死が二人を分かたない世界

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真里編:第1章 出会い

契約の対価

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 ヤバイヤバイ! 全部当たってる! これ100点取れちゃうんじゃないの!? って言っても所詮は小テストだけど……。

 僕は今、悪魔の能力を信じはじめている。
 事は昨晩、僕が悪魔を召喚したあの時に遡る。

ーーーーー

「で、真里まさと お前の殺したい相手は誰なんだ?」

 さすが悪魔、直球だ。元人間って言ってたけど。
 思わずあのページのまま召喚してしまったけど、人の命を左右するような事を、即決できるわけがない。口に出して言ってしまうと、後には引けない気がして口を噤んだ。

「まぁ、言わなくても大方予想はついてるけどな」

 なんだろう、悪魔ってのは読心術でも使えるのか? それならわざわざ聞かないでほしい、少しムッとした。
「"願いが叶う"って書いてあったけど、悪魔に願いを叶えてもらうなら、対価が必要なんじゃないの……命とか?」
「ご明察、叶えてほしい願いによって対価が必要だ、言っておくが、悪魔は人間を幸せにするために、願いを叶えるわけじゃない。」

 悪魔"ユキ"の説明はこうだ。
"幸せになりたい"などのアバウトな願いは叶えられない。
"大金持ちになりたい"みたいなのも、強盗が現金を自宅に突っ込んで逃げる。みたいな事が発生するから、オススメできない。
"好きな女と両想いになりたい"とかだと、元々交際していた男からの逆恨みなどは回避できない。それを回避するには、更に対価を支払う必要がある。しかし悪魔はその可能性を示唆しない。

 最後に
 "命に関わる対価"は命だけである。

 これはかなり鋭い目つきで言われた、つまり自分が死んでまで、相手を殺したいかどうかって事だ、どう考えてもハイリスクだ。
「それ教えたら、人殺しなんて誰も頼まないんじゃない?」
「そうだな、でも俺はお前を"スカウト"に来たから、後から文句言われたり、面倒臭いのは嫌なんだよな」
「そういえば、さっきもスカウトがどうとか言ってたよね」
 スカウトと言えば有名なのは芸能事務所だ、さっきも"見初めた"とか言ってたし、悪魔がスカウトするものって言えば……。

「真里 お前を悪魔にしたい! 死んで悪魔にならないか!」

 僕は思わず、露骨に嫌そうな顔をしてしまった。
 そしてそんな顔を見るや否や、"ユキ"はまた嬉しそうに笑った。

「本当に可愛いな! 悪魔の才能もあるし、俺のものにならないか?」
 肩を抱き寄せられて、頬を指でツンツンされる……今のはスカウトに聞こえないんだけど。

「僕、男なんですけど?」
「奇遇だな、俺も男だ」

 悪魔に性別という概念はないのか? いやだって元人間でしょ!? もしかして元からそっちの人なの?
 "ユキ"が回して来た腕を払いのけて、少し距離をとった。

「とりあえず、本当に願いを叶えてもらえるのか知りたい……それに、叶える願いによってどれほど対価が変わるのか気になる、命を懸けるかどうかの話なら当然だろ」
「つまり、軽い願いで様子を見るという事か……真里が処女を差し出せば割となんでも叶えてやれるけどな」

 しょっ……っ!?
 キラキラの笑顔でなんてこと言いやがるこの悪魔! 耳まで熱く感じたところでマズイと思った、ほら! ニヤニヤしてる!
「悪魔は処女が大好きだろ?」
「ぼっ僕は男なんだから! そんなの無理だろ!」
「大丈夫 はじめてでも、ちゃんと気持ちよくさせてやるよ?」
 顎を掴まれて強制的に目線を合わされた、今はじめてしっかり顔を見たけど、髪サラサラだし、まつ毛長いし、すっごい美人……いやいやいや、僕には10年以上片想いしてる人が……!
 ん? 夢の中の人って好きな人って言えるのかな?
 そんなことより、この状況への打開策だ!

「あっ、明日の小テスト! テストの内容を教えてほしい!」

 我ながらとっさに思いついた割に、なかなかの案だと思った。これで少なくとも、明日学校でテストがあるまでは、色んなことを先延ばしできる。"ユキ"は僕の顎にかけていた手を、そのまま自分の顎へ持っていき、思案しだした。

「テスト……わかったぞ! 学生が最も恐れているというアレだな!」
「うーん、間違ってはない気がするけど、今回は小テストだからそんなに怖くはないよ。」
「ならば大した願いではないな……真里からのほっぺにチューで手を打とう」

 正直拍子抜けした、もっとハードなの言われるかと思って身構えていた……もちろん期待してたわけではない! もっと凄いこと言われたら、それを理由に追い返そうと思ってただけだ!
 
「じゃあ……届かないからしゃがんでくれる?」

 ユキの袖を軽く下に引っ張った、恥ずかしくて顔が見れないので、俯いてたら視界に入ったのが袖だった。

 はい、って声がしたかと思ったら、眼前にユキの顔が近づいていた、うぅ、近い……! 緊張する! 肌真っ白……凄く綺麗。見てたらいつまでも決心がつきそうにないので、思いっきり目を瞑ってユキの頬にキスをした。

「こ……これでいいだろ!」

 思わず押しのけて距離を取った、だって人にキスしたのははじめてだし! ほっぺだけど。

「俺からもしていい?」
「え! いや、だめ! だめ!」

 断ってるのに、顔を横に向けられた! 晒された頬に冷たい感触が……うぅっ柔らかい!
 ギュッと閉じていた目を恐る恐る開くと、まだ至近距離にあったユキの顔が視界に入る。なんなんだよその緩みきった笑顔は!! 悪魔のくせにそんな幸せそうな顔するんじゃない!
 ユキはその緩んだ顔を少し引き締めて、軽く唇をペロッとすると、"確かに受領した"と言って何やら瞑想に入った。

「俺はテストとやらはよく分からないから、映像イメージとして伝えよう」

 そう言って僕の頭に手を当てたところ、テストの問題用紙のイメージが頭に流れ込んできた。間違いなく、今日言われてたテスト範囲だ。
 この時点で僕は9割、この願いは叶えられたと分かっていたけれど……。
「結果は明日学校に行かないと分からないね」
「そうか、ではまた明日願いを聞きに来る」

そういってユキは何のためらいもなく、さらっと目の前から消えて、その夜は一度も現れなかった。

ーーーーー

 今思えば僕もどうかしていた、きっと悪魔に魅了されていたに違いない。実際にそんな能力を備えているのか知らないけど、そうとしか考えられない!
 気を抜いていたら絆されて魂を抜かれそうだ、帰ったらまた絶対現れるだろうから、気を引き締めて相手しないと!

テスト内容を事前に把握していたお陰で、僕は余りまくった時間を悪魔対策への思考に費やした。
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