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102話『カフェでの新メニューと、ひとの“気持ち”を味わう時間』
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「麻衣さん、これ、新メニューの候補なんだけど……試食、お願いできる?」
カフェの店長・佐伯さんが、お盆にのせた2皿を運んできた。
今日は定休日を利用した、スタッフ向けの試食会。普段はキッチンの手伝いが中心の麻衣も、たまには“お客さん役”として参加していた。
「うわぁ、美味しそう……! 一つはパスタ? もう一つは……あ、レモン風味のチーズケーキ?」
「そうそう。パスタは新しいオイルを使っててね。ケーキの方はスミレさんが提案してくれたレシピを試してみたんだ」
「スミレさんって……あの、占い師っぽい常連さんですよね?」
「うん。あの人、昔パティシエ修業してたんだって」
「へぇ~……やっぱり、ただ者じゃなかった!」
麻衣は思わず笑ってしまったが、スキルアプリがぴこりと反応した。
> 《感情感知:丁寧さ・期待・ちょっぴりの不安》
(このケーキには、作った人の“想い”がぎゅっと詰まってる感じ……)
フォークでひとくち。
ふわっとレモンの香りが広がった瞬間、麻衣はスキルを通して、まるで記憶のかけらを味わうような感覚に包まれた。
――“夏の終わりの風景”。
――“がんばれって背中を押す気持ち”。
「……なんか、食べただけで元気が出てくる気がします」
「ほんと? よかった~! スミレさんにも伝えておくね」
店長はほっとしたように笑った。
午後、まかないを食べたあと、麻衣はキッチンの奥で一息ついていた。
そのとき、ふらりと穂積さんが来店した。
「こんにちは。定休日だって聞いたけど、やってるの?」
「スタッフ試食会なんです。よかったら、ちょっと味見します?」
「え、いいの? じゃあ、せっかくだから……コーヒーと、ケーキを一切れ」
麻衣はそっとケーキを切り、運ぶときに声をかけた。
「このケーキ、気持ちがすごくこもってるんですよ」
「気持ち?」
「ええ、なんというか、“ひとに届くものを作りたい”っていう思いが、ちゃんと味に出てるっていうか」
穂積さんは少し驚いた顔をして、それから一口。
そして、ふっと笑った。
「……うん。確かに、伝わってくるね。こういうのって、“美味しい”とはまた別の感動だ」
その言葉を聞いて、麻衣の心があたたかくなった。
> 《スキル共鳴:発生中/対象:穂積 満》
《スキル経験値 +5》
(……私、やっぱり、こういう“つながり”が好きだな)
その日の帰り道。
スマホのスキルアプリを開くと、新しい通知が表示されていた。
> 《パッシブスキル『共感の味覚』が成長しました》
《スキル効果:食べ物を通して感情の断片を読み取る感度が向上》
「……うわ、またすごいの来た……」
けれど、怖くはなかった。
誰かの“気持ち”を大切に感じられるスキルなら、少しずつ使っていきたいと思えた。
夕暮れ。
手には家族へのおみやげのレモンケーキを持って、麻衣は軽やかな足取りで帰路についた。
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カフェの店長・佐伯さんが、お盆にのせた2皿を運んできた。
今日は定休日を利用した、スタッフ向けの試食会。普段はキッチンの手伝いが中心の麻衣も、たまには“お客さん役”として参加していた。
「うわぁ、美味しそう……! 一つはパスタ? もう一つは……あ、レモン風味のチーズケーキ?」
「そうそう。パスタは新しいオイルを使っててね。ケーキの方はスミレさんが提案してくれたレシピを試してみたんだ」
「スミレさんって……あの、占い師っぽい常連さんですよね?」
「うん。あの人、昔パティシエ修業してたんだって」
「へぇ~……やっぱり、ただ者じゃなかった!」
麻衣は思わず笑ってしまったが、スキルアプリがぴこりと反応した。
> 《感情感知:丁寧さ・期待・ちょっぴりの不安》
(このケーキには、作った人の“想い”がぎゅっと詰まってる感じ……)
フォークでひとくち。
ふわっとレモンの香りが広がった瞬間、麻衣はスキルを通して、まるで記憶のかけらを味わうような感覚に包まれた。
――“夏の終わりの風景”。
――“がんばれって背中を押す気持ち”。
「……なんか、食べただけで元気が出てくる気がします」
「ほんと? よかった~! スミレさんにも伝えておくね」
店長はほっとしたように笑った。
午後、まかないを食べたあと、麻衣はキッチンの奥で一息ついていた。
そのとき、ふらりと穂積さんが来店した。
「こんにちは。定休日だって聞いたけど、やってるの?」
「スタッフ試食会なんです。よかったら、ちょっと味見します?」
「え、いいの? じゃあ、せっかくだから……コーヒーと、ケーキを一切れ」
麻衣はそっとケーキを切り、運ぶときに声をかけた。
「このケーキ、気持ちがすごくこもってるんですよ」
「気持ち?」
「ええ、なんというか、“ひとに届くものを作りたい”っていう思いが、ちゃんと味に出てるっていうか」
穂積さんは少し驚いた顔をして、それから一口。
そして、ふっと笑った。
「……うん。確かに、伝わってくるね。こういうのって、“美味しい”とはまた別の感動だ」
その言葉を聞いて、麻衣の心があたたかくなった。
> 《スキル共鳴:発生中/対象:穂積 満》
《スキル経験値 +5》
(……私、やっぱり、こういう“つながり”が好きだな)
その日の帰り道。
スマホのスキルアプリを開くと、新しい通知が表示されていた。
> 《パッシブスキル『共感の味覚』が成長しました》
《スキル効果:食べ物を通して感情の断片を読み取る感度が向上》
「……うわ、またすごいの来た……」
けれど、怖くはなかった。
誰かの“気持ち”を大切に感じられるスキルなら、少しずつ使っていきたいと思えた。
夕暮れ。
手には家族へのおみやげのレモンケーキを持って、麻衣は軽やかな足取りで帰路についた。
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