婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり

文字の大きさ
18 / 42
二章 自由都市へ

16 野営地で戦闘

しおりを挟む

 食事が終わって片付けを済ますと、水場で顔を洗ってテントに入って眠る。清浄魔法をかけているけれどお風呂に入りたい。ケプテンという街のお宿にはお風呂があるだろうか。
 テントは部屋が三つに分かれて、とても快適だ。アルトと一緒に眠ると何となくいい匂いがするんだけど、私は臭くないだろうか。ノアは自分の寝具を持っていて、皆がテントに入るとアデリナが結界を張ってくれる。
 ヒールとか結界とか本当にすごいと思う。スヴェンの怪我はもうほとんど良くなっていたので、包帯を回収した。
 その日も疲れていたので瞬殺で眠った。


 未明、
「メリー起きて!」アルトに揺り動かされて起きた。
「うん、兵士?」
 ここで兵士って聞くのが何とも悲しいっていうか。
「いや、魔獣だ。たくさんいる」
 私の気持ちを無視してアルトが告げる。
「え、デカいの?」
「いや、狼型の」
 既に支度をして外を見て来たらしい。耳をすませば犬の鳴き声みたいなのが聞こえる。狼型の魔獣が集団で襲い掛かって来たのだ。
「えー、食べられなくて、面倒な奴じゃん」
 私の認識はその程度だ。

「おいらが殺るー。レベルアップするー!」
 ノアが戦うという。私たちも支度をしてスヴェンとアルトがテントの外に出る。
 私とアデリナはテントの入り口から様子を見る。

 三組の野営をしていた人々はもう起きて、護衛の人が外に出て戦っている。
 ノアが魔獣を呼び出した。
 大きな白い魔物が現れる。背中や足、尻尾などに斑紋があり、お腹は白くて豹のような動物だ。
「リーン」
 ノアが呼びかけると「ニャオ」と鳴いて手に頭をこすりつける。こんなに大きいのに、そんな可愛い声で鳴くのだ。
 綺麗なノアと綺麗な白い獣の一対はとても絵になる。こんな状況なのにしばし見惚れてしまった。

「よし、行くよ」
「ニャウ!」
 一声叫んでノアとリーンという魔獣は狼たちに向かって行った。
 護衛の人たちは最初びっくりして身構えていたけれど、ノアが「大丈夫だよー」と言うと我に返って狼に対峙する。

 ノアが呼びだした大きな白い魔獣は強かった。
 しなやかな動きでひょんひょんと狼の集団を飛び越し、群れのリーダ的な大きな個体の前に躍り出た。
「グルル……」と低い声で唸るリーダーと少し睨み合ったかと思うと、目にも止まらぬ速さで飛び掛かる。大きな狼の喉元に食いつきブンブン振り回してあっという間に屠った。あとはもう、千切っては投げ、体当たりをしては投げ、前足で引っ掻いて尻尾で叩いて後ろ足で砂をかけて、噛んでは投げ、蹴散らしてゆく。
「強い……」
 商隊の護衛の人たちが唖然として見ている。

 私たちも出る幕がない。途中ではぐれ狼が飛び込んできたのをあっさりアルトがクロスボウで片付けたし、もう1匹はスヴェンが剣で切り捨てた。

 魔獣がいなくなると護衛の人が「ありがとな」と声をかけてくれた。魔獣の死体を一か所に集めて燃やしている。こうすれば他の魔獣が寄って来ないらしい。

 魔獣を片付け終わってテントに戻るとノアが私に聞く。
「ねえメリー、おいらレベルアップしたんだ。何かおいらにくれるものない?」
 ノアが呼び出したあの大きな白い魔獣は、中型犬くらいの大きさになってノアの側で「ニャア」と鳴く。可愛い、ちょっとモフモフしたい。

「え、何だろう」
「ほら、ボックス見て」
「ええ」
 言われるままに【救急箱】の中を覗く。
「《タマゴ》がある……」
「卵!」
 取り出すと大きい。ダチョウの卵より一回り大きい、ベージュに斑点のある透き通った感のある卵だ。両手で取り出したが重いし落としそう。

「はい、ノア」
 必死になって抱えて渡すと、ノアは軽々と受け取って嬉しそうに笑った。
「ありがとう、メリー。これ、おいらとメリーの子供だね」
「え、そうなの?」
 私、卵を産んだ覚えはないけど、産んだことになるのかしら?
「おいら、頑張って育てるね。期待して?」
「うん。楽しみにしてる」
 こんな大きな卵、一体何が生まれるんだろう。

「この子を育てるからお家に帰るね。メリーにはこっちの子をあげる。何かあったら呼んで。じゃあね」
 小さくて丸くて黄色くて、ひよこのようなモノを私の手に残して、ノアは白い豹と一緒にあっという間にいなくなった。
 お家って? これは? 呼ぶってどうやって?
 数々の疑問を残して、いきなりノアはいなくなった。
 転移の魔法ってあるんだな。

 私、卵をあげて良かったのだろうか? でも【救急箱】に卵が入っていたし、他にあげる人いないし。食べちゃいけないだろうし。
「何が生まれるんだろう?」
「ドラゴンか、鳥か」
 スヴェンが言う。
 大きな卵だったな。ドラゴンだったらどうしよう。急に不安になった。
 私は、とんでもない事をしたんじゃないだろうか。

「ぴよ」
 手の上にいる黄色いひよこが鳴いた。
「え? あら、この子貰ったんだっけ」
「それ、アーリマンじゃないのか?」
 やっぱりスヴェンが言う。騎士ってそれなりに危険な目に遭っているんだな。
 丸くて目がひとつでコウモリの羽のこの子が? 大きさはひよこくらいだ。
「何かあったら呼んでって言ってたけど……」
 ひよこはパタパタと私の手の上で羽ばたく。

「魔物なら、お名前を付けてあげたらいいんじゃないでしょうか」
 アデリナが教える。
「そうなの?」
「そうだね」
 うんうんと頷くみんな。
「うーん、じゃあ黄色いからミモ?」
「ぴよー!」
 ひよこはパタパタと飛んで肩に乗って丸くなった。
「何でミモなのですか?」
「ミモザだと呼びにくそうで」
「そうかしら」
 アデリナは首を傾ける。ミモザの方が良かったかしら。可愛いからいいか。


 明け方、ケプテンから自衛兵が五人騎馬で駆けて来た。
 私たちはちょっと身構えたけど、兵士の鎧が違っていて彼らも親切だった。
「ここらに狼の魔獣の群れが出るって報告があって、探したが場所を特定できなかったんだ。退治してくれて助かったよ」

 自衛兵の隊長らしき人が副官と一緒に話を聞く。
「我々はケプテン自衛団外郭警備第五警備隊だ」
 何だかカッコいい名前だ。
「昨日、魔獣が出て狼を片付けてくれたそうだが、君たちは何か聞いていないか」

「僕たちはびっくりして見ていました」
「白い大きな魔獣が何故か助けてくれました」
「とっても怖かったです」
 私たちは口々に怖かったと訴えた。ノアの事は話さない事にした。だって此処にいないから説明の仕様が無いのだ。
 薄暗かったし馬車の護衛の人が人数間違えたとしてもいいよね。私とノアはよく似た格好をしていたし。

 私たちが自由都市ケプテンに行くと言うと素性を詮索するように見る。
「俺の友人がこの街に居るので来たんだ」
 スヴェンが隊長に申し出る。
「冒険者だ。バルドゥルという」
「ああ、彼なら知っている」
 私たちのちぐはぐな格好もそれで納得したようで、
「じゃあケプテンでな」とさっさと引き上げて行った。
 私たちはそれからてくてく歩いてケプテンに向かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!

naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』 シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。 そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─ 「うふふ、計画通りですわ♪」 いなかった。 これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である! 最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【連載版】婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
短編では、なろうの方で異世界転生・恋愛【1位】ありがとうございます! 読者様の方からの連載の要望があったので連載を開始しました。 シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます! ※連載のためタイトル回収は結構後ろの後半からになります。

処理中です...