蒼天の城

飛島 明

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第一部 再興編

切れた蜘蛛(3)

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 二人の間に満ちた闘気が風を呼び、あちこちで衝突してはパシパシ、と軽い音が響く。


 忍ぶでまず、徹頭徹尾学ばされるのは、”どんな姿になっても良いから生きて還る”事だ。
 事と次第を報告しおえて初めて、任務は全うする。
 その為、里に辿りついてから死ぬ者も多かった。

 そこには、”肉を斬らせて骨を絶つ”という論理はあっても、”死ぬ気で挑む”や”相打ちに持ち込む”という考えはない。

『気力で負けている者が、優位の者に勝つ等、有り得ない』という教えのもと、格上の者と死闘を繰り広げさせられる。

 草太はこはとが己より格下なのを知っている。
 そして恋人だった女だ。
(そこに、こはとにも勝機がある)
 時苧は冷静に孫と、その想い人の死闘を見届けることにした。

 糸の切れた蜘蛛はもう誰の管制下でもない。
 こはとが生き延びる為には目の前の二人を殺すしか、ない。

(儂はこの女に殺されるのか)
 時苧は考える。
(それとも、草太はこの女の命を奪えるのか)

 そこには孫を憂える祖父ではなく。冷徹に状況を判断する忍ぶの棟梁がいた。


 と。葉が落ちた。
 やがて殺意と凶気が交叉した。
 否、草太と小はとの姿が、交叉したのだ。
 肉を絶つ音と、骨が砕ける音と。

 それは、一瞬のうちに交わった。
 まるで、恋人同士の戯れあっているような動きであった。




 りんりんりん。

 何処かで鈴の音が鳴っている。
 優しく、己をあやす声が聞こえる。
(母様……?)



 あなたは、まだ生きていなかった。
 わたしも生まれ出でていなかった。


 りんりんりん。

 愛おしげに私を見降ろしてくれる、母様。
 愛してくれた人との、突然の別離。
 私は誰かの手によって、あの人から引き離された。

 りんりんりん。

 ようやく、わたしはこのときになってかえることが出来た。
 あなたは孵ることが出来るかしら?


 りんりんりん。

 あなたは、わかっただろうか。
 わたしを……、救うことが出来なかった虚しさを。
 愛した者を喪う悲しみを。


 りんりんりん。

 気配を消せ。諏和賀を探り出せ。
 気配を消せ。諏和賀を探り出せ
 気配を……


 繰り返される言葉と、目の前に広がる闇夜よりも昏い瞳。
 それが、わたしの世界の全てになった。


 それから、此処にきて。
 わたしの世界は、あなた一色になった。
 わたしのことを、あなたは本当に愛していた?


 りんりんりん。


 あなたの瞳のなかには、わたしがいたけれど。
 けれど。

 り……。

 彼女の体は恋人に抱きとめられることもなく、地に崩れ落ちた。
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