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第1章 転生と牧場のはじまり
第5話「はじめての動物屋さんと、牛のナナちゃん」
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出荷箱の売上通知を確認し、ほくほく顔のはるとは、今日は朝からお出かけの準備をしていた。
「よし、今日は“動物屋さん”に行くか」
リンネが以前話していた「牧畜初心者支援サービス」とやらを受けに、リーヴァの村の西にあるグレイン牧畜屋を目指すのだ。
「トコトコのコトコも元気そうだし、そろそろ“本格的な家畜”もお迎えしたいよな」
飼い葉のストックも増えたし、牧場の柵も昨日補修したばかり。
牧場主(見習い)として、一歩前進のタイミングだ。
*
午前10時ごろ、村の西のはずれ。木造の広い建物の前に「グレイン牧畜屋」と書かれた看板が揺れていた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃい!」
出迎えたのは、背の高い、優しそうな女性。栗色の髪を三つ編みにしたおっとり系のエマさんだった。
「あなたが、最近牧場を始めた“はるとさん”ね? リンネちゃんから聞いてるわ♪」
「……あ、やっぱり話回ってるんですね」
「うふふ。あの子、おしゃべりだけどいい子よ」
エマさんに案内されて、屋内へ入ると、そこには……いた。
白と茶のまだら模様の子牛が、干し草の上でのんびり寝転んでいた。丸っこい身体に、とろーんとした瞳。
「こ、この子は……!」
「この子は“ナナ”。人懐っこくて初心者向け。今朝生まれたばかりで、まだ名前もついてないの」
エマさんがそう言った瞬間──
「ナナちゃんっ、かわいいーっ!」
背後から飛び込んできた元気な声。振り向くと、案の定リンネが駆け込んできた。
「……え、なんでいるの?」
「だって今日は“動物屋さんに行く日”って言ってたじゃん! 一緒に行こうと思って~!」
ふわふわの耳がぱたぱたと揺れ、嬉しそうなリンネがナナちゃんの鼻先に指を差し出すと──
「もーぅ」
ナナちゃんは遠慮なくぺろぺろと舐め始めた。
「きゃっ、くすぐった~い!」
リンネの笑い声に、牛も楽しそうに鳴く。
「はるとさん、この子、今日からあなたの牧場に行く? お試し期間中だから、1週間無料で貸し出しできるわ」
「えっ、そんな制度あるんですか」
「うんうん、牧場振興制度の一環でね。“牛1週間お試しキャンペーン”っていうの。エサも2日分つけておくわよ」
「……ネーミングがそのまんまだな。でもありがたいです、ぜひお願いします!」
*
こうして、ナナちゃんは小型荷車に乗って、はるとの牧場へ移動されることになった。
途中、村人たちから「おっ、ついに家畜か!」「ナナちゃん、いい子だぞ~!」と声をかけられる。
「ナナちゃん、人気なんだなぁ」
「うん、この村で生まれた子だから、みんなの“顔見知り”なんだよね」
リンネがそう教えてくれた。
ゲームのNPCとは違う、“人と動物の関係性”が、この世界には生きている。
*
牧場に戻ったはるとは、以前整備した柵の中にナナちゃんを迎え入れた。
ナナちゃんは特に警戒もせず、のんびりと草を食み始める。
「うん、馴染んでるな……よし、じゃあ……!」
はるとはウィンドウを開き、「家畜管理」タブを選択。
【ナナ(牛・♀)】
・年齢:0歳(子牛)
・健康度:100%
・親愛度:30/100
・乳生産:まだ不可
・特性:おっとり、人懐っこい
「おぉ……管理機能もしっかりあるんだ」
「ナナちゃん、ちゃんと名前つけてくれて嬉しそうだよ!」
リンネが隣で頷く。ふと、はるとは小さく息をついた。
「……こうして、命を預かるのって、責任があるな。でも──悪くない」
「はるとって、さ。前よりずっと、いい顔になったよ?」
「え?」
「最初に会ったときより、ずっと柔らかい顔してる。たぶん、それが“本当の顔”なんだと思う」
まっすぐに向けられるその言葉に、はるとは少し照れくさそうに目を逸らした。
「……なんだよ、急に」
「ふふふっ。なんでもなーい」
*
日が傾くころ、出荷箱にはエマさんからの小包が置かれていた。
《ナナちゃんのこと、よろしくね。あの子は甘えん坊だから、よく話しかけてあげてね。エマより》
その包みには、小さな木製ブラシと、手作りのリボンが入っていた。
「……こういうの、すごくいいな」
誰かが誰かを思って、何かを贈る。そんな関係の中で、自分も少しずつ“ここでの生き方”を学んでいく。
「ナナちゃん、明日もよろしくな」
そう声をかけながら、はるとは牛舎の戸を優しく閉めた。
*
一方、現実世界。
天城ひなのは、兄の使っていたゲームソフトを何度も起動しようとするが、やはり反応はない。
だがそのとき、画面の隅に一瞬だけ“接続中”という謎の文字が浮かんだ。
「……? いま、なにか動いた?」
ひなのは小さく首をかしげた。
彼女がこの世界と繋がる日は、もうそう遠くない。
---
「よし、今日は“動物屋さん”に行くか」
リンネが以前話していた「牧畜初心者支援サービス」とやらを受けに、リーヴァの村の西にあるグレイン牧畜屋を目指すのだ。
「トコトコのコトコも元気そうだし、そろそろ“本格的な家畜”もお迎えしたいよな」
飼い葉のストックも増えたし、牧場の柵も昨日補修したばかり。
牧場主(見習い)として、一歩前進のタイミングだ。
*
午前10時ごろ、村の西のはずれ。木造の広い建物の前に「グレイン牧畜屋」と書かれた看板が揺れていた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃい!」
出迎えたのは、背の高い、優しそうな女性。栗色の髪を三つ編みにしたおっとり系のエマさんだった。
「あなたが、最近牧場を始めた“はるとさん”ね? リンネちゃんから聞いてるわ♪」
「……あ、やっぱり話回ってるんですね」
「うふふ。あの子、おしゃべりだけどいい子よ」
エマさんに案内されて、屋内へ入ると、そこには……いた。
白と茶のまだら模様の子牛が、干し草の上でのんびり寝転んでいた。丸っこい身体に、とろーんとした瞳。
「こ、この子は……!」
「この子は“ナナ”。人懐っこくて初心者向け。今朝生まれたばかりで、まだ名前もついてないの」
エマさんがそう言った瞬間──
「ナナちゃんっ、かわいいーっ!」
背後から飛び込んできた元気な声。振り向くと、案の定リンネが駆け込んできた。
「……え、なんでいるの?」
「だって今日は“動物屋さんに行く日”って言ってたじゃん! 一緒に行こうと思って~!」
ふわふわの耳がぱたぱたと揺れ、嬉しそうなリンネがナナちゃんの鼻先に指を差し出すと──
「もーぅ」
ナナちゃんは遠慮なくぺろぺろと舐め始めた。
「きゃっ、くすぐった~い!」
リンネの笑い声に、牛も楽しそうに鳴く。
「はるとさん、この子、今日からあなたの牧場に行く? お試し期間中だから、1週間無料で貸し出しできるわ」
「えっ、そんな制度あるんですか」
「うんうん、牧場振興制度の一環でね。“牛1週間お試しキャンペーン”っていうの。エサも2日分つけておくわよ」
「……ネーミングがそのまんまだな。でもありがたいです、ぜひお願いします!」
*
こうして、ナナちゃんは小型荷車に乗って、はるとの牧場へ移動されることになった。
途中、村人たちから「おっ、ついに家畜か!」「ナナちゃん、いい子だぞ~!」と声をかけられる。
「ナナちゃん、人気なんだなぁ」
「うん、この村で生まれた子だから、みんなの“顔見知り”なんだよね」
リンネがそう教えてくれた。
ゲームのNPCとは違う、“人と動物の関係性”が、この世界には生きている。
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牧場に戻ったはるとは、以前整備した柵の中にナナちゃんを迎え入れた。
ナナちゃんは特に警戒もせず、のんびりと草を食み始める。
「うん、馴染んでるな……よし、じゃあ……!」
はるとはウィンドウを開き、「家畜管理」タブを選択。
【ナナ(牛・♀)】
・年齢:0歳(子牛)
・健康度:100%
・親愛度:30/100
・乳生産:まだ不可
・特性:おっとり、人懐っこい
「おぉ……管理機能もしっかりあるんだ」
「ナナちゃん、ちゃんと名前つけてくれて嬉しそうだよ!」
リンネが隣で頷く。ふと、はるとは小さく息をついた。
「……こうして、命を預かるのって、責任があるな。でも──悪くない」
「はるとって、さ。前よりずっと、いい顔になったよ?」
「え?」
「最初に会ったときより、ずっと柔らかい顔してる。たぶん、それが“本当の顔”なんだと思う」
まっすぐに向けられるその言葉に、はるとは少し照れくさそうに目を逸らした。
「……なんだよ、急に」
「ふふふっ。なんでもなーい」
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日が傾くころ、出荷箱にはエマさんからの小包が置かれていた。
《ナナちゃんのこと、よろしくね。あの子は甘えん坊だから、よく話しかけてあげてね。エマより》
その包みには、小さな木製ブラシと、手作りのリボンが入っていた。
「……こういうの、すごくいいな」
誰かが誰かを思って、何かを贈る。そんな関係の中で、自分も少しずつ“ここでの生き方”を学んでいく。
「ナナちゃん、明日もよろしくな」
そう声をかけながら、はるとは牛舎の戸を優しく閉めた。
*
一方、現実世界。
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だがそのとき、画面の隅に一瞬だけ“接続中”という謎の文字が浮かんだ。
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