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人嫌い 2
「お姉ちゃんが私のこと置いて、黙ってどこかへ行っちゃうなんて信じられなくて、色んなところを探し回った。家の中、近所、病院やこの高校にも入り込んだ。大騒動になったと思うけど、私はそんなのどうでも良かった。
そうこうしてるうちに、父さんが出ていった。
私は学校でいじめられるようになった。気味が悪い、とんでもない大嘘吐きだから無視しなさいって親に言われた、くらいならまだマシだった。時間が経つにつれてエスカレートして、物を隠されたり突き飛ばされたりするようになった。異物は排除するべきってね。子どもが使うような言葉じゃないと思うんだけど、いま思えば、大人の誰かが言ってたのを真似したんだろうね。
それから母さんがおかしくなった。ずっとひたすら私に怒鳴ってた。私を家に閉じ込めるようになって……知らない大人たちが何人も、入れ替わり立ち替わりやってきて、お金の関係で引っ越しはできないけど、って言われて、家はそのままで、遠くの学校に転校することになった。
それで私へのいじめは落ち着いた。
その時、大人の人達のうちの誰かに言われたんだ。あなたのお母さんは長い間周りの人達から子どものことで嫌なことを言われ続けて心の風邪になった、だからお母さんを悪く思わないでねって。いつか必ず治るからって」
「ねえ、なに勝手に語ってんの? 同情でもして欲しい?」
萌奈は自嘲した。
「まさか。同情だなんて、そんなもの必要ないし、してもらえる権利もない。
全部私のせいだったんだから。私が全部間違ってたんだ。私の言葉も行動も、全てがダメだった。お姉ちゃんのことは、秘密にしなきゃならなかった。
父さんは私の面倒を見きれなくなって家を出ていったし、私はいじめられて、母さんまでいじめられて精神的にも経済的にも追い詰められた。いまでも私に構えないくらい仕事に没頭してる。そういう風にしか自分を維持できないところまで、私が追いつめたんだよ」
「だからどうしたっていうのよ?」
「この学校で噂されてる怪談のお化けは、出会った人のことをなんでも知っていて、隠しごとを暴いて脅して追いかけてくるって聞いてる。
あなた、この学校の生徒のことならなんでも知ってるんでしょ? 現に、私がクラスメイトの指示でここに残ってること、知ってる感じだった。
私のお姉ちゃんのことだって、当然知ってるよね? 教えて欲しいの。お姉ちゃんに何が起こったのか、どうして突然消えたのか」
はあ? とソレは不機嫌そうに声を上げた。
「あたしがあんたの姉を知ってるとして、教えると思う? あたしにはなんの旨味もないのに。それともあんた、あたしが教える代わりに、こっちの世界に来てくれるわけ?」
「それで構わない」
「へえ、どうして!?」
目を見開き、心から驚いた様子のソレに対し、萌奈は淡々と答える。
「私は人間が嫌い。陰口叩いてた近所の人達も、私と母さんを見捨てた父さんも、私のこと散々いじめてきた奴らも母さんをいじめた奴らも、みんなみんな、嫌い。
でも、ほんとは自分が一番大っ嫌い。もう何も見たくない。消えたい。全部投げ出して、お姉ちゃんのところへ行きたい」
ソレは、へー、そう、と言いながらうろうろ歩き始めた。
「ねえあんた、三谷藤萌奈でしょ? 姉は、三谷藤若菜。知ってないどころか……」
突然、ゲラゲラと下品な笑い声を立てる。あまりにも長く笑うので、
「ねえ、一体なんなの?」
「あーっ、はあ……いいわよ教えてあげる」
ようやく落ち着いたのか、ソレは再度腕を組んで萌奈の前に立った。
「あんたのことは特別詳しく知ってるわ、三谷藤萌奈。あんたが入学してからずぅっと、こんな機会が来ないか、待ち侘びてたんだから!」
「どういうこと?」
「あたしがこうなったのはあんたの姉、若菜のせいなの! あんたの姉にハメられて、あたしはずっとここに閉じ込められたのよ!
三谷藤若菜がどうなったかですって? そんなの、おおかたそこらの化け物に食べられたか、同化でもしたに決まってるわ!
さあ、知ってることは答えてやったんだから次はあんたの番よ!」
ソレが、若菜に向かって指差した。若菜は、首を絞められている感覚に陥る。腕で振り払おうにも、手も足も動かない。
息をすることも、顔を逸らすことも出来ない。
「コイツらの目を見なさい、三谷藤萌奈! 言っとくけど、姉のところになんて行かせない、あんたはあたしと永遠にここで彷徨い続けるの!
ああ面白い、あんたが姉のやったことのツケを払うんだわ、ざまあみろ!!!」
ソレの笑い声が辺りにけたたましく響く中、やっぱりもう、お姉ちゃんには会えないのか、とぼんやりと萌奈は思った。
お化けに会えたなら、お姉ちゃんにも会えるのではないかと期待していたけど、そう上手くいくものでもないのだろう。叶わないのならば仕方がない。
私はもう、家や学校のような現実に戻りたくない。向こうにだって、私が戻ることを望む人はいないだろう。ならばこのまま取り込まれるのが、私にとって相応しい終わり方だ。
萌奈は辺りの空気が一変し、たくさんのモノの気配と視線がこちらへ一斉に向かってくるのを肌で感じた。
ああ、それでもやっぱり会いたかったな、お姉ちゃん。
思わず目頭が熱くなり、周りの景色がぼやけた。
そうこうしてるうちに、父さんが出ていった。
私は学校でいじめられるようになった。気味が悪い、とんでもない大嘘吐きだから無視しなさいって親に言われた、くらいならまだマシだった。時間が経つにつれてエスカレートして、物を隠されたり突き飛ばされたりするようになった。異物は排除するべきってね。子どもが使うような言葉じゃないと思うんだけど、いま思えば、大人の誰かが言ってたのを真似したんだろうね。
それから母さんがおかしくなった。ずっとひたすら私に怒鳴ってた。私を家に閉じ込めるようになって……知らない大人たちが何人も、入れ替わり立ち替わりやってきて、お金の関係で引っ越しはできないけど、って言われて、家はそのままで、遠くの学校に転校することになった。
それで私へのいじめは落ち着いた。
その時、大人の人達のうちの誰かに言われたんだ。あなたのお母さんは長い間周りの人達から子どものことで嫌なことを言われ続けて心の風邪になった、だからお母さんを悪く思わないでねって。いつか必ず治るからって」
「ねえ、なに勝手に語ってんの? 同情でもして欲しい?」
萌奈は自嘲した。
「まさか。同情だなんて、そんなもの必要ないし、してもらえる権利もない。
全部私のせいだったんだから。私が全部間違ってたんだ。私の言葉も行動も、全てがダメだった。お姉ちゃんのことは、秘密にしなきゃならなかった。
父さんは私の面倒を見きれなくなって家を出ていったし、私はいじめられて、母さんまでいじめられて精神的にも経済的にも追い詰められた。いまでも私に構えないくらい仕事に没頭してる。そういう風にしか自分を維持できないところまで、私が追いつめたんだよ」
「だからどうしたっていうのよ?」
「この学校で噂されてる怪談のお化けは、出会った人のことをなんでも知っていて、隠しごとを暴いて脅して追いかけてくるって聞いてる。
あなた、この学校の生徒のことならなんでも知ってるんでしょ? 現に、私がクラスメイトの指示でここに残ってること、知ってる感じだった。
私のお姉ちゃんのことだって、当然知ってるよね? 教えて欲しいの。お姉ちゃんに何が起こったのか、どうして突然消えたのか」
はあ? とソレは不機嫌そうに声を上げた。
「あたしがあんたの姉を知ってるとして、教えると思う? あたしにはなんの旨味もないのに。それともあんた、あたしが教える代わりに、こっちの世界に来てくれるわけ?」
「それで構わない」
「へえ、どうして!?」
目を見開き、心から驚いた様子のソレに対し、萌奈は淡々と答える。
「私は人間が嫌い。陰口叩いてた近所の人達も、私と母さんを見捨てた父さんも、私のこと散々いじめてきた奴らも母さんをいじめた奴らも、みんなみんな、嫌い。
でも、ほんとは自分が一番大っ嫌い。もう何も見たくない。消えたい。全部投げ出して、お姉ちゃんのところへ行きたい」
ソレは、へー、そう、と言いながらうろうろ歩き始めた。
「ねえあんた、三谷藤萌奈でしょ? 姉は、三谷藤若菜。知ってないどころか……」
突然、ゲラゲラと下品な笑い声を立てる。あまりにも長く笑うので、
「ねえ、一体なんなの?」
「あーっ、はあ……いいわよ教えてあげる」
ようやく落ち着いたのか、ソレは再度腕を組んで萌奈の前に立った。
「あんたのことは特別詳しく知ってるわ、三谷藤萌奈。あんたが入学してからずぅっと、こんな機会が来ないか、待ち侘びてたんだから!」
「どういうこと?」
「あたしがこうなったのはあんたの姉、若菜のせいなの! あんたの姉にハメられて、あたしはずっとここに閉じ込められたのよ!
三谷藤若菜がどうなったかですって? そんなの、おおかたそこらの化け物に食べられたか、同化でもしたに決まってるわ!
さあ、知ってることは答えてやったんだから次はあんたの番よ!」
ソレが、若菜に向かって指差した。若菜は、首を絞められている感覚に陥る。腕で振り払おうにも、手も足も動かない。
息をすることも、顔を逸らすことも出来ない。
「コイツらの目を見なさい、三谷藤萌奈! 言っとくけど、姉のところになんて行かせない、あんたはあたしと永遠にここで彷徨い続けるの!
ああ面白い、あんたが姉のやったことのツケを払うんだわ、ざまあみろ!!!」
ソレの笑い声が辺りにけたたましく響く中、やっぱりもう、お姉ちゃんには会えないのか、とぼんやりと萌奈は思った。
お化けに会えたなら、お姉ちゃんにも会えるのではないかと期待していたけど、そう上手くいくものでもないのだろう。叶わないのならば仕方がない。
私はもう、家や学校のような現実に戻りたくない。向こうにだって、私が戻ることを望む人はいないだろう。ならばこのまま取り込まれるのが、私にとって相応しい終わり方だ。
萌奈は辺りの空気が一変し、たくさんのモノの気配と視線がこちらへ一斉に向かってくるのを肌で感じた。
ああ、それでもやっぱり会いたかったな、お姉ちゃん。
思わず目頭が熱くなり、周りの景色がぼやけた。
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