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番外編
番外編 2-2
病院で検査が終わり、俺は病室のベッドに横になっている。ベッドの側にはラッセルが心配そうにそわそわと尻尾を揺らして座っている。
「イチロさん、背中は骨折等はなく打撲ですね。内出血でより酷く見えますが、安静にしていればすぐによくなりますよ」
「そうですか、ありがとうございます、先生」
「お腹の赤ちゃんも元気ですよ。安心して下さいね」
「……………………あかちゃん?」
尻尾をイライラと床に打ちつけていた動きが止まり、無表情のラッセルが長い沈黙の後にそう呟いた。
「ええ、エコーで見た限りとても元気そうですよ。パパになるのが楽しみですね?」
ニコニコと先生がラッセルに言って、先生は病室を出て行った。
ラッセルは呆然として空虚を見つめる。
「……………………赤ちゃん?」
くるっと顔を俺に向けて、俺を見つめる。コクリ、と頷いてお腹に手を当てた。
無表情が、だんだんと表情豊かな、幸せ溢れる顔となっていった瞬間を俺は見逃さなかった。
警察からは、弟のジルは、他にも恐喝やら暴行罪なんかの余罪があるということで勾留されたと聞いた。それに加えてかなりの借金を悪い所から借りてしまっていたようだった。このままだと落ちる所まで落ちてしまう。
ラッセルは、俺の家族だから、とジルが闇金から借りたお金を代わりに払ってくれると言ってくれた。俺はその申し出をどうしても断れなかった。
ジルはやっぱり俺の家族で弟だから。ジルがこれから更生するかはわからないし、お金が返ってくる保証などない。けれど、家族を見捨てられない。だから、そのお金を俺が一生かかってもラッセルに返していこうと思った。俺が稼げるお金なんてたかが知れてるかもしれないが、精一杯努力して返していこう。
ジルに対してはお金を肩代わりする代わりに、今後一歳俺たちに関わらないと念書を書かせた。
勾留されている収監所へ念書や借金返済などの手続きのためにラッセルと共に弟ジルに会いに行った。
かなりやつれていて、以前のやんちゃで意地悪そうなニヒルな笑顔は見えなかった。
最後に小さい声で「イチロにぃ……ごめん」と聞こえた。
イチロにぃなんて言われたのは本当に小さい頃のことだ。忘れていた昔の懐かしい思い出が溢れてきて、思わず涙がこぼれた。
ラッセルの実家に、番いになったことと妊娠の報告をしに行った。ご両親からは盛大歓迎され、先祖返りのラッセルのおじいちゃんも自分のことのように喜んでくれた。
「ひ孫を見るまでは死ねんぞ!」と繰り返し言っていた。
「ひ孫までじゃなくてひひ孫も余裕で見れるくらい元気なくせに……」
とラッセルに突っ込まれていた。
和気藹々と、家族団欒ですごしていたが、実家にはラッセルの妹さんは見当たらなかった。
「妹は嫁にいったらしいぞ」
「え?!」
「一応、昔からの許婚がいたんだ」
「そ、そうなんだ……」
許婚がいながら恋人がいたってこと?!なんかぶっ飛んでるな。金持ちはやっぱり俺の感覚とは違うのかも知れない。
「ハダカネズミ獣人の優しそうな人だったんだが、妹に一目惚れしたらしくて……。家柄も人柄も、仕事もできて妹には勿体無いくらいだったんだ。だが、妹はネズミ獣人をことさら嫌っていたし、もっと強面の強そうな獣人がいいと聞かなくて……」
「妹さん気が強そうだったもんね……」
初めて会った時を思い出した。かなり激しい気性の持ち主だった。
温厚なハダカネズミ獣人の婚約者は、痺れを切らして妹さんを組み敷いてうなじを噛んで番いにしたらしい。
それがむしろ妹さん的に良かったらしくてコロッと手のひらを返したように惚れ込んでしまったとか。
俺は妹さんよかったね、としか思わなかった。
退院してからラッセルは、大量の赤ちゃんグッズを買いまくり、家の余っていた部屋を次々と赤ちゃんグッズで埋め尽くして俺に怒られた。
それでも全く懲りずにベビー用品が増えていった。
まだ生まれてもないのに、ものすごい喜びようで、俺も嬉しくて怒るに怒れなくなった。
これからは仲良く三人で暮らしていくんだ。
「フウ……」
安定期に入った体は少し重たくなって、お腹もぽっこり膨らんできた。最近、匂いに対して敏感になり、色んな匂いを嗅ぎ分けられるようになってきた。
今まで好きだった匂いが苦手になったり、逆もあったり。
いつものように朝ご飯を作っていた。すると、ふわりと鼻筋に通ってきた香りがあった。
夢で嗅いだ匂いだ!
間違いない!
俺の……。
ふらふらとその匂いを辿る。
リビングではラッセルがパソコンと睨めっこしながら仕事をしている。
近づいていくたびに強く香るその匂い。
まさか、やっぱり……。
後ろからうなじの匂いをくん、とかぎ取る。
俺に気づいた男が振り返る。
「イチロ?どうしたんだ?」
甘くて優しい笑顔で俺を振り返る、俺の運命の番い。
ティーツリーの香りが、部屋中溢れんばかりに香っていた。
END
「イチロさん、背中は骨折等はなく打撲ですね。内出血でより酷く見えますが、安静にしていればすぐによくなりますよ」
「そうですか、ありがとうございます、先生」
「お腹の赤ちゃんも元気ですよ。安心して下さいね」
「……………………あかちゃん?」
尻尾をイライラと床に打ちつけていた動きが止まり、無表情のラッセルが長い沈黙の後にそう呟いた。
「ええ、エコーで見た限りとても元気そうですよ。パパになるのが楽しみですね?」
ニコニコと先生がラッセルに言って、先生は病室を出て行った。
ラッセルは呆然として空虚を見つめる。
「……………………赤ちゃん?」
くるっと顔を俺に向けて、俺を見つめる。コクリ、と頷いてお腹に手を当てた。
無表情が、だんだんと表情豊かな、幸せ溢れる顔となっていった瞬間を俺は見逃さなかった。
警察からは、弟のジルは、他にも恐喝やら暴行罪なんかの余罪があるということで勾留されたと聞いた。それに加えてかなりの借金を悪い所から借りてしまっていたようだった。このままだと落ちる所まで落ちてしまう。
ラッセルは、俺の家族だから、とジルが闇金から借りたお金を代わりに払ってくれると言ってくれた。俺はその申し出をどうしても断れなかった。
ジルはやっぱり俺の家族で弟だから。ジルがこれから更生するかはわからないし、お金が返ってくる保証などない。けれど、家族を見捨てられない。だから、そのお金を俺が一生かかってもラッセルに返していこうと思った。俺が稼げるお金なんてたかが知れてるかもしれないが、精一杯努力して返していこう。
ジルに対してはお金を肩代わりする代わりに、今後一歳俺たちに関わらないと念書を書かせた。
勾留されている収監所へ念書や借金返済などの手続きのためにラッセルと共に弟ジルに会いに行った。
かなりやつれていて、以前のやんちゃで意地悪そうなニヒルな笑顔は見えなかった。
最後に小さい声で「イチロにぃ……ごめん」と聞こえた。
イチロにぃなんて言われたのは本当に小さい頃のことだ。忘れていた昔の懐かしい思い出が溢れてきて、思わず涙がこぼれた。
ラッセルの実家に、番いになったことと妊娠の報告をしに行った。ご両親からは盛大歓迎され、先祖返りのラッセルのおじいちゃんも自分のことのように喜んでくれた。
「ひ孫を見るまでは死ねんぞ!」と繰り返し言っていた。
「ひ孫までじゃなくてひひ孫も余裕で見れるくらい元気なくせに……」
とラッセルに突っ込まれていた。
和気藹々と、家族団欒ですごしていたが、実家にはラッセルの妹さんは見当たらなかった。
「妹は嫁にいったらしいぞ」
「え?!」
「一応、昔からの許婚がいたんだ」
「そ、そうなんだ……」
許婚がいながら恋人がいたってこと?!なんかぶっ飛んでるな。金持ちはやっぱり俺の感覚とは違うのかも知れない。
「ハダカネズミ獣人の優しそうな人だったんだが、妹に一目惚れしたらしくて……。家柄も人柄も、仕事もできて妹には勿体無いくらいだったんだ。だが、妹はネズミ獣人をことさら嫌っていたし、もっと強面の強そうな獣人がいいと聞かなくて……」
「妹さん気が強そうだったもんね……」
初めて会った時を思い出した。かなり激しい気性の持ち主だった。
温厚なハダカネズミ獣人の婚約者は、痺れを切らして妹さんを組み敷いてうなじを噛んで番いにしたらしい。
それがむしろ妹さん的に良かったらしくてコロッと手のひらを返したように惚れ込んでしまったとか。
俺は妹さんよかったね、としか思わなかった。
退院してからラッセルは、大量の赤ちゃんグッズを買いまくり、家の余っていた部屋を次々と赤ちゃんグッズで埋め尽くして俺に怒られた。
それでも全く懲りずにベビー用品が増えていった。
まだ生まれてもないのに、ものすごい喜びようで、俺も嬉しくて怒るに怒れなくなった。
これからは仲良く三人で暮らしていくんだ。
「フウ……」
安定期に入った体は少し重たくなって、お腹もぽっこり膨らんできた。最近、匂いに対して敏感になり、色んな匂いを嗅ぎ分けられるようになってきた。
今まで好きだった匂いが苦手になったり、逆もあったり。
いつものように朝ご飯を作っていた。すると、ふわりと鼻筋に通ってきた香りがあった。
夢で嗅いだ匂いだ!
間違いない!
俺の……。
ふらふらとその匂いを辿る。
リビングではラッセルがパソコンと睨めっこしながら仕事をしている。
近づいていくたびに強く香るその匂い。
まさか、やっぱり……。
後ろからうなじの匂いをくん、とかぎ取る。
俺に気づいた男が振り返る。
「イチロ?どうしたんだ?」
甘くて優しい笑顔で俺を振り返る、俺の運命の番い。
ティーツリーの香りが、部屋中溢れんばかりに香っていた。
END
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感想ありがとうございます😊
うわぁ〜❣️そのお言葉すごく嬉しいです!読んでいただいてありがとうございました☺️
完結おめでとうございます。
密かに楽しみにしていました…!
幸せになってくれてほんとに良かったです!
感想ありがとうございます😊!
無事にハピエンを迎えられました♪読んでいただきありがとうございました☺️
密かに楽しみに!🥹そのお言葉がとっても嬉しいです❣️