『今日も平和に暮らしたいだけなのに、スキルが増えていく主婦です』

51話『スキルの副作用！？カフェに起きたちいさな混乱』

「……なんだか、今日はみんなテンション高くない？」

カフェで働く麻衣は、開店して30分もしないうちに妙な違和感に気づいた。

朝からやってきた常連さんたちが、みんなやたら元気なのだ。

「おはようございます！いやぁ、今日はなんか気持ちがいいですねぇ！」

「私も！今朝、靴下そろって出てきたし、コーヒーもいい感じに淹れられて！」

……地味だけど、やたらハッピー。

しかも、隣の席のカップルはやたら甘々モード。

「ねえ、急にどうしたのよ～恥ずかしいじゃん♡」

「だってなんかさぁ……今日の君、すっごくキラキラして見えるっていうか……」

（あれ？これってもしかして……）

麻衣の頭に浮かんだのは、昨日の「スキル実験」。

スミレさんと一緒に“共鳴”スキルを使って、カフェの空気をちょっと和ませた――それが、もしかして残ってたりする？

いや、そんなバフ効果が持続するならゲームバランス大変だし……と考えていると、スミレさんがのんびり登場。

「麻衣さ～ん、今日も平和ね～」

「スミレさん！ちょっと、昨日のスキルって……持続効果あるんですか？」

「んー？基本はないけど、場所に“共鳴”が定着すると、しばらく“残響”が残ることがあるのよ」

「ざんきょう……？」

「うん。“空間記憶”みたいな感じ？昨日、あなたと一緒に使ったから、麻衣さんのスキルが“見えた感情”を色のフィルターみたいに残してるんだと思う。つまりいま、カフェが“ほんのり幸せ色”」

「え、それ……どうするんですか！？ずっと続くの？」

「まあ、自然と薄れていくから大丈夫。でも――」

スミレさんがチラリと視線を横にやる。

カウンター席で、ひとり黙々と作業していた男性客が突然叫んだ。

「ひらめいた……ッ！このアイデアは革命だ……！」

「ま、まさかクリエイティブ効果も……？」

「あるかも？」

麻衣のカフェ、予期せぬ“スキル効果スポット”と化していた。


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午後になり、とうとう珍客登場。

ピンクのふわふわワンピースを着たご婦人が、鼻歌まじりにやってきて、

「なんだかね、ここに来ると良いことありそうな気がしたのよ～♪」

と、メニューも見ずにケーキとコーヒーを注文。

……その直後、スマホを見て叫んだ。

「当たったわ……旅行券が当たったわぁぁぁ！！」

カフェ内にどよめきが起きる。

麻衣はスミレさんと目を見合わせた。

「……これ、スキルの影響？」

「さすがにそれは運かも。でも、気分が明るいと引き寄せちゃうかもね～」

……すごい。スキルって、こんなに日常に入り込めるんだ。

でも同時に、やっぱりちょっとだけ“調整”が必要かもしれない。

麻衣は帰り際、スミレさんに聞いた。

「“残響”って、どうやったら抑えられるの？」

「麻衣さんのスキルで“ニュートラルな感情”を強くイメージしてみて。“落ち着き”とか“安心”とか。そうすれば、フィルターが自然に和らぐわよ」

その晩、カフェが静かになった頃、麻衣は深呼吸して心の中で思った。

「今日も平和で、みんなが心地よく過ごせますように」

ほんの少しだけ“色”が優しくなった気がした。

　

──日常に魔法のような時間が生まれる。
それは誰かが“ちょっといい気分”を分け合った証かもしれない。


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