上を見上げると、そこには都市伝説部、という木札が掛かっていた。
「なにこれ、詰んでるじゃん」
その仕組みに気づいた純は、ふっと全てを諦めて涼しい顔をした。
この廊下はループしている。
部室の前を通り過ぎるとまた部室の前で、どれだけ進もうとぐるぐるぐるぐる、同じ場所を繰り返している。
純が立ち止まると同時に、部室から無数の腕が伸びてくる。
純はその腕に体を委ねると、ゆっくりと目を閉じた。
純は諦めが良いほうだ。
やりたい事はその日の内に済ませ、いつ人生が終わっても良いように準備する主義だ。
今日だってここに来る前にアイスを二個食べたし、お気に入りの下着を着けてきた。
お気に入りの雑誌も全部読んだし、メイクだってばっちりだ。
最後がこんな訳のわからないシチュエーションになるのは予想外だったが、総合的に見れば良い人生だろう。
せめて最期が痛くないと良いな、などと考えていた純の体に、予想外の刺激が襲った。
「んぅ……霊なのにエッチな事するんだ……」
純を取り囲む霊たちは器用に服を脱がせ、下着を脱がせていた。
お気に入りのオレンジと黒の下着が机へと置かれると、純は一糸纏わぬ姿を晒す。
背が高く、スレンダーな体はまるでモデルのようで、まだ誰にも穢された事の無いその体は神秘的な美しさを放っている。
形の良い胸を撫でる霊の手の動きに合わせて悩まし気な吐息を漏らすその姿は、見るもの全てを魅了するだろう。
両方の胸や秘部を無数の手によって覆われ、地面に倒れたその姿は、まるでひとつのオブジェのようになっている。
「痛く無いならそれで良いけど……初めては好きな人が良かったなぁ……」
誰に言うでもない純の囁きが霊の群れの中へと消える。
部室の中で制服姿に囲まれ、裸になっているその状況が、純の感覚を麻痺させていた。
霊の手は氷のように冷たく、ぞくぞくとした震えを生じさせる。
ただ、思っていたような物では無かった。
霊の手が、純の乳房を揉み上げる。
感じさせ、喘がせる事を目的としたその手は決して痛みを与えること無く、優しい手付きで純の体を弄ぶ。
霊の指の動きに合わせて形を変える白い乳房は、赤い光の中にあってなお美しく輝いていた。
その先端へと指が伸び、こちらも傷つけぬよう優しく責められる。
二本の指を擦り付けるようにして刺激されると、純は小さく息を漏らした。
「ん……でもイマイチかも」
本で読んだようなもどかしい感じも、蕩けるような気持ち良さも、頭が真っ白になるような激しい快感も何も無い。
ただ少しくすぐったくて、恥ずかしいだけだ。
霊の手の冷たさにも慣れてしまうと、もうどれだけ胸を責められようと息が漏れる事すら無くなった。
純は、性的な興味が殆どない。
気づいた時から自分自身が男なのか女なのかもわからず、人を好きになるという事がどういう事なのかわからなかった。
少女漫画や恋愛映画で恋という物がどういう物かは知っているが、共感できる所はひとつも無かった。
年頃になり、いわゆる性行為に関する知識やエッチな事に対する欲求がある事も学んだが、純にとっては別の生き物の話のように聞こえていた。
自慰行為という物を知り試しもしたが、何も感じる事は無かった。
その頃から本人の自覚として、恐らく自分は普通の人とは別の生き物なんだろうと感じ始めた。
人から向けられる好意もその目的がわからず、別け隔てなく受け取った。
誰とでも仲良くしたし、誰の悪口も言わなかった。
全員が好きではなく、全員が嫌いでもない。
純にとって他の人間はみな普通で、自分の親や漫画の中のキャラクターですら好きとも嫌いとも思えなかった。
もし病院に行って本当の事を話したら、何かしらの病名がつくだろう。
それが普通では無い事をわかっていた純は、誰にも悟られる事無く本当の自分を隠してきた。
「飽きてきたなぁ……」
いい加減、胸を弄る手が鬱陶しい。
触り方を変えたりつねったりもしてきたが、何をされようとも純は感じなかった。
周囲を囲む霊たちのギラついた視線に対し、純は冷めきった氷のような視線を返している。
生きた人間の生気に群がった霊たちも、ここまで希薄な生気ではいつまで経っても満たされない。
生きる事への情熱が微塵も感じられない純に、霊たちはいよいよ動きを止めてしまった。
「終わり? なら帰っても良いかな?」
体を起こそうとした純の腕を、無数の手が押さえつける。
やれやれと呆れた顔をした純の秘部に、冷たい指先があてがわれた。
霊たちは最終手段に出るようだ。
本来、幽世村の霊たちには生きた人間を発情させる淫らな気が備わっている。
生気を効率よく吸収するための物だが、興味も経験も無い純に対しては全く効果が無かった。
そこで霊たちは、秘部の奥、子宮に直接刺激を与え、生物の雌としての役割を思い出させようとしていたのだ。
そのおぞましい感覚に純は体を震わせる。
自分でもろくに触れた事の無い場所を他人に触られる気持ち悪さ。
感情の起伏の少ない純も、さすがにこれには嫌悪感を覚える。
しかし、抵抗できないのも事実だ。
できれば早く終わって欲しいと願いつつ、純は天井の模様を目でなぞった。
「こんっのやろうっ!」
ガシャンと、ガラスの割れる大きな音がした。
同時に聞こえてきたのは姫花の叫び声。
普段のプライドに満ちた余裕のある姿からは想像も出来ない大きな声で、純は思わず笑ってしまった。
「とりゃあ!」
続けて、ジャリジャリとした砂のような物が体の上に落ちてきた。
真っ白なそれは塩のようで、口の中が少ししょっぱくなってしまった。
純の周りを囲んでいた霊たちが消え、床の上には裸の純だけが残される。
頭の上に視線を移すと、そこには息を切らした姫花の姿があった。
「姫花、君もここに?」
「それより大丈夫なの!? 私、間に合った!?」
姫花は素早く純のもとへと駆け寄ると、純の体を起こしてぎゅっと強く抱きしめた。
霊のものとは違う温かく柔らかな感触が心地良い。
「ぎりぎりセーフ、おかげで処女のままだよ」
「良かったぁ……ここの幽霊みんな変で、エッチな事ばかりしてくるの!」
準備の良い姫花の事だから、心霊スポットに行くとわかった時点で色々用意していたのだろう。
部屋の入り口に貼られた見慣れないお札や、姫花の手首に巻かれた数珠からも準備の良さが伺える。
腕の中で必死にここまでの苦労を訴える姫花の頭を、純は静かに撫で続けた。
「ところで、なんで私が処女だと助かるの?」
「好きだから。 初めてが私じゃないなんて嫌」
姫花はいつだって正直だ。
まさか姫花の好きがそういう物だとは知らなかったが、好きという物はみんなそうなのかも知れない。
男女間だろうと男同士だろうと女同士だろうと、やっぱり初めては大切な物なんだ。
恋に関して新たな知識を得た純は、心が少し温かくなるのを感じた。
「ちょっと人間になれたかも」
「何言ってるの?」
不思議そうな顔で見つめてくる姫花の顔が可笑しくて、純は思わず笑ってしまう。
その心からの笑顔が眩しくて、姫花は思わず顔を背けてしまった。
直後、純の唇が姫花の唇へと触れた。
ただ唇を重ねただけの簡単なキスだったが、その衝撃に姫花の頭は真っ白になる。
目と鼻の先まで迫った純の顔は、なに、とでも言いたそうな疑問を浮かべた顔だった。
「ちょっと、何して……」
「ファーストキス。 初めては大事だから、幽霊に奪われるくらいなら私の事を好きで居てくれる姫花に貰って欲しくって」
にっこりと笑いながら純はそう言うと、そのままもう一度唇を重ねた。
「……二回目の理由は?」
「したくなったから。 ダメ?」
純粋な目でこんな事を言われたら、もう我慢できるはずがない。
姫花は純を押し倒すと、貪るように唇を重ねた。
ぴちゃぴちゃという水音と、二人の荒い呼吸音だけが部室内に響き渡る。
唇を重ねながら手を重ね、お互いの体温を交換する。
姫花がゆっくりと唇を離すと、純は潤んだ瞳で熱のこもった吐息を漏らしていた。
「さっきは全然気持ち良くなかったんだけど……姫花が上手なのかな?」
「こういうのは好きな人とじゃないと気持ち良くないの。 純は特に好きな人が居ないんだから、霊たちとシたって気持ち良いわけないでしょ」
「そうなんだ。 じゃあ私、姫花の事が好きなんだね」
純の手が姫花の頭へと回されると、そのまま抱き寄せられまた唇が重なる。
ただ唇を重ねるだけのキスでも、二人にとっては十分刺戟的だった。
純にはまだ好きという気持ちがわからない。
ただ、姫花と一秒でも長くこうしていたいという、知らない欲望が渦巻いていた。
「次はどうしたら良い?」
「知らない。 エッチなシーンはほとんどカットされちゃうから」
「こんな事なら兄貴の隠してたエッチなDVD見とくんだったな」
「うえっ、気持ち悪……」
他愛もない会話を交わしながら、二人は何度もキスを交わす。
感触を確かめるように、これが恋かを確かめるように、答えが出ないまま二人は幾度となくキスを交わす。
純の体からすっかり力が抜けた頃、姫花は純の体にまたがったまま服を脱ぎ始めた。
「姫花、それはエッチ過ぎない? 私まで恥ずかしくなってきちゃった」
「裸で寝てる女がなに言ってんの? 純だけ裸じゃ恥ずかしいかと思って気を使ってあげたんだけど?」
「私に服着せたら良かったのに」
「それは、ほら……まだするから……」
気まずそうにする姫花の体を抱き寄せて、純はピンクと黒の可愛らしい下着を脱がせていく。
姫花は頬を染めたまま素直に裸にされると、純の目の前にその女の子らしい裸を晒した。
適度に丸みを帯びていて程よく脂肪の乗った、まさしく女の子といった体つき。
純のイメージする女の子そのままなその姿は、純の興味を大いに惹きつけた。
「うわっ……女の子ってこんな感じなんだ……」
「あんたも女でしょ。 あんまり見られると恥ずかしいんだけど」
純のプロポーションは女子の憧れそのもので、それを前にしているせいで余計に恥ずかしく感じてしまう。
体を隠す姫花の手に純はそっと手を重ねると、そのままモミモミと何かを揉みしだくように手を動かした。
「なにそのエロい手つき」
「霊たちがしてた。 姫花は揉まれたら気持ち良い?」
「わかんない、揉まれた事無いし」
「じゃあ代わりに揉んでみて。 はい」
純は自らの胸へと手を誘うと、姫花の手の上からモミモミと動かし始めた。
ぎこちない指が柔らかな乳房へと食い込み、程よい弾力を返してくる。
いつまでも揉んでいたくなるような、そんな感触。
しばらく夢中で揉みしだいていると、突然純の手がその動きを遮った。
「ん……待って……なんか、変……」
見ると、純ははぁはぁと息を荒らげながら潤んだ瞳で見つめてきていた。
体は小刻みに震えており、ピンク色の先端がつんと天井を指している。
純は感じている。
そう理解した途端、姫花は体の抑えが効かなくなった。
「んっ……やっ、だ……ちょっと、待ってぇ……」
純の切なげな甘い声が脳に響く。
責める手はどんどん激しくなっていき、もうどうする事も出来ない。
純にまたがる姫花の目は、霊たちと同じようにギラついていた。
乳房を揉みしだかれながら、硬くなった乳首を指先でカリカリと弾かれる。
その刺激は完全に未知の物で、純には耐えることも逃がすことも出来ない。
「だめっ……なんかくるっ……お腹がきゅんきゅんしてっ……んぅぅぅ!」
純の体はびくっと大きく跳ねたかと思うと、そのまま動かなくなってしまった。
お腹が呼吸のたびに大きく上下し、突き出された胸と浮かんだ肋骨が艶めかしい。
姫花は少し見惚れた後、純の体を急いで抱き起こした。
「ごめん! 夢中になってて……」
「たぶん、これが絶頂だよね……本当に頭が真っ白で……もう力入んないや……」
腕の中で小さく笑う純がとても愛おしく感じられ、姫花は強く抱きしめる。
絶頂により何かが抜けてしまった体に姫花の体温が染み渡るようで、純はまた小さく絶頂を迎えていた。
「あっ……これダメかも……姫花の匂いを嗅いでるとそれだけでイっちゃう……」
姫花の香水の香りは、高まった体温と共に溢れた姫花自身の匂いに混ざり、媚薬のように純の脳へと染み渡った。
ただ匂いを嗅いでいるだけで中から責められているようで、体の疼きと甘い痺れが止まらない。
昆虫などの生き物はフェロモンという匂いの一種に惹かれ、パートナーを選んだり繁殖行動を行ったりするらしい。
純はまさに今、姫花のフェロモンによって堕とされていた。
「大丈夫? 辛かったら言ってね?」
対する姫花は冷静さを取り戻し、ぐったりとしてしまった純を気づかっている。
長い付き合いになるが、純がここまで乱れるのは見た事が無い。
普段の涼しい顔からは想像もつかないその姿に、興奮よりも心配が勝ってしまっていた。
姫花の腕の中で、小さな絶頂が波のように押し寄せては引き、押し寄せては引きを繰り返し、純はもう何度目かもわからない絶頂を迎えていた。
霊たちの淫らな気は効果こそ薄かったが、純の中で爆発の時を待って蓄積されていた。
それが姫花の手によって呼び起こされ、慣れない純を快感の渦へと沈めたのだ。
姫花の腕の中で、純はその温かさと心地良さの虜になっている。
辛うじて動くようになった体で懇願するような潤んだ瞳を向け、姫花の顔をじっと見つめると、純はまた唇を重ねて姫花の体を抱き寄せた。
0
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