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第1話 春です!モータースポーツシーズンです!

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 響子の視線の先には北陸工業大学のインテグラタイプR【DC2】が出走を控えていた。

大学女子ジムカーナは夏に行われる各地区の予選を勝ち抜き秋の全国大会を目指す。
中部地区は予選上位2校に全国大会への出場枠が与えられており、昨年は愛心学院が初めて2位に入り出場権を勝ち取った。しかしこの地区の覇権を長らく聖城女学院と握っていたのがこの北陸工業大学なのだ。 

「部長の石動悠希いするぎゆうきさんはセッティングにも詳しい超理論派ドライバーだよねー、ひとみちゃんとは真逆のタイプ!」
耳につくアニメキャラのような声質でさらっと毒のあるセリフを吐いたのは茉莉である。

「なにを!私だってちゃんと色々考えてんだぞ!ちょっと伝えるのが苦手なだけで・・・まあ超感覚派ドライバーだからな、そこら辺は」
ひとみも反論するが自覚はあるようである。

 そんなやり取りの最中、石動悠希のインテグラがスタートした。

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「うーん、なんかしっくりこないなぁ」
4本目の走行を終えたひとみがパドックでイスにどかっと体を下ろす。2本目に1分2秒581を出して以降、3本目、4本目とタイムを上げる事が出来ていなかった。

「でも部長はこのセッティングでベストの1分2秒6が出てますよね。私もこれが一番乗り易かったかな。と言ってもまだ1分4秒台ですけど・・・」
と言ってまどかはシュンと顔を下げる。
「まどかは最後の360°ターンの精度ね。でも外周もちゃんと踏めているし、走るたびに良くなってきてるわよ」
響子がまどかの走行動画を眺めながら指摘する。

「部長ぉ~、もう1回2本目のセットで走りたいんだけど・・・ダメ?」
「ダメも何も今日はみんな4本までしか走れないルールなの知ってるでしょ?それよりも片付けよ、か・た・づ・け!」

「片付けで忙しいところだったかな?」
そう言って現れたのは石動悠希だ。黒く長く伸びた髪は美しく大和撫子と形容するのがぴったりだが、その実は結構な熱血漢だ。

「いえいえ、全然大丈夫よ。今日はお見事ね、ちょっと太刀打ちできなかったわ」
「ふふ、ありがとう。たしかに今日は私の方が速かったが、ウチのあとの2人は神沢と今池に勝ててないからな。正直お相子だろう」
 
 今日の2番手タイムは悠希の1分2秒288だった。しかもその後もコンスタントに2秒台前半を出している。ひとみがセッティングを戻したがったのも悠希のタイムを抜き返したかったからに他ならない。

「そちらは午後のセッティングがオーバー好きの今池に合ってなかったようだな。フロントの車高を5mmぐらい上げて、バネも2~3キロ柔らかくしたといったところか」

「相変わらず素晴らしい洞察力なこって!しかしゲスの勘ぐりもそこまでにして貰おうか!」
そう言って後ろから羽交い絞めするように悠希に覆いかぶさったのは睦美だった。
「そちらの方こそ随分とエンジンがご機嫌だったようですが?ついに2リッター化にハイカム投入ですかい?」

「ふふ、さすがに気付いたか。我々は去年の悔しさもあるし、君たちに勝つにはパワーの強化は必須だからな。しかもあんな化け物まで出て来たとなると・・・」

 化け物とは無論、聖城女学院のエキシージのことである。

「とは言え彼女たちも化け物の扱いにはまだまだ手こずっているようだがな。あくまで女子ジムカーナは団体戦、部員全体の力量が試される場だ」

 化け物の扱いに手こずっている。まさしくその通りであった。龍泉寺華蓮こそ圧倒的なタイムで度肝を抜いたが、あと2人のドライバーは華蓮ほどのタイムは出せなかったのだ。乗用車と呼ぶには余りにいびつな成り立ちのモンスター。そう容易く扱える代物ではないのである。

「それにこれから新入生も入ってくる。またとんだ逸材が出て来るかもしれないし、まだどうなるか分からんよ」
そう言って悠希はひとみに目をやった。自分たちを痛い目に合わせたとんだ逸材がまさに去年の彼女であったからだ。ひとみは少しばかりばつが悪そうに目をそらす。

「新入生か・・・そうね、来週から新勧の準備で忙しくなるわ」
 響子は誰に言うでもなくつぶやいた。



登場車両紹介
ホンダ インテグラタイプR【型式DC2】
北陸工業大学女子自動車部部車
1995年に登場したNSXに続くタイプRシリーズ第2弾車両。搭載されるB18C VTECエンジンは1.8Lで200馬力という高出力を発生、当時のFF(前輪駆動車)最速の座を揺ぎ無い物とした。
 北陸工業大学の部車はインテグラタイプR 98specレースベース車を徹底的な軽量化(900kg強とも言われる)を行っている。昨年まではスピードSA車両規定+軽量化程度の改造度合であったが、今年からは大幅にエンジンを改修、排気量アップなどのメカチューンで最高出力は230psに達する純然たるスピードSC車両になっている。
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