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しおりを挟むハッと目を覚ますと、いつのまにかベッドの上で泣き疲れて寝てしまっていた。まだ外は暗いので朝まで寝ていたわけではなさそうだった。
コツコツ、とバルコニーの窓から音がするのに気がついた。
一体なんだろうかと不審に思いながらも、音の正体を確かめるためにゆっくりとバルコニーに近づいた。
近づくと、バルコニーの外に人影のようなものが見えた。
少し怖かったけど、確認せずにはいられなかった。
そこにいたのはロヴィスとシュタルクの、一人と一匹の姿だった。
しかも、ロヴィスは着替えたのか、見違えるほどのかっちりとした正装をして、髪もセットしたのか髪の毛を全て後ろに流して固めていた。
けれど、何かあったのか、その正装は所々に穴や破れがあり、髪もせっかくセットしたのにはらはらと髪の毛が落ちてきてしまっていた。
シュタルクも手足が泥まみれで、口元も、赤い血のようなもので真っ赤に染まっていた。
その二人の様子にびっくりして、アルブレヒトはすぐさま駆けつけた。
「一体、なにがあったのですか?!」
ロヴィスに駆け寄って自分が汚れるのも構わずに彼の腕に触れた。
アルブレヒトは、下から顔を確認するように覗き込んだが、ロヴィスの顔はとても不機嫌そうだった。
反対に、シュタルクはとても満足そうにしている様子から、口にベッタリと付いている血は本人の血ではなさそうだった。
ロヴィスはむっつりとした顔で無言だっだが、そのかわりにシュタルクがぎゃるぎゃると嬉しそうに一生懸命アルブレヒトに話しかけてきた。
とりあえずは、うんうんと頷いて聞いてやったが、一体何と言っているのか検討もつかなかった。
「花を摘みにいくぞと言ったのに、シュタルクがブルネをお前に渡すと言ってきかなかったんだ! お前の様子が、前に見た時よりも細くなって、元気がなさそうに見えんだと。だから、これを食べて前のように元気をだせと言っている。クソ……せっかく身綺麗にして正装までしたのに、ボロボロじゃないか」
ロヴィスの腕にはブルネの果実が抱えられるだけあった。
二人とも泥だらけでボロボロなのは、ブルネをとるために魔物のリンドヴルムと戦ってきたからだろう。
シュタルクの口周りの血はおそらくリンドヴルムのものだ。
正装をして森に花を摘みに行っただって?
何を言っているのか、何が起こっているのかわからない。
ぼう然とした顔でアルブレヒトはロヴィスの腕の中にある燃えるような紫色のブルネを見つめた。
ロヴィスは、アルブレヒトが結婚の申し出を断ったから怒って出ていったのではなかったのか?
「花って……なんで…………」
「なんでって、求婚する時に花束は定番だろう?お前を口説くのに夢中ですっかり他の用意が抜けていた。結局花は摘んでこられなかったがとりあえずほら」
手を出せ、と手のひら大のブルネの果実を一つ手渡され、両手でそれを受け取った。
紫炎色のブルネがアルブレヒトの手の上でゆらゆら燃えている。
泥だらけの手でその実を掴んだせいか、少し乾いた泥が表面に付いていた。
そして、ずっとロヴィスの腕に抱えられていたからか、少しだけ温かくなっていた。
その温かさにほっと肩の力が抜けた。
そうすると、張り詰めていた糸が切れたかのようにアルブレヒトは泣き出してしまった。
「ひ……ぅぅ、く……っ」
「……おいおい、どうして泣いているんだ。なんだ、やっぱり花の方がよかったか?」
泣き出してしまったアルブレヒトに、飛竜のシュタルクですらオロオロとせわしなくアルブレヒトの周りで首を動かしていた。
二人のそんな焦った様子がおかしくって、嬉しくって、思わず「あはは」と思い切り笑い声をあげて涙を拭った。
「泣いたと思ったら笑って……はぁ、もういい、今夜のことは忘れてくれ。明日からまた仕切り直す」
またむっつり顔に戻ったロヴィス。
しばらく笑って落ち着いたアルブレヒトは、すんと鼻を鳴らし、ロヴィスに愚痴をこぼす。
「泣いていたのは、あなたのせいです。あなたが……あなたがこんなにも僕を振り回すから」
「俺が? お前を? 振り回しているだと? この俺の格好が見えていないのか? 振り回されているのは俺の方だろう」
ロヴィスは、ブルネをたくさん抱えたまま仁王立ちしている。蓄えていた髭もそり、髪は短く切ってセットしたのに乱れ、王宮に上がれそうなほどの豪華な正装もボロボロの状態だ。
「ぷっ……!」
その姿を見たら、こらえきれずにまた笑い声が漏れてしまった。
「ふっ、ふふ……あはは!」
笑いが次から次へと込み上げてきて止まらない。
そんなアルブレヒトの様子を納得がいかなそうに目を細めて見てくる。
「……お前を笑顔に出来たことは素晴らしいことだが、俺のこの努力の姿を笑われるのはなんとも言えない気持ちになるな」
「ふふふっ……す、すみませ……あは!だって、……ふふっ」
「はぁ……もういいから早くブルネを受け取れ。口説くのは明日からにする」
こんなに思い切り笑ったのはいつぶりだろうか。もう思い出せないくらい前だろう。
声を上げて、腹を抱えて笑いを堪えずに笑うなんて王子の婚約者として許されなかったからだ。
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