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桔梗楓

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2巻 ドS極道の過激な溺愛

2-1

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   第一章


 朝日がカーテンの隙間から差し込み、そのまぶしさで否応いやおうなく目が覚めてしまう。

「うー……」

 しかし、脳が起床しても身体がついていかない。なんとなくだるくて起き上がれず、私――椎名しいな里衣さといはベッドの上で転がった。だって布団が気持ちいいんだもん。布団から出たくない。ごろごろしていたい。でも、仕事がある。お給料をもらっているからには、仕事はやらなくちゃいけない。
 私は、二ヵ月ほど前から、とある興信所で事務員として働いている。
 きっかけは、黒塗りの高級車との接触事故。当時、ブラック企業の営業として馬車馬ばしゃうまのように働かされていた私は、疲労がピークに達していたらしい。運転していた社有車をうっかり、高級車にぶつけてしまったのだ。
 しかもなんの因果か、相手はヤクザだった。提示されたのは、法外な金額の慰謝料。私はそれを払い終えるまで、ヤクザである獅子島葉月ししじまはづきが経営する興信所で事務員として働き、彼の『趣味』につきあうことになったのだった。
 お給料はすずめの涙だし、そのほとんどを慰謝料として天引きされる。さらには、事務所のある建物に軟禁状態。もちろんはじめは嫌だったし、不自由がないと言ったら嘘になるけれど、今の私はこの日々がずっと続けばいいと思っている。
 それは、葉月さんと両思いになれたから。彼の第一印象は変態ヤクザだったが、一緒に暮らすうちに彼の優しさを知り、気づけば好きになっていた。彼もまた、私が好きだと言い、法外な額の慰謝料の請求を撤回してくれた。
 心のよりどころができた私は幸福感に満たされ、今は高級車の正式な修理代を給料から天引きしてもらいつつ、働いている。……さて、布団でゴロゴロするのは、そろそろ終わりだ。起きて、仕事に行く準備をしなくてはならない。
 うつ伏せになって、もぞもぞと身体を動かす。名残なごりしいけれど、布団から出よう。そして顔を洗ってコーヒーをれて、身体も頭もしゃきっと目覚めさせよう。
 ようやく私はムクッと起き上がった。そのままベッドから下りようとしたところで……するりとお腹のあたりに長い腕が絡んできた。

「どこに行くんですか? 里衣」
「は、葉月さん、ぎゃー!」

 ズルズルズル、とベッドに引きずり込まれる。腕の持ち主――葉月さんは、背中からぴったりと私を抱きしめ、ベビードール越しに胸やお腹をやわやわでてきた。毎朝恒例のセクハラである。
 私の雇い主兼恋人の葉月さんは、『性調教』が趣味でセクハラが大好きという、まごうことなき変態なのだ。

「ひっ、あ、だめ。もう朝だから、朝ご飯を作らないと!」
「一回くらいしても、時間的には問題ないですよ」
「一回? 一回って、何するの!?」

 慌てて振り向く。すると葉月さんは、起き抜けにもかかわらず眼鏡をかけていた。そして、ニッコリと笑みを浮かべる。

「もちろんセックスですよ」
「セックス!? や、やだー! 朝は本当に勘弁して! これからお仕事だってあるんだし、朝くらいはゆっくりさせてよ!」
「つれないことを言わないでくださいよ」
「ひっ……、あっ、首筋とか舐めないで。や……っ、胸もだめ!」

 じたばたと暴れるが、彼はまったく動じない。それどころか、私の腕を背中側でまとめ、ぎゅっとにぎった。そしてもう片方の指でいやらしく乳首をつねり、私から官能を引き出そうと、ねくりまわしてくる。
 びくびくっと肩が震えてしまい、思わずぎゅっと目をつぶる。あらがえない感覚に息が上がってきた。

「あ……ん、んっ……は、葉月さん……っ!」

 非難の声を上げたつもりが、すっかり甘いものになっていた。こんな声色じゃ、全然嫌がっているようには聞こえない。

「可愛い声ですね。仕事なんて忘れて、快感に身を任せたらいいのに。里衣は真面目ですねえ」

 葉月さんはくすくすと笑い、ベビードールの前を結ぶリボンをシュルリと解く。しになった私の肩に、ちゅ、と口づけた。

「まぁ、そういうところがたまらなく好きなんですが」
「ん……っ、はぁ……っ!」

 さらに彼の手が内股に向かってするすると動いていき、薄地のショーツ越しにツッと秘所を辿る。

「っ、ン……! あぁ……ん……っ!」

 私は声をらしながら、葉月さんにまとめられている腕に力をこめる。なんとかして、彼を引きはがしたい。――が、耳を甘くまれ、ちろりと耳朶じだめられた私は、「あっ」と高い声を上げてしまった。
 フ……と、葉月さんが耳元で低く笑う。

「力を抜いて、里衣」
「ふ、……っ、あ……!」
「愛していますよ、里衣」
「ん、ん……っ、やぁ、そんなの、ずるい……っ」

 耳元で甘くささやかないで。気持ちのいい言葉を言わないで。
 抵抗感がなくなってしまう。葉月さんにすべてを任せたくなる。――すでに知っているあの快感を、味わいたくなる。私の官能が、葉月さんを望みだす。

「里衣」

 快感をこらえるべく顔をしかめていると、葉月さんは私の手を解放し「こっちを向いて」と言った。私はしぶしぶ、ベッドの上で振り返る。そのとたん、葉月さんは唇を重ねてきた。

「ん……」

 静かな部屋の中に、ちゅ、ちゅ、と唇を合わせる音だけがやけに響く。葉月さんはやわらかくむように私の唇をついばみ、優しく微笑んだ。

「今日は、里衣からもキスをしてください」
「えっ、私から?」
「はい。おはようのキスが欲しいです」

 ニッコリしながら、大変困る要望を言う、葉月さん。こういうのも甘え上手って言うのかな。そんな風にねだられると、なんでも言うことを聞いてしまいたくなる。
 彼の言う通りにするのが悔しい。でも、私はムッとしながら、葉月さんの薄い唇にキスをした。
 ちゅ、と聞こえる甘い水音。自分が鳴らしているのだと思うと、たまらなく恥ずかしい。
 ゆっくり唇を離すと「もっと」と言われた。仕方なくもう一度キスをする。

「フフ、里衣。ちゃんと舌も入れてくださいね」
「も、もう。恥ずかしいのに……」
「ええ、朝から照れる里衣は可愛くて、ずっと見ていたくなります」

 至近距離で、葉月さんは幸せそうにささやく。やっぱり、彼は甘え上手だ。いや、単に私が葉月さんを大好きになったから、彼のおねだりに弱くなっているだけなのかもしれない。
 私は羞恥しゅうちしんを抑えて、葉月さんと唇を重ねた。そして、ゆっくりと自分の舌を彼の口の中にし込む。葉月さんの舌はとろりと熱かった。それにドキドキしながら絡ませる。

「ふ……っ、ん、ん……あっ」

 葉月さんの舌も、私の動きに合わせるように動く。ねっとりと触れ合い、舌先を合わせてめ合い、ちゅるっと舌を吸う。
 その時、葉月さんの手がゆるゆると動き出した。ベビードールの中に大きな手が侵入し、私の小さな胸にやんわりと触れる。彼の手は温かく、胸のやわらかさを確かめるように手のひらでみしだくと、キュッと胸のいただきまんできた。

「っ、んん! あぁ……んっ」

 キスでも手でも攻められて、快感が襲いかかってくる。私が身をよじって唇を離そうとすると「まだですよ」とささやかれた。

「里衣、キスをしてください」
「……はぁ……っ、ん、じゃあ、へんなことしないでよ……っ! あぁ……っ、ん……っ」
「へんなことって、こういうことですか?」

 葉月さんはクスクスと笑いながら、胸のいただきをぎゅっとつねり上げ、くりくりと指先で擦る。
 肩がビクンと震えた。彼に胸をいじられると、みるみるうちに力を失ってしまう。はぁ、と熱い息を吐いて、身体の内から湧き上がる官能を懸命に逃がした。

「ふふ、これからもっと恥ずかしいことをするのに、乳首をいじったくらいで顔を赤くするなんて、里衣は可愛いですね」

 ス、と布団の中で葉月さんの手が動く。私の足の間に割り込み、彼の指先がツッと内股をなぞる。

「あ……っ、は、あ……っ」
「ほら、キスをして。唇を離したらいけませんよ」
「は、離したら、どうするの……?」

 おそるおそる聞くと、葉月さんは人差し指でくっと私の秘所を押した。今、私が穿いているのは、大事なところに穴のいた下着。その穴から、ぐりりと的確に秘芯を突いてくる。

「あっ、あああぁ……ん!」

 強すぎる刺激にビクビクと身体が震える。葉月さんが私の耳をぺろりとめた。

「キスをやめたら、あなたの大好きなお仕置きをして差し上げますよ。お仕置きをされたいなら、わざとキスをやめるのもアリですね」

 まるで挑発するかのように、耳元でささやく葉月さん。その低い声にずくんとお腹の奥がうずく。

「私の里衣は、いやらしいことをされるのが大好きですから……ね?」
「ふ……っ、……うぅ……っ」

 葉月さんはこんなことを言って、私が抵抗するのを楽しんでいるのだ。
 彼の言葉通りにキスをやめたら、まさしく私はいやらしいことをされたいと望む、はしたない子だということになる。だから、みずから唇を離すことができなくなってしまった。

「ん……っ、葉月さんのイジワル……っ」
「ええ。私、里衣に意地悪をするのが大好きなんです」

 趣味の悪いことをニコニコ肯定する葉月さん。本当に、口ではかなわない。
 負けん気の強い私は、葉月さんをジッとにらみつけてから口づけた。そういえば、葉月さんはキスが好きなんだろうか。私達はとても頻繁にキスをしている気がする。

「んっ……」

 ちゅ、と水音を立ててついばみ、舌をし込んだ。そしてぬちゅりと舌を絡ませ合う。
 すると葉月さんは手をいやらしくうごめかせ、唇を重ねながら、指先で私の秘所をいじった。

「あ……っ、ふ、ン……っ! は、あ……っ」

 開かれた秘裂の内側を彼の指がなぞると、くちゅっ、とトロミのある水音が聞こえてくる。私の蜜口がうるおっているのだ。
 彼の愛撫あいぶとキスで、私が気持ちよくなっているあかし。葉月さんはくすりと笑うと、蜜で指先をらし、秘芯をぬるぬると擦ってくる。

「……は……っ、ぁ、んん……っ!」

 小刻みに震えていた身体が、ビクビクと大きくしなった。キスをしていると性感が強まって、官能の波にあらがえなくなる。
 それでも、キスをやめるのは悔しかった。お仕置きという言葉に少しドキドキしてしまう自分がいるけど、彼の挑発に乗りたくない。はしたない女だなんて、思われたくない。

「あ……っ、ん、ふぅ……っ」

 声をらしながらも、ちゅ、ちゅ、とキスをしていると、葉月さんが唇を離し、こらえきれないというように笑った。

「まったく、里衣はたまらない。必死にキスをしてきて……何がなんでも、快感に屈伏させたくなりますよ」
「ん……っ、は、あ……っ、ぜっ……たい、葉月さんの……思い通りに、なんか……っ」
にらんでくるのは、可愛いですね。そんな表情で見つめられると、ひどあおられてしまいます」

 ぐちゅ、と人差し指が蜜口にし込まれる。かぎ状に曲がった指先が、ぐりぐりと膣内をこじ開けた。

「は、ああぁ……っ!」

 ビクッと身体を震わせ、嬌声きょうせいを上げる。彼はぬちゅっと指を抜くと、次は二本に増やして膣内に指を入れてきた。

「本当に壊したくなりますよ。壊れてほしくないのに、時々、とてつもなく壊れた里衣が見たくなる。……あなたは、可愛い。里衣……私だけの、里衣」

 ちゅ、と葉月さんが唇を重ねてくる。私の歯列をめ、ぐるりと舌を動かして舌を絡め取った。息もできないほどの、深い口づけ。
 そして彼の指先が、グリグリと膣壁を擦る。にゅる、くちゅっ、とみだらな音を立てた。

「んっ、んっ、あっ……っ! ン、は、……あ、ぁ!」

 二本の指を広げてぬちゅぬちゅと出し入れされると、蜜口が否応いやおうなく広がる。指で深くまで突かれ、ぐちゅぐちゅと膣奥を蹂躙じゅうりんされた。

「あ……っ、んんっ、……はっ、あ、葉月……さんっ」
「ほら、里衣。キスしながら、性交をしましょうね」

 ちゅうっと唇に吸いつかれ、一際深い口づけがはじまる。私の唇の端から、唾液が一筋こぼれた。

「……ふ……っ、ん……あ……っ」

 唇を重ねていると、下腹部のほうでごそごそと音がする。やがて、足を開かれたかと思ったら、ヌルリとして熱いものが、私の秘所にあてがわれた。
 それが葉月さんの性器だと気づくと、たまらなく恥ずかしい。
 彼が腰を進めると、ぐりりと蜜口にそれをねじこまれる。指よりもずっと太くて、熱くて、硬いもの。

「ああぁっ! はぁ……んっ!」

 質感のレベルは指と全然違う。圧倒的な圧迫感に、思わず彼の唇を離し、口をぱくぱくと開けて酸素を求める。
 だけど、葉月さんはそれすら許してくれない。再び唇を重ね、濃厚に舌を絡ませながら、肉杭を容赦なく打ちつけてきた。

「あっ、ンー……ッ! は……、はぁ、……ん……あっ……」

 その時、唇が離れたかと思ったら、シャッという音がする。葉月さんが身体を起こし、カーテンを大きく引いたのだ。

「え……!? あっ、やぁ……っ!」
「朝日に照らされて、里衣のすべてがあらわになってますね。とてもいやらしい光景ですよ」

 初夏の朝日が、容赦なく私の身体を照らす。身にまとっているのは、乱れたベビードールに、穴のいた恥ずかしい下着。そして足を大きく広げ、もっとも恥ずかしいところで彼のものをしっかりくわえこんでいる。
 誰が見てもいやらしい姿だ。たまらなくなって、私は腕で自分の顔を隠す。すると、パッと両手首を彼ににぎられ、阻止されてしまった。

「だめですよ。里衣、私との約束は?」

 彼が言っている言葉の意味を理解して、私は困る。

「う、うぅ……」
「ほら……私が腰を動かすたび、ぐちゅぐちゅと愛液をこぼしてますよ。――私に言うことがあるでしょう?」

 心底楽しそうに、ニッコリと微笑む葉月さん。同時に彼の眼鏡が朝日に反射して、きらりと光った。
 おそらく私の身体は真っ赤になっているのだろう。例えようもない羞恥しゅうちを感じながら、私は泣きそうな声でつぶやく。

「ンっ……! あ……っ、は、づきさん、と……っ、セックス……するの、が……あっ、きもち……いい……っ」

 気持ちがいいこと、してほしいことは、すべて口に出して言わなければならない。それは葉月さんと最初にした約束だ。これを破ると、何をされるかわからない。
 恥ずかしくてうつむいていると、葉月さんがくすりと笑った。そしてまたも腰を動かしてくる。

「可愛いことを言いますね。里衣は、私とのセックスが好きですか?」
「あぁっ! は……、あ、っ! す、すき……っ! あぁ! そこ……、んっ、グリッて……しないで!」
「こうされると気持ちいいでしょう? さあ、この後はどうされたいのか、ちゃんと言ってください。あなたが望むままに、動いて差し上げますよ」

 くすくす。葉月さんが楽しそうに目を細める。
 対して私は、思い切り眉を下げて、うらめしげに「イジワル」と言うことしかできない。すると葉月さんの笑みが深くなり、ぴらりとベビードールをめくると、私の胸のとがりをチロリとめてきた。

「あぁっ‼」
「言わないのなら、好き勝手やりますよ? あなたが壊れるまでね……フフ」

 ちゅっと音を立てていただきに吸いつき、める葉月さん。彼の腰が大きく引き、グリグリと勢いよく奥を貫いてくる。

「は……っ、ン! あ……、や……んっ、壊さない……でっ!」

 いっそ暴力的な快感に身を震わせながら首を横に振ると、今度は首筋にキスをされた。
 彼の舌はそのまま首筋を上がっていき、あごを伝い、私の唇に口づける。そうしながらも、葉月さんは熱く硬いもので膣壁を擦り、奥を突いた。さらに一度完全に抜いてから、時間をかけてジワジワと奥まで押し込んでくる。
 ドロリと醜悪しゅうあくな甘さをもつ官能に、頭がクラクラした。それでも、彼の言葉を思い出す。彼が『壊す』と言えば、私は本当に壊されそうな気がする。
 それは怖い。だから私は、恥ずかしくても望むことを言わなければならない。
 私が今、望むもの。それは――

「っ、は、ぁ……。葉月、さん、奥……っ、もっと……激しく……ぁ、突いて……!」
「おや、まだセックスを覚えて間もないのに、早くも里衣は欲しがりになってしまいましたね」
「だっ……、て! やぁ、……っ、気持ちいい……からっ」
「ええ、私も気持ちがいいですよ。――里衣」

 葉月さんは微笑むと、ぐい、と身を引き、勢いよく私の最奥まで貫く。ぐちゅ、とはしたない音がした。

「ああぁぁ……っ!」
「……これが、欲しい? 私のものが」
「っ、……ン。はぁ……っ、ほし……い……っ。葉月さん……、すき……っ」

 早く、早くちょうだい。
 何度も確認し、私に言わせようとする葉月さんにれて、私の腰が揺れる。葉月さんは嬉しそうに笑った。

「私も里衣が好きですよ。愛しています。もっともっと、愛したい」

 ずちゅ、ぬちゅ、ぐちゅっ、ぬちゅっ。
 ゆっくりだった抽挿がだんだん速くなる。葉月さんは私の身体を強く抱きしめ、勢いよく最奥を穿うがつ。卑猥ひわいな水音が絶え間なく鳴り響き、私の性感を駆り立ててくる。

「あっ、あっ、はっ、あ、あっ、ン!」

 朝日が、私達の卑猥ひわいな絡みをしらじらと照らしている。
 恥ずかしいけど、それでも、快感にはあらがえなかった。

「は、づき、さん、あ……、好き……っ、キスも、す、好き……っ!」
「ふふ、本当に壊したくなりますね」

 グリグリと最奥に腰を擦りつけ、葉月さんは私の唇にキスをする。そのまま、パンパンと肌をぶつける、激しい抽挿が続けられた。

「あっ……、ン、あぁ……っ!」

 お腹の奥から湧き上がる、不思議な感覚。勢いよく奥を貫かれた瞬間、私はビクビクと震えて、頂点に達してしまった。

「ああぁ……っ、ん……っ!」
「里衣、里衣。ああ、たまらない。――ッ! あ、さと……いっ」

 葉月さんは私を一層強く抱きしめ、ビクリと身体を震わせる。彼もまた、達したのだ。
 そして息を整えて、余韻を楽しむように私の唇を何度もついばんでくる。

「はあ、これを抜くのが惜しいですねえ。もう一回しませんか?」
「し、しない……」

 私はもうフラフラだ。かすれた声でなんとか答えると、ピンピンしている葉月さんが「ええ?」とらし、口をとがらせた。

「まだ時間はありますし、もう一発ヤッておきましょうよ」
「ちょっと、言い方気をつけて‼ 朝は忙しいし、疲れることはできるだけしたくないの! それにご飯も作りたいし」

 まだ余韻の残る胸を押さえながら言うと、葉月さんは「そうですか……」と残念そうにつぶやいた。しかし、すぐにニッコリとした笑顔になって、人差し指をピンと立てる。

「では、夜なら連発しても構わないのですね?」
「れ、連発って……! だから、言い方考えてよ! ま、まぁ、朝よりは……許せる、けど」

 本当は何度もするのは恥ずかしい。しかしどうせするならば、忙しい朝よりはましかもしれない。すると葉月さんはニヤリと仄暗ほのぐらく目を細めた。

「そうですか。つまり、夜なら何をしても構わないのですね」
「そう。朝じゃなければ、何をしても……、え?」

 微妙に不安要素のある言葉に、目を見開く。
 そのとたん、葉月さんは私の中から自身を引き出し、布団から出た。

「わかりました。では夜はいっぱいしましょうね。楽しみにしています」
「ま、待って、あの、普通のことするんだよね? 普通のことだよね?」
「ええ、至って普通のことですよ。私にとっては」
「葉月さんにとってはって、どういう意味!?」

 恐ろしい言葉に、私もがばりと起き上がる。

「ははは。ほら、里衣。朝ご飯を作ってください。出勤時間に間に合わなくなってしまいますよ」

 さわやかに笑った葉月さんは、シャワーを浴びるつもりなのか、浴室に続くドアを開けて入っていく。
 ぽつんと残されたのは、布団を頭から被ったままの私。
 えっと……これは、どういうことだろう。もしかして、割ととんでもないことを許可したのではないだろうか。思わずブルッと身震いし、首を横に振る。
 葉月さんがすることが、普通であるはずがない。しかし今さら嫌だと言っても、聞き入れてもらえないだろう。
 私は肩を落としてベッドから下り、着替えをして、コーヒーメーカーをセットする。
 そして冷蔵庫を開けると卵をふたつ取り出し、目玉焼きを作った。
 今日は食パンがあるので洋風の朝食にしよう。食パンをトーストしてマーガリンを塗り、目玉焼きをのせ、塩を振る。ヨーグルトを小さなボウルに入れ、コーヒーと共にテーブルへ置いていると、シャワーを終えた葉月さんが浴室から出てきた。ワイシャツにダークスーツのスラックス姿だ。ネクタイを締めながら「おや、今日の朝ごはんは洋風ですね」と微笑み、席につく。
 私はトーストがのった皿をテーブルに置いて、彼の向かい側に座った。そして二人で「いただきます」と手を合わせる。
 葉月さんがトーストを食べはじめる。
 私はマグカップを持ち、そんな彼をジッと見つめた。

美味おいしいですね」

 幸せそうな笑顔で葉月さんが褒めてくれる。私の心はふわっと温かくなった。
 彼は変態で意地悪で、ひどいことだってするのに、私はこんなことですぐ幸せを感じてしまう。
 ……私はかなり、単純なのかもしれない。


 葉月さんは朝食を終えると、早々に出かけてしまった。
 私は軽くシャワーを浴びたあと、居住スペースの下――二階の事務所に下りて、ブラインドを上げて窓を開ける。頬に触れる、生暖かい空気。春に比べると幾分かさわやかさが足りなくて、初夏らしい蒸し暑さを感じた。
 私はいつも、仕事の前に掃除をする。もくもくと掃除をしていて、ふと、次の資源ゴミの日はいつだっけ、と壁にかかったカレンダーを見た。
 今日は、六月の第一週だから……。あれ、もう六月……? 

「あっ‼」

 誰もいない事務所に、私の大きな声が響く。そうだ、六月といえば大切な日があったのだ。

「なんで忘れていたんだろう。葉月さんのせいだ、まったく」

 ブツブツと文句を言う。葉月さんと出会ってから非日常的な日々でいっぱいいっぱいになっていて、大切なことをすっかり忘れていたのだ。
 六月十七日には、おじいちゃんの三回忌がある。まだ日数に余裕はあるけど、悠長ゆうちょうにしていられない。

「法要のお知らせは結構前に出してあるけど、仕出しの予約をしなきゃ。葉月さん、外出許してくれるかなあ……」

 ダメだと言われても、どうにかして説得するしかない。法要の施主は私だ。なんとしても出席しなくてはいけない。
 今日は四人の所員も揃って外仕事らしく、私は事務所でひとりハラハラした気分で仕事をはじめる。そして三時を回った頃、ドカドカと複数の足音が聞こえてきた。どうやら、みんなが帰ってきたらしい。
 そうだ、昨日作ったお菓子がある。これを出して、ちょっと休憩しよう。
 そう思った時、ガチャリと事務所のドアが開く。私は書類を片付けながら振り向いた。

「おかえりなさ――」

 出迎えの挨拶あいさつを口にして、途中で固まった。入り口に立つ葉月さんたちの姿を見て、あっけにとられたのだ。
 何があったら、こんなにボロボロヨレヨレになるの!?
 葉月さん達五人組は、揃いも揃って服が破れたりあちこち傷だらけだったりという恰好だった。

「い、一体何をしてきたの!? みんな、仕事してたんじゃなかったの!?」

 私が慌てて駆け寄ると、葉月さんはズレた眼鏡を直して、はははと笑う。

「いや、私達は真面目にお仕事していたのですがね、向こうが一方的に喧嘩を売ってきまして」
「一方的にって……」

 葉月さんの高そうな眼鏡は斜めにゆがんで、目元に痛々しい青痣あおあざができている。いつもはパリッとしているブラックスーツは、泥や土で汚れていた。
 彼の後ろにいるのは、スキンヘッドに蛇骨じゃこつ刺青いれずみが入った強面こわもての男性、桐谷きりやさん。彼の頬には大きな傷があり、シャツが破れている。
 曽我そがさんは、いつもかけているサングラスが割れていて、髪の毛はれていた。トレードマークのアロハシャツは、汚れているけれど無事のよう。
 ホスト風の服装で茶髪の黒部くろべさんは、顔を殴られたらしい。口元が切れて血が出ている。
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 私はわたわたとあたりを見回す。

「と、とにかく手当てしなきゃ。血も出てるし。掃除をした時に見なかったけど、この事務所って救急箱とかあるの?」
「救急箱?」

 首をかしげたのは桐谷さん。曽我さんは、眉根を寄せて思案顔だ。

「あー、なんか奥の方にあった気がする、ような?」
「前に桐谷さんが、『怪我しても、自分でえば医療費いらねえなー』とか言って、裁縫箱買いませんでした? その治療をしてる時、救急箱っぽいのも見た気がするっス」

 黒部さんの言葉に、葉月さんが楽しそうに笑う。

「ああ、そんなことありましたねぇ。結局、綿糸でった後に傷が化膿かのうして病院に行って、医者に怒られたんですよね、あはは」

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