婚約破棄された令嬢はどん底で運命に出会う

拓海のり

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9 初夜

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 これからどうするのか。どうなるのか。
「あの、新婚旅行に行くのですか」
「行くさ。うんと楽しもうね、ナディ」
 もはや逃げ腰のナディーヌの腰を引き寄せて、エドゥアールが言う。

「領地に行って、君とゆっくりして、子供が出来たら戻る。その間に君の妃教育も終わるだろうからね」
 ナディーヌと違って微塵も動揺していない、落ち着き払った男をまじまじと見る。
 どんどん印象が変わって来る。最初に会った時の淡い、儚いイメージは何処に行ったのか。 

「今は君が私の看護師だと、皆、誤解するだろう」
(策略家のイメージですわ。わたくしも誤解しましたし)
「王都にゆっくりしていられないんだ」
 こちらに居て、余計なことに巻き込まれてもいけない。この方はまだ病み上がりなのだから。
「わたくしが、あなたをお守りするのですか」
「ああ、一生ね。いや?」
「いいえ」
 一生と言われて、少し嬉しい気がするのは何故だろう。

「あ、でも……」
「何だい」
「お酒とかたくさん過ごされますの?」
「いや、すぐ寝てしまうし」
「そうなんですか」
(お酒に酔ってアレな方ではなさそうです)

「ええと、その……、ごく普通の方ですよね」
「それはどういう」
「ええと、紐で縛るとか……」
 声がだんだん小さくなっていく。
「君がそういう趣味……、だったら頑張るしかないけど」
「いやいやいや、話に聞いただけです。私は普通がいいです。絶対に」
「そうなの?」
「普通がいいですから」
「はい」
(余計なことを言ったような気がします)
 笑っているけれど。クスクスと、お腹を押さえて。


「ナディ」
「あ……」
 そのまま腕を引っ張られて、二人でベッドに横になった。
「夢みたいだ」
 ナディーヌの身体を抱いて引き寄せる。
「検診のついでにね、検査もしてもらったんだ。ちゃんと子供も出来るって。たくさん作ろうね」
「やっぱりするのですか?」
「もちろん」
 キスをされる。
 やっぱり嫌じゃない。それが深くなっても。

「恥ずかしいですわ」
 ニコリと笑って、手が薄い夜着を剥ぎ取ってゆく。
「綺麗な胸だ」
「あまり見ないでくださいませ」
「どうして?」と言いながら手が乳房の上に。
「その、小ぶりでございましょう?」
「そうかい? 形が良くて綺麗だ。特にココの色はピンクで可愛い」
 手がナディーヌの胸の頂をいやらしく動く。この手はどなたの手だろう。この綺麗な方がこんなことをするなんて。段々変な気分になって行くのですけれど。
 身体が熱くなってゆくのですけれど。
 熱が下半身にも行くのですけれど。

「わたくし考えていませんでしたわ」
「何を?」と答える声は胸のあたりから聞こえる。
 赤子のようにそこを舐めたり吸ったりするのはアリなのだろうか。
「わたくしは介護のことばかり考えて、お疲れでいらっしゃるだろうからベッドに入られたら直ぐにお休みになれるようにするとか、別の部屋で休むとか──」
 この展開は意外というか──。

 すっかり服を剥ぎ取られて、股間の辺りに彷徨う手を跳ね除けられもせず、もじもじと腰を動かして必死になって耐えたけれど、ついには彼の長い指が身体の中まで入って来て、水音までして声も抑えられなくて、すっかり出来上がってしまったようになって。

 そうしたら彼が起き上がって服を脱いで──。そんなに痩せたあばら骨の浮いた身体という訳でもなく、ごく普通の文官程度の筋肉なのだろうけれど、驚いて身体をじっと見ていたら、
「元気になったら、少しずつ鍛えてもらうから」と肩を竦める。
「いえ、そうじゃなくて、殿方って身体つきが違うというか、男っぽいっていうんですか? エドも、その、ちょっと怖いというか……」
(これは女が持つ本能的な恐怖かしら)
 服の上からでは分からない、うっすらと筋肉の乗った細くても綺麗でもしっかり男の身体であった。
「そうか──」

 少し嬉しそうな表情になった彼が、服を脱ぎ捨てて獲物に向かって来る。
 ナディーヌにはそんな風に思えた。
「どうしてそんなモノが付いているのですか!」
「閨教育で習っただろう」
「そんなに大きいって聞いていません、そんな色だって知りません」
 だってそんな立派な刀身のようなものが襲い掛からんばかりにこちらに向かっているものだから、思わず逃げ腰になってベッドの上を後退りしてしまう。
「興奮したら大きくなるんだよ。ナディの身体を見たから、私の鼻息も呼吸も荒いだろう」
「あ……、大丈夫ですか? 御無理されてはいけません」
 途端に逃げるのを止めて心配してしまうと、
「君はそっちに行くんだね」と、苦笑された。

 二人とも素っ裸である。それでベッドの上に向かい合って座って、お互いの身体を見ながら言ってるわけで。
「そろそろ限界なので入れてもいいだろうか」
「はい、お手柔らかにお願いします」
 彼はナディーヌの身体を押し倒してくる。ちょっと息が荒い様な。
 首を傾けて見上げると、
「大丈夫だから」
 心配そうな顔を見て言う。丁寧に解されたソコに、随分立派に育った刀身のようなソレを宛がって、この足をどこにやればいいのかしらと変な所で悩む。
「ナディ、私の膝の上に足を乗せて」
「ええと、こうですか」
 彼の折り曲げた膝の上に乗せてみる。ずいぶんな格好だけど具合がいいというか、足の置き所が落ち着くというか、
「ああ」
 ナディーヌの開いた足の間に身体を進めて、抱き寄せ押し進める。
「んん……、くっ……」
 ああ、ぐいぐい来る。身体が逃げる。腰を引き戻されてまた──、
 試行錯誤の末「入ったよ」と疲れたような声。とても辛かったのですけれど、彼の声に大丈夫なのかしらと思ってしまう。
「大丈夫ですか」
「うん、動くからね」
「はい」
(まだ終わりじゃないようです)
 ああ、もっとぐいぐい来るわ。段々身体が熱くなって何が何だか分からなくなるのだけれど。変になってしがみ付いてしまうのだけれど。


「何だかとても大変でございましたわね」
 二人ともクタクタになって、一緒に寝過ごしてしまった朝の会話である。
 寝る前に身体を綺麗にして夜着を着て、お互いに手を回して何となくくっ付いている。召使が気を利かせて呼ぶまで来ないのがありがたい。
「私はこんなに大変だとは思わなかった」
 エドゥアールはナディーヌの肩のあたりに頭を乗せて言っている。
「そうですわね、誰も言ってくれませんでした」
 手は腰に回っているが、離れ難くて、だらだらと話をしているだけである。
 こんな風に何でもない会話をしてくれるのが嬉しい。


 翌日は王宮で夜会がある。恒例の行事である。
 そこで、国王陛下に披露する。

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