人造乙女の決闘遊戯 ~グランギニョール戦闘人形奇譚~

九十九清輔

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第一三章 決闘遊戯

第五八話 卑劣な攻撃

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 射出されたダガー六本による攻撃を全て弾き、グレナディは踏み込んでいた。
 攻撃を防がれたエリーゼは、距離を取るべく後方回避を選択する。
 足場としたロングソードの撓り……弾性を利用した後方跳躍だ。
 瞬発力に劣るエリーゼが、その欠点を補うべく見出した技術か。
 しかしグレナディの踏み込みは、エリーゼの回避速度を優に上回る。
 あと僅かで完全に間合い。
 逆手に長刀を構え、至近距離からの斬撃を狙う。

「これにてっ!」
 
 低い姿勢で大きく踏み込み、構えた長刀にて斬り込むグレナディ。
 全身を紅に染め、後方へと跳躍するエリーゼ。
 あと一手で、必殺の斬撃が決まる――筈だった。

 この時グレナディは、後方から猛追する、複数の銀光を目視していた。
 空中に幾筋もの光条を描き飛来する、スローイング・ダガーだ。
 
 回避跳躍の際、エリーゼは両腕を振るっていた。
 弾かれた六本のダガーを用いて、背後から虚を突こうという腹積もりか。
 とはいえ足掻きに過ぎない、グレナディはそう考えていた。
 ダメージ覚悟で勝負を掛けた攻撃を、止めるには至らぬ。
 六本のダガーは鉄鞘で捌き、グランド・シャムシールにて深く斬り裂く。
 これがグレナディの目論みだった。

 ――だが。
 飛び来るダガーの数は、六本では無かった。
 十二本だ。
 十二本ものダガーが、グレナディを後方から包囲する様に殺到していた。

「なっ……!?」

 慮外の攻撃に、グレナディは驚愕する。
 僅かにエリーゼへ意識を寄せた、そのタイミングだった。
 意識の間隙を突く様に、ダガーが増えたのだ。
 しかし何故、いきなり十二本に増えるのか。
 僅かに戸惑う――が、すぐに思い至る。

 序盤、床面を這う様な下段からの二連撃。
 グレナディは操作の要であるワイヤーを踏みつけ、この攻撃を無効とした。
 次いで、追撃の最中に死角を突く様な後方からの三連撃。
 これは鉄鞘を振るう事でワイヤーを絡め、対応した。
 これらの防御に際しエリーゼは、ワイヤーの切断と破棄を選択している。
 更に直近の攻防に於いてエリーゼは、ダガーの投擲を行った。
 これを叩き落とし、合計六本。
 闘技場には、六本ものダガーが放置されていた事になる。

 エリーゼはフック付き・ワイヤーにて保持し、操作していた六本のダガーを一気に射出、加えて闘技場内に放置されていた六本を、再びフック付き・ワイヤーにて回収。
 これらを改めて、打ち振るう様に使用しているのだ。
 驚くべき技術であり早業だった。

「ちっ……」

 ここでエリーゼに、致死性のダメージを与える事が出来るなら。
 回避の精度を捨て、ダメージを被る事も、やぶさかでは無いと考えていた。
 飛来するダガーの数が六本であれば、如何様にも凌げると。

 が、視界に映るダガーは十二本。
 容易く捌ける数では無い。
 ならば防御に徹するべきか。
 とはいえ既に、踏み込みが深い。この位置、この距離、この状態では。
 ダメージは免れないのでは無いか、ならば、せめて手傷を。

 グレナディの逡巡は、瞬きの一瞬を百で区切った程に短い時間だった。
 が、次の刹那。
 エリーゼの背後から、十三本目のダガーが閃いた。

 攻撃に六本のワイヤーを、回避に一本のワイヤーを使用している。
 これは八本目の、最後のワイヤーを用いた攻撃か。
 グレナディの思考を寸断するに足るタイミングだった。
 何より至近距離からの一撃だ、もはや些かの猶予も無い。

 グレナディは、全身を捻り上げる。
 そのまま逆手に握った右の長刀――グランド・シャムシールを鋭く振るう。
 最短の一閃は、至近距離から繰り出されたダガーを、確実に弾き飛ばす。
 同時に背後から迫るダガーの初弾を、左手に構えた鉄鞘にて退ける。

 直後地を蹴り、宙に身を舞わせたグレナディは、流れのままに旋回する。
 グランド・シャムシールと朱色の鉄鞘は、グレナディの周囲を巡りつつ、輝く二筋の螺旋を描き上げては、ダガーの追撃を次々と打ち落とす。

 しかしエリーゼに対して、致命に足る攻撃を成そうと、姿勢が前掛かりだった為、迫る十二本のダガー全てを完璧に防ぎ、避け切る事が出来ない。
 腕に、肩に、複数の裂傷を負いつつ、爪先から滑り込む様に着地する。

 この間にエリーゼは、残り一本の回避用ワイヤーを使用、重力と慣性を無視する様な、真横へのスライド移動を行っていた。
 更に力強く上体を反らせると、全身のバネを用いて後方回転を繰り返し、グレナディから大きく距離を取る。

 動きを止めた二人は七メートルほどの距離を置き向き合っていた。
 エリーゼは、逆立つロングソードの上に直立している。
 揺らがぬ姿勢に変化は無いものの、脇腹には新たな切創が刻まれていた。
 先の攻防にてグレナディが十三本目のダガーを弾き様に、切り裂いたのだ。
 身に纏うドレスの色は、純白から紅へと変化しており、丁寧に纏めたプラチナの頭髪すらも、紅く滲む程だった。

 対するグレナディも、無傷では無い。
 着込んだドレスの肩口と袖口が、紅の色に染まりつつある。
 ダガーによって、浅く切り裂かれたのだ。
 その口許からは、余裕の笑みが消えていた。

 但し、手傷を負った事が理由では無い。
 先の攻防に於いて、明らかに不可解な点があった為だ。

 エリーゼは当初、六本のダガーをワイヤーにて操作し、攻撃を仕掛けて来た。
 それらを防がれ距離が詰まると、闘技場に散らばっていたダガーを、ワイヤーのフックで回収、使用した。
 六本のダガーをワイヤーにて振るい、六本のダガーを射出する――合計十二本のダガーで弾幕を張り、危機を脱したのだ。
 非常に難易度の高い操作が必要だろうが――理解は出来る。

 ――が、不可解なのは、そこでは無い。
 エリーゼが六本ものダガーを『躊躇無く射出した』点だ。

 射出による攻撃は、ワイヤーでの制御が及ばないという事だ。
 もしグレナディが射出されたダガーを、無造作に全力で弾き飛ばしていたなら。
 或いは観客席へ飛び込んでいたかも知れない。
 
 グランギニョールでは、観客が仕合中の事故に巻き込まれ、何らかの被害を受けた場合、その原因が射出武器や投擲武器にあるなら、該当する武装の使用者サイドが責任を負う――そういう取り決めがある。

 投擲されたエリーゼのスローイング・ダガーを、グレナディが観客席へ弾けば、エリーゼの主であるレオンが責任を負う事になるのだ。
 故にグランギニョールの場で、弓を使用するコッペリアは殆ど存在せず、投擲武器に関しても、メインで使用する者は殆ど存在しない。

 エリーゼの『ドライツェン・エイワズ』――この武装は基本的に、スローイング・ダガーをフック付きワイヤーで繋ぎ、鞭の様に打ち振るう事で成立する装備であると、グレナディは認識していた。

 にも拘わらずエリーゼは、六本ものダガーを躊躇無く、射出した。
 極まった状況からの射出だ。
 追い詰められたが為に、判断を誤ったか。

 しかし仕合中のエリーゼからは、焦りの色など感じ取れ無かった。
 血に塗れてなお、冴え冴えとした表情を崩さなかった。
 あの射出攻撃は、意図的に行われたという事だ。

 グランギニョールのルールを知らない、という事はあるまい。
 全てを把握した上で、射出した筈なのだ。
 そしてグレナディは、自身の裡に沸いた困惑の原因を理解した。

 つまりエリーゼは。
 射出投擲したダガーが、観客席に弾かれる事など無いと確信しているのだ。

 仮にグレナディが、ダガーを観客席へと弾き、貴族を負傷させたならば。
 事故の責任は、エリーゼの主であるレオンが負う事になる。
 損害賠償等は全てレオンが行う事になる、それがルールだ。
 しかし、貴族社会という現実を踏まえて考えるならば。

 打ち落とせる筈の攻撃をグレナディが受け損ね、観客に被害を与えた――そう認識される可能性がある。或いは、対戦相手に被害を及ぼす為、打ち落とせる筈のダガーを、故意に観客席へと弾き飛ばした――そう誤解されるかも知れない。
 いずれにせよ損害賠償の有無に関係無く、主であるヨハンの名声に、拭い難い傷をつける事となるだろう。

 だからこそグレナディは、撃ち放たれたダガーを全て、下方へ叩き落すか、或いは勢いを削ぐ様に弾いていた。ワイヤーでの制御が成されていると解っていても、万が一を考慮し、全力で払い飛ばす様な真似はしなかった。

 そう意識していた訳では無い。
 意識せずとも、配慮していたのだ。
 ヨハンの為に配慮していた。

 エリーゼはその配慮に気づき、利用しているのだ。
 ヨハンの為に配慮する、グレナディの太刀筋に気づいていた。

 否。
 オートマータであるならば。
 意識せずとも、その様に行動してしまうのだ。
 主の為に尽くす、それがオートマータだ。
 そしてコッペリアは、主の名誉を重んじ、主の為に闘う。
 主の名誉を傷つける事などあってはならない、そう考えるのがコッペリアだ。

 エリーゼは。
 その心情に、つけ込んでいるのだ。
 オートマータの、コッペリアの、主に対する忠誠に、つけ込んでいる。
 
 何故、こんな戦い方が出来るのか。
 何故、平然と射出攻撃を仕掛けて来れるのか。
 何故、万が一を考え無いのか。

 そもそも主を思えば、こんな危険な武装を選択する事自体、おかしいのだ。
 危うい武装を用いておきながら、何の迷いも無いのか。
 コッペリアとしての誇りは無いのか。
 どんな魂を有しているのか。

 己が主を蔑ろにし、仕合う相手の心情をも利用する。
 どう考えても異常だ。
 狡猾と呼ぶべきか、老獪と呼ぶべきか。

 否。
 卑劣と呼ばれるべきだ。
 グレナディはエリーゼの立ち回りに、憎悪を感じていた。
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