【BL】できそこないΩは先祖返りαに愛されたい

ノルジャン

文字の大きさ
57 / 58
番外編

番外編 2-1


 帰り道を一人で歩く。まだ実感が湧かない。薄い腹を手でさすってみても、何も感じることはない。妊娠ってもっと何か感じるものがあるかと思っていた。まだ小さな命が宿った段階では感じるも何もないのかもしれないが。
 でも、ここにと自覚すると、愛しさがだんだんと込み上げてきた。
 好きな人との赤ちゃん。それは本当に幸福なことだ。不妊と言われてきた俺が子どもを授かれるなんて奇跡みたいだと思った。

 どうやってラッセルに伝えようかとふわふわとした足取りで家までの道を進む。つまづいたりドジ踏んだりしないようにしないと。もう俺一人の体じゃないんだから。
 そうは思うのに、足取りは雲のように軽くて落ち着いていられなかった。

 家が目の前に見えた、と思ったらぐいっと横から腕を掴まれた。

「よぉ、。元気してた?」

 ニヤニヤと下卑た笑顔を貼り付ける男がいた。

「……ジル」

 そこに現れたのは弟のジルだった。
 幸せだった気持ちは一気に地に落ちてしまった。

 弟が再度金をせびりにきたのだとわかった。

「なぁ、お金貸してくんねぇ?」
「この前渡しただろう!しかも、ラッセルの家の金まで奪って……!」
「奪ってだなんて人聞きが悪いなぁ、借りたんじゃん」

 全く悪いと思っていない態度に俺はイライラとした。金を渡せばこの場は収まるが、すぐに使い切ってまたせびりに来るに決まっている。

「もうお前に貸せる金なんてないよ!帰ってくれよ」
「そんな冷たいこと言うなよ、お兄チャン」
「離せっ……!」

 腕を振り払って家の中に駆け込もとした。だが、腕は振り払えずに逆に腕を取られた。そのまま力任せに壁に突き放される。ドンッ、と背中を強打した。

「かはッ……ひゅ……ッ」

 背中への強い衝撃が内部の心臓にグッと集まった。
 喉奥が狭まる音がした。呼吸ができない。息が吸えない。

 心臓も苦しかったが、なんとかお腹を両手で庇って倒れた。コホコホと咳をして息を吐き出したら、やっと新しい空気を肺に入れることができた。

「ゲホっ……ゴホッ、はーっ……、…はー……っ」

 体を縮こませて丸まっている俺の胸ぐらをジルは掴んだ。

「うぐぅ……っ」
「生意気言うなよ。抵抗するからこういうことになんだよ」

 涙目で視界がぶれる。ぶれて見える目の前にはジルが拳を作って振り上げているのが見えた。

 俺の顔なんかどうでもいいから、赤ちゃんを守らなくちゃ。

 お腹を庇う手は解かない。だから顔面ががら空きだった。衝撃に備えてぐっと目を瞑った。

 お腹だけは守る。絶対に。


 

 
「何してるっ!」
 

 ああ、この声は……。
 俺は強張っていた体の力を少し抜いた。
 
 周囲の空気が震える。

「あんた……先祖返りの……、アル、ファ……」

 ジルはアルファの威圧に体が固まって動けなくなった。胸ぐらを掴むジルの手が震えるのがわかった。

「お前、イチロの弟か……。例え弟でも俺の番いに手を出すとどうなるかわかっているのか?」

 ゆっくりとこちらに近づいてくる。
 
 一歩、一歩と近づくたびに威圧感は増す。
 体が震え、空気が重くなる。
 重力がかかっているかのようだ。

 弟ジルの手が離れて、俺は地面にずるりと落ちた。
 ジルの方は膝から崩れ落ちて、俺よりも体が苦しそうだった。


 
 ラッセルがジルに手を出す前に警察が来てくれて、ジルを連行していった。俺はふらふらとしていたが意識はあった。
 近所の人が騒ぎを聞きつけて警察と救急車を呼んでくれたみたいで、辺りは騒然としていた。
 
「イチロ!無事か?怪我は?!」

 ラッセルが駆け寄ってきて、俺の体を起こす。救急隊員が近づいてくるが、ラッセルはまだ興奮しているみたいで周囲を威嚇し、誰も近寄らせない。

 先祖返りであるため、力はそこらの獣人よりも強い。警察ですらラッセルに対しておよび腰だ。

「ラッセル、俺は大丈夫だから落ち着いて」
「本当か?」
「うん、……ちょっと背中が痛いけど」
「見せてみろ!」
「あ、ちょ……」

 俺の言葉も聞かずに服をがはりと捲られた。こんなに注目されているってのに、俺のぷよぷよの体をみんなに見られるなんて恥ずかしい!

 俺はさっきまでの深刻な雰囲気から脱して呑気にもそんな事を思った。ラッセルが来たからだ。ラッセルがそばにいてくれれば、何も怖いものなんてない。

「ああ!こんな……跡が…………」

 ラッセルの嘆き悲しむ声が聞こえる。だけど、俺的には、そんなに大したことはないはずだと思った。ちょっと背中を壁に打ちつけたくらいだし。
 それよりも俺はお腹の方が気になっていた。

「すみません、救急隊員ですが、症状を見せてください」

 強面の大きな熊獣人らしき隊員が恐れずこちらに声をかけてきた。

「だが、……」

 俺は背中もお腹も丸見えの状態で中途半端に服が捲れ、間抜けな格好を晒し続けている。ラッセルが俺と隊員を見て、しぶしぶ俺を隊員に渡した。

 救急車の中で背中の症状を見せ応急処置をされて、ラッセルも同乗し、念のため救急病院へと搬送されることになった。
 
 
感想 7

あなたにおすすめの小説

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ
BL
「晴にいさま、大好き」 アルファばかりのエリート一家の四人兄弟の末っ子に生まれた 亜季。 思春期の第二性検査を受けるまで、誰もがアルファだと信じて疑っていなかったが、結果は「オメガ」だった。確かに他の息子たちに比べて、身体も小さく、性格もおっとりしていた末っ子オメガ。親戚を含めてアルファばかりで、オメガがいないゆえに扱いがわからない。 だが、はじめは家族の誰一人として末っ子がオメガであることを疎むことなく可愛がっていた。 ある日、転機が訪れる── 末っ子オメガに発情期(ヒート)が訪れ、事故が起こってしまう。それを理由に亜季はひとり家族と離れて暮らすことになった。 そして末っ子は──男娼になって……長男 晴臣と再会する。 すれ違いオメガバース。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!