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一章 婚約破棄と断罪
06 ギフト【救急箱】
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(―─私は水の中にいる)
暖かくて気持ちいい。ゆらゆらと揺れるゆりかごのよう。
その中で前世の夢を切れ切れに思い出している。
雑居ビルの事務所に仕事に行っていた。便利使いされて仕事は忙しく建物の中も外も走り回っていた。そして駅の階段から転げ落ちて死んだのだ。
あちこち痛くて「救急車!」と喚いたのは、誰にだったか。
そして今世の記憶。
祖父は父の蛮行を見越していたのだろうか。母が死んでから泣きつく私を領地に連れ帰り、よくあちこち連れ回してくれた。
その祖父が逝った。私を愛してくれた唯一の人だった。
婚約者が決まったのは十二歳の時だったが、その後すぐに母が亡くなって私は祖父に連れられてマイエンヌ領に行った。
私は放置されたまま断罪されてしまったのだ。
どうせならそのまま放置してくれれば良かったのだが、父の侯爵はそういう訳にも行かなかったのだろうか。私がいると色々と不味かったのだろうか。母が死んだのも、祖父が死んだのも、父にとって都合が良い時期だった。
婚約破棄されて捨てられてしまったし、さてこれからどうしよう。
水の中から意識が浮上する──。
◇◇
目を開けると大きな木の枝が垂れ下がっているのが見えた。手を伸ばして枝に掴まる。そのままゆっくりと身を起こした。ドレスの裾へ水が流れ落ちる。
川の浅瀬に流れ着いたようで足が川底に届いた。靴が片方脱げていて川底の砂地が足の裏に直接触れる。何となく懐かしい感触を思い出しながら、枝を伝って川岸に上がった。ドレスと靴を脱いで水辺で洗って枝にかける。
コルセットを外すと腰にぐるぐる巻きつけた全財産がドサリと落ちた。
よくあの時に決断したものだ。少しずつ思い出しかけていたのだろうか。
長い布に包んだ全財産を広げて干した。
ついでに身体を調べたがかすり傷も無かった。あんなに爆発に巻き込まれ、跳ね飛ばされ、投げ出され、ゴロゴロ転げたのに、何故なのか分からない。
そういえばアレもかなりいい加減に混ぜて投げたのに上手く爆発したものだ。
川に落ちたのも、流されて無事だったのも、何かの『加護』が発動したとしか思えない。
(ステータス!)
名前 メリザンド
種族 人間 性別 女 年齢 十五歳
スキル 水魔法 生活魔法全般
ギフト 【救急箱】
称号 【転生者】
しかし、私のステータスに『加護』は表示されていない。
「ハクシュン!」
ぶるっ。下着が濡れていて寒い。季節は春の終わり、満開の花の咲き乱れる頃であるが、水遊びにはまだ早いだろう。
【救急箱】に何かないだろうか。
何故か《非常持ち出し袋》が【救急箱】の中に入っていた。何でこんなものが入っているのだろう。
【救急箱】ってギフトだから、贈り物みたいな感じだろうか。
あちらから必要な物をその都度贈って下さるのか。
非常にありがたくて都合の良いスキルだけれど。
黒のバックパックタイプの非常持ち出し袋は結構重い。
一体何が入っているんだろう。
「何が入っているのかなー」
福袋を開ける感覚で黒いバックパックの持ち出し袋の中身を取り出す。
バスタオルとタオルが何枚か。乾パンとビニール袋に入った非常食セット。
下着セットと黒のジャージ上下、スニーカーと靴下とか、どうしてこんな物まで入っているのだろう。この状況だからとてもありがたいが。
懐中電灯とエアマット、寝袋、軍手に雨具、あと小物の入ったポーチ。
取り敢えず下着を替え、黒いジャージに着替えて、靴下とスニーカーを履いたがサイズがぴったりだ。すごいな。着ていた服を川で洗ってそこらの木の枝に掛ける。
どのくらい川を流されたのか分からないがお腹が空いた。
枯れ枝を集めて、石で囲って点火で火を起こす。
点火とか清浄とか攪拌とかの生活魔法は、全て祖父が教えてくれた。
『ごらん、あのひときわ明るく白く輝く星が南の方角を示すフェニックスだ』
領地で侯爵家の家臣たちと野営をして、星空を見上げた。
もう遠い昔の出来事のようだ。
みんなどうしているだろう。
父は文官で祖父が生きている間は一度も領地に来なかった。
非常食と一緒に一人用キャンプ鍋とマグカップがあった。曲がった枝を拾って、火の上に鍋が掛けられるように地面に挿す。
『アクア』
鍋に水を入れて沸かして非常食のカレーとご飯を温めて食べる。
ほろりと涙が零れ落ちた。
うん、色々あったね。頑張ったね、メリザンド。
ポロポロと零れ落ちる涙もそのままに、自分で自分を慰めながら、十数年ぶりに食べたカレーは少ししょっぱい味がした。
暖かくて気持ちいい。ゆらゆらと揺れるゆりかごのよう。
その中で前世の夢を切れ切れに思い出している。
雑居ビルの事務所に仕事に行っていた。便利使いされて仕事は忙しく建物の中も外も走り回っていた。そして駅の階段から転げ落ちて死んだのだ。
あちこち痛くて「救急車!」と喚いたのは、誰にだったか。
そして今世の記憶。
祖父は父の蛮行を見越していたのだろうか。母が死んでから泣きつく私を領地に連れ帰り、よくあちこち連れ回してくれた。
その祖父が逝った。私を愛してくれた唯一の人だった。
婚約者が決まったのは十二歳の時だったが、その後すぐに母が亡くなって私は祖父に連れられてマイエンヌ領に行った。
私は放置されたまま断罪されてしまったのだ。
どうせならそのまま放置してくれれば良かったのだが、父の侯爵はそういう訳にも行かなかったのだろうか。私がいると色々と不味かったのだろうか。母が死んだのも、祖父が死んだのも、父にとって都合が良い時期だった。
婚約破棄されて捨てられてしまったし、さてこれからどうしよう。
水の中から意識が浮上する──。
◇◇
目を開けると大きな木の枝が垂れ下がっているのが見えた。手を伸ばして枝に掴まる。そのままゆっくりと身を起こした。ドレスの裾へ水が流れ落ちる。
川の浅瀬に流れ着いたようで足が川底に届いた。靴が片方脱げていて川底の砂地が足の裏に直接触れる。何となく懐かしい感触を思い出しながら、枝を伝って川岸に上がった。ドレスと靴を脱いで水辺で洗って枝にかける。
コルセットを外すと腰にぐるぐる巻きつけた全財産がドサリと落ちた。
よくあの時に決断したものだ。少しずつ思い出しかけていたのだろうか。
長い布に包んだ全財産を広げて干した。
ついでに身体を調べたがかすり傷も無かった。あんなに爆発に巻き込まれ、跳ね飛ばされ、投げ出され、ゴロゴロ転げたのに、何故なのか分からない。
そういえばアレもかなりいい加減に混ぜて投げたのに上手く爆発したものだ。
川に落ちたのも、流されて無事だったのも、何かの『加護』が発動したとしか思えない。
(ステータス!)
名前 メリザンド
種族 人間 性別 女 年齢 十五歳
スキル 水魔法 生活魔法全般
ギフト 【救急箱】
称号 【転生者】
しかし、私のステータスに『加護』は表示されていない。
「ハクシュン!」
ぶるっ。下着が濡れていて寒い。季節は春の終わり、満開の花の咲き乱れる頃であるが、水遊びにはまだ早いだろう。
【救急箱】に何かないだろうか。
何故か《非常持ち出し袋》が【救急箱】の中に入っていた。何でこんなものが入っているのだろう。
【救急箱】ってギフトだから、贈り物みたいな感じだろうか。
あちらから必要な物をその都度贈って下さるのか。
非常にありがたくて都合の良いスキルだけれど。
黒のバックパックタイプの非常持ち出し袋は結構重い。
一体何が入っているんだろう。
「何が入っているのかなー」
福袋を開ける感覚で黒いバックパックの持ち出し袋の中身を取り出す。
バスタオルとタオルが何枚か。乾パンとビニール袋に入った非常食セット。
下着セットと黒のジャージ上下、スニーカーと靴下とか、どうしてこんな物まで入っているのだろう。この状況だからとてもありがたいが。
懐中電灯とエアマット、寝袋、軍手に雨具、あと小物の入ったポーチ。
取り敢えず下着を替え、黒いジャージに着替えて、靴下とスニーカーを履いたがサイズがぴったりだ。すごいな。着ていた服を川で洗ってそこらの木の枝に掛ける。
どのくらい川を流されたのか分からないがお腹が空いた。
枯れ枝を集めて、石で囲って点火で火を起こす。
点火とか清浄とか攪拌とかの生活魔法は、全て祖父が教えてくれた。
『ごらん、あのひときわ明るく白く輝く星が南の方角を示すフェニックスだ』
領地で侯爵家の家臣たちと野営をして、星空を見上げた。
もう遠い昔の出来事のようだ。
みんなどうしているだろう。
父は文官で祖父が生きている間は一度も領地に来なかった。
非常食と一緒に一人用キャンプ鍋とマグカップがあった。曲がった枝を拾って、火の上に鍋が掛けられるように地面に挿す。
『アクア』
鍋に水を入れて沸かして非常食のカレーとご飯を温めて食べる。
ほろりと涙が零れ落ちた。
うん、色々あったね。頑張ったね、メリザンド。
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