パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない

セカイ

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第9話 イエス・オア・ノー

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「あ、あの、椿原部長さえ良ければ、泊まってくださって構いませんので……というかシャワーくらいは是非使ってください」

 とりあえず誤解が解けてお怒りモードが落ち着いたところで俺はそう促す。
 正直目が覚めて意識もはっきりしているので、こんな時間ではあるが帰ると言うだろうとは思いつつ、立場的にはそう提案するしかない。
 椿原部長がシャワーを浴びている間にタクシーの手配をしておけば、部下の対応としては申し分ないだろう。

「そ、そう……? じゃあお言葉に甘えるわ。その、一晩だけ」

 と思っていたのに、まさかのお泊まりを受け入れられてしまった。
 心底不服そうな感じを見せつつも、それでも普段よりは申し訳なさのようなものが感じ取れなくもない。
 俺の目を見ようとはせず、チラチラと部屋の中を見やり、眉間に皺を寄せてはいるが。

「あ、えっとぉ……それじゃあ、タオルはこれを。着替えは……こんなで申し訳ないですが、よろしければこれ使っていただいて。洗濯機と乾燥機も是非使ってください。浴室と洗面所にあるものは、なんでも自由に使っていただいて構いませんので……」

 完全に予想外の事態に、俺は仕事中でも見せないほどキビキビと動くことで考えることを後回しにした。
 上司に、しかも女性に自分の学生時代のジャージを貸すのもどうかと思ったが、男の一人暮らしに気の利いた部屋着なんてないから仕方ない。
 文句の一つでも言われると思ったが、意外にも椿原部長はうんうんと俺の言うことを素直に聞いてくれた。
 なんだよ! 調子狂うよ! 怖いよ!

「これ、どういう状況なんだッ……!?」

 椿原部長が浴室へと向かってから、俺は頭を抱えて静かに絶叫した。
 普段は嫌悪感満載に俺を罵倒しいじめの限りを尽くし、散々痛めつけてくるくせに。
 そんな相手の家に泊まるか普通!? 通常の倫理観なら、夜中だろうがなんだろうが一刻も早く家から出るだろう!

 これが普通の女の子相手なら、ワンチャンあるってことかなと思ってしまうが、しかし相手が相手だ。
 おそらくまだ酔いが残って正常な判断ができないんだと、そう思うことにしよう。
 間違っても手を出してはいけない。

 普段通りのラッキースケベの応酬に加え、先ほどまでのお色気攻撃を受けてのお泊まり。
 男としては我慢できないところだが、ここを堪えなければ待つの死しかあり得ない。
 社会的にはもちろん、物理的にも確実に息の根を止められるだろう。

 そうだ、今晩を無事乗り切ったら奮発して初めての風俗にでもいってみよう。
 えっちなプロのお姉さんにスッキリさせてもおう。うん、そうしよう。

「……お先」
「ぶっ……!」

 そんなことを自分に言い聞かせていると、椿原部長がおずおずと戻ってきた。
 その姿を見た俺は、叫び声をあげそうになるのを必死で堪え、しかし変な声を漏らしてしまう。

 俺は着替えとしてTシャツとジャージ上下セットを渡したのだが、なぜか椿原部長は下を履いていなかった。
 上着はジャージのチャックをしっかりし締めているのに、下は何も履いていない。
 俺たちの体格差上、上着だけでも股下まですっぽり覆われているので、見えてはいけないところはちゃんと隠れてはいるけれど。
 しかし部長の白くむっちりと芳しい御御足《おみあし》が、ためらうことなく曝け出されてしまっている。

 なんだ、やっぱり挑発してるのか!?
 それとも俺なんかのズボンは履きたくないってことか!? けれどそれなら服は全般着たくないだろう。
 それとも酔ってるから暑くて着られないとか? いやそれなら上着をあんなにしっかり着やしないはずだ。
 何なんだこの人、本当に……!!!

「草野くん……彼女、いるの……?」

 理解を超えた現実にもはや怒りを感じていると、椿原部長はそんなことを尋ねてきた。
 俺は落ち着きを取り戻すために深呼吸をしてから応える。

「いえ、最近はいませんよ。在学中に別れて、大学を卒業してからはめっきり……」
「そ、そう。クレンジングとか化粧水とか、色々揃ってたからてっきり、いるのかと」
「元カノが置いてったやつがそのままで。全然使っちゃって大丈夫ですよ」
「ええ、借りちゃったわ」
「……」
「……」

 なんだこれ、気まず。え、そういう雰囲気なの? いや嘘でしょう?
 ダメだ。これ以上は危ないことを考えそうだ。
 そう思った俺は、逃げるように自らもシャワーを浴びようと立ち上がった。

「椿原部長、先にお休みになってください。嫌でなければ、ベッド使っていただいて」
「でも、あなたは? 布団あるなら、私はそっちでも……」
「ないので俺は床で寝ます。だから気にせずベッド使ってください」
「でも……」

 しおらしいモードの椿原部長は、見たこともないくらい遠慮がちだ。
 こっちとしては不遜にしてくれた方が逆に楽なんだけれど。

「じゃあその、それなら、いっ…………いいえ、お言葉に甘えるわね」
「はい。是非是非!」

 一刻も早くここを離れたくて俺は勢いでそう言い放ち、浴室へと駆け込んだ。
 がしかし、服を脱ぎながら今の椿原部長を思い出して内心大絶叫だった。

 今なんて言いかけた!? 『一緒にベッド使いましょう』とか!?
 つまりセックスしましょうってことなのか!?
 はぁ!?!?

 あぁ、もう頭がクラクラする。
 てかマジでなんだよあの格好。挑発的な生脚も悶絶もんだったけれど、やっぱりあの胸!
 椿原部長からすれば俺の服なんてオーバーサイズにも程があるはずなのに、しっかり過ぎるほどに突っ張っていた。
 だぼだぼな着こなしが女性らしい華奢な体つきを強調しているのに、胸部だけはみっちりと中身が詰まっていて、ギャップが凄まじかった。
 しかもそれを俺の服でされているのが、無性に、なんかこう……くるものがあった。

 俺は裡《うち》から膨れ上がる煩悩を吹き度ばすようにガシャガシャとシャワーを浴びた。
 勢いで今までの情景を吹き飛ばし、あとは無心で寝てしまおうという作戦だった。

 とはいえ椿原部長はもう眠っているだろうし、そろっと浴室から出た俺。
 暗くなった部屋で部長の姿を視界に入れずに寝てしまおうと思っていたのに、しかし椿原部長は明かりをつけたまま起きて俺の帰りを待っていた。

 ベッドにちょこんと腰掛けて、すらっと長い脚を所在なげにパタパタとさせている。
 俺に気がつくと部長は「お帰りなさい」とポツリと言った。

「先に寝ていただいてよかったのに」
「ええ……まぁ、うん……」

 俺が言うと、椿原部長はなんとも歯切れ悪く適当な声を漏らす。
 こちらをチラチラと見たり見なかったり。とても落ち着きがない。
 これは警戒、なのだろうか。心配しなくても手は出さないって。あなたがこれ以上挑発してこなければね!

 とりあえず寝よう。そうしよう。それがお互いのためだ。
 俺が寝てしまえば、椿原部長も余計な心配はしないだろう。

「ね、ねぇ……草野くん……」

 そう思って押し入れから夏掛けだけれど掛け布団を引っ張り出し、クッションを枕にセッティングしてと、寝る準備をしていた時。
 椿原部長は、らしくない小さな声で、ポツリと言った。

「えっと、その…………す、るの……?」

 ふざけんなよ!!!!!

 と絶叫したいのを堪えるのは、俺の人生で最大の精神力が必要だった。
 もしかしたらこの劣情を抑え込むよりも大変だったかもしれない。

 おそらく酔っているせいで変なスイッチが入っていて、正常な判断ができていないんだろう。
 普通の女の子ならば、そんな状況に流されて一晩のお楽しみにしけ込んでもいいけれど。
 しかし相手は椿原部長なのだ。今は良くても、夜が明け冷静さを取り戻したあと、どんな復讐が待っているかなんて考えたくもない。

 普通なら後悔したとしても自分の過ちだと反省し、忘れようみたいな感じでなぁなぁになるだろうが、部長に関しては絶対そうはならない。
 何がなんでも俺のせいにし、パワハラが過激になるだけならまだ可愛い。会社に告発したり警察に通報したりもしかねない。
 それを思えば、今はこう言っていようが流されるわけにはいかない。

 だというのにこの人は! 本当に!! まったく!!!

「早く休んでください、部長。お疲れでしょう」
「え、ええ。そう、ね……」

 変に反応したら拗れる。だから俺は何も聞こえなかったフリをしてそう促した。
 すると椿原部長は素直に応え、小さくこくこくと頷く。
 その顔はかなり赤らんでいて、酒のせいとは違うように見えたが、もう気にしないことにした。

 おやすみなさいと言葉を交わし、明かりを消してお互い横になる。
 床に寝転び椿原部長の姿が見えなくなったことで、俺はようやくホッと胸を撫で下ろした。
 早く寝てしまおう。そして今夜のことは綺麗さっぱり忘れるのだ。

 だがしかし、静まり返った暗闇のせいで、先程までの強烈な光景の数々が余計鮮明にフラッシュバックされる。
 普段のラッキースケベは刺激的だが本人に自覚がなさそうなので、それこそただのラッキーとして単純に味わうことができた。
 しかし飲みの席以降、いやうちに来てからの椿原部長の言動は、明らかに意識してのものだった。

 明確に挑発、いいや誘惑をしてきた。
 酔っていたとはいえ、気の迷いだったのだろうとはいえ、だ。

 我慢できた俺は本当に偉い。乗らなくてよかった。
 うっかり手を出してしまえば、行き着く先は破滅のみだった。

 が、しかし待てよと余計な思考がふと生まれる。
 酔っていたとはいえ、ああもあからさまに誘ってきた女性に手を出さないというのは逆に失礼になったりしないか、と。

 思えばそのあたりは本当に判断が難しいポイントだ。
 女性が男の部屋に泊まるというのは、それだけでかなりの意味が発生する。
 今回みたいに、ただ状況的に仕方なくという場合もあるにはあるが、基本的には泊まるイーコル手を出していいよという合図になると考えていいだろう。

 実際本当に嫌ならば、シャワーすら浴びずに出て行き、タクシーを拾ったりホテルやネカフェでも探すなど、手立ては色々ある。
 それに明日は土曜日なのだし、時間をかけて帰ることになろうと最悪なんとかなるのだ。

 と、いうことはだ。つまりやっぱり、これはOKということなんだろうか。
 むしろ手を出さない方が、あなたには魅力がないですよという意思表示にあたり、椿原部長のプライドを傷つけることになってしまうのだろうか。
 もしそうなれば、下手をすると望まぬ一夜の過ちを犯してしまった時よりも、この場合はひどい仕返しをされる可能性がある。
 女心なんて全然わからないが、でもそういう複雑な揺れ動きが存在していることは知っている。

 学生時代、男友達のその手話題は何度か耳にしたことがある。
 紳士に手を出さなかったらヘラレだの侮辱されただの言われたり、良いのだと思って手を出したら無理やりされたと言われたり。
 そして俺が見る限り、前者のパターンの方がダメージは大きいように見えた。
 後者はそれでも泊まったんだから仕方ない、ということが成り立つが、前者の場合はもうただただ悪者にされるのだ。
 理不尽にも程があるが、それが男と女というもの。

 ここは勇気の絞りどころなのかもしれない。
 一世一代の賭けだ。決して選択を間違うわけにはいかない。

 とりあえず一回様子を窺おうと、俺はそーっと体を起こした。
 もし部長がその気なら、もうひとアピールくらいは示しているかもしれない。
 それをチェックし、確実に正確な判断をするのだ。

 俺は恐る恐る、ゆっくり静かに首を伸ばし、ベッドを覗き込んだ。
 椿原部長はこちらに背を向けていたがしかし、その息遣いは寝息とは違う。まだ起きていた。
 やっぱり待っているのか、と思った。でも俺は見てしまった。

 掛け布団からはみ出す部長の肩が小さく丸まり、微かに震えていることを。
 きっと俺が起き上がった気配を感じたんだろう。

 すっと、何かが引いていった。
 今日一日で一番頭の中が静かになり、俺は大人しく体を倒した。
 寝よう、ゆっくり。全てを忘れて。
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