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1章: 新米婦警は初パトロールにより犯罪者を逮捕する

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「そこ、巡回ルートを外れていますよ」
「・・・・・・わ、わかっているわよ」
 篠原というバディは、美里にとってとにかく口うるさい同僚でしかなかった。
 些細な事にも口を挟み、何かにつけては美里の無知に言及する。
 初対面からまだ二時間と経っていないというのに、美里は彼女に対する嫌悪感をほぼ限界まで募らせつつあった。
「ちょっと、ここは安全地帯ですよ。警察官が交通ルールを無視してどうするんですか?」
「うるさいわね。少し黙って・・・・・・」
 反発して篠原の方に目を遣った瞬間、美里はブレーキを踏みしめた。
「何するんですか!? いきなり! 交通事故の原因になったらどうしてくれるんですか?」
「事故じゃないわよ、あれ! 事件よ!」
 美里の言葉を呑み込めずに唖然とする篠原には構わず、美里は車を停止して外に飛び出していた。

 美里が向かった先で目にした光景。
 それは――熊。
 熊と言っても、こんな大都会に野生の熊が野放しにされているわけではない。
 正確に言えば、それはクマのおパンツ。
 美里にとっても小学校五年生までお世話になった、アニメのモチーフのクマさんパンツをはいた少女が、路傍でのびていた。
 その恰好というのが実に奇妙で、ビル壁を支えに下半身を上にしたまま、両足を文字通りの八の字に広げた格好だった。



 無論、短めのプリーツスカートはめくれ上がり、件のクマさんパンツは丸見えである。
 そんな痴態を晒す当の少女は気を失っているようで、自らの不格好さを知らない。
 そして何より見過ごせないのは、その傍に怪しげな中年男性が近づいていることであった。
「そこのあなた、何をしているのよ!」
「な! 私はただ! 違うのだ!」



「嘘を言うと不利になるわよ! その子に何をしようと、いえ、何をしたの?」
「何もしていないし、するつもりもない! 私はただ、この少女が自転車で転んで、気を失っているようだから介抱しようとしただけで・・・・・・」
「馬鹿な冗談はよしなさい。こんなお間抜けな格好で転んで気絶するとか、普通にあり得ないでしょ! 察するに、あなたがやましいことを企んで、その子にそんな恰好をさせたに決まっているのよ!」
「誤解だ! 名誉棄損にもほどがある!」
「言い訳は弁護士を呼んだうえで警察署でなさい! 動くと射殺するわよ!」
「横暴だ! アンタそれでも警察官か! 私の話を聞いてくれ!」
「みんな~、ここにとても危険なオジサンがいますよ~。女の子を殴って気絶させて、パンツ丸出しにしてクロッチの匂いに興奮するドエス気質のフェチが!」
「そんなんじゃない! というより、常識的な人間の発想ではないな!」
「言い訳無用、確保!」
 美里は男性に飛びかかっていた。
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