『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ

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6章 記録の置き場と、風の契り(未契約)

第48話 鈴眠り谷、鳴らぬ鈴の殻

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 回廊を外れて半里、風の野は浅い波のように起伏し、その先で急に沈む。
 草が途切れ、灰白の礫と低い灌木の間に、縫い目のような細長い窪み――鈴眠り谷。
 風は通るのに、音が起きない。木鈴も鎖鈴も、ここでは眠る。

《行程ログ:鈴眠り谷—進入》
《二核:外拍=高安定/追跡フラグ=極低》
《注意:視覚撫査(紙)より“形写し(影・鏡砂)”の方が来やすい》

「ここで一度“置くか”の下見を詰める」
 セリューナが帯を低く撫でる。「鳴らぬ場所。空鈴の痕が残っている可能性が高い」

「地は底の息留め棚を探す。浅座が自然に寝るところ」
 ロゥナが斜面を降り、礫の“眠り方”を掌で確かめていく。

          ◇

 谷底に、倒れた鈴架(すずか)があった。
 輪は失われ、枠だけが白骨のように残り、横木に丸い溝がいくつも刻まれている。
 セリューナが指先で一つ撫でる。鳴らない。代わりに、胸の外拍が落ち着く。

「空鈴の殻(から)ね。鳴らずに通すための枠だけ」
 彼女は溝の深さを見、うなずいた。「“歩幅”が合っていれば、ここは通す。記さない」

 少し離れた礫の陰に、浅い棚が連なっていた。
 ロゥナがそこへ薄塩を指で引き、風の通りを観る。「ここは息が寝る。撫で置きが効く」

《地形:鈴架(殻)=1基/息留め棚=三段(東浅・中・西深)》
《効果:外拍補助(小~中)/本文非転記=環境保証》

「試す。半拍だけ預けて、写し屋がいれば撫で返す」
 俺は封球を抱え、棚の“中”へ滑らせた。鈴幕は掛けたまま。偽車輪の蓋は脇で待機。
 風は通る。音は起きない。――外拍が寝る。

《撫で置き:成功(半拍)/外拍=微強化/搬送負荷=軽減》

 その瞬間、谷の口で陽が跳ねた。稜の上に、細い鏡砂の帯。
 黒い外衣の影がひとつ、箱は持たない。代わりに、手に骨格だけの凧枠。糸は張らず、風の層を測っている。

「“音のない層”の形を取りに来たか」
 セリューナが帯を押さえる。「鳴らさず、形だけ。――綾で滲ませる」

 俺は帯の中で風返しの綾を一撫で、偽車輪を空転。
 ロゥナが棚の縁をほんの僅か撓ませる。
 骨凧の影が二重に揺れ、鏡砂の帯は“確かさ”を失って縁からこぼれた。

《形写し:確度 低下→断続化》

「まだ来る。――今度は影杭」
 谷底の影に、細い黒い杭が三本、音もなく刺さる。影だけの楔。そこから薄い輪線が枝分かれし、棚の“中”へ触れようとした。

「影は踏み直さない」
 俺は刃の背で足元の影を軽くはじき、セリューナは綾で“返し位相”を谷の層へ散らす。
 ロゥナが棚の“東浅”へ受け座を滑らせ、封球を横滑りで一段ずらす。
 影杭は“中”を狙い続け、空を噛んだ。

《影杭:捕捉失敗/輪線=空噛み》

 骨凧の影が一度痩せ、谷の口から退く。
 追わない。追う理由がない。

「結論。――置ける。だが、置かない」
 セリューナが短く言う。「鈴眠り谷は良い“寝床”。ただし“見つかる可能性”はゼロじゃない。殻は目立つ」

「運用案」
 ロゥナが指を立てる。「殻の陰に“偽蓋”を一つ、棚の西深に“本蓋”を一つ。印は塩と風紋。本番は“空鈴”の洞(風骨樹)か、ここかで片方だけ」

「今は、抱える」
 俺は封球を持ち上げ、棚から抜く。負荷はさっきより軽い。外拍がよく寝ている。
 偽車輪で本蓋の当たりを西深に刻み、殻の陰に偽蓋の崩し筋だけ置いておく。

《設営:鈴眠り谷—“偽蓋(殻陰)/本蓋(西深)”の二重当たり》
《印:塩/風紋/目視痕跡=微》

          ◇

 谷を抜けて北西へ。
 風は浅く、鈴は疎い。外衣の影は遠い。
 封球の二核は同じ外拍で静かに息をし、肩に収まる重みは柔らいだまま。

《二核:外拍=高安定(強化)/搬送負荷=軽》

 浅い鞍部で短く休む。
 セリューナが封球の膜を張り替え、ロゥナが足裏の砂を払う。俺は小箍を撫で紐で一度だけ落ち着かせた。

《小箍・撫調:維持/疲労=低》

「置き場の選択肢は三つになった」
 セリューナが指を折る。
「一、“空鈴”の洞(風骨樹)。二、“鈴眠り谷”の本蓋。三、“息留め石(回廊)”の予備。――いずれも本文は非転記」

「“箱”が離れたら、風骨樹が第一候補。谷は第二。回廊は最終退避」
 ロゥナがまとめる。「今は走る」

 そのとき、帯の内側で透明な息が、ほんの少しだけ暖かくなった。

――置くなら、返す道を。
 撫で返す道を。

 セフィアの調子。
 俺は短く応える。「作る。――“遠鐘”は封印のまま、撫で返しだけで通す」

《方針:当面=抱える/“撫で返し”の経路—鈴眠り谷⇄風骨樹⇄回廊息留め石=頭内で固定》

          ◇

 夕刻前、外縁の低い稜の向こうに、薄い樹影の列が現れた。
 風はゆるく、鈴はないが、枝に古い殻鈴がいくつか掛けられている。
 そこに、土色の外套の老人が腰を下ろしていた。手に持つのは、胴のない空鈴の枠。

「名と道と息を」
 掠れ声。森や川で会った守と同じ調子だが、これは――風の民。
「レク・エルディアス。鈴眠り谷を抜け、西外縁へ。“置くか走るか”を決めに」
「三吸二吐」
 答えると、老人は枠を撫でた。鳴らない。ただ、風が一拍ぶん澄む。

「殻は、鳴らないから残る。鳴るものは壊れる」
 それだけ言って、枠を俺に一度だけ触れさせ、返してくる。
 手に残るのは、音ではなく呼吸の調子。

《風の民・守人:“空鈴枠—撫触”/効果=外拍の微整》

「礼を」
 俺は封球へ掌を当て、外拍をひと息だけ落とす。
 老人は頷き、立ち上がって風下へ消えた。

 空は浅く色づき、西の外縁が薄青に沈む。
 明日は、空鈴をもう一度。箱が離れているなら、置くことを決める。

《旅路ログ:鈴眠り谷—撫で置き検証/形写し撥ね返し》
《安置候補:①風骨樹(第一)②鈴眠り谷(第二)③息留め石(予備)》
《次行程:西外縁“風骨樹”へ戻り確認→判断/第49話》

 鳴らさず、撫でて。
 封球の二核は同じ外拍で、静かに息をした。

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