【BL】できそこないΩは先祖返りαに愛されたい

ノルジャン

文字の大きさ
58 / 58
番外編

番外編 2-2

 病院で検査が終わり、俺は病室のベッドに横になっている。ベッドの側にはラッセルが心配そうにそわそわと尻尾を揺らして座っている。
 
「イチロさん、背中は骨折等はなく打撲ですね。内出血でより酷く見えますが、安静にしていればすぐによくなりますよ」
「そうですか、ありがとうございます、先生」
「お腹の赤ちゃんも元気ですよ。安心して下さいね」
 
「……………………あかちゃん?」

 尻尾をイライラと床に打ちつけていた動きが止まり、無表情のラッセルが長い沈黙の後にそう呟いた。

「ええ、エコーで見た限りとても元気そうですよ。パパになるのが楽しみですね?」

 ニコニコと先生がラッセルに言って、先生は病室を出て行った。

 ラッセルは呆然として空虚を見つめる。

「……………………赤ちゃん?」

 くるっと顔を俺に向けて、俺を見つめる。コクリ、と頷いてお腹に手を当てた。
 無表情が、だんだんと表情豊かな、幸せ溢れる顔となっていった瞬間を俺は見逃さなかった。



 
 
 警察からは、弟のジルは、他にも恐喝やら暴行罪なんかの余罪があるということで勾留されたと聞いた。それに加えてかなりの借金を悪い所から借りてしまっていたようだった。このままだと落ちる所まで落ちてしまう。
 ラッセルは、俺の家族だから、とジルが闇金から借りたお金を代わりに払ってくれると言ってくれた。俺はその申し出をどうしても断れなかった。
 ジルはやっぱり俺の家族で弟だから。ジルがこれから更生するかはわからないし、お金が返ってくる保証などない。けれど、家族を見捨てられない。だから、そのお金を俺が一生かかってもラッセルに返していこうと思った。俺が稼げるお金なんてたかが知れてるかもしれないが、精一杯努力して返していこう。
 
 ジルに対してはお金を肩代わりする代わりに、今後一歳俺たちに関わらないと念書を書かせた。
 
 勾留されている収監所へ念書や借金返済などの手続きのためにラッセルと共に弟ジルに会いに行った。
 かなりやつれていて、以前のやんちゃで意地悪そうなニヒルな笑顔は見えなかった。

 最後に小さい声で「イチロにぃ……ごめん」と聞こえた。

 イチロにぃなんて言われたのは本当に小さい頃のことだ。忘れていた昔の懐かしい思い出が溢れてきて、思わず涙がこぼれた。

 
 
 ラッセルの実家に、番いになったことと妊娠の報告をしに行った。ご両親からは盛大歓迎され、先祖返りのラッセルのおじいちゃんも自分のことのように喜んでくれた。
 「ひ孫を見るまでは死ねんぞ!」と繰り返し言っていた。

「ひ孫までじゃなくてひひ孫も余裕で見れるくらい元気なくせに……」

 とラッセルに突っ込まれていた。

 和気藹々と、家族団欒ですごしていたが、実家にはラッセルの妹さんは見当たらなかった。

「妹は嫁にいったらしいぞ」
「え?!」
「一応、昔からの許婚がいたんだ」
「そ、そうなんだ……」

 許婚がいながら恋人がいたってこと?!なんかぶっ飛んでるな。金持ちはやっぱり俺の感覚とは違うのかも知れない。

「ハダカネズミ獣人の優しそうな人だったんだが、妹に一目惚れしたらしくて……。家柄も人柄も、仕事もできて妹には勿体無いくらいだったんだ。だが、妹はネズミ獣人をことさら嫌っていたし、もっと強面の強そうな獣人がいいと聞かなくて……」
「妹さん気が強そうだったもんね……」

 初めて会った時を思い出した。かなり激しい気性の持ち主だった。
 
 温厚なハダカネズミ獣人の婚約者は、痺れを切らして妹さんを組み敷いてうなじを噛んで番いにしたらしい。
 それがむしろ妹さん的に良かったらしくてコロッと手のひらを返したように惚れ込んでしまったとか。
 俺は妹さんよかったね、としか思わなかった。

 
 
 退院してからラッセルは、大量の赤ちゃんグッズを買いまくり、家の余っていた部屋を次々と赤ちゃんグッズで埋め尽くして俺に怒られた。
 それでも全く懲りずにベビー用品が増えていった。
 まだ生まれてもないのに、ものすごい喜びようで、俺も嬉しくて怒るに怒れなくなった。

 これからは仲良く三人で暮らしていくんだ。

 
「フウ……」

 安定期に入った体は少し重たくなって、お腹もぽっこり膨らんできた。最近、匂いに対して敏感になり、色んな匂いを嗅ぎ分けられるようになってきた。
 今まで好きだった匂いが苦手になったり、逆もあったり。

 いつものように朝ご飯を作っていた。すると、ふわりと鼻筋に通ってきた香りがあった。

 夢で嗅いだ匂いだ!
 間違いない!

 俺の……。

 ふらふらとその匂いを辿る。

 リビングではラッセルがパソコンと睨めっこしながら仕事をしている。
 近づいていくたびに強く香るその匂い。

 まさか、やっぱり……。
 
 後ろからうなじの匂いをくん、とかぎ取る。

 俺に気づいた男が振り返る。
 

「イチロ?どうしたんだ?」
 

 甘くて優しい笑顔で俺を振り返る、俺の運命の番い。

 ティーツリーの香りが、部屋中溢れんばかりに香っていた。

 


END
感想 7

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

パンちゃん1号
2024.06.29 パンちゃん1号

よかった〜今まで幸せ出なかったぶん、甘々溺愛の日々がこれからずーっと続きますね🐸一気に読ませていただきました。出産後の幸せな(*˘︶˘*).。.:*♡2人をさらにに覗きたいです

2024.06.29 ノルジャン

パンちなん1号 様
感想ありがとうございます♪こちらの作品も読んで頂けて嬉しいです!これからは溺愛の結婚生活ですね😍続きを書くことができましたらまたぜひ読んでくださいね♡ありがとうございました😊

解除
るか
2024.03.02 るか

めちゃくちゃ好きなお話でした。
なんか、幸せです。ありがとございます!

2024.03.03 ノルジャン

るか 様
感想ありがとうございます😊
うわぁ〜❣️そのお言葉すごく嬉しいです!読んでいただいてありがとうございました☺️

解除
はる
2024.02.04 はる

完結おめでとうございます。
密かに楽しみにしていました…!
幸せになってくれてほんとに良かったです!

2024.02.04 ノルジャン

感想ありがとうございます😊!
無事にハピエンを迎えられました♪読んでいただきありがとうございました☺️
密かに楽しみに!🥹そのお言葉がとっても嬉しいです❣️

解除

あなたにおすすめの小説

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

【完結】末っ子オメガ

鉾田 ほこ
BL
「晴にいさま、大好き」 アルファばかりのエリート一家の四人兄弟の末っ子に生まれた 亜季。 思春期の第二性検査を受けるまで、誰もがアルファだと信じて疑っていなかったが、結果は「オメガ」だった。確かに他の息子たちに比べて、身体も小さく、性格もおっとりしていた末っ子オメガ。親戚を含めてアルファばかりで、オメガがいないゆえに扱いがわからない。 だが、はじめは家族の誰一人として末っ子がオメガであることを疎むことなく可愛がっていた。 ある日、転機が訪れる── 末っ子オメガに発情期(ヒート)が訪れ、事故が起こってしまう。それを理由に亜季はひとり家族と離れて暮らすことになった。 そして末っ子は──男娼になって……長男 晴臣と再会する。 すれ違いオメガバース。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!