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2章: Aman loves someone not by him but in his mind.

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 そこでチハルは剣を正眼に構えた。
 先程の下段の構えに比べれば、やや攻撃側に傾いた構え。
 もっとも、チハルの戦略を知らないサナは、攻撃の方向がわからずやむを得ず取った構えとみるだろう。
 でも実際は、チハルは捨て身の攻撃のつもりだった。
「ディオラを、返せ!!」
 サナが槍の穂先を向けて突っ込んできた。
 チハルは動かない。
 当然、槍はチハルを貫こうと突き進む。
「ぐっ!!」
 チハルが動かないのを焦ったサナが踏み止まる。
 電光石火のごとくとらえ切れなかった刺突が制止した。
 それを見計らってチハルが大きく剣を振り被る。
 この状況でサナが身を守るには、槍の穂先で剣を受け流すしかない。
 鉄と木がぶつかり合えば、勝つのは間違いなく前者だ。
 だからチハルはこの斬撃に渾身の力を込める。



 日本刀は槍の柄を真っ二つに割り、サナの眼前で時を止めたように静止した。
 サナの膝が抜けた。
 真っ二つになったショートスピアがその手から零れ落ちる。
「ディオラ、どこへ行ってしまったの!」
 探索の術を絶たれたサナはその場に泣き崩れた。
 彼女の頭上から、チハルの手が差し伸べられる。
「私も手伝うって言ったじゃないですか」
「チハル・・・・・・」
 二人の下に、数人の足音が近づく。
 警備に出ていた別の親衛隊員達が駆け付けたようだ。
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