異世界で紡がれるアラフォー女性の復讐譚

ゆみりん

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復讐の途中

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アブサンから戻ったエマの心は、今までになく重く沈んでいた。

ついに無実な人を手に掛けてしまったことへの罪悪感、そしてもはや自分の力ではアブサンを止められないという恐怖に、エマは押しつぶされそうだった。

その日、エマはカフェの仕事を休ませてもらい、単身、母親の墓へと向かった。

修道院の敷地内にあるその墓地は、古い石碑や墓石が並び、静寂の中に過ぎ去った時代の面影が漂っていた。そこは、生と死が交錯する平安な空気とともに、ゆっくりとした時の流れを感じさせる空間だった。

母親の好きだった純白のユリの花を手に、エマはしばしばそこを訪れていた。

エマの母親はほとんど不満を言わない辛抱強い人だった。その一方で、何でも自分1人で抱え込み、人に頼ることができない人でもあった。

もっと助けを求めればよかったのに、と今になってはそう思うエマだが、

母親には母親のやり方があったのだろうと今は理解していた。

「ついに無実な人々の命を奪ってしまった。お母さん、私は一体どうしたらいいの?暴走する猛獣を野放しにしないためにも、私自身が消えるべきなのでは?。。。」

そう母親に語り掛けるエマは、ある哀しい物語が思い出していた。

自分の中に共存する善と悪の二面性に強い関心を持った画家が、その悪の人格を解放するためのポーションを手に入れた。それを飲むと、画家は凶悪な人間へと変貌した。最初は悪の人格を制御できていた画家だったが、次第に悪の力が増していき、本来の人格の意思に反し、暴走するようになった。本来の自分が悪に完全に飲み込まれることを恐れた画家は、自ら命を絶った、というストーリーだった。

その画家と自分を重ね、同じ運命を辿るべきなのではと悩むエマ。その頭には、最後の手段として自分の死という選択肢がちらつき始めていた。

エマが、そんなことを考えていると、背後から声が聞こえた。

「エマじゃないか?どうしたんだ?」

振り返るとそこにはヴィクターが立っていた。

「ここ、私の母のお墓なんです。今日は久しぶりにお墓参りに来まして。。。ところでヴィクターこそ、こんなところでどうしたんですか?」と、エマが聞き返した。

「友人の墓参りに来たんだ。」ヴィクターはそう言って、花が手向けられた友人の墓碑を指差した。

「ずいぶん深刻な顔つきで考え込んでいたけど、大丈夫か?」とヴィクターが尋ねると、エマはためらいながらも、思い切って胸の内を打ち明けた。

「昨晩、アブサンが無実の人に手を掛けてしまって。。。もう私にはアブサンを止められないんです。これ以上、罪なき犠牲者を出さないためにも、私もろともアブサンの存在を消さないといけないのではと。。。」

「自殺するつもりなのか?」とヴィクターがずばりと聞いた。

「それも選択肢の一つかと。。。」とエマは重い口調で答えた。

ヴィクターは、しばらく考え込んだ後、自分の過去について話し始めた。

「俺は子供の頃、救貧院にいたんだ。そこは言葉では言い表せないくらいひどい所で、そこで出会った友人と一緒に脱出したんだ。それから街で悪さをしていた所をアングラ世界に誘われ、犯罪に手を染めるようになった。

ある日、ドラッグビジネス絡みの抗争に巻き込まれて、友人が人質にされてしまった。駆けつけた警官は、ためらいもなく友人と犯人をその場で撃ち殺したんだ。俺も友人はまだ子供だったのに。俺は何もできず、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。それからずっと、友人を殺したその警官を憎み、いつか復讐してやろうと思っていた。」

ヴィクターの壮絶な過去を初めて聞いたエマの胸に、するどい痛みが走った。ヴィクターはさらに続けた。

「ある日、帽子専門店に強盗が入り、店員を人質に取った。たまたまそこにいた客の男が、人質と自分を交換してくれと申し出たんだ。そして駆け付けた警官に自分もろとも犯人を撃つように言うと、彼はそのまま帰らぬ人になった。その男は、俺の友人を殺した警官だった。

最初は頭が混乱したよ。俺が復讐したかった相手が英雄だなんて許せなかった。。。でも今になって思うんだ。あの日、友人を撃ったことをあの警官はずっと後悔していたんじゃないかって。犠牲が必要な状況もあるという悲しい現実を知っていたからこそ、友人を撃ったのだと。きっとあの警官は、生涯ずっと重い十字架を背負っていたんだと思う。哀しいことだが、何かを成し遂げるためには、犠牲も避けられないことがある。そんな気持ちが拭いきれなくて、俺は刑事になったのだと思う。」

ヴィクターの言葉の一つ一つが、エマの胸に深く沁み込んできた。

「ヴィクター、私、できるところまでアジールの活動を続けます。いつか自分の存在を消さなければいけない時が来るかもしれないけど、それは今ではないような気がします。」

それを聞いたヴィクターは、ゆっくりとうなづいて言った。

「俺もアジールメンバーも全力でお前に協力するつもりだ。俺たちはまだ復讐の途中だ。行けるところまでいこうじゃないか。」

ヴィクターの優しい言葉に、エマは自分は一人ではないことを実感し、復讐の道を進むことを改めて決意したのだった。

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