ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり

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06 微妙なスキルで放浪の旅に出ました

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 陽が真ん中まで登ったあたりで休憩する。一生懸命に歩いたので額に汗をかいた。良さげな傾斜の草地に木が生えていたので、その下に敷物を敷いてお弁当を広げた。堅焼きパンとミンスパイ、干しイチジクやレーズン、チーズとベーコンが並んでいて、水袋には果実水が入っている。

 どれから食べようかと手を伸ばしかけた時に、いきなり頭の中にジリジリジリ……と警報が鳴り響いた。
「何?」と周りを見回す。
(【危機管理能力】が発動しました)
「へ?」

(エマは『鑑定』を覚えました)

「え、何でいきなり──。鑑定って……、何を?」
 私が持っているのはお弁当箱だ。堅焼きパンとミンスパイが入っていて美味しそうだし、お腹が空いている。
「食べちゃいけないのかな……『鑑定』」

(お弁当を『鑑定』しました)
 サンドイッチ(睡眠薬入り)ミートパイ(睡眠薬入り)果実水(睡眠薬入り)

「…………うわ、なんなんだよーー!」
 どうすればいいの、これ。ちょっと待って、ここで寝コケたらどうなるの。
 パニックを起こしそうな頭を、深呼吸をして宥める。

 ──落ち着け自分。弁当は食べられない。ここで寝たらどうなるか。誰かが見つけて、私みたいなの要らないよね。国は関わらない。こんな所で放置。……。
 ヤバイ。

 なんかないの、そうだ、鑑定がある。ていうか、鑑定しかない。
「私を『鑑定』」
 そしたら出たのだ。

名前  エマ 十五歳 性別 女
スキル 隠蔽 鑑定
固有スキル 決め台詞
ギフト 【アイテムボックス】【異世界言語翻訳機能】【危機管理能力】

(うは、この身体十五歳だったのか。子供やん)

 その時、頭の中にまたジリジリジリ……と、警報が鳴りだした。
「ええ?」
 顔を上げると四、五人の腕っぷしの強そうな男達がザッと取り囲んだ。しまった、自分のスキル見るのに夢中になっていた。

 彼らは人相が非常に悪い上に、剣やら槍やら斧を持っている。装備している格好といったら毛皮やサイズの合わないシャツや汚れたズボンとか、あからさまに追い剥ぎとか山賊っぽい。

 待ち伏せか、つけられていたのか、普通のオバサンには分からない。
「寝てねえな、こいつか?」
「ピンクの髪だ、こいつに間違いない」
「ネエちゃん、有り金纏めてこっちに寄越しな」
 ニヤニヤ厭らしい笑いを浮かべて手を出す。

 こいつら強盗だわ。しかも私がお金を持っているのを知っている。しかも、これが初めてじゃないっぽい。慣れた感じなのだ。しかも、屋敷の使用人がグルだった。お弁当を食べていたら、ここで寝コケている間に、あの世に逝っていただろう。
 くそう、あいつら銀貨返せ。
 てか、詰んだ。

 これは、たまたまではなく待ち伏せだ。
 オバサンだからこの待遇。もし可愛い子だったらどうなるか、火を見るより明らかで、ジリジリ鳴る警報にどうしろってのよと毒づく。

(【危機管理能力】が発動しました。エマは固有スキル『決め台詞』「何すんねん!」を覚えました)

「えっ、えっ、えっ、何それ」
 男のひとりが私の身体をむんずと掴んだ。
「何すんねん!」
 男が私の勢いに負けてパッと手を離した。

(エマはスキル『決め台詞』「無礼者! 許しませんぞ!」を覚えました)

「無礼者! 許しませんぞ!」
 私は大声で叫んだ。
 男たちがズサーと引き下がった。逃げる。逃げなきゃ。逃げる時。逃げろー。
「くそう、待ちやがれ!」
 男たちはすぐに立ち直って、私の前に回り込む。

(エマはスキル『決め台詞』「女王様とお呼び!」を覚えました)

 もう何なんだよ、このスキル。
「女王様とお呼び!」
 男たちは一斉に跪いた。

 なんか心許ないスキルだな。急場しのぎにしかならない。逃げる一択しかない私は、まだ一口も食べていないお弁当を持ったまま、バッグを肩に逃げ出した。
「あ、くそっ、待ちやがれ!」

 何か、何かもっといい魔法はないの? 必死に走ったが、追いかけて来る強盗っぽい男たちとの差はあっという間に縮まる。
 私は手に持った睡眠薬入りのお弁当を男たちに投げつけた。

(エマはスキル『決め台詞』「もったいない! 残さず食べなさい!」を覚えました)

 あ、これって使えそう。
「もったいない! 残さず食べなさい!」
 男たちは私の投げた睡眠薬入りのお弁当を、ガツガツと食べて果実水を飲んだ。強力な睡眠薬が入っていたらしく、すぐにみんな寝てしまった。

 ヤレヤレだわ。少し脱力してしまう。
 とにかく逃げなきゃ。しかし男たちが起きて追いかけて来たら、こちらの道はヤバいかな。どっちに行こう。町へは戻りたくない感じ。
 考えながら寝こけた男たちを見ていたら、側に水袋が落ちていた。
(何かの役に立つかなあ)
 拾ってアイテムボックスの中に入れる。

 こうなったら森の側の道を通って村に行くしかないか。私は泣きたい思いで方向転換して、森へ向かって歩き出した。若返って身が軽くなったのがありがたい。オバサンだったら今のでへばっているわ。


 こっちに行っても警報が鳴らないから大丈夫だろう、多分。しかし、警報は間際でないと鳴らないみたいだし、どれもあんまり役に立たない感じのスキルだな。無いよりマシ程度と思った方がいいだろうか。

 大体、何があったっけ。「何すんねん」と「無礼者、許しませんぞ」と「女王様とお呼び」と「もったいない」だっけ。
 なーんか若返るってすごーい。頭の中がすっきりしている。今覚えた言葉がちゃんと端からポンポン出て来るって最高だわ。

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