【BL】婚約破棄された令息は強引で意地悪な辺境伯に愛される

ノルジャン

文字の大きさ
18 / 51

9-1

しおりを挟む


 

 ハッと目を覚ますと、いつのまにかベッドの上で泣き疲れて寝てしまっていた。まだ外は暗いので朝まで寝ていたわけではなさそうだった。

 コツコツ、とバルコニーの窓から音がするのに気がついた。

 一体なんだろうかと不審に思いながらも、音の正体を確かめるためにゆっくりとバルコニーに近づいた。
 近づくと、バルコニーの外に人影のようなものが見えた。
 少し怖かったけど、確認せずにはいられなかった。

 そこにいたのはロヴィスとシュタルクの、一人と一匹の姿だった。

 しかも、ロヴィスは着替えたのか、見違えるほどのかっちりとした正装をして、髪もセットしたのか髪の毛を全て後ろに流して固めていた。

 けれど、何かあったのか、その正装は所々に穴や破れがあり、髪もせっかくセットしたのにはらはらと髪の毛が落ちてきてしまっていた。

 シュタルクも手足が泥まみれで、口元も、赤い血のようなもので真っ赤に染まっていた。

 その二人の様子にびっくりして、アルブレヒトはすぐさま駆けつけた。

「一体、なにがあったのですか?!」

 ロヴィスに駆け寄って自分が汚れるのも構わずに彼の腕に触れた。
 アルブレヒトは、下から顔を確認するように覗き込んだが、ロヴィスの顔はとても不機嫌そうだった。

 反対に、シュタルクはとても満足そうにしている様子から、口にベッタリと付いている血は本人の血ではなさそうだった。

 ロヴィスはむっつりとした顔で無言だっだが、そのかわりにシュタルクがぎゃるぎゃると嬉しそうに一生懸命アルブレヒトに話しかけてきた。
 とりあえずは、うんうんと頷いて聞いてやったが、一体何と言っているのか検討もつかなかった。

「花を摘みにいくぞと言ったのに、シュタルクがブルネをお前に渡すと言ってきかなかったんだ! お前の様子が、前に見た時よりも細くなって、元気がなさそうに見えんだと。だから、これを食べて前のように元気をだせと言っている。クソ……せっかく身綺麗にして正装までしたのに、ボロボロじゃないか」

 ロヴィスの腕にはブルネの果実が抱えられるだけあった。
 二人とも泥だらけでボロボロなのは、ブルネをとるために魔物のリンドヴルムと戦ってきたからだろう。
 シュタルクの口周りの血はおそらくリンドヴルムのものだ。

 正装をして森に花を摘みに行っただって?

 何を言っているのか、何が起こっているのかわからない。
 ぼう然とした顔でアルブレヒトはロヴィスの腕の中にある燃えるような紫色のブルネを見つめた。

 ロヴィスは、アルブレヒトが結婚の申し出を断ったから怒って出ていったのではなかったのか?

「花って……なんで…………」 

「なんでって、求婚する時に花束は定番だろう?お前を口説くのに夢中ですっかり他の用意が抜けていた。結局花は摘んでこられなかったがとりあえずほら」

 手を出せ、と手のひら大のブルネの果実を一つ手渡され、両手でそれを受け取った。

 紫炎色のブルネがアルブレヒトの手の上でゆらゆら燃えている。
 泥だらけの手でその実を掴んだせいか、少し乾いた泥が表面に付いていた。
 そして、ずっとロヴィスの腕に抱えられていたからか、少しだけ温かくなっていた。
 その温かさにほっと肩の力が抜けた。
 そうすると、張り詰めていた糸が切れたかのようにアルブレヒトは泣き出してしまった。

「ひ……ぅぅ、く……っ」

「……おいおい、どうして泣いているんだ。なんだ、やっぱり花の方がよかったか?」

 泣き出してしまったアルブレヒトに、飛竜のシュタルクですらオロオロとせわしなくアルブレヒトの周りで首を動かしていた。

 二人のそんな焦った様子がおかしくって、嬉しくって、思わず「あはは」と思い切り笑い声をあげて涙を拭った。

「泣いたと思ったら笑って……はぁ、もういい、今夜のことは忘れてくれ。明日からまた仕切り直す」

 またむっつり顔に戻ったロヴィス。

 しばらく笑って落ち着いたアルブレヒトは、すんと鼻を鳴らし、ロヴィスに愚痴をこぼす。
 
「泣いていたのは、あなたのせいです。あなたが……あなたがこんなにも僕を振り回すから」
  
「俺が? お前を? 振り回しているだと? この俺の格好が見えていないのか? 振り回されているのは俺の方だろう」

 ロヴィスは、ブルネをたくさん抱えたまま仁王立ちしている。蓄えていた髭もそり、髪は短く切ってセットしたのに乱れ、王宮に上がれそうなほどの豪華な正装もボロボロの状態だ。

「ぷっ……!」

 その姿を見たら、こらえきれずにまた笑い声が漏れてしまった。

「ふっ、ふふ……あはは!」
 
 笑いが次から次へと込み上げてきて止まらない。
 そんなアルブレヒトの様子を納得がいかなそうに目を細めて見てくる。

「……お前を笑顔に出来たことは素晴らしいことだが、俺のこの努力の姿を笑われるのはなんとも言えない気持ちになるな」
 
「ふふふっ……す、すみませ……あは!だって、……ふふっ」
 
「はぁ……もういいから早くブルネを受け取れ。口説くのは明日からにする」

 こんなに思い切り笑ったのはいつぶりだろうか。もう思い出せないくらい前だろう。
 声を上げて、腹を抱えて笑いを堪えずに笑うなんて王子の婚約者として許されなかったからだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...