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序章: かくて悪魔は世界に羽ばたく
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デジタル・タテュー、という用語を知っているだろうか。
ネット上に一度でも拡散されたプライバシーの情報を消すのは今や困難となり、当事者は癒えぬ傷として一生負い続ける様を表現したものだ。
あの意味不明な画像を速攻で削除し、周囲にこれがフェイク画像であることを説明しようとしたが、投稿された画像は即座に世界に拡散され、美咲の努力も虚しく翌日には家族、学校含めて周知の事実となっていた。
「だから、あの画像は私じゃありません!」
昼過ぎの学校の応接室。
口を閉ざす父親の隣で美咲は学年主任と担任教師を前に何度も無実を訴えた。
学校側も当初は美咲の主張を受け入れ、不正アクセス禁止法に抵触する恐れがあるとして警察に連絡を取ってくれたまではよかった。
これで自分のメンツは保たれると思いきや、警察からの回答には耳を疑った。
「この画像が人工的に捏造された痕跡は一切確認できませんでした」
難しい説明を要約すると、生成AIによって合成された画像ならば、美咲の顔を他の画像に切り貼りして合成するので体格や身体的な特徴に差異が生まれるはず、というのだ。
例えば体格や皮膚の色は個人によって微妙に異なり、しかも同じ遠近間隔で別の画像を用意するというのは至難の業であり、どこかしら本人と一致しない部分が存在するというのである。
しかし投稿された画像は首から下も含めて、美咲のそれで間違いがなかった。
体格は完全一致、おまけに美咲にとってコンプレックスだった膝のほくろまでが明確に映し出されている。
つまりこの画像は美咲以外の何者でもなく、しかもそれが美咲自身のアカウントによって投稿されたのだから、本人がいくら与り知らぬと叫んだところで、信用されるはずがないのだ。
「いや、篠原さん。当校ではSNSを禁止するわけではないけど、さすがに学校の品位を下げるような行為はしないでもらえるかな?」
「何度言ったらわかるんですか? あれは私じゃ――」
「もう、いい。美咲」
父の一言が平行線だった議論を無理やり断ち切った。
結局、SNSで注目を集めようと画策した生徒が少し過激な動画を自撮りし、想定外の反響があったために今更否認した、という話が学校側の公式的な見解となった。
「こんなのあり得ないわ。絶対に犯人を見つけ出してやる」
説教の時間が過ぎ去り、周囲からの訝し気な視線もよそに、美咲は復讐心を燃やしながら教室へ戻る。
「美咲!!」
引き戸を潜るなり、二人の女子生徒が半泣きした表情でしがみついてくる。
美咲と特に親しい同級生の友人達だった。
「ちょっと、どうしたのよ? 私は今それどころじゃないのよ」
「大変なの! これ、見て!」
同級生が掲げたスマホの写真に、美咲は凍りついた。
ネット上に一度でも拡散されたプライバシーの情報を消すのは今や困難となり、当事者は癒えぬ傷として一生負い続ける様を表現したものだ。
あの意味不明な画像を速攻で削除し、周囲にこれがフェイク画像であることを説明しようとしたが、投稿された画像は即座に世界に拡散され、美咲の努力も虚しく翌日には家族、学校含めて周知の事実となっていた。
「だから、あの画像は私じゃありません!」
昼過ぎの学校の応接室。
口を閉ざす父親の隣で美咲は学年主任と担任教師を前に何度も無実を訴えた。
学校側も当初は美咲の主張を受け入れ、不正アクセス禁止法に抵触する恐れがあるとして警察に連絡を取ってくれたまではよかった。
これで自分のメンツは保たれると思いきや、警察からの回答には耳を疑った。
「この画像が人工的に捏造された痕跡は一切確認できませんでした」
難しい説明を要約すると、生成AIによって合成された画像ならば、美咲の顔を他の画像に切り貼りして合成するので体格や身体的な特徴に差異が生まれるはず、というのだ。
例えば体格や皮膚の色は個人によって微妙に異なり、しかも同じ遠近間隔で別の画像を用意するというのは至難の業であり、どこかしら本人と一致しない部分が存在するというのである。
しかし投稿された画像は首から下も含めて、美咲のそれで間違いがなかった。
体格は完全一致、おまけに美咲にとってコンプレックスだった膝のほくろまでが明確に映し出されている。
つまりこの画像は美咲以外の何者でもなく、しかもそれが美咲自身のアカウントによって投稿されたのだから、本人がいくら与り知らぬと叫んだところで、信用されるはずがないのだ。
「いや、篠原さん。当校ではSNSを禁止するわけではないけど、さすがに学校の品位を下げるような行為はしないでもらえるかな?」
「何度言ったらわかるんですか? あれは私じゃ――」
「もう、いい。美咲」
父の一言が平行線だった議論を無理やり断ち切った。
結局、SNSで注目を集めようと画策した生徒が少し過激な動画を自撮りし、想定外の反響があったために今更否認した、という話が学校側の公式的な見解となった。
「こんなのあり得ないわ。絶対に犯人を見つけ出してやる」
説教の時間が過ぎ去り、周囲からの訝し気な視線もよそに、美咲は復讐心を燃やしながら教室へ戻る。
「美咲!!」
引き戸を潜るなり、二人の女子生徒が半泣きした表情でしがみついてくる。
美咲と特に親しい同級生の友人達だった。
「ちょっと、どうしたのよ? 私は今それどころじゃないのよ」
「大変なの! これ、見て!」
同級生が掲げたスマホの写真に、美咲は凍りついた。
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