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第6話「風の丘と、もふもふのおともだち」
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ぽかぽかと陽射しが降り注ぐ中、ひまりはもふりんと並んで小道を歩いていた。
道ばたには菜の花に似た黄色い花が咲いている。風が吹くたび、ふわりふわりと花びらが舞って、まるで空からの手紙のようだった。
「これが“ミラの花”……かも?」
ひまりは足を止め、花の香りをそっと吸い込む。やさしい香り。どこか懐かしい。
「お母さんも、これ見てたのかな……」
もふりんはその足元で、花をつんつんと鼻でつついたり、くるくると回ったりして楽しそう。お腹を出して日向でごろーんと寝転んでしまった。
「もう、またお昼寝? しょうがないなあ……じゃあ、ちょっとだけ休憩しようか」
ひまりはリュックからシートを広げて腰を下ろす。木陰から見上げる空は、どこまでも青い。
持ってきた携帯スープを温めながら、ひまりはカオリの手帳を開いた。風で少しめくれたページに、こんな一文があった。
《丘のふもとで、おかしな毛玉に出会った。目がまんまるで、ぴょんぴょん跳ねる。仲良くなった》
「……毛玉?」
そのとき。
「ぴょんっ」
視界の端で、何かが跳ねた。もふりんがくんくんと鼻を鳴らしながら、草むらに向かって走っていく。
「もふりん、どうしたの?」
ひまりが追いかけると──草の影から、もこもこの生き物が現れた。
まんまるの体に、くりくりの目。ふわふわの耳と、ほんのりピンク色の鼻先。
ひまりは思わず「かわいい……!」と声を漏らした。
それは、ひまりたちをじっと見つめてから、ぴょんっと軽く跳ねて、もふりんの横に並んだ。もふりんも嫌がるどころか、むしろ楽しそうに尻尾を振っている。
「えっと……仲間、なのかな?」
もふりんが「きゅぅ」と鳴き、毛玉も「ぴぃ」と応えた。
ふたり──いえ、ふたりと一匹の旅は、いつの間にかにぎやかになっていた。
丘へ続くなだらかな坂道。道の途中で、小さな石造りのベンチが見つかった。そこには、手作りの木箱があり、中には乾燥したハーブとメモが入っていた。
《旅人へ。疲れたらここでひと休みしてね。ミラの丘は、もうすぐそこ。風と花の香りが、道しるべになりますように──カオリ》
「お母さん……ここに来たんだ」
ひまりは木箱の中のカモミールの花を、そっと手に取った。指の先に、ほんのり温もりが残る気がした。
午後の日差しが傾きはじめる頃、ついに丘の上にたどり着いた。
そこには、風にそよぐ黄色の花が一面に咲いていた。
「わあ……」
言葉が出ない。風に舞う花びらが、ひまりの頬に触れ、髪をなでていく。
もふりんと新しいもふもふ仲間──ひまりはこっそり「まるまるちゃん」と呼んでいた──も、花の中をくるくると楽しそうに走り回る。
「お母さん、この景色……きれいだよ。わたし、ちゃんとここに来たよ」
空を見上げると、雲の間から光が差し込んでいた。まるで、誰かがそっと見守ってくれているようだった。
ひまりは静かに、手帳を胸に抱いた。
──そして、その丘の下、少し離れた木の陰に。
一人の女性が、そっと立っていた。
旅の服を身にまとい、帽子の下からのぞく瞳は、どこかひまりとよく似ている。彼女は静かに微笑み、小さくつぶやいた。
「……大きくなったわね、ひまり」
風がまた、やさしく吹いた。
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道ばたには菜の花に似た黄色い花が咲いている。風が吹くたび、ふわりふわりと花びらが舞って、まるで空からの手紙のようだった。
「これが“ミラの花”……かも?」
ひまりは足を止め、花の香りをそっと吸い込む。やさしい香り。どこか懐かしい。
「お母さんも、これ見てたのかな……」
もふりんはその足元で、花をつんつんと鼻でつついたり、くるくると回ったりして楽しそう。お腹を出して日向でごろーんと寝転んでしまった。
「もう、またお昼寝? しょうがないなあ……じゃあ、ちょっとだけ休憩しようか」
ひまりはリュックからシートを広げて腰を下ろす。木陰から見上げる空は、どこまでも青い。
持ってきた携帯スープを温めながら、ひまりはカオリの手帳を開いた。風で少しめくれたページに、こんな一文があった。
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「……毛玉?」
そのとき。
「ぴょんっ」
視界の端で、何かが跳ねた。もふりんがくんくんと鼻を鳴らしながら、草むらに向かって走っていく。
「もふりん、どうしたの?」
ひまりが追いかけると──草の影から、もこもこの生き物が現れた。
まんまるの体に、くりくりの目。ふわふわの耳と、ほんのりピンク色の鼻先。
ひまりは思わず「かわいい……!」と声を漏らした。
それは、ひまりたちをじっと見つめてから、ぴょんっと軽く跳ねて、もふりんの横に並んだ。もふりんも嫌がるどころか、むしろ楽しそうに尻尾を振っている。
「えっと……仲間、なのかな?」
もふりんが「きゅぅ」と鳴き、毛玉も「ぴぃ」と応えた。
ふたり──いえ、ふたりと一匹の旅は、いつの間にかにぎやかになっていた。
丘へ続くなだらかな坂道。道の途中で、小さな石造りのベンチが見つかった。そこには、手作りの木箱があり、中には乾燥したハーブとメモが入っていた。
《旅人へ。疲れたらここでひと休みしてね。ミラの丘は、もうすぐそこ。風と花の香りが、道しるべになりますように──カオリ》
「お母さん……ここに来たんだ」
ひまりは木箱の中のカモミールの花を、そっと手に取った。指の先に、ほんのり温もりが残る気がした。
午後の日差しが傾きはじめる頃、ついに丘の上にたどり着いた。
そこには、風にそよぐ黄色の花が一面に咲いていた。
「わあ……」
言葉が出ない。風に舞う花びらが、ひまりの頬に触れ、髪をなでていく。
もふりんと新しいもふもふ仲間──ひまりはこっそり「まるまるちゃん」と呼んでいた──も、花の中をくるくると楽しそうに走り回る。
「お母さん、この景色……きれいだよ。わたし、ちゃんとここに来たよ」
空を見上げると、雲の間から光が差し込んでいた。まるで、誰かがそっと見守ってくれているようだった。
ひまりは静かに、手帳を胸に抱いた。
──そして、その丘の下、少し離れた木の陰に。
一人の女性が、そっと立っていた。
旅の服を身にまとい、帽子の下からのぞく瞳は、どこかひまりとよく似ている。彼女は静かに微笑み、小さくつぶやいた。
「……大きくなったわね、ひまり」
風がまた、やさしく吹いた。
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