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序章: 落ちこぼれた逸材
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暗闇を滾らせる石造りの通路はどこまで進んでも先は見えない。
息を潜めても向こう側の物音さえ感じ取れず、聞こえてくるのは周囲を歩く仲間の緊迫した息遣い。
「ねえ、この道で本当に合っているんだよね?」
怯えた声で一番後ろの少女が前を歩く大きな背中に聞いた。
「ああ、この道のはずだ・・・・・・けど」
答える青年の声もどことなく心許ない。
頼みの綱の羊皮紙に書かれた地図を、さっきから上下左右に反転させては眉をひそめて睨み合っている。
身を寄せ合うように慎重に歩を進める若い男女は五人組とはいえ、都市部を離れた地下深くのダンジョンを半日近く歩く今は孤独も同然。
ましてやそれがダンジョン攻略の経験もない冒険者を志すだけの未熟者達の集団となれば、自分達が進む道さえ不安に思えてしまうのが人情というものだろう。
それでも彼らは同じ境遇の他のグループに比べて幾分マシだろうか。
なぜならメンバーの中に、こんな時こそ頼りになる鉄人が混ざっているからだ。
「問題ない、先を急ごう」
彼らの中で唯一、恐れを知らず積極的に前に進み出る一人の青年がいた。
その名をイシル=ルドフリート。
ガランティア冒険者学院創立以来、稀代の優等生と呼ばれる逸材の学生。
剣術、魔法、工芸スキルにおいて彼の右に出る者はなく、まだ十五歳の若者とは思えないほど知略に富む完璧さ。
ここへ来る前、蟻の巣のようなダンジョンの迷宮構造の道筋を完璧に記憶した彼は一つも道を間違えることなく、目的地に近づきつつあった。
たとえ行き先の足場が崩れていても軽々と飛び越え、崩れ落ちた天井のような障害物は魔法の一撃で消し飛ばしてしまう。
同学年の朋輩達は、そんな彼の背中を縋るようにただ追い続けていた。
「ん?」
軽快な足取りのイシルが初めて立ち止まった。
「ど、どうしたんだ?」
「静かに、この先にモンスターがいる」
言いながらイシルは腰の剣の柄を握っていた。
「も、モンスター!?」
仲間の少女の一人が上げた悲鳴に反応した物音がした。
「ひ、引き返そうぜ! さすがにモンスターはヤバいって!」
「何を言うんだ? ダンジョンにモンスターはつきものみたいなものだろう?」
「そうだが! 俺達で何とかできない奴かもしれないだろ?」
「何とかできる奴をそもそもモンスターとは呼ばないと思うが?」
認識の相違に首を傾げるイシルの背後で角の生えた巨大な類人猿のような影が闇から姿を現していた。
「た、助けてくれぇ!!」
血相を変えた男子の一人が足元に躓きながら逃げていく。
「あ、あ、あ・・・・・・あわわわ」
両足を強張らせた女子は力が抜けてその場にしゃがみ込んだ。
残りのメンバーは各々装備していた剣や槍の鋭鋒を向けるが、モンスターが振り被った棍棒の敵ではなかった。
「おい、人の話をはぐらかさないでくれないか? モンスターが怖いなら冒険者には向いていないと思うけど」
「今はそんな話をしている場合じゃないだろ! イシル! 後ろを見ろよ!」
言われて振り返ったイシルの頭上に、巨大な棍棒が真っ直ぐ振り下ろされた。
息を潜めても向こう側の物音さえ感じ取れず、聞こえてくるのは周囲を歩く仲間の緊迫した息遣い。
「ねえ、この道で本当に合っているんだよね?」
怯えた声で一番後ろの少女が前を歩く大きな背中に聞いた。
「ああ、この道のはずだ・・・・・・けど」
答える青年の声もどことなく心許ない。
頼みの綱の羊皮紙に書かれた地図を、さっきから上下左右に反転させては眉をひそめて睨み合っている。
身を寄せ合うように慎重に歩を進める若い男女は五人組とはいえ、都市部を離れた地下深くのダンジョンを半日近く歩く今は孤独も同然。
ましてやそれがダンジョン攻略の経験もない冒険者を志すだけの未熟者達の集団となれば、自分達が進む道さえ不安に思えてしまうのが人情というものだろう。
それでも彼らは同じ境遇の他のグループに比べて幾分マシだろうか。
なぜならメンバーの中に、こんな時こそ頼りになる鉄人が混ざっているからだ。
「問題ない、先を急ごう」
彼らの中で唯一、恐れを知らず積極的に前に進み出る一人の青年がいた。
その名をイシル=ルドフリート。
ガランティア冒険者学院創立以来、稀代の優等生と呼ばれる逸材の学生。
剣術、魔法、工芸スキルにおいて彼の右に出る者はなく、まだ十五歳の若者とは思えないほど知略に富む完璧さ。
ここへ来る前、蟻の巣のようなダンジョンの迷宮構造の道筋を完璧に記憶した彼は一つも道を間違えることなく、目的地に近づきつつあった。
たとえ行き先の足場が崩れていても軽々と飛び越え、崩れ落ちた天井のような障害物は魔法の一撃で消し飛ばしてしまう。
同学年の朋輩達は、そんな彼の背中を縋るようにただ追い続けていた。
「ん?」
軽快な足取りのイシルが初めて立ち止まった。
「ど、どうしたんだ?」
「静かに、この先にモンスターがいる」
言いながらイシルは腰の剣の柄を握っていた。
「も、モンスター!?」
仲間の少女の一人が上げた悲鳴に反応した物音がした。
「ひ、引き返そうぜ! さすがにモンスターはヤバいって!」
「何を言うんだ? ダンジョンにモンスターはつきものみたいなものだろう?」
「そうだが! 俺達で何とかできない奴かもしれないだろ?」
「何とかできる奴をそもそもモンスターとは呼ばないと思うが?」
認識の相違に首を傾げるイシルの背後で角の生えた巨大な類人猿のような影が闇から姿を現していた。
「た、助けてくれぇ!!」
血相を変えた男子の一人が足元に躓きながら逃げていく。
「あ、あ、あ・・・・・・あわわわ」
両足を強張らせた女子は力が抜けてその場にしゃがみ込んだ。
残りのメンバーは各々装備していた剣や槍の鋭鋒を向けるが、モンスターが振り被った棍棒の敵ではなかった。
「おい、人の話をはぐらかさないでくれないか? モンスターが怖いなら冒険者には向いていないと思うけど」
「今はそんな話をしている場合じゃないだろ! イシル! 後ろを見ろよ!」
言われて振り返ったイシルの頭上に、巨大な棍棒が真っ直ぐ振り下ろされた。
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