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君にリボンを
しおりを挟む「そんな事、見過ごしにしてはいけませんわ」
私が最近の悩み事を相談すると、お友達の伯爵令嬢エレイン様はそう言って怒った。
「そうですよ。シヴェルト様にはイーリス様という婚約者がいらっしゃいますのに」
もう一方の子爵令嬢ファンヌ様もうんうんと頷いている。
私は男爵家の娘イーリス。父は金融業をしていて、のし上がって貴族になった成り上がりの新興貴族であった。
そんな私の婚約者は、名門伯爵令息のシヴェルト様。金の髪に青い瞳のお綺麗な方だ。彼の家は領地が広くて鉱山もあり裕福なのだ。
それ故、彼を巡る争奪戦は激しい。彼がどうして、私のような新興の成金貴族の娘と婚約をして下さったのか分からない。
ここは王都のカフェ、念のため結界の魔道具を作動させているのは、人に聞かれたくない話なわけで、私は見てしまったのだ。婚約者の浮気現場を。
親に言うと大変なことになる。それで先に友達の二人に相談したのだ。
◇◇
私とシヴェルト様が出会ったのは、王都の貴族学園に入学してからだ。
そそっかしい私が、お綺麗なシヴェルト様の目の前で、スカートの裾を引っ掛けて転んで、スカートが裾から破れて足が出てしまった。私は慌てて足を隠して、その場に座り込んだ。
このままでは足を晒して、この学園の廊下を歩かねばならない。恥さらしもいい所である。お嫁の貰い手もなくなってしまう。
涙目で真っ赤になって廊下に蹲っている私。
その時、無表情で私を見ていたシヴェルト様が、サッと上着を脱いで私の足を隠してくださり、保健室まで連れて行ってくださったのだ。
私はその一件で、すっかりシヴェルト様のファンになってしまった。シヴェルト様は保健室で上着を受け取ると、涼しい顔で行ってしまった。
ああ、神だわ、私の神。私はすっかりシヴェルト様にのぼせてしまった。
しかし、私は成金貴族の娘、シヴェルト様は名門貴族の御曹司。この恋が叶うことはない。私はシヴェルト様を応援するファンクラブの一員でありさえすればよかった。
その後も、そそっかしい私は、階段で転げ落ちて、シヴェルト様に負ぶわれて医務室に運ばれたとか、お腹を壊した私を抱えてトイレに放り込んだりとか、彼は私を救ってくれる神ぶりを遺憾なく発揮してくれた。
彼に助けられるのはしょっちゅうで、ご迷惑をかけるのもしょっちゅうで、彼が表情も変えずに淡々と手助けする姿は、もはや学園の風物詩となってしまった。
その度にお詫びやお礼をしたけれど、彼の綺麗な顔が綻ぶことはなかった。私は迷惑ばかりをかけて、彼に嫌われているのだと思っていた。
だから、シヴェルト様の伯爵家からの婚約打診に、父も私も何度も間違いではないかと念を押しての婚約だった。
婚約してからはそれなりに何度か行き来して会っている。お綺麗なシヴェルト様に会うと私は緊張してしまって、まともに話せたかどうか覚えていない。
それでもそれなりに何度かお会いして、一緒に出掛けたり、お話もすれば、プレゼントの交換もしていた。
だから今回の事はショックだった。
お相手は流行りのピンクブロンドで可愛い系の女性だ。彼の腕にぶら下がって二人で楽しそうに街を歩いていたのだ。
「これはもう、突撃するしかございませんわ」
「大丈夫、骨は拾ってさしあげますわ」
エレイン様とファンヌ様に発破をかけられて、私は決断するしかなかった。
私はシヴェルト様に手紙を書いて、会う約束を取り付けると、馬車に乗って伯爵家に伺った。
シヴェルト様はサンルームにいらっしゃった。あのピンクブロンドの髪の女性も一緒だ。にっこりと笑うとものすごく可愛い。とても私の出る幕はなかった。
「あ、あ、あの……」
どう言って切り出していいか分からない。この一言で自分の未来が無くなると思うと……。そうだ、シヴェルト様と一緒の未来が──。
言葉も出ないで突っ立っている私に、シヴェルト様が彼女の紹介をする。
「彼女は僕の──」
ああ、私は何も聞きたくない。耳を覆ってしまった。でも聞こえる。
「姉だ」
「へっ?」
「子供が出来たんでこっちに帰って来たんだ。そそっかしくてよく転ぶし、今は大事な時期だから外出の時はエスコートしている」
「はあ……」
何という事だろう。完全に私の早とちりだ。
お姉様がいらっしゃるって伺っていたけど、楚々としてほっそりした方だと思っていた。こんなに福々として胸も大きいし、髪も金髪のシヴェルト様と違ってピンクブロンドで、何かイメージが全然違う。
「ほほほ、そそっかしい方のようね。仲良くするのよ、シヴェルト」
彼女は私たち二人を部屋に残して行ってしまった。
「イーリス、それで僕に何を聞きたいんだ」
「いや、あの、その……」
今更何も言えないで言葉に詰まる私を見て、シヴェルト様は腕を組んで目を眇めて言った。
「何の早とちりをしたんだか、全く」
コレは、婚約破棄待ったなしだろうか。
「うっ、ご、ごめんなさい、お許しください。何でもいたします」
私は必死になってシヴェルト様に許しを請うた。彼は腕を組んで斜め上を見ながら考え考え言う。
「君からは謝罪の言葉と、愛の言葉と、おねだりの言葉と……、んー、あと何にしようかな──」
あれ……。これは、そそっかしい私の聞き間違いだろうか。ええと、なんか思っていたのと方向性が違うというか……。
「そうだ、プレゼント」
シヴェルト様はその青い瞳を爛々と輝かせて続ける。
「君にリボンをぐるぐる巻きにして、可愛く蝶々結びにして僕の部屋で待機してもらおう。もちろん下は何も着ないで。あ、でも猫耳で尻尾だけ付けてっていうのもいいかな、待てよ、ここはやっぱり裸エプロンで──」
私の口はあんぐり開いたまま、しばらく閉じなかった。
いつも爽やかな彼が、こんな変態だなんて私は思ってもみなかった。むっつりスケベってこういうのをいうのかな。
もちろん私はシヴェルト様が大好きなので、彼の要望に全力で応える。
「イーリス! 今、ここで脱ぐんじゃない」
彼に全力で止められてしまったけれど。
「君がこんな僕を嫌わないでくれて嬉しいよ」
シヴェルト様はそう言って、私の唇にチョンとキスを下さったのだ。私はそれこそ全身真っ赤に染まってしまって、彼は斜め上を向いて押し黙った。
おしまい
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