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1章 転生ガチャで始まる異世界スローライ フ!? ポンコツ神と無自覚最強の村暮らし
第5話「グレン峡谷の影、古代の囁き」
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ギルド掲示板に張り出されていた新しい依頼。それは、グレン峡谷周辺の調査だった。
「最近、峡谷の周辺で地盤の揺れや、不可解な光の目撃が相次いでるらしい」
受付嬢のリセルが、資料を片手に説明してくれる。
「でも、そこって確か……」
「そう。古代遺跡の埋没地帯。しかも、過去に“調査中に行方不明”って報告が何件も」
「物騒な場所だな。報酬は?」
「ランクA依頼と同等。つまり、危険ってことよ」
俺は少し悩んだが、すぐに決めた。
「受けるよ。風が導いてる気がする」
「……レクさんらしいですね。じゃあ気をつけて」
ギルドを出ると、風がひと吹き。まるで応援してくれてるようだった。
◇◇◇
グレン峡谷は、地図で見るよりもはるかに巨大だった。
岩肌むき出しの断崖絶壁、霧に覆われた谷底――
そこには確かに、何かが眠っている“匂い”がした。
「主よ、周囲の魔力密度が高まってます。この下、何かあります」
「やっぱりな。降りてみるか」
滑車で吊るされた古びたエレベーターを使い、俺たちは谷底へと降下した。
……が、数分後。
「な、なんだこれ……!」
霧の中に浮かび上がったのは――巨大な門。
そしてその中央には、見覚えのある刻印。
ルーレ村で手に入れた“魔導刻印の欠片”と、同じ紋章が刻まれていた。
「ここが、すべての始まりか……?」
風が唸った。新たな冒険の扉が、今、開かれようとしていた。
門の前に立つと、空気の密度が一気に変わった。
風が流れず、魔力が淀んでいる。まるで――この場所そのものが“息をひそめている”。
「主よ、この門は“封印型”です。中から魔力が漏れている……つまり、何かが封じられている可能性が」
「開けていいかどうか、わからんな……でも、刻印がある以上、何かのつながりがある」
門の表面を撫でると、手の中の“魔導刻印の欠片”が淡く発光した。
「……共鳴した?」
すると、門が――低いうなり声とともに、ゆっくりと開いた。
中は、朽ちた石造りの通路。そして、床のあちこちに散らばる魔導装置の残骸。
「完全に古代文明の遺跡か……」
薄明かりの中、慎重に歩を進める。
「主よ、複数の魔力反応が……これは、動く魔導兵かもしれません」
「了解。いつでも戦えるようにしておこう」
と――。
ガシャン、と何かが落ちる音。
直後、通路の奥から金属音とともに、“それ”は現れた。
鋼鉄の装甲、青白い魔石の眼、そして――背にはギルド印を模した模造装飾。
「またか……! こいつら、誰かが“ギルドの印”を悪用して、何かを隠してる!」
「主よ、迎撃態勢を!」
風をまとい、剣を抜く。
敵の腕が伸び、打ち下ろしてくるのを、横に飛んで回避――
「“風牙閃撃”!」
風刃が敵の関節部を斬るが、完全には止められない。
「硬いな……でも、弱点は見つけた!」
俺は“風読の慧眼”を発動し、敵の内部構造の流れを見る。
(中央コアに魔力集中……あそこだ!)
踏み込んで、剣に風を纏わせ――
「“烈風穿突”ッ!!」
一点に絞った風の刃が、鋼の装甲を貫いた。
金属音を立てて、魔導兵は崩れ落ちる。
「ふぅ……まだ奥が深そうだな」
そのとき――
通路の奥、石壁の上に浮かぶ文様が青白く光った。
「これは……“試練式の導印”。次の間に何かあるようです」
「やれやれ、イベント続きってわけか」
遺跡の深部へ、足を進める。
✳✳✳
“試練式の導印”を越えると、そこは石造りの大広間だった。
中央には魔法陣が刻まれ、四方の壁には精霊の紋章。
「主よ、この部屋……ただの遺跡ではありません。“契約の間”の可能性があります」
「契約? つまり、精霊とかと?」
「はい。ここには“風の精霊”の加護が残っています。ですが、非常に古く、荒れている」
たしかに、空気の流れが奇妙だった。風が、循環せず淀んでいる。
まるで、“何か”がうまく機能していないような。
すると、魔法陣が淡く光を帯び始めた。
「主よ、魔力が流れ始めました。これは――」
次の瞬間、魔法陣の中心から風が吹き荒れ、渦となって立ち上がる。
「……契約者よ。我が眠りを乱す者」
風の中に、少女のような姿が浮かび上がった。
白銀の髪、透き通る緑の瞳。そして、空気に溶けるような声。
「あなた……精霊?」
「名を《セフィア》。古より風の座に在りし者。我が力、試練を越えた者に与えん」
なるほど、これが“契約試練”か。
「主よ、これは“実体化した試練空間”です。戦闘準備を!」
「よし……行こうか、精霊セフィア!」
風が巻き起こる。俺は風刃を構え、目の前の試練へと突入した。
セフィアの攻撃は、刃のような高速風圧。防御よりも、回避と読みが重要だ。
「来るぞ……!」
空気の流れを読み、タイミングを計る。
「“風読の慧眼”、最大展開!」
視界に風の流れが“線”として見える。
それを頼りに、跳ぶ、滑る、駆ける――
「“風牙連撃”!!」
風を纏った連続斬撃が、セフィアのバリアを少しずつ削る。
「良い風を纏うな……だが、まだ足りぬ!」
セフィアの風が一気に暴風と化し、天井を削り取る勢いで襲いかかる。
この攻撃……受けられない。だが――
「“風導石”、今だ!」
懐から風導石を取り出し、スキルに共鳴させる。
───────────────
《風読の慧眼》進化条件を100%達成
スキル進化中――
《風律の神眼(ふうりつのしんがん)》へ変化
───────────────
「これで……読める!」
風の“律動”が、すべてスローに見えた。
俺はその隙間を縫って、最後の一撃を叩き込んだ。
「“裂風穿牙”――ッ!!」
風が吠え、精霊の身体を貫いた。
静寂の中、セフィアが微笑む。
「……よくぞ我が風を制した。我が名を以て、汝に加護を与えん」
その瞬間、光の紋章が俺の左手に刻まれた。
「精霊契約……成立、か」
契約の瞬間、空気が一変した。
吹き抜ける風は穏やかで澄んでいて、まるで精霊セフィアそのもののようだった。
「主よ、契約が成立したことで遺跡の構造が――」
その言葉通り、床に描かれていた魔法陣が青白く光り、遺跡の奥の壁が音を立てて開いた。
「……隠し通路、か」
奥から吹き抜ける風は、これまでとはまったく違う匂いを帯びていた。
それは“外の世界”では感じたことのない、異質な“古代の気配”。
「この先……何があるんだ?」
セフィアが静かに答えた。
「我が記憶の底に、微かに眠る影。かつて世界を揺るがした、“古の試み”の残滓かもしれません」
階段を降りた先は、円形の広場だった。
その中央に浮かぶのは、直径2メートルほどの黒い石板。空中に静止し、魔力を放っている。
「これは……転移装置、か?」
「ですが、かなり古く劣化しています。座標も不明……安全ではないかと」
それでも、俺の足は止まらなかった。
なぜなら――
石板の周囲に浮かぶ五つの紋章、そのうちの一つが、“風の契約刻印”と一致していたのだ。
「これ……もしかして、精霊との契約で鍵が揃っていく装置?」
「その可能性は高いです。つまり主よ……これが“世界の鍵”なのかもしれません」
世界の鍵――
それは冒険譚によくある、失われた古代文明の遺産であり、伝説の起点。
「まだわからないけど……少なくとも、これは旅の次の指標になりそうだな」
俺は、黒い石板に触れた。
すると、淡く魔力が反応し、風の紋章だけが光を放った。
「よし……次は、別の精霊を探そう。風だけじゃ足りないらしいからな」
「主よ、今後は“属性の精霊”を探す旅となりますね」
「ああ。火、水、土、雷……他にもあるかもな」
未知の地へ。精霊との契約を求める旅が、いま始まった。
遺跡を後にした俺たちは、グレン峡谷を抜けて東の高原地帯へと足を向けた。
「次の精霊は、火属性が濃い地方にいる可能性が高いです」
「となると、あの火山帯か……距離はあるが、行ってみる価値はあるな」
途中、立ち寄った町では、石版に似た“精霊装置”の伝説が語り継がれていた。
「かつて、大陸には“精霊の柱”と呼ばれる石塔があったらしい。精霊たちが眠る神殿への道標だったとか」
「なるほど……精霊の契約とリンクしてるとすれば、次はその柱を目指せばいいか」
◇◇◇
町での情報収集を終えた頃、ギルドからの招集が入った。
「“古代遺跡で発見された精霊石の反応”……お前が提出した報告書の影響みたいだな」
再びリセルが俺にそう伝える。
「ギルド本部が正式に調査班を組織するようです。ですが、精霊契約者である貴方の協力を求めています」
「まさか俺が、ギルドの調査対象になるとはな……」
だが、悪い話ではない。正式に協力すれば、情報や資源の支援が受けられる。
「わかった。協力するよ。ただし、俺の旅は止めない。精霊の導きを優先する」
「それで十分です」
こうして、俺は“自由契約冒険者”という肩書きを得た。
ギルドに縛られず、精霊探索の旅を続けながら、時には彼らの力も借りられる――理想的な立場だった。
◇◇◇
出発の日。
荷馬車に荷物を詰め終えたところで、セフィアがふわりと現れた。
「……レク。我は、次の精霊の気配をうっすらと感じる。東南の“焔哭山(えんこくざん)”だ」
「火の精霊、か」
「そこには、長らく“人の手が届かぬ地”がある。我ら精霊にとっても、干渉しづらい領域」
「つまり、誰も触れられなかった契約が眠ってる可能性があるってことか……」
俺の旅路は、“偶然”ではなく“導き”によって進んでいる気がしてならなかった。
焔哭山へと続く街道は、荒野と断崖に挟まれた過酷な道のりだった。
旅人の姿も少なく、代わりに魔物の痕跡ばかりが目立つ。
「……火山帯が近づくにつれて、魔力の密度が変わってきてるな」
「はい、主よ。特に“熱属性”の偏りが強くなってきました。異常なレベルです」
そんな中、俺たちは奇妙な一団に遭遇した。
黒ずくめのローブをまとい、顔を隠した五人の集団。しかも、明らかにこちらを意識していた。
(……嫌な気配だ)
その予感はすぐに現実となる。
「レク・エルディアス……精霊契約者として、お前の力を“捧げよ”」
「……やっぱり来たか。ギルド印、無し。お前ら、何者だ?」
「我らは“焔哭の徒”。古き契約を守り、次なる時代の“鍵”を開く者」
「つまり……面倒なカルトってわけだな!」
次の瞬間、火の球が飛来。即座にセフィアが展開した風障壁がそれを弾いた。
「戦闘、回避不可能!」
俺は地面を蹴った。
「“風牙閃撃”!」
一人のローブを裂き、下から現れたのは赤い刺青で覆われた男。瞳が光り、口元がゆがむ。
「……我らの力、見せてやろう」
次の瞬間、五人が結界陣を展開。空間が歪み、巨大な火の魔獣が召喚された。
「召喚術か!? しかも、この魔力量……!」
咆哮とともに襲い来る火炎――
セフィアが叫ぶ。
「主よ、あれは“精霊の核”を無理やり抽出して具現化した魔獣! 精霊を穢した禁術です!」
「……許せねぇな。そんなもんに精霊を使いやがって!」
俺の中に、怒りと風が渦巻く。
「“風律の神眼”……全開!」
空間の歪み、魔力の流れ、敵の動き――すべてが“線”として浮かび上がる。
「お前らが穢した精霊の怒り、まとめて食らいやがれ!」
「“烈風穿牙・解放式”ッ!!」
剣が唸り、風が雷鳴のごとく炸裂する。
魔獣の中心を貫き、風が内側から爆発――
黒衣の一団は吹き飛び、結界も砕けた。
残されたのは、焼け焦げた地面と、揺れる空気。
「……今のは、明らかに誰かに操られてたな」
セフィアが頷く。
「はい。この先、精霊の契約を狙う組織の影が……濃くなりそうです」
戦闘を終えた俺たちは、焦げ跡の残る谷を抜け、ようやく焔哭山のふもとにたどり着いた。
そこは、灰と赤岩の入り混じる荒涼とした台地。
遠くには噴煙を上げる山の姿が、夕暮れの空に黒い影を落としていた。
「ここが……焔哭山」
セフィアが、風を読んで呟く。
「火の精霊の気配、確かにある。ですが、極めて不安定です」
近くの岩肌には焦げたような痕跡と、古代文字がうっすらと刻まれていた。
『——此処より先、契約なき者、踏み入るべからず——』
「警告か? それとも、封印……」
「いずれにしても、簡単には辿り着けないようです」
そのとき、俺の背後で風が渦を巻いた。
セフィアが力を使い、何かを感じ取っているようだ。
「……レク。この山に眠る火の精霊、ただの存在ではありません。“旧き戦争”に関わった個体のようです」
「戦争……?」
「我ら精霊が、かつて神代の終わりに巻き込まれた争いです。人と精霊の、信頼が最も断たれた時代」
まさか、そんな背景が隠されていたとは。
「つまり、その精霊は……今でも“人間を敵視”してるかもしれないってことか」
「可能性は高いです。だからこそ、主の“風の契約”が、試される時でもある」
「俺が……どう向き合うか、だな」
◇◇◇
翌朝、俺たちは焔哭山の登山口に立っていた。
背後には、ギルドの支部から派遣された案内人と、護衛の戦士たち。
「お前が精霊契約者……“風読みの剣”ってやつか。悪いが、こっちは素人だ。無茶はすんなよ?」
「ああ。俺の目的は契約、戦うのは最後の手段だ」
風が吹く。
火と風は相反する属性。しかし、だからこそ“調和”の可能性もある。
俺の旅は、ただの冒険者のものではなくなっていた。
「よし、行こうか。火の精霊に、俺の風が通じるか――試してみよう」
そして、俺は一歩、灼熱の地へと足を踏み出した。
「最近、峡谷の周辺で地盤の揺れや、不可解な光の目撃が相次いでるらしい」
受付嬢のリセルが、資料を片手に説明してくれる。
「でも、そこって確か……」
「そう。古代遺跡の埋没地帯。しかも、過去に“調査中に行方不明”って報告が何件も」
「物騒な場所だな。報酬は?」
「ランクA依頼と同等。つまり、危険ってことよ」
俺は少し悩んだが、すぐに決めた。
「受けるよ。風が導いてる気がする」
「……レクさんらしいですね。じゃあ気をつけて」
ギルドを出ると、風がひと吹き。まるで応援してくれてるようだった。
◇◇◇
グレン峡谷は、地図で見るよりもはるかに巨大だった。
岩肌むき出しの断崖絶壁、霧に覆われた谷底――
そこには確かに、何かが眠っている“匂い”がした。
「主よ、周囲の魔力密度が高まってます。この下、何かあります」
「やっぱりな。降りてみるか」
滑車で吊るされた古びたエレベーターを使い、俺たちは谷底へと降下した。
……が、数分後。
「な、なんだこれ……!」
霧の中に浮かび上がったのは――巨大な門。
そしてその中央には、見覚えのある刻印。
ルーレ村で手に入れた“魔導刻印の欠片”と、同じ紋章が刻まれていた。
「ここが、すべての始まりか……?」
風が唸った。新たな冒険の扉が、今、開かれようとしていた。
門の前に立つと、空気の密度が一気に変わった。
風が流れず、魔力が淀んでいる。まるで――この場所そのものが“息をひそめている”。
「主よ、この門は“封印型”です。中から魔力が漏れている……つまり、何かが封じられている可能性が」
「開けていいかどうか、わからんな……でも、刻印がある以上、何かのつながりがある」
門の表面を撫でると、手の中の“魔導刻印の欠片”が淡く発光した。
「……共鳴した?」
すると、門が――低いうなり声とともに、ゆっくりと開いた。
中は、朽ちた石造りの通路。そして、床のあちこちに散らばる魔導装置の残骸。
「完全に古代文明の遺跡か……」
薄明かりの中、慎重に歩を進める。
「主よ、複数の魔力反応が……これは、動く魔導兵かもしれません」
「了解。いつでも戦えるようにしておこう」
と――。
ガシャン、と何かが落ちる音。
直後、通路の奥から金属音とともに、“それ”は現れた。
鋼鉄の装甲、青白い魔石の眼、そして――背にはギルド印を模した模造装飾。
「またか……! こいつら、誰かが“ギルドの印”を悪用して、何かを隠してる!」
「主よ、迎撃態勢を!」
風をまとい、剣を抜く。
敵の腕が伸び、打ち下ろしてくるのを、横に飛んで回避――
「“風牙閃撃”!」
風刃が敵の関節部を斬るが、完全には止められない。
「硬いな……でも、弱点は見つけた!」
俺は“風読の慧眼”を発動し、敵の内部構造の流れを見る。
(中央コアに魔力集中……あそこだ!)
踏み込んで、剣に風を纏わせ――
「“烈風穿突”ッ!!」
一点に絞った風の刃が、鋼の装甲を貫いた。
金属音を立てて、魔導兵は崩れ落ちる。
「ふぅ……まだ奥が深そうだな」
そのとき――
通路の奥、石壁の上に浮かぶ文様が青白く光った。
「これは……“試練式の導印”。次の間に何かあるようです」
「やれやれ、イベント続きってわけか」
遺跡の深部へ、足を進める。
✳✳✳
“試練式の導印”を越えると、そこは石造りの大広間だった。
中央には魔法陣が刻まれ、四方の壁には精霊の紋章。
「主よ、この部屋……ただの遺跡ではありません。“契約の間”の可能性があります」
「契約? つまり、精霊とかと?」
「はい。ここには“風の精霊”の加護が残っています。ですが、非常に古く、荒れている」
たしかに、空気の流れが奇妙だった。風が、循環せず淀んでいる。
まるで、“何か”がうまく機能していないような。
すると、魔法陣が淡く光を帯び始めた。
「主よ、魔力が流れ始めました。これは――」
次の瞬間、魔法陣の中心から風が吹き荒れ、渦となって立ち上がる。
「……契約者よ。我が眠りを乱す者」
風の中に、少女のような姿が浮かび上がった。
白銀の髪、透き通る緑の瞳。そして、空気に溶けるような声。
「あなた……精霊?」
「名を《セフィア》。古より風の座に在りし者。我が力、試練を越えた者に与えん」
なるほど、これが“契約試練”か。
「主よ、これは“実体化した試練空間”です。戦闘準備を!」
「よし……行こうか、精霊セフィア!」
風が巻き起こる。俺は風刃を構え、目の前の試練へと突入した。
セフィアの攻撃は、刃のような高速風圧。防御よりも、回避と読みが重要だ。
「来るぞ……!」
空気の流れを読み、タイミングを計る。
「“風読の慧眼”、最大展開!」
視界に風の流れが“線”として見える。
それを頼りに、跳ぶ、滑る、駆ける――
「“風牙連撃”!!」
風を纏った連続斬撃が、セフィアのバリアを少しずつ削る。
「良い風を纏うな……だが、まだ足りぬ!」
セフィアの風が一気に暴風と化し、天井を削り取る勢いで襲いかかる。
この攻撃……受けられない。だが――
「“風導石”、今だ!」
懐から風導石を取り出し、スキルに共鳴させる。
───────────────
《風読の慧眼》進化条件を100%達成
スキル進化中――
《風律の神眼(ふうりつのしんがん)》へ変化
───────────────
「これで……読める!」
風の“律動”が、すべてスローに見えた。
俺はその隙間を縫って、最後の一撃を叩き込んだ。
「“裂風穿牙”――ッ!!」
風が吠え、精霊の身体を貫いた。
静寂の中、セフィアが微笑む。
「……よくぞ我が風を制した。我が名を以て、汝に加護を与えん」
その瞬間、光の紋章が俺の左手に刻まれた。
「精霊契約……成立、か」
契約の瞬間、空気が一変した。
吹き抜ける風は穏やかで澄んでいて、まるで精霊セフィアそのもののようだった。
「主よ、契約が成立したことで遺跡の構造が――」
その言葉通り、床に描かれていた魔法陣が青白く光り、遺跡の奥の壁が音を立てて開いた。
「……隠し通路、か」
奥から吹き抜ける風は、これまでとはまったく違う匂いを帯びていた。
それは“外の世界”では感じたことのない、異質な“古代の気配”。
「この先……何があるんだ?」
セフィアが静かに答えた。
「我が記憶の底に、微かに眠る影。かつて世界を揺るがした、“古の試み”の残滓かもしれません」
階段を降りた先は、円形の広場だった。
その中央に浮かぶのは、直径2メートルほどの黒い石板。空中に静止し、魔力を放っている。
「これは……転移装置、か?」
「ですが、かなり古く劣化しています。座標も不明……安全ではないかと」
それでも、俺の足は止まらなかった。
なぜなら――
石板の周囲に浮かぶ五つの紋章、そのうちの一つが、“風の契約刻印”と一致していたのだ。
「これ……もしかして、精霊との契約で鍵が揃っていく装置?」
「その可能性は高いです。つまり主よ……これが“世界の鍵”なのかもしれません」
世界の鍵――
それは冒険譚によくある、失われた古代文明の遺産であり、伝説の起点。
「まだわからないけど……少なくとも、これは旅の次の指標になりそうだな」
俺は、黒い石板に触れた。
すると、淡く魔力が反応し、風の紋章だけが光を放った。
「よし……次は、別の精霊を探そう。風だけじゃ足りないらしいからな」
「主よ、今後は“属性の精霊”を探す旅となりますね」
「ああ。火、水、土、雷……他にもあるかもな」
未知の地へ。精霊との契約を求める旅が、いま始まった。
遺跡を後にした俺たちは、グレン峡谷を抜けて東の高原地帯へと足を向けた。
「次の精霊は、火属性が濃い地方にいる可能性が高いです」
「となると、あの火山帯か……距離はあるが、行ってみる価値はあるな」
途中、立ち寄った町では、石版に似た“精霊装置”の伝説が語り継がれていた。
「かつて、大陸には“精霊の柱”と呼ばれる石塔があったらしい。精霊たちが眠る神殿への道標だったとか」
「なるほど……精霊の契約とリンクしてるとすれば、次はその柱を目指せばいいか」
◇◇◇
町での情報収集を終えた頃、ギルドからの招集が入った。
「“古代遺跡で発見された精霊石の反応”……お前が提出した報告書の影響みたいだな」
再びリセルが俺にそう伝える。
「ギルド本部が正式に調査班を組織するようです。ですが、精霊契約者である貴方の協力を求めています」
「まさか俺が、ギルドの調査対象になるとはな……」
だが、悪い話ではない。正式に協力すれば、情報や資源の支援が受けられる。
「わかった。協力するよ。ただし、俺の旅は止めない。精霊の導きを優先する」
「それで十分です」
こうして、俺は“自由契約冒険者”という肩書きを得た。
ギルドに縛られず、精霊探索の旅を続けながら、時には彼らの力も借りられる――理想的な立場だった。
◇◇◇
出発の日。
荷馬車に荷物を詰め終えたところで、セフィアがふわりと現れた。
「……レク。我は、次の精霊の気配をうっすらと感じる。東南の“焔哭山(えんこくざん)”だ」
「火の精霊、か」
「そこには、長らく“人の手が届かぬ地”がある。我ら精霊にとっても、干渉しづらい領域」
「つまり、誰も触れられなかった契約が眠ってる可能性があるってことか……」
俺の旅路は、“偶然”ではなく“導き”によって進んでいる気がしてならなかった。
焔哭山へと続く街道は、荒野と断崖に挟まれた過酷な道のりだった。
旅人の姿も少なく、代わりに魔物の痕跡ばかりが目立つ。
「……火山帯が近づくにつれて、魔力の密度が変わってきてるな」
「はい、主よ。特に“熱属性”の偏りが強くなってきました。異常なレベルです」
そんな中、俺たちは奇妙な一団に遭遇した。
黒ずくめのローブをまとい、顔を隠した五人の集団。しかも、明らかにこちらを意識していた。
(……嫌な気配だ)
その予感はすぐに現実となる。
「レク・エルディアス……精霊契約者として、お前の力を“捧げよ”」
「……やっぱり来たか。ギルド印、無し。お前ら、何者だ?」
「我らは“焔哭の徒”。古き契約を守り、次なる時代の“鍵”を開く者」
「つまり……面倒なカルトってわけだな!」
次の瞬間、火の球が飛来。即座にセフィアが展開した風障壁がそれを弾いた。
「戦闘、回避不可能!」
俺は地面を蹴った。
「“風牙閃撃”!」
一人のローブを裂き、下から現れたのは赤い刺青で覆われた男。瞳が光り、口元がゆがむ。
「……我らの力、見せてやろう」
次の瞬間、五人が結界陣を展開。空間が歪み、巨大な火の魔獣が召喚された。
「召喚術か!? しかも、この魔力量……!」
咆哮とともに襲い来る火炎――
セフィアが叫ぶ。
「主よ、あれは“精霊の核”を無理やり抽出して具現化した魔獣! 精霊を穢した禁術です!」
「……許せねぇな。そんなもんに精霊を使いやがって!」
俺の中に、怒りと風が渦巻く。
「“風律の神眼”……全開!」
空間の歪み、魔力の流れ、敵の動き――すべてが“線”として浮かび上がる。
「お前らが穢した精霊の怒り、まとめて食らいやがれ!」
「“烈風穿牙・解放式”ッ!!」
剣が唸り、風が雷鳴のごとく炸裂する。
魔獣の中心を貫き、風が内側から爆発――
黒衣の一団は吹き飛び、結界も砕けた。
残されたのは、焼け焦げた地面と、揺れる空気。
「……今のは、明らかに誰かに操られてたな」
セフィアが頷く。
「はい。この先、精霊の契約を狙う組織の影が……濃くなりそうです」
戦闘を終えた俺たちは、焦げ跡の残る谷を抜け、ようやく焔哭山のふもとにたどり着いた。
そこは、灰と赤岩の入り混じる荒涼とした台地。
遠くには噴煙を上げる山の姿が、夕暮れの空に黒い影を落としていた。
「ここが……焔哭山」
セフィアが、風を読んで呟く。
「火の精霊の気配、確かにある。ですが、極めて不安定です」
近くの岩肌には焦げたような痕跡と、古代文字がうっすらと刻まれていた。
『——此処より先、契約なき者、踏み入るべからず——』
「警告か? それとも、封印……」
「いずれにしても、簡単には辿り着けないようです」
そのとき、俺の背後で風が渦を巻いた。
セフィアが力を使い、何かを感じ取っているようだ。
「……レク。この山に眠る火の精霊、ただの存在ではありません。“旧き戦争”に関わった個体のようです」
「戦争……?」
「我ら精霊が、かつて神代の終わりに巻き込まれた争いです。人と精霊の、信頼が最も断たれた時代」
まさか、そんな背景が隠されていたとは。
「つまり、その精霊は……今でも“人間を敵視”してるかもしれないってことか」
「可能性は高いです。だからこそ、主の“風の契約”が、試される時でもある」
「俺が……どう向き合うか、だな」
◇◇◇
翌朝、俺たちは焔哭山の登山口に立っていた。
背後には、ギルドの支部から派遣された案内人と、護衛の戦士たち。
「お前が精霊契約者……“風読みの剣”ってやつか。悪いが、こっちは素人だ。無茶はすんなよ?」
「ああ。俺の目的は契約、戦うのは最後の手段だ」
風が吹く。
火と風は相反する属性。しかし、だからこそ“調和”の可能性もある。
俺の旅は、ただの冒険者のものではなくなっていた。
「よし、行こうか。火の精霊に、俺の風が通じるか――試してみよう」
そして、俺は一歩、灼熱の地へと足を踏み出した。
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【お知らせ】6/22 完結しました!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
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部長に傷つけられ続けた私
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異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
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異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
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俺は異世界転生者カドマツ。
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異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
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定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
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