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最終話 『マコ』 2/4
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高校三年間何のわだかまりもなく、順風満帆な親友関係を築いていきた私たちが決裂したのは、進学してすぐのことだった。
私は大学進学を選択し、マコは専門学校へと進んだ。
進路が違う時点で今まで通りにいかないことはわかりきっていたけれど。
でも私は二人の絆を信じていたし、毎日一緒にいることができなくても、それでも私たちは変わらないと思っていた。
実際私たちは卒業式の際、毎日連絡とろう、小まめに会おう、ずっと友達だと、そう約束したんだから。
その後の春休みは実際にほぼ毎日顔を合わせて、その青春の終わりを一緒に惜しんだものだった。
でも、四月になるとその約束はあっけなく破られた。
よくあるような、どちらからでもなく自然に、といった具合ではなく。
明らかに、明確に、マコの方からだった。
はじめはメッセージの返信ペースが遅くなるところから始まって、二週間も経つと何の返事もない日ができていた。
やがて会話の内容も素朴になっていって、会う予定を取ろうにもなかなか合わなくて。
その時点で私は何だか嫌な予感がしていたけれど、でも自分の新生活の慌ただしさもあって、そこに強く注意を向けることができなかった。
なんだかんだで信じていたから。私たちは大丈夫だって。
ようやく会えたのはもう五月に入ったゴールデンウィークの頃で。
そこにやって来たマコは、もう私の知っているマコとはガラリと変わってしまっていた。
見た目の問題じゃない。内面の問題だった。
一見は高校生の頃とは変わらない、金髪が目立つ派手めの女の子で印象は変わらない。
でもなんていうか、私を見る目が変わっていると、私はそれを肌で感じ取った。
マコには恋人ができていた。年上の、しかも女性の。
入学した専門学校のOGで、最近はその人の家に入り浸って半同棲状態だとか。
その恋人はどんな人で、何が好きで、一緒に何をしたとか、そんな話をぺちゃくちゃと楽しげにされて。
私はその日、自分がどうやって家に帰ったのかを全く覚えていなかった。
それからもメッセージのやり取りは一応続いていたけれど、昔は一日に何通も交わしていたそれが、数日に一通くらいのペースになって。
内容も、その恋人のことや、私が知りもせず興味もないような新しい趣味のことなんかで。
マコと会話をすればするほど、私たちが噛み合っていない現実をまざまざと突きつけられた。
「アリサ。私たちもう高校生じゃないんだよ」
その次に会った六月の終わり頃、マコはそんなことを言った。
「生活も変わったし、景色も変わった。私もいろんなことを覚えたし、いつまでも昔みたいにいられないでしょ? 子供じゃないもん、もう」
「で、でも、大人になったって、別に変えなくていいことだって……」
「そんなことないよ。昔は昔、今は今。成長しなきゃ」
「何、それ」
どうしてそういう会話になったのかは、正直よく覚えていない。
でもマコは新しい生活の中で新しい何かを見つけて、もうそれに夢中になっていて。
私は置いてけぼりにされて、もう昔のことだと放っておかれている。
そういう意味だと思って、頭が真っ白になった。
そして私たちは初めて喧嘩をした。大喧嘩をした。
今まで多少の言い合いをしたことはあっても、喧嘩と呼べるものまで発展したことはなかったのに。
大声を張り上げて、感情的になって、ひどいことをたくさん言い合って、お互いを傷つけた。
大好きだったはずなのに、今も大好きなのに、憎たらしくてたまらなかったから。
「ダメだ。私たち、終わりだね。多分、私たちわかり合えないよ」
お互い言いたいことをぶちまけ合って、やがてマコが呟くように言った。
「アリサとは親友だと思ってたけど、もうそれも昔の話なんだね。今のアリサとは、もう無理だよ」
「なに、それ……。そっちが勝手なことばっかりしてるくせに! 私は、今まで通りマコと────」
「アリサ」
私がまた声を荒げかけたのを、マコは静かに制した。
「何度も言ってるでしょ? 変わったの、いろんなことが。今まで通りにはいかないんだよ」
「っ…………」
その冷め切った声に、私は全てが終わったことを悟った。
もう私たちは戻れない。あの頃には戻れないんだって。
「私は、マコが好きなのに。大好きなのに、どうして……」
「……うん。でもそれは昔の私でしょ? 今の私のことは、好きになれないくせに」
その言葉が、何よりも私の心を深く抉って。
「そんなに今の私が嫌いなら、別にそれでもいいよ。でも私は今更昔には戻れないし。だから、私のことは死んだとでも思ってくれていいから。アリサが大好きな私は、もうこの世にいないって」
そんな言葉を最後に、マコは私の前から姿を消してしまった。
もちろん連絡はそれ以降全く来なくって、会うことだって当然なくて。
私はその後のマコのことを一切知ることはなかった。
でも、それでいいと思った。
変わってしまった、私の知らないマコを見続けるくらいなら。
彼女が言った通り、マコは死んでしまったとでも思って、この気持ちに蓋をするのが一番いいんだろうって。
マコとの思い出も、親友として友情も、この恋心も。
全てもういなくなった人への想い。
どんなに募らせても、何の発展性もない過去のもの。
そうして私の高校時代の親友は、私の恋は、消えてなくなったんだ。
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私は大学進学を選択し、マコは専門学校へと進んだ。
進路が違う時点で今まで通りにいかないことはわかりきっていたけれど。
でも私は二人の絆を信じていたし、毎日一緒にいることができなくても、それでも私たちは変わらないと思っていた。
実際私たちは卒業式の際、毎日連絡とろう、小まめに会おう、ずっと友達だと、そう約束したんだから。
その後の春休みは実際にほぼ毎日顔を合わせて、その青春の終わりを一緒に惜しんだものだった。
でも、四月になるとその約束はあっけなく破られた。
よくあるような、どちらからでもなく自然に、といった具合ではなく。
明らかに、明確に、マコの方からだった。
はじめはメッセージの返信ペースが遅くなるところから始まって、二週間も経つと何の返事もない日ができていた。
やがて会話の内容も素朴になっていって、会う予定を取ろうにもなかなか合わなくて。
その時点で私は何だか嫌な予感がしていたけれど、でも自分の新生活の慌ただしさもあって、そこに強く注意を向けることができなかった。
なんだかんだで信じていたから。私たちは大丈夫だって。
ようやく会えたのはもう五月に入ったゴールデンウィークの頃で。
そこにやって来たマコは、もう私の知っているマコとはガラリと変わってしまっていた。
見た目の問題じゃない。内面の問題だった。
一見は高校生の頃とは変わらない、金髪が目立つ派手めの女の子で印象は変わらない。
でもなんていうか、私を見る目が変わっていると、私はそれを肌で感じ取った。
マコには恋人ができていた。年上の、しかも女性の。
入学した専門学校のOGで、最近はその人の家に入り浸って半同棲状態だとか。
その恋人はどんな人で、何が好きで、一緒に何をしたとか、そんな話をぺちゃくちゃと楽しげにされて。
私はその日、自分がどうやって家に帰ったのかを全く覚えていなかった。
それからもメッセージのやり取りは一応続いていたけれど、昔は一日に何通も交わしていたそれが、数日に一通くらいのペースになって。
内容も、その恋人のことや、私が知りもせず興味もないような新しい趣味のことなんかで。
マコと会話をすればするほど、私たちが噛み合っていない現実をまざまざと突きつけられた。
「アリサ。私たちもう高校生じゃないんだよ」
その次に会った六月の終わり頃、マコはそんなことを言った。
「生活も変わったし、景色も変わった。私もいろんなことを覚えたし、いつまでも昔みたいにいられないでしょ? 子供じゃないもん、もう」
「で、でも、大人になったって、別に変えなくていいことだって……」
「そんなことないよ。昔は昔、今は今。成長しなきゃ」
「何、それ」
どうしてそういう会話になったのかは、正直よく覚えていない。
でもマコは新しい生活の中で新しい何かを見つけて、もうそれに夢中になっていて。
私は置いてけぼりにされて、もう昔のことだと放っておかれている。
そういう意味だと思って、頭が真っ白になった。
そして私たちは初めて喧嘩をした。大喧嘩をした。
今まで多少の言い合いをしたことはあっても、喧嘩と呼べるものまで発展したことはなかったのに。
大声を張り上げて、感情的になって、ひどいことをたくさん言い合って、お互いを傷つけた。
大好きだったはずなのに、今も大好きなのに、憎たらしくてたまらなかったから。
「ダメだ。私たち、終わりだね。多分、私たちわかり合えないよ」
お互い言いたいことをぶちまけ合って、やがてマコが呟くように言った。
「アリサとは親友だと思ってたけど、もうそれも昔の話なんだね。今のアリサとは、もう無理だよ」
「なに、それ……。そっちが勝手なことばっかりしてるくせに! 私は、今まで通りマコと────」
「アリサ」
私がまた声を荒げかけたのを、マコは静かに制した。
「何度も言ってるでしょ? 変わったの、いろんなことが。今まで通りにはいかないんだよ」
「っ…………」
その冷め切った声に、私は全てが終わったことを悟った。
もう私たちは戻れない。あの頃には戻れないんだって。
「私は、マコが好きなのに。大好きなのに、どうして……」
「……うん。でもそれは昔の私でしょ? 今の私のことは、好きになれないくせに」
その言葉が、何よりも私の心を深く抉って。
「そんなに今の私が嫌いなら、別にそれでもいいよ。でも私は今更昔には戻れないし。だから、私のことは死んだとでも思ってくれていいから。アリサが大好きな私は、もうこの世にいないって」
そんな言葉を最後に、マコは私の前から姿を消してしまった。
もちろん連絡はそれ以降全く来なくって、会うことだって当然なくて。
私はその後のマコのことを一切知ることはなかった。
でも、それでいいと思った。
変わってしまった、私の知らないマコを見続けるくらいなら。
彼女が言った通り、マコは死んでしまったとでも思って、この気持ちに蓋をするのが一番いいんだろうって。
マコとの思い出も、親友として友情も、この恋心も。
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