『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ

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7章 空鈴の夜置きと、復翼の走法

第74話 影抜け廊と昼の声術――重さを残さぬ言い回し

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 門内の通りを三つ折れた先、井戸の列に沿って、布と骨で作られた半暗の回廊が延びている。
 天幕は薄く、光は落ちるが鳴りは布の内側に沈むよう編まれていた。昼の帯で声を立てずに歩くための抜け道――影抜け廊。

《行程ログ:集住圏門→“影抜け廊” 進入》
《環境:井戸列(冷湿)/遮音天幕(鳴り沈静)/鈴札台=なし/巡回=低》
《状態:復翼(二核)=同期 高/昼走位相=安定(中)/遮音布=装着/返鈴綾=薄通し(待機)》

「ここで昼の声術を一章ぶん、身体に入れる」
 セリューナが歩を緩めた。
「要点は三つ――主語を軽く、動詞を曖昧に、句を伸ばす。
 “記す側”が掴みたいのは“誰が・何を・いつ”。そこを薄く流す」

 ロゥナが指で合図して、井戸の縁に座る。「実演。短くやる」

声術・基礎(初伝)

1. 主語を軽く
 悪例:「俺が買う」→“俺”が記録される。
 良例:「こちらで受け取れる分なら」→主の輪郭が薄まり、行為が条件化される。


2. 動詞を曖昧に
 悪例:「渡す・払う」→契約語。
 良例:「扱える・預かれる」→可否の幅を残し、縛り回避。


3. 句を伸ばす(昼の句点は鎖になる)
 悪例:「今すぐ」→点で縛られる。
 良例:「この通りが薄いあいだに」→時間を帯に溶かす。


4. 名を避け通名のみ
 本名は不可。通名“風持ち”で必要最低限。


5. 締めは“背”
 言い終えたら、対象の背(台・布・縁)を撫でて離す。声の重みを置かない。



《声術ログ:基礎三箇+名義規律+背締め=習得 進行》

 セリューナが井戸の滑車枠を示す。「試す?」

「やってみる」
 俺は遮音布を指で整え、胸の鳴りを抱えたまま、滑車枠へ半歩寄る。

「こちらで、冷えの薄い水を扱えるぶんだけ、この通りが薄いあいだに」
 言い切らず、息で伸ばす。
 最後に、滑車枠の背を触れずに撫でて離した。

 天幕は鳴らず、井戸口の水面が一拍だけ明るくなる。
 係の少年がこちらを一瞥して、水桶を置いたまま立ち去った。
 鈴札も紙もない。**“扱えるぶん”**だけが黙って残った。

《取水:成立(任意・無契)/記録=場側の“置き”のみ/縛り=無》

「合格」
 ロゥナが頷き、紐束を割いて横受け座の補助を三枚作る。
「次は相手が言質を取りに来る型。受け流してみな」

 回廊の端で、干し物の露台が声を投げてきた。
「そこの風持ちさん、今ひと束、必ず買っていきなよ。安くするからさ」

 来た。主語強+必ず+今。
 紙に乗せたい語で固めてくる。

「返す」
 俺は胸で白を一拍だけ浮かせ、返鈴綾を半拍遅らせる。
「その束、こちらで預かれる重さなら、この回廊が薄いうちに見ておける」
 買うとは言わない。今も必ずも飲まない。見ておけるで行為を手前に止める。
 露台の板の背を空撫でして離した。

 干し物商は肩をすくめ、「なら見てけ」とだけ。鈴札に手は伸びない。

《交渉:言質回避 成功/相手の強制語=無効化/記録=「閲」止まり》

「次、値の打診」
 セリューナが小瓶を掲げる。昼用の返鈴冷却油、予備をもう一本。

 露台主:「三鈴。今払えば二鈴」
 俺:「置いてある額に合わせて、預かりの形で」
 露台主:「じゃ今二鈴」
 俺:「通りの明るさが落ちる前なら、二鈴の重さで置いていける」
 ――やりとりは置き語で曲がり、最終的に二鈴が布の上に置かれて、油がこちら側に在ることだけが残った。

《価格交渉:成立/支払い=“置き”処理/鈴札転写=無し(文言が契約語に達せず)》

 セリューナが肩で笑う。
「風持ち、筋がいい。鳴りを抱えたまま、言葉を薄い布に通せてる」

「抱音のまま喋る」が要だった。
 胸の鳴りは遮音布の内側で丸く、言葉に芯だけ貸し、重みは外に落とさない。

          ◇

 回廊を抜ける手前、鈴札書きの老人が机を出していた。
 紙は灰白、筆は乾き気味。
「名の訂正・通り名の更新・拾いの削り、一声で承るよ」
 昼帯の危ない便利屋。こちらの失言を**“整えてくれる”**代わりに、別の鎖を付けてくる。

「立ち寄る?」とロゥナ。
「“風持ち”の通名、帯の奥で字形を崩される前に、こちらの字で軽く押しておくのは手」

 セリューナは短く考え、「削りだけ借りる」と言った。
「“拾われた白”をさらに白く削って、音価を下げる。名そのものには触らない」

 老人は筆を上げ、「内容?」と目だけで問う。
 俺は声を落として、句を伸ばす。

「この回廊で拾われた白を、通りの薄さが続く範囲で、紙目から遠く」

 老人は一度だけ頷き、紙に白い砂をひとつまみ振った。
 字は書かれない。紙目の一部が光らなくなるだけ。
 拾いの白は白いまま、さらに遠くへ退く。

《鈴札細工:拾い白の音価 低下→後段の転写阻止/通名=不改》

「支払いは――」
 セリューナが言いかけるのを、老人が手で制した。
「返しの白を、一息だけ」

 俺は胸で白を一拍、紙の背へ寄せて離す。
 老人は満足した顔で机をたたみ、影に消えた。

          ◇

 回廊の出口で、空気の明るさが一段階上がる。
 常設の通り、鈴の列、日陰の茶棚、声。
 ここからは、声術を使い続ける帯だ。

《旅路更新:影抜け廊 通過/昼の声術(初伝)=投入/拾い白=削り処理 済》
《現在:
 通名=風持ち(字形 未固定・音価 低)
 本名=非記録
 復翼=同期 高(昼位相 中)
 鳴り=保持(遮音布内)
 返鈴綾=薄通し(待機)》

 セリューナが小声で次を示す。
「この先、“鈴橋”で通行証の口約束を求められる。
 言葉で渡さず、渡ってしまう練習――応用に入るよ」

「言ってから通るんじゃなく、通りながら言うだ」とロゥナが笑う。
「句を伸ばして、背で締める。昼はそれがいちばん効く」

 俺は頷き、遮音布の端を一度だけ整える。
 胸の鳴りは丸い。
 言葉は軽い。
 歩幅は、昼の光に合わせて沈んで戻る。




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