剣と竜の世界に生まれて〜田舎村の怪力娘。強すぎて戦場で武勲を挙げまくる〜

林美鈴

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第一章 爆速出世街道!蛮族を屠り、陰謀を砕き、巨人の王に認められるまで

第23話 巨人族の戦士。森で響く友愛の言葉。騎士が結んだ、種族を超えた友情

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 巨人族の国への出立の日となった。

 鎧を着て、すっかり支度を整えたカミーユ・ロラン男爵は、馬上にて背後を振り返る。

 四頭立ての大きなワゴンの御者台には、従者フローラが座っていた。

 ワゴンには、振り返る竜の紋章が描かれている。
 これは、先日決まったロラン家の紋章になる。

 ワゴンの中には、エトナ姫と、侍女が三名乗っている。

 カミーユの周囲には、クリン村から呼び寄せた十騎の騎兵と、騎士クラリスが並んでいた。

 気がつくと、春は盛りを迎え、まるで夏のような日差しが照り付け、カミーユらの鎧を明るく輝かせた。

 故郷の兵たちは、カミーユの陞爵を喜んだ。

 自分たちも貴族様の兵隊だ。これからは言葉に気をつけねばならんかな。
 などと、軽口を叩き合う。

 カミーユは、故郷の仲間たちの声を聞き、久しく離れてしまったクリン村を思い出す。

「ヘブナーなどは、息災でしょうか」

 カミーユはヘブナーの屈強な姿を思い浮かべる。

「はい。カミーユ卿、いや、ロラン男爵閣下。皆元気で、息災であります」

 兵は、しゃちほこばって答えた。

 カミーユはその様が可笑しくて笑った。

「今までと同じで良いですよ。カミーユと呼んでください」

 兵は兜に手を当て答える。

「はい。カミーユ卿。今まで通りといたします」

 どうやら、兵たちが慣れるまで、もうしばらくの時間が必要なようだった。

「ロラン男爵。行程を教えていただけますか」

 騎士クラリスが馬首を寄せ、カミーユに尋ねる。

「ベラルーン王国の南の端の村まで、十五日かけて向います。その後は、巨人族の領域を、五日間ほど進めば、巨人族の王都へたどり着きます」

 カミーユは、師ゴダールが用意してくれた地図を開く。

 ゴダール曰く、この地図には魔法がかかっており、迷う事はないとのことだった。

「ロラン男爵。巨人族の道は、馬車は通れるのでしょうか」

 カミーユは、自らの考えをクラリスに話す。

「エトナ姫は、馬車で攫われたとおっしゃっていました。おそらく、我々も馬車で移動ができると考えます」

 騎士クラリスは、カミーユの楽天的な考えに異を唱える。

「ロラン男爵。エトナ姫が攫われてから、月日が経っています。その間、天候などで道が塞がれていれば如何なさるおつもりですか」

 カミーユは、自らの考えを素直に答える。

「その時は、馬で参りましょう。馬車を引いている馬は重種馬です。エトナ姫に乗っていただいても問題はないでしょう。私の従者が、そのための馬具も用意しています」

 クラリスは更に反応する。怒りと言っても良かった。

「馬車を引く馬は乗馬用ではありません。エトナ姫は巨人族です。乗馬の経験などお有りなわけはないでしょう」

 カミーユはなるほど、と答える。

「そう言えばそうですね。従者フローラ。あなたにお任せします。もし、その時が来たら、よろしくおねがいします」

 従者フローラは、急に話を振られて慌てて答える。

「はい。精一杯努めさせていただきます」

 騎士クラリスはまだ納得はしていない様子だった。

「大体、巨人の道など。信用なりません。その地図もどこまで当てになるのでしょう」

 カミーユは、師を信頼している。その思いを素直に伝える。

「私の師、ゴダールは偉大な魔法使いです。巨人族にも明るく、心配は無用です。騎士クラリス」

 今回の旅のリーダーは男爵位を持つカミーユである。

 そこまで言われれば、クラリスとしては引き下がるより他にない。

「承知いたしました。ロラン男爵。ご無礼申し訳ありませんでした」

 カミーユは微笑んで答える。

「構いません。騎士クラリス。そのように意見を言ってもらえると助かります。これからもよろしくお願いします」

 このような様子で、旅は続いた。


 さて、巨人たちと人間たちの交流は少ない。

 しばしば、巨人たちが人間の里を訪れて、巨人が狩った獣の皮などと、酒や小麦などを交換するにすぎない。

 戦になれば互いに援軍を出そうという話にもなろうが、幸いなことに、同盟を結んでからは、それを必要とするような大きな戦は起こらなかった。

 旅の途中、皆、巨人たちのことが気になり、食事時にエトナ姫に巨人の国について尋ねる。

 すると、巨人たちは木の上に住んでいると言う。

 木の上に町があり、そこに住んでいるのだと。

「きっと、とっても高い木なのですね」

 フローラは天を見上げて呟いた。

「トテモ、タカイ。ウエマデ、イケナイ」

 エトナ姫は、人間の言葉で答えた。

 カミーユが巨人語で尋ねる。

「エトナ姫のご両親はご健勝でしょうか」

「父王、お父様も。お母様もきっと元気です。でも、私がいなくなり、心を痛めているかも知れません」

 エトナ姫は心配そうに呟く。

「わかりました。それでは早く、エトナ姫の元気な姿をお見せしなければいけませんね」

 カミーユはそう言うと、休憩を終え、出立するよう、兵たちに指示した。

 春の中旬。この頃は天候が変わりやすい。

 しかし、幸いなことに、道中ひどい雨に降られることなく。
 カミーユたちは小村に到着した。

 ここから先は巨人の領域である。

 兵たちが緊張し、馬たちにもそれが伝わる。

「フローラ。道を外れないよう。注意してついて来てください」

 踏み分け道のような地面を見つめ、カミーユは従者に指示する。

「はい。カミーユ様。もちろんです。この子達もみんな良い子で、頭も良くて大丈夫です」

 フローラはカミーユに嬉しそうに答える。馬の調子も良い様子であった。

 踏み分け道をしばらく進むと、大きな木で作られたトーテムの柱が立っていた。

 羽や毛皮。骨で飾られており、その天辺は二階の窓の高さほどはあろうかと思われた。

「ロラン男爵。これは一体」

 騎士クラリスが、その異様な物体を見て警戒する。

 カミーユは、エトナ姫からこの物を聞かされていた。

「安心してください。これは巨人族の縄張りを示すものです。これ自体に危険はありませんが、これから先、巨人に出会っても、礼儀正しく接するようにしてください」

 カミーユはクラリスと兵たちにそう指示した。

 命令は確実に伝わり、クラリスと兵たちは改めて兜の緒を締めた。

 さらに数日進むと、森は深くなり、悪路にあたった。

 ワゴンがガタゴトと揺れる。

 中に柔らかなクッションを敷いてあるが、エトナ姫の体調を思い、カミーユは休息を取ることにした。


「行軍やめ。休め。復唱」

「休め。休め。休め」

 カミーユの声に、散らばった騎士クラリスと兵たちが応える。


 カミーユは馬首を廻らせ、フローラを見やる。

「フローラ。一時間の休息を取ります。あなたもよく休みなさい」

 フローラは巨大なワゴンを操っている。一行の中で、最も疲労が激しい仕事である。

「はい。カミーユ様。お茶はハーブの方がよろしいでしょうか」

 そんな中でも、フローラはカミーユのお茶の心配をする。

「フローラ。私はあなたに休むように言いました。お茶の支度は侍女たちに任せて、あなたは休んでください」

 フローラは不満げであったが、カミーユは許さなかった。

 休憩中、カミーユは師、ゴダールが与えてくれた地図を確認する。

 地図によると、間も無く巨人の国が見えてくるはずだった。

 カミーユが地図を確かめながらお茶を飲んでいると、カミーユの体を流れる竜の血による鋭い聴覚に、遠く大きな足音が聞こえて来た。

 足音から察するに、五人はいるだろうか。

 カミーユは兵たちに伝える。

「巨人族と思われる足音が聞こえました。複数ですが、警戒されるといけません。私が先に向かいますので、あなた達はここで待機してください」

 カミーユの戰場での実力を知る兵たちは、その指示に従った。

 しかし、騎士クラリスは違った。

「危険です。ロラン男爵。巨人たちが何をするかわかりません。せめて護衛かつ伝令のための兵たちを数名お連れください」

 カミーユは答える。

「巨人たちを警戒させたくはありません。それに、騎士クラリス。あなた達は姫の護衛をよろしくお願いいたします。これは大切な任務です」

 騎士クラリスは答える。

「わかりました。姫をお守りいたします」

 さすがの騎士クラリスも、指揮官にそう言われれば引き下がるより他になかった。

 カミーユは愛馬に跨り、足音が聞こえる方向へ進む。

 先から、森の香りに混じって、獣の血の匂いが漂って来た。

 カミーユたちは更に歩を進める。

 すると、森の切れ目から、大きな体が見えた。

 今ここにいる大きな体は、一人のようだった。

 カミーユと同じく、様子を見に来た者かも知れなかった。

「こちらは人間の国の騎士カミーユ。カミーユ・ロラン男爵です。故あって巨人の国にお邪魔する。許していただきたいが、如何か」

 カミーユは、巨人語で呼びかけた。

 木々の向こうから、巨人族の返事がある。

「こちらは巨人族の戦士ダノン。人間の騎士カミーユよ。あなたは何故我々の言葉を使うのか」

「師に習いました。道行きを許していただきたいが、如何か」

 やや間があり、巨人族から返事があった。

「人間の騎士よ。師の名はなんと言う」

 異な問いであった。

 しかし、カミーユは答えた。

「ゴダール。大魔道師ゴダール。それが我が師の名です」

 巨人族の魔力に、戸惑いが混じる。 

「人間の騎士よ。師の名はゴダールに相違ないな」

 カミーユは凛として答える。

「はい。我が師は大魔道師ゴダール。誓ってその名は違えておりません」

 足音がして、木々の間から巨人族が姿を現した。

 カミーユは、人間の女性としては背の高い方であったが、その二倍は背丈があった。

 およそ、エトナ姫より二回りほど背の大きな男であった。

 背も高いが、その巨人は分厚い体をしていた。手が厚い。指が厚い。胸が厚い。首が厚い。脚が厚い。

 それらの肉が、しなやかに連動する様は、野生の猛獣を思わせた。

 これは尋常の戦士ではない。巨人族の中でも偉大な戦士に違いない。

 カミーユは確信を持ってそう思った。

「人間の騎士カミーユよ。歓迎しよう。ゴダールは我らの恩人である」

 そんな巨人から、友愛の言葉が発せられた。

「歓迎ありがとうございます。巨人族の戦士ダノン。私たちは、連れている貴人がいます。その方の案内を頼めますか」

 戦士ダノンはよく見ると、鋼でできた弓と矢筒を背負い、血で汚れた短剣、人間の大きさで言えば刀ほどの刃物を、腰帯に差していた。

 狩りで獲物を捕り、解体の途中であったのかもしれない。カミーユはそう思った。

 巨人の戦士は尋ねた。

「貴人とは何者か。何故、戦士ダノンにその案内を頼むのか」

 カミーユは答える。

「巨人族の姫、エトナ王女殿下をお連れしています。そして、戦士ダノン。あなたのお人柄は誠実な方であると思ったからです」

 戦士ダノンはムムムと唸った。

「騎士カミーユよ。事はそう容易くない事になった。エトナ姫の帰還は、密やかになさねばならない」

 騎士カミーユは凛と尋ねる。

「理由を教えていただきたい」

 戦士ダノンは手についた血を手拭いで拭いながら答える。

「エトナ姫は、今も王城へおられる事になっている。姫の帰還を衆目に晒すわけにはいかないのだ」

 カミーユは事態を理解した。

「わかりました。戦士ダノン。姫の密やかな帰還に協力いたします。姫の入城は夜がよろしいでしょうか」

 ダノンは頭を捻る。

「その方が良いだろう。父王ゾンネには戦士ダノンが話をしておく」

 どうやら、戦士ダノンは巨人族の王、ゾンネへの拝謁が叶う戦士だったようだ。

「戦士ダノン。では、私たちはここであなたの案内を待ちます。それでよろしいでしょうか」

「騎士カミーユ。ここで待つがよい。日が落ちる頃には、迎えに来る」

 そうして、騎士カミーユと戦士ダノンは出会った。
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